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【小学校受験】進む少子化にどう向き合う?あるべき入試広報の形とは

 前年の2023年度に過去最高の受験者数24,840名を記録した首都圏の小学校受験。2024年度入試を終えた今、その後の動向や最新の小学校受験を振り返りたい。2024年2月13日に開催された、小学校受験塾4社による共同イベント「2024年度・小学校入試の振り返りセミナー」のようすをレポートする。

イベント 教員
みつめる21 新中義一氏
  • みつめる21 新中義一氏
  • 理英会本部の宮内仁志氏
  • ジャック幼児教育研究所の吉岡俊樹氏
  • 伸芽会の飯田道郎氏

 ジャック幼児教育研究所、伸芽会、みつめる21、理英会の小学校受験塾4社による共同イベント「2024年度小学校入試の振り返りセミナー」(協力:森上教育研究所)。4社による共同イベントの開催は今回で5回目となるが、首都圏を中心に私立小学校55校から参加の申込みがあり、90名ほどの教員が参加した。

 セミナー冒頭、東京私立初等学校協会会長 重永睦夫氏は、少子化による子供たちの数の絶対的な減少を共通認識としたうえで、私立小学校と幼児教室が手を取り合い「子供の成長のためには何が必要なのか」を共に考えていくことが重要だと述べた。また「小学校入試における具体的なデータを分析し、紐解くことで、今後の対策を考えることが本セミナーのポイント」とした。

首都圏の私立小は応募者減 その背景とは

 はじめに登壇したのは「みつめる21」の新中義一氏。みつめる21は、年間10,000名が受験する「小学校受験統一模試」をはじめ、小学校受験に関する模試を年8回実施し、問題集の制作・販売等も行っている。新中氏は、過去5年分の首都圏私立小学校の応募数に関する調査結果から、応募状況の推移を分析し、2024年度の最新動向を報告した。

 みつめる21が実施したアンケート調査に回答したのは、首都圏の私立小学校62校。調査結果によると、2020年度は計20,879名だった応募者は増え続け、2023年度のピーク時には24,840名まで達した。これはコロナ禍においてオンライン授業対応や感染予防対策を即座に行った私立校が多く、公立校との差が如実に現れたことで、小さいお子さまをもつ家庭にとって非常に魅力的に映り、小学校受験が加熱したものと推定される。しかし、最新の2024年度入試は22,793名となり、前年度比8%減と応募者が大幅に減る結果となった。新型コロナウイルス感染症が5類に移行したこと、公立小学校でもオンライン授業等の対応が可能になったことが背景だと考えられる。

 応募者数を地域ごとに見ると、東京23区では2023年度まで増え続け2024年度で10%減と、首都圏全体と同じような推移を示した。一方で23区外に絞ると、2022年度に14%増と大幅に増え、その後10%ほど減っている。これは2022年度に立川国際中等教育学校付属小学校が新設されたことが影響していると考えられ、首都圏全体のブームを底上げしたとみることもできる。

 神奈川県では、13校中4校の応募者数が前年比増となった。首都圏において応募者数が増えた学校はわずか14校であり、そのうちの4校が神奈川県に集中していることも、神奈川県全体の減少率を穏やかにした要因となっている。

 このような分析を受け、新中氏は「まだ小学校受験に目を向けていないご家庭にも興味をもってもらうことが重要」と話した。さらに、過去最高の受験率を更新している中学校受験ブームに関して「保護者世代が中学校受験を経験している場合が多く、私立中学校の良さがわかっているご家庭が多いことも一因と考えられる。その点、小学校受験を経験している保護者は少ない。そういった家庭に対しても魅力を伝える努力が必要」と呼び掛けた。

 2024年度の都内における新小学1年生は約10万人。「公立小学校しか経験していない多くの保護者に私立小学校での生活をイメージさせ、私立小学校の良さを伝えていきたい」と締めくくった。

「私立小学校の良さを伝えていきたい」と語る、みつめる21の新中義一氏

未就学児の保護者世代はSNSで情報収集

 各私立小学校は家庭に対し、どのように魅力を伝えたら良いのか。次に登壇した理英会本部・宮内仁志氏は、私立小学校における入試広報について語った。

 宮内氏は、同会グループが運営する保育園にお子さまが通園する保護者520名にアンケートの結果をもとに、ユーザー視点を交えながら入試広報のあり方を提案した。アンケート結果によると、卒園後の進学先として86%が公立小学校を、11%が私立小学校を検討しているという。「私立小学校の情報を知っていますか?」という質問には、21%がまったく知らない、38%は私立小学校の情報を知りたい、41%においては私立小学校の情報は要らないと答えたという。選択肢として検討されていないばかりか、「知りたい」と思っているご家庭に私立小学校の情報が届いておらず、存在そのものが保護者に認知されていないことすらあるという現状を、宮内氏は重く受け止めていると話す。

