教育現場で日々奮闘されている先生へ。リシードは、現役の小学校教諭である松下隼司氏による連載「先生の事情とホンネ」を毎月掲載している。
文部科学大臣優秀教職員表彰を受賞した経験をもち、教育書の執筆も手掛ける松下教諭が、日々どのようなことを考えて子供たちと向きあっているのか。授業や教室運営の工夫を紹介するほか、未来を担う子供たちの教育に携わる「教員」という仕事の魅力も発信していく。
第8回のテーマは「教室環境は大事…教室の時計、どこに掲示するのがベスト?」。
教室環境は大事…教室の時計、どこに掲示するのがベスト?
子供たちが日々、安心して教室で過ごせるように、そして教師も時間意識をもって授業できるように教室の壁にかかっている“時計の位置”を試行錯誤してきました。その工夫について紹介させていただきます。
下の図は、教室です。(A)~(D)、どこに時計があるでしょうか?

教室前方の黒板の上(A)でしょうか?
教室後方(B)でしょうか?
窓側(C)でしょうか?
廊下側(D)でしょうか?
年度当初の4月、自分が新しく担当する学級の教室に入ったときに時計の位置を確認すると、教室前方か、その反対の教室後方が多いです。子供たちにとって、教師にとって、どの位置に時計を掲示するのが良いのでしょうか。
A.“教室前方の黒板の上”に時計をかけるメリットとデメリット

教室前方の黒板の上に時計があるメリットは、子供たちが時計を見やすいことです。授業中に、「今、何時かな?」「あと何分かな?」「あと何秒かな」と確認しやすいです。たとえば、授業中に教師が、子供たちに「秒針が、12になったら始めるよ~」と言ったとき、子供たち全員が時計を見やすいのが、教室前方です。
デメリットは、授業中、教師が時計を見にくいことです。教師は、基本、子供のほうを向いて授業をするので、黒板を背にしています。黒板の上にある時計が視界に入りにくいです。初任のころ、「わ~もうこんな時刻や! 急いで授業を進めないと!」と焦ったことが何度もありました。
B.“教室後方”に時計をかけるメリットとデメリット

教室後方に時計をかけるメリットは、教師が時計を見やすいことです。子供たちを見て授業しても、自然と視界の中に時計が入ります。子供たちを見ながら、授業時間を意識しやすいです。
デメリットは、子供たちが授業中、わざわざ振り向かないと時計を見られないことです。私が子供だったら、時計は見やすいほうが良いです。「あと〇分で休み時間」「あと〇時間で給食」と見通しをもてるからです。
「授業中は時計を気にしないで、授業に集中してほしい」という思いで、あえて教室前方には時計をかけない先生もおられます。でも、自分が授業を受ける立場の子供や学生だったら、どうでしょうか? 時計が見やすい位置に掲示されている教室と、時計が見にくい位置に掲示されている教室、どちらが良いでしょうか? 子供目線で私だったら、時計を見やすいほうが良いです。授業中に180度振り向いて、時計を見るのは、教師に気を遣います。気軽に振り向けません。
C・D.“教室の左右”に時計をかけるメリットとデメリット

教室の右側や左側の壁に時計をかけるメリットは、教師も子供も見やすいことです。
たとえば、上の画像のように教室の横(窓側)に時計をかけている場合、授業中、教師は右を見れば時刻を確認できます。子供たちは、左を見れば時刻を確認できます。教室前方と教室後方の折衷案になります。
デメリットは、最前列に座っている子供が時計を見にくいことです。特に、時計がかけてある壁側の最前列に座っている子供は見にくいです。最前列に座っている子供の中には、教師が別支援をすぐにできるよう配慮した子供もいます。時間意識をもってほしい子供もいます。45分間の見通しをもって安心して授業を受けてもらいたい子供もいます。そうした子供が時計を見にくいのです。
おすすめは、教室前方と教室横の壁2か所
私は、授業中、教室にいるすべての子供たちが時間を確認しやすい黒板上と、教師が時間を確認しやすい教室横側の壁、2か所に時計をかけています。
下の図だと、(A)と(C)の位置です。

教師にとっては、教室後方(B)に時計をかけるのがいちばん見やすいのですが、教室の横側の壁(窓側のC)に時計をかけたほうが、廊下から教室をのぞいたときに時計を見やすいです。Dに時計をかけると、廊下から時計を見ることができません。
年度当初は教室にひとつしか時計がなかったので、私はもうひとつの時計を自費で購入しました。もし、学校に使っていない時計があれば、それを借りることもできます。
学校では、授業時間、休み時間、給食時間、掃除時間、朝の会、帰りの会など、子供たちも教師も「時間」を意識して過ごします。だからこそ、時計の位置と数の工夫は、教室環境の整備に大切です。今回、紹介させていただいたことがお役に立てれば嬉しいです。
連載「先生の事情とホンネ」