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フルクラウド型校務支援システムを導入する山梨県教育委員会の期待

 多くの自治体がクラウドベースの校務支援システムを検討、導入を進める中、山梨県は2025年度からのフルクラウド統合型校務支援システム「BLEND」の導入を決定。山梨県教育委員会の三枝和博氏と遠山和宏氏に導入の背景や今後の展望を聞いた。

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山梨県教育委員会の遠藤和宏氏(左)と三枝和博氏(右)
  • 山梨県教育委員会の遠藤和宏氏(左)と三枝和博氏(右)
  • 山梨県教育委員会 高校教育課の指導担当課長補佐の三枝和博氏
  • 山梨県教育委員会 特別支援教育・児童生徒支援課 特別支援教育担当副主幹・指導主事の遠山和宏氏
  • 山梨県教育委員会の遠藤和宏氏(左)と三枝和博氏(右)

 子供たちのより良い学びと教員の働き方改革の実現に向けて、多くの自治体がクラウドを前提とした次世代校務支援システムの導入を進めている。山梨県は今後の校務DX・教育DXを見据えて、2025年度から県立の高等学校と特別支援学校において、フルクラウド統合型校務支援システム「BLEND」(モチベーションワークス開発提供)の活用を決定。山梨県教育委員会 高校教育課の指導担当課長補佐の三枝和博氏と、特別支援教育・児童生徒支援課 特別支援教育担当副主幹・指導主事の遠山和宏氏に、BLENDを導入した背景や今後の展望などを聞いた。

 フルクラウド統合型校務支援システム「BLEND」は、教職員の日々の校務を効率化するために設計されたシステムで、出欠管理や成績管理、帳票管理、保健管理、入試管理、事務管理、連絡機能(保護者への連絡・アンケート・検温報告機能など)などの機能が網羅的に含まれている。クラウドベースのシステムのためサーバーの設置は不要で、システムは常に最新の状態にアップデートされるなど、管理側のメンテナンスやセキュリティ対策の負荷軽減が期待できる。BLENDは多様なOSやデバイスにも対応し、ゼロトラストの考えのもとセキュリティ面では二段階認証やIPアドレス制限、アカウント凍結などの機能を備えることに加え、発注者のニーズ(学校現場における教員の業務効率化等)にあわせた柔軟な対応が可能である。

情報の連携・共有と柔軟な対応が魅力の「BLEND」

--2025年度からフルクラウド統合型校務支援システム「BLEND」を用いた業務運用に切り替えるとのことですが、BLENDを選定した背景についてお聞かせください。

三枝氏:これまでオンプレミスで校務支援システムを運用してきましたが、サーバーの更新時期を迎えて、次の校務支援システムはどのようなものが望ましいか検討していました。保護者への成績情報の共有や外部の模擬試験との連携などのデータ活用、喫緊の課題である教員の働き方改革を考えると、やはりフルクラウド統合型の校務支援システムが望ましいとの考えに至りました。

 そこで昨年、複数ベンダーにご協力いただき、現場の先生方にデモ環境下でクラウド型の校務支援システムに触れてもらったところ、使いやすさやデータ利活用など予想外の評価を得ました。このことも踏まえて校務支援システムの仕様を定め、プロポーザルを実施した結果、設計段階からクラウドベースで開発され、セキュリティ面でも信頼できる「BLEND」が選定されました。開発提供元のモチベーションワークスには教員出身の方もいて、教育現場の視点や経験に基づく改善につながる提案が含まれていたことも評価のポイントだったようです。他のシステムと比べてシンプルで、わかりやすいという意見も出されていました。

 文部科学省の専門家会議の資料にも、次世代校務支援システムはクラウドベースでの構築が望ましいという指針が明示されています。また、クラウドに対する安全性への見方も変わってきています。以前は、クラウドに個人情報を保存することへの安全性の懸念もありましたが、行政システムがクラウド(ガバメントクラウド)に移行することを契機に流れが変わったと感じています。

 BLENDは、アメリカ国防総省も導入するなど、セキュリティに定評のある「Amazon Web Service(以下、AWS)」のプラットフォームのさまざまな仕組みをうまく活用しており、安全面と使いやすさも判断材料のひとつでした。現在はBLENDの導入に先立ち、県立学校ネットワークの改修を進めており、ゼロトラストセキュリティの考え方を取り込んで安全に業務遂行できる環境を目指しています。