 では、そんな保護者たちにどのような方法で私立小学校の情報を伝えるべきか。同アンケートでは日ごろの情報収集についても回答を集めている。「あなたはどんな方法で子育ての情報を入手していますか?」という質問に対し、親戚やママ友などの身近な人から得ているというものが46%と最多だったものの、45%と追随したのが「Web、SNSから得ている」という回答だ。ちなみに残りの9%は教育誌などの紙媒体である。この結果から「これからはWebやSNSなどのデジタル媒体での情報発信に力を注ぐべき」と宮内氏は力強く語った。

 続けて宮内氏は、デジタル媒体で広報活動を行うにあたって、前提条件としてやっておかねばならないことを解説した。宮内氏はまず「各学校の強みを一言で表現できますか」と問いかけ、「その強みを各先生だけでなく、先生含めスタッフ全員で共有できているかが重要になってくる」と話した。強みを把握するためには、スタッフや保護者、卒業生など学校に関わる人々の声を徹底的に拾うことが必要であり、「ユーザーから拾った意見を起点とした広報活動を展開していくことで、広報活動をより良いものにできる」とした。

 広報活動における情報発信の方法として、まず、よくユーザーが見ていると思われるSNSや媒体を活用した広告で発信し、自校のSNSアカウントに誘導すること、それから学校見学会の予約サイトや学校の公式ホームページに誘導するという流れが望ましいと、宮内氏は解説した。先のアンケート結果からも、SNSは20~40代の保護者世代がもっともよく使う情報収集手段というデータがあり、日常的に利用しているSNSを通じて情報が取得できることはユーザーにとって負担がなく、メリットにつながる。そのためSNSの運用は、現代の学校広報活動において必須だと言える。実際のところ、学校の公式ホームページ訪問者は、実際に受験を検討しているなどの志望度の高いユーザーが多い。言い換えれば、志望度が高まらないとホームページには訪問してくれない。そのために、SNSや他のWeb媒体を活用する必要がある。

 一方で、公式ホームページでしか発信できないものも多い。教育方針やビジョンなどの長文のメッセージや、校風などを表現する写真などがそれにあたる。学校でYouTubeを運用している場合はその動画を埋め込む、SNSを運用している場合はそのタイムラインを埋め込むなどを通して、ホームページと各種SNSをつなぐことも、関心のあるユーザーにもれなく情報を届けるための手法となる。ホームページの中身を充実させたうえで、そこにいかにユーザーを誘導できるかを指標に、広報活動をブラッシュアップしてほしいと宮内氏は締めくくった。

「WebやSNSなどのデジタル媒体での情報発信に力を注ぐべき」と語る、理英会本部の宮内仁志氏

学校説明会は動画と対面の「二刀流」で

 ジャック幼児教育研究所の吉岡俊樹氏は「少子化時代で優秀な子を獲得する広報活動」について講演した。吉岡氏も、先の宮内氏同様「これからの広報活動はアナログからデジタルに移行すべき」と主張した。一般企業ではすでに広報のデジタルシフトが起きているが、その中でいまだに駅看板やポスターなどのアナログな手段に予算を割いている私立小学校の広報活動に危機感を覚えていると言う。

 アナログでの宣伝のデメリットは、ターゲットが狭いことだ。駅看板は実際にその駅を利用している人でなければ目にとどまることはなく、紙媒体を購入する人は第一志願者と併願志願者に限られることから、小学校受験に関心のない潜在層にはどうしても情報が届かない。一方、デジタルを活用することで、具体的な学校名や教育内容を認知していない潜在層を獲得するチャンスが増える。とりわけ、インターネットやSNSの検索機能を通じ、「キャンプ」「子育て」「野外学習」などのキーワードから学校のSNSやホームページにたどり着くユーザーも多い。現に、ジャック幼児教育研究所ではデジタルでの広報に力を入れた結果、YouTube動画など、想定していなかった経路からのアクセスが増えたと吉岡氏は話す。

 続いて、コロナ禍から始まったオンライン説明会について言及した吉岡氏。「説明会を対面で行い、保護者に直接来てもらうことが熱意のバロメーターと考える時代は終わった」と話す。コロナ禍をきっかけに、保護者層の説明会に対する意識が変わったことを紹介した。ジャック幼児教育研究所の説明会でも「この内容なら動画配信で良かった」などの回答が寄せられることもあると言い、コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスの高さを理由にオンライン説明会を選択する保護者も増えてきたと話す。それゆえ、オンライン説明会参加者の中にも志望度の高いユーザーは多く含まれており、志望度の高い層も潜在層もしっかり獲得するために「対面と動画配信の“二刀流”でやっていくことが必要」と吉岡氏は語った。

