学校に寄せられるさまざまな相談やクレーム。保護者や地域からの相談に先生はどのように対応するのが良いだろうか?クラス担任として豊富な経験がある鈴木邦明氏に、学校へ寄せられるさまざまな相談に対応する際のポイントを聞いた。第218回のテーマは「校内マラソン大会が苦痛」。
マラソン大会の意義とは?
寒い時期にマラソン大会(持久走大会)を実施する学校も多いです。私は多くの学校で取り組まれているマラソン大会には少し懐疑的です。長年取り組まれている中で、メリットよりもデメリットの方が大きくなっているように感じています。
学校で行われている体育の授業の目的について確認をすると気づくことがあります。小学校学習指導要領解説の体育編の中にある教科の目標では「生涯にわたって心身の健康を保持増進し豊かなスポーツライフを実現するための資質・能力を育成することを目指す。」と書かれています。「生涯スポーツ」という視点が強く示されています。
また、マラソン大会に関係する具体的な説明については、低学年では「体つくりの運動遊び」に「一定の速さでのかけ足 無理のない速さでかけ足を2~3分程度続けること」とあります。中学年は「体つくり運動」に「一定の速さでのかけ足 無理のない速さでかけ足を3~4分程度続けること」、高学年は「体つくり運動」の中に「動きを持続する能力を高めるための運動」があり、具体的には「短縄など、無理のない速さで5~6分程度の持久走をすること、障害物などの置かれた一定のコースをかけ足で移動する運動を続けること」と示されています。
どの学年においても「無理のない速さで…」という一文が入っています。ただ実際のマラソン大会のようすを見ると、ほとんどの子供が「無理のない速さ」ではなく、「無理をして」走っていると思われます。学習指導要領で本来ねらっているものと外れてしまっていることがわかります。
生涯スポーツに関する研究では、子供時代の運動経験がその人のその後の生活に与える影響について調べたものがあります。子供時代に運動を楽しんだ人は、大人になってからも運動が好きで、運動に取り組む可能性が高いというものです。逆に、子供時代に運動で嫌な思いをした人は、大人になってからも運動を嫌い、積極的に運動に取り組まないことが多いです。このことは、子供時代にどのように運動に取り組んだのかということが、その人の生涯の健康に強く影響を与えることになります。さらに、他の研究とつなげることで、医療費、介護費、社会保障関係費などの形でその人だけでなく、社会のすべての人に関わる問題ともなってきます。
楽しく運動に親しむことが目標
私は現在、保育系・教育系の大学生の授業を担当しています。レクリエーション系の授業を担当しているのですが、子供時代の体育授業について質問することがあります。「持久走」は嫌いだった種目で常に多くの人が指摘しているものです。
全員参加であるマラソン大会やそれに向けての全校体育(5分間走)などは、子供の体力の増進などを目的としていながら、長い目で見るとその人の健康を害している(運動嫌いを作る)可能性があるということになります。体育の授業での持久力を高める運動は、マラソン大会を実施することを求めているものではありません。楽しく運動に親しむことが目標です。持久力を高める運動でも、学習指導要領解説にあるように障害物を置いたコースを一定時間走るという活動もあります。私は「ロング障害物リレー」という名称で校庭の遊具や樹木などを利用した取組みをしていました。
何度も書いているように子供時代にどのように運動と関わるのかということはその人の人生に影響を与えるほど重要なことです。子供時代には、体を動かすことを「楽しむ」ことが何より大切です。学校としては、きちんとそういったことを考え、取り組んでいくべきでしょう。
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