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【NEE2022】GIGA端末を最大限生かすネットワーク環境とは…3市の事例

 教育関係者向けセミナー&展示会「New Education Expo 2022(NEE2022)」では、「GIGAスクールにおけるネットワーク環境を考える」と題して、埼玉県鴻巣市と神奈川県藤沢市、兵庫県姫路市の3つの自治体の事例が紹介された。

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【NEE2022】GIGAスクールにおけるネットワーク環境を考える~自治体の導入事例を通じ~
  • 【NEE2022】GIGAスクールにおけるネットワーク環境を考える~自治体の導入事例を通じ~
  • 前・鴻巣市教育委員会 教育総務課主任 新井亮裕氏
  • 藤沢市教育委員会 教育総務課主任 田島正教氏
  • 藤沢市教育委員会 教育総務課指導主事 小林隆氏
  • 姫路市総合教育センター管理指導主事 坂田怜輝氏
  • 内田洋行 ネットワークサポートセンター 永山達也氏
 教育関係者向けセミナー&展示会「New Education Expo 2022(NEE2022)」では、「GIGAスクールにおけるネットワーク環境を考える」と題して、埼玉県鴻巣市と神奈川県藤沢市、兵庫県姫路市の3つの自治体の事例が紹介された。

 東京ファッションタウンビルで2022年6月2日から6月4日に行われた「NEW EDUCATION EXPO 2022」は、一部のセミナーが札幌と旭川、帯広、仙台、名古屋、福岡の全国6か所のサテライト会場に中継された。

 児童生徒1人1台の端末と高速ネットワークを整備する「GIGAスクール構想」が全国の自治体で推進されている。文部科学省の「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の改訂により、端末を最大限活用できるネットワーク環境構成が求められている。同セミナーでは、埼玉県鴻巣市と神奈川県藤沢市、兵庫県姫路市が登壇し、それぞれの事例を紹介した。

埼玉県鴻巣市~教育ICT基盤のフルクラウド化を実現~


学校数・児童生徒数:小学校18校・5,439人、中学校8校・2,824人
(2022年3月1日時点)

前・鴻巣市教育委員会 教育総務課主任 新井亮裕氏



前・鴻巣市教育委員会 教育総務課主任 新井亮裕氏

 鴻巣市で育った子供たちに、予測不能で正解のない時代で、自らと周囲の幸せな生活を送るためにICTを身近な道具として使ってほしい、という願いから、GIGAスクール構想発足前より教育ICT環境整備に注力。予算を確保するために教育委員会や市長部局の関係者を巻き込んでいった。2019年9月に鴻巣市学校教育情報化推進計画を策定。基本理念に「ICT機器の活用により、新しい時代で活躍するために必要な資質・能力を育成する」を掲げ、取り組んできた。

 鴻巣市の教育の変革を目指すため、「先端技術を活用したICT環境整備」「学習形態の変革」「人財の育成」「子供と向き合う時間の創出」の4つの柱を設定。2021年1月よりパイロット校5校、2021年4月より鴻巣市内の全小中学校のICT基盤を刷新した。

 「先生も子供もPCを文房具のようにいつでもどこでも使用できる」をコンセプトに、利便性を考慮した環境を構築。具体的には、フルクラウド化、分離していたネットワークの統合、テレワーク環境整備、校務支援システム刷新等に取り組んだ。これにより、教員は、校務系・校務外部系・学習系の高性能PCをどこからでも使えるようになった。

 ICT基盤の刷新により、「学校内でPCを持ち運ぶ先生が増えた」「出欠や学校日誌等、多くの業務をデジタル化し、大きな負担軽減につながり、児童に向きあう時間が増えた」「デジタル化により文章校正が楽になり、記述量が格段に増えた」「振り返ったり、資料を蓄積したりしやすくなった」等、働きやすい環境を整備した結果、教職員の意識も確実に変化してきている。

神奈川県藤沢市~ローカルブレイクアウト方式を採用~


学校数:小学校35校、中学校19校、特別支援学校1校、児童生徒数:3万4,125人
(2022年4月6日現在)

藤沢市教育委員会 教育総務課主任 田島正教氏



藤沢市教育委員会 教育総務課主任 田島正教氏

 藤沢市は、2015年に環境推進整備計画を作成。パイロット校に無線LANを整備し、2019年には全校に無線LANを整備した。予算等の都合上、アクセスポイントは普通教室のおおよそ2クラスの間に1台設置。各学校は教育委員会を介してインターネットに接続し、校務用端末と学習用端末で同じ回線を利用していた。

 GIGAスクール構想により、利用端末数が増え、ネットワークトラフィックが増加し、各学校からインターネットや各システムに繋がりにくい状況に。ネットワーク増強の必要性が生じてきた。