 また、吉岡氏は受験者を増やすための戦略として、入試日程や定員設定における工夫を提案した。例として、入試日程を調整したことで受験者数を大幅に増やした実績をもつ学習院初等科を紹介した。学習院初等科では、同偏差値帯の併願校とバッティングすることのないよう、入試日程を複数日設定し、時間帯も調整した。試験時間を2時間とし、志願者に対して入試当日のスケジュールを明示。情報を適切に届けることで、志願者に安心感を与え、出願しやすさを担保した。

 あわせて、吉岡氏は定員設定、とりわけ補欠繰り上がりの重要性について語った。いなる入試においても通常の合格を発表してから補欠の繰り上げ合格の発表まで期間が空いてしまうことがやむを得ない。ただ昨今の小学校受験では、繰上げ合格発表まで年を跨いでしまうなど、長期化が顕著だと言う。繰り上げを待っている間にその学校への憧れが薄れ、早く決まった併願校に入学してしまうこともある。せっかく関心を寄せてくれた受験生を失ってしまうことは、学校にとっても痛手だ。繰り上げ合格発表までの期間、補欠合格者の心を離さないために「補欠合格者の中での順位(補欠のうち何番目なのか)」「何人を補欠合格させるのか」などの具体的な情報を、決まった段階できちんと開示することが大切だと訴えた。

「学校説明会は対面と動画配信の“二刀流”で」と語る、ジャック幼児教育研究所の吉岡俊樹氏

私立小学校は積極的な情報開示を

 最後に登壇したのは伸芽会の飯田道郎氏。飯田氏から参加者へ「幼稚園から小学校からの一貫教育私学のメリットはなんですか」といったそもそもの小学校受験の魅力を問い直す質問や「中高一貫校ブームの中で、私立小学校のアピールが少ないのはなぜですか」といった広報活動の現状についての鋭い質問が投げかけられた。天を仰いだり、自分の考えをメモしたり、熱心に問いに向き合う参加者の姿があった。

 飯田氏が、特に主張したのは、入試問題の開示についてだ。現在、多くの私立小学校が発信しているのは入試日程などの受験に必要な最低限の情報にとどまっている印象だと飯田氏は話す。その点、具体的な入試の過去問題を開示することで「どんな学校生活が送れるのか」「入学後どんな教育が展開されるのか」をイメージしやすくなると言う。入試問題には、学校の教育内容や入学してほしい生徒像など、学校の特色が大いに反映されている。小学校受験を視野に入れている家庭にとっては、試験対策として活用できるだけでなく、受験校選びの貴重な材料にもなり得るものだ。飯田氏は「私立小学校入試では良問が多数出題されている。入試問題を開示するだけで、『こんなユニークで生き生きした問題を乗り越えた子が集まる学校なのか』と教育の魅力が伝わるはず」と指摘した。

 また最後に飯田氏は、小学校受験における最大のメリットは「非認知能力を身に付けられること」だと話した。ここで言う非認知能力とは、「自分で気付く力(誰かに言われなくても気が付いたり、自分で面白がれる力)」「粘り強く取り組む力(焦らず、あきらめずに問い組める力)」「家族以外の人とつながる力(自分の言葉で伝え、行動できる力)」を指す。飯田氏は、伸芽会の設立当初からの理念と関連づけながら、受験に向かうまでのプロセスや入学後の私立小学校での生活を通じて、これらの非認知能力を身に付けられることは非常に魅力的だと語り、「私立小学校という選択は、家族から子供への“ギフト”になり得るだろう」と熱いメッセージを送った。

「小学校受験の最大のメリットは非認知能力を身に付けられること」と語る伸芽会の飯田道郎氏

小学校受験者数を増やすための取組み

 本セミナーを主催したジャック幼児教育研究所、伸芽会、みつめる21、理英会の小学校受験塾4社では、小学校受験に関する総合情報サイトを立ち上げる計画を進めている。個々の学校の情報発信にとどまらず、各校の公式ホームページやSNSと有機的に連携しながら、私立小学校の情報をまんべんなく掲載し、小学校受験の魅力そのものを発信していく活動を目指す。「小学校受験を視野に入れていない潜在層に働きかけ、小学校受験者数を増やしていけたら」と本セミナー事務局担当者は語る。開設までのスケジュールは未定と言うが、日本小学校連合会などとも連携しながら動き始めているとのこと。今はまだベールに包まれた存在である小学校受験だが、その魅力が全国の家庭に届く日は近い。

《土居 雅美》

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