山梨県教育委員会 高校教育課の指導担当課長補佐の三枝和博氏

--特別支援教育では、どのような観点があったのでしょうか。

遠山氏:今、山梨県内には特別支援学校が13校あり、高校と同じ校務支援システムが導入されています。しかし、学校によって児童生徒の障がいの種類が異なるうえに、学校の中でも児童生徒の状況がさまざまなため、これまでは校務支援システムを積極的に利用できていない状況でした。成績処理ひとつとっても、評定を出す場合もあれば、文章で成績を伝える場合もあります。人事異動で先生の勤務校が変わるたびに、異なるやり方を覚えなければならないという負担も課題でした。

 今回の校務支援システム更改を良い機会と捉え、学校ごとに異なる部分をどこまで共通化できるかを検討している段階ですが、BLENDには可能性を感じています。モチベーションワークスからは、私たちの多様なニーズに対して、ある程度、柔軟に対応できるというお話をいただいています。柔軟に対応できることは、特別支援学校にとって大きな利点になると感じました。

 教育委員会としては、ある程度の基本線をもちながらも、学校現場で使いやすいものを少しずつ加えていきたいと考えています。たとえば、公簿ではない通知表などは学校ごとに写真を取り込むなど工夫して、さまざまなフォーマットが使われていますが、その学校ごとのフォーマットをBLENDに取り込むことも検討しています。公簿については標準形式を提示し、公簿以外のものは学校の運用の中で子供や保護者に適したものを提供してもらいたいと考えています。出席簿も出欠席だけでなく、たとえば体温や体調を入力する項目を学校ごとに自由に加えられるようにしたいですね。今日の朝の気分はどうかなどの項目を加えて、心の健康観察のような取組みもできれば良いと考えています。

山梨県教育委員会 特別支援教育・児童生徒支援課 特別支援教育担当副主幹・指導主事の遠山和宏氏

AWSを前提としたBLENDへの信頼

--ユーザー側の視点で、従来のオンプレ型校務支援システムとフルクラウド型校務支援システムの違いを教えてください。

三枝氏:オンプレ型校務支援システムでは、サーバーのOSやネットワーク構成が変わると、システムのアップデートなどに多大な労力とコストが発生しましたが、フルクラウドならば、その点は心配しなくて良くなりますし、セキュリティ面でも安心してシステムに任せられる部分があります。

 私たちはこれまでオンプレ型の校務支援システムを導入してきましたが、そのためには仕様や運用設計などを細かく検討して実装する必要がありました。運用開始後の少しの変化に対しても、どう対応していくかが大きな課題で、修正プログラムを適用するだけでもひと仕事。中には適用したら正しく動作しなくなったシステムもありました。その意味でBLENDとAWSの組合せは、私たち管理する者の負担軽減につながるものと期待しています。

 また従来はシステムを切り替えるたびにIDとパスワードを入力しないと使えませんでした。今回のゼロトラストセキュリティの考え方を取り込んだ環境への改修では、シングルサインオン(一度、認証すれば複数のサービスにログインできる仕組み)も導入しますので、現場の先生方はかなりアクセスしやすくなると思います。さらにAWSは複数データセンターで分散管理しているため、万一の災害に強いのも利点です。モチベーションワークスが、そのプラットフォームであるAWSでの利用を前提に、さまざまなサービスをうまく組み合わせながらBLENDを構築していくのは、とても心強いと感じています。フルクラウド型の利点を生かして、現在は対応できていない在宅勤務等で安全に校務業務を遂行する方法についても検討し、実装したいと考えています。

先生方の共感から進む校務支援システムの導入

--BLENDの導入に向けた準備状況と、学校現場の期待感などを教えてください。

三枝氏:デモ環境に触れていただいた現場の先生方には一定の期待がある一方で、新システムへの不安もあると思います。忙しい教育現場では、システムやパソコンを入れ替えると、「また新しいことを覚え直さなければならないのでは」というネガティブな声が少なからず寄せられていました。