 そこで、藤沢市ではローカルブレイクアウト(回線増強)により、学校から直接インターネットへ接続できるように整備。具体的には、既設のイントラネット回線は変更せず、各学校からインターネットに繋がる回線を新たに引くという形で整備した。回線は1Gbpsベストエフォートの光回線を敷設、インターネットサービスプロバイダはベルウッドの超光アクセスサービス「Bellnet」を利用。各学校は学校規模に応じてサービスプランを選択し、トラフィックレポートの利用実績をもとにプランの見直しを毎年行っている。

藤沢市教育委員会 教育総務課指導主事 小林隆氏



藤沢市教育委員会 教育総務課指導主事 小林隆氏

 ローカルブレイクアウトによるネットワーク整備前は、市内55校の校務用端末と、1人1台端末が集約型ネットワークを利用していたため、お互いの利用状況に大きな影響を与えていた。頻繁なネットワーク遅延により、授業と校務のスムーズな運用ができず、校務優先で1人1台端末の活用が進まなかった。端末が整備されても、ネットワークが原因で1人1台端末を活用できないというのが、藤沢市の課題であった。

 ネットワーク整備後は、小学校での1人1台端末の運用を開始し、指導者用デジタル教科書の利用拡大、デジタルドリル活用、学校行事の動画配信が進んだ。

 今後に向けて、2021年度の国の補助事業「GIGAスクール運営支援センター整備事業」を活用し、ネットワークアセスメントや応急対応を実施していく。

兵庫県姫路市~EduMallキャッシュBOXによるネットワーク帯域確保~



学校数:小学校66校・中学校32校・義務教育学校3校・特別支援学校1校・高等学校3校、児童生徒数4万4,377人
(2022年5月1日現在)

姫路市総合教育センター管理指導主事 坂田怜輝氏



姫路市総合教育センター管理指導主事 坂田怜輝氏

 姫路市教育委員会のネットワーク構成は、センター方式を採用。各学校は、市長部局所管の「姫路市地域公共ネットワーク」に接続し、教育委員会ネットワークに集約した後、兵庫県所管の「兵庫情報ハイウェイ」を経由して、学術情報ネットワーク「SINET」に繋がり、インターネットに接続している。予算の関係でローカルブレイクアウトの予定はない。

 GIGAスクール構想により、1人1台端末が整備されたが、1人でも繋がらなかったら授業にならない。「使おうと思ったのに繋がらない」という状況を改善すべく分析したところ、各学校から姫路市地域公共ネットワークへの回線がボトルネックになっていたことが判明。朝8時~8時半と、昼過ぎ~5時間目の開始付近に混雑のピークが見られた。

 回線を増強すれば解決できるが、多額の費用がかかってしまう。そこで、多くの端末が共通でダウンロードするデータをキャッシュすれば、インターネットへの同時通信を減らせるのではないかと考え、内田洋行の「EduMallキャッシュBOX」を設置。EduMallキャッシュBOXには、デジタル教科書用コンテンツやChromeOSアップデートファイルを置いたところ、当該トラフィックの87.3%がキャッシュの効果により削減できた。デジタルコンテンツもキャッシュできるとさらに効果が見込まれる。

 一方で、ある中学校で端末を一斉に起動すると、1~2割の生徒がログインできない事象が発生していた。調査したところ、数百台の端末が一斉に起動すると、トラフィックが集中してログインできない端末が出てくることが判明。学校に分散起動をお願いしたところ、ログインできなかった端末は0台だった。全校生徒800人の大規模校では、朝登校したら順次、端末にログインする習慣があり、ログインできない事象は発生していない。このことから、一斉に起動・ログインすると遅延が発生することや、学校現場にも運用面で協力してもらう必要があることがわかった。

GIGAスクールにおけるこれからのネットワーク環境を考える



内田洋行 ネットワークサポートセンター 永山達也氏



内田洋行 ネットワークサポートセンター 永山達也氏

 文部科学省の「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」が改訂され、目指すべき構成として「認証によるアクセス制御を前提とした構成」が示された。目指すべき構成に近づけるには、運用負担やコストを考慮しながら、ネットワーク統合やアカウント連携が重要となってくる。ネットワーク統合やアカウント連携により、教育データ利活用の基盤ができ、児童生徒ひとりひとりに最適な学びが実現できる。

 なお、同セミナーはサテライト会場の1つである札幌会場で受講し、会場写真を内田洋行より提供いただいた。札幌会場には、3日間でのべ約200名の参加者が来場した。東京会場の登壇者とスライドの内容が壁一面にプロジェクターで投影され、セミナー会場にいるような臨場感で受講することができた。

《工藤めぐみ》

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