 しかし今回は、これまで学校ごとに異なっていた校務の標準化にフォーカスして、先生方の働き方を見直します。この取組みを先生方の働き方の効率化や省力化につなげて、しっかりと心に余裕をもっていただきながら、ワークライフバランスを改善したい。全国的にも教員のなり手不足が課題となっていますが、高校と特別支援学校における校務の効率化や省力化の事例を、県内小中学校に波及させたいと考えています。そのためには、現場の先生方に理解とともに共感していただき、システムやデータの活用を通じて良い変化が生まれること。小さな変化で構いません。このような流れが生まれることを目指しています。

 たとえば、「ここで手間を省けた」という言葉を聞いて、「それなら自分も使ってみよう」と行動してくれる先生が出てきて、それが学校内で3人、4人と広がっていく。そのためにも、まずはBLENDを使うことにより、「学校現場や先生方の働き方が具体的にどのように変わるのか」という情報の周知が不可欠です。この先、校長会や教頭会で概要を示し、さらに各学校でリーダーシップを発揮していただきたい先生方にも、研修会を実施していきます。当然ですが、一般の教員と養護教諭では使い方も異なりますので、そこを補うためのオンラインあるいは動画研修も企画しています。

遠山氏:特別支援学校では現在、個別の教育支援計画は山梨県全県で統一された様式を使っています。今回、BLENDを導入するにあたり、新たに児童生徒ごとに作成する各教科等の指導計画の様式を統一しようと考えています。その結果として、PDCAサイクルによる指導と評価の一体化をさらに推進していくことができれば良いと思います。作業部会の形式で、各学校との意見交換を複数回実施しましたが、先生方からはとても好意的に受け止めていただきました。今後は標準化も含めたベースの部分を確立しながら、障がいの種類に応じて、どのような情報を適用して活用するのが望ましいのかを考え、より良い姿を目指していきたいと考えています。

 特に特別支援学校は幼稚部、小学部、中学部、高等部と、障がいのある児童生徒が長期間在籍する場所です。学校で蓄積する情報は膨大になるため、個々のデータをしっかりと引き継ぐことも大切です。そうした観点でもBLENDによる校務支援システムを、効果的に活用していきたいですね。

教員の業務改善とBLENDの組合せから教育の質を高める

--今後、山梨県が校務DX・教育DXを通じて目指す教育について教えてください。

三枝氏:現在、児童生徒がパソコンを使う中で、個別最適な学びや協働的な学びに向かうといった変化は出てきていますが、教育現場全体としては、まだDXの入り口に立ったかどうかというところだと感じています。そのためにも、先生方の働き方改革や教育データの利活用といったフェーズに移るのが理想です。この一環として、教育長が先頭に立ち「県教育委員会から学校現場への文書半減プロジェクト」にも取り組んでいます。

 このほか2024年度は、先生方の仕事の仕方に着目して、現在の仕事の中でのウィークポイントを見極め、ICT活用に限らない業務の見直しを含めた校務DXの取組みを、BLENDの導入とは別のプロジェクトで進めています。こうしてお互いのプロジェクト同士がコラボレーションしながら、BLENDをうまく組み合わせて、モデル校で検証して、それを横展開していきたい。そして、教員が児童生徒ひとりひとりと向き合う時間を創出することで、教育の質を高めていきたいです。

遠山氏:特別支援学校では、保護者としっかり連携し、お子さんのために一緒に取り組んでいくことが重要です。現在は先生方が作成した個別の教育支援計画を印刷して保護者と共有し、話しあいをしています。今後、保護者もBLENDにアクセスできる環境になれば、情報共有もしやすくなります。クラウドベースで随時、情報を更新すれば、個々の児童生徒への迅速な支援につながると考えています。

 また、特別支援学校では、連絡帳を通して保護者と日々の情報を共有していますが、それをBLENDに置き換えることも選択肢にあります。BLENDを通じて保護者との連携が密になれば、さらに子供たちにより良い教育を提供できるのではないかと大きな期待をもっています。

--ありがとうございました。

 システムの導入ですべてが良くなるのではなく、まずはどのような業務をどう改善したら良くなるのかを高等学校および特別支援学校、双方の現場を交えて作り上げる。こうした山梨県の校務DXの先には、児童生徒中心のより良い教育に期待が高まる。フルクラウド統合型校務支援システム「BLEND」導入後の、山梨県の教育DXの動向に注目したい。

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《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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