同社は日本語版公開に合わせ、Empowered JAPAN Edu Day2021サイトにてこのHacking STEMを活用した授業実践動画を配信。また、3月27日にはオンラインセミナー「Japan Edu Day:AI時代の教育に合わせたSTEM教育の取組みと探究型授業パッケージ『Hacking STEM』」を開催した。セミナー概要を紹介する。
ツールで21世紀を生き抜く力の獲得を支援
セミナーではまず、日本マイクロソフトの文教営業統括本部インダストリーエグゼクティブの島田悠司氏がマイクロソフトの教育分野の取組みとHacking STEMについて紹介した。
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同社の教育分野のミッションは「地球上のすべての先生と子供たちが、より多くのことを達成できるようにする」であり、子供たちが今後必要になる21世紀を生き抜く6つの力(Future-ready skills)ー議論し合う力、協働し合う力、好奇心、計算論的思考、創造力、疑問を逃がさない思考性ーをツールを使って身に付けられるよう支援していると示した。マイクロソフトでの取組みについて、米国本社副社長で教育部門担当のアンソニー・サルシト氏もメッセージを寄せた。
未来に向けテクノロジーを使える子供を育てる
サルシト氏は「コロナ禍において、テクノロジーが果たす役割は変わってきている。クラウドを使用してデータを活用し、アイデアや情報を共有して、実際に行動し洞察を深めることで、学習をよりパーソナライズできる。すべての教育者がより多くのことを達成できるようになる」と述べ、テクノロジーのもつ役割は教師や児童生徒を支援するツールだけではなく、「コミュニケーション、コラボレーション、創造性など、新しい世界で仕事をこなすうえで基盤になるスキルに結び付けるものだ」と語った。
そのうえで、「もっとも重要なことは子供たちに最高の情熱とアイデアを与え、意図的に学習を進めて動機付けすることだ。私たちがもつ未来を刺激する素晴らしいテクノロジーで学校内での学習機会とデジタルによる個別最適化を受け入れ、最大化していく。テクノロジーを使える子供を育てることは日本や世界の経済の未来を推進するために必要」とし、「企業はイノベーションを推進させるためにブロックチェーンやデータ分析、AIを理解するスキルを求める。将来日本で働く学生は、そうしたスキルを身に付けるべきである。これらのテクノロジーは日本の産業の未来を築く技術である。教育者や学校の指導者がカリキュラムや教室を用意してこの新しいスキル開発を可能にすることが重要である」とスキル開発の重要性を述べた。

1人1台端末をSTEM教育で根付かせる
続いて、島田氏は改めて同社のSTEM教育への取組みやHacking STEMなどについて講演。GIGAスクール構想については、1人1台配備されたパソコンが教室の中で日常使いの文房具として根付いていくことが重要であり、端末を有効活用できるよう支援していくとした。一方で、子供たちの未来は大人の予想を遥かに超えて迅速に変わっていき、2022年までに新しく生まれるテクノロジー関連の仕事は620万を数え、子供たちが社会に出たときに今はない新しい職種は65%に達するなどと予想されている。経済産業省の予測によると、日本のIT人材は2030年には約59万人不足するとの見通しが出ており、そうした背景も踏まえて、昨今では学校入試でプログラミングやSTEMによる新しい入試形式を採用する学校も出始めていると指摘した。
そうした社会背景を受けて、マイクロソフトでは、STEM教育に活用できるリソースを提供しているとして、「1.教育版マインクラフト(小・中学生)」「2.Hacking STEM(小・中・高校生)」「3.MS Learn(Skills)(高校・大学生・社会人)」を示した。
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身の回りの問題を探究しながら学ぶHacking STEM
そのうち、島田氏はHacking STEMについて、マイクロソフトが作成したSTEMのレッスン集で、「STEM教育をアップデートすることで、地球上のすべての子供たちがより多くのことを達成できるようにする」をミッションとしていると紹介。身の回りの道具を用いて、自然科学の事象を実際に探究しながら学ぶことで、21世紀型の技術的スキルを育む教材となっている。
小・中・高と年代に応じたレッスンプラン
Hacking STEMには小・中・高と年代に応じたレッスンプランが用意され、無料でリソースパッケージをダウンロードでき、先生がすぐに使えるようになっている。段ボールや紙コップなど手頃な価格の材料を用いて多様なシナリオを活用でき、リソースにはデータをグラフィカルに表示するExcelワークが含まれており、実験の際のデータシミュレーションにてリアルタイムデータの取得・可視化・分析を実現する。
日本語版は、英語版の23パッケージから日本向けにローカライズし、使いやすい10パッケージを用意した。教材内容は、衛星写真を分析して気候変動を予測するものや、地震データを可視化して地震の影響を分析するものなど、地球環境や自然科学など身の回りの現象をデータ分析しながらSDGsについても探究的に学べるものとなっている。パッケージ内容は、授業用テキスト、教師用指導案、生徒用授業テキスト、データ分析用のExcelワークブック、実験用道具リスト、サンプルコードとなっており、Windows端末で利用でき、無償でダウンロードできる。
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Hacking STEM
デジタルツールを活用して探究的な学びを実現
一部を見ると、風力発電レッスンは、風力発電の発電量を計測し、効果的な風車の形状をデザインする授業で、風車を工作し、コンピュータにつないで、風車の発電のリアルタイムデータをExcelで取得する実験となっており、プロペラのデザインを工夫して発電量を増やす改善を行い、実際に自分で試行錯誤して体験することで、風車の仕組みや改善の工夫などをより深く理解し学ぶことができる。
また、ロボットハンドのレッスンは、段ボールとストローでロボットハンドを作成し、コンピュータとつないで、人間の手の解剖学と生体力学を理解できるモデルとなっている。
これらのレッスンからは、風力発電では機械工学や流体力学に加え、エネルギー問題の観点から環境科学・社会学に展開でき、また、ロボットハンドでは機械工学や電子工学、人間工学、医療工学など、いずれも教科や単元に留まらず、幅広く実社会のさまざまな仕組みを学ぶことができる。
島田氏は、「テクノロジーの進化により社会が予測不能となり大きく変化する中で、これまで以上にSTEMや探究的な学びを通じて子供たちが自ら考え、課題解決に向かう力が重要になっている」と述べ、「Hacking STEMには、身の回りの現象から現実世界の問題解決に取り組む、データ分析を通じてSTEMを学ぶ、教科を横断しながら探究的に学ぶの3つの特徴があり、デジタルツールを活用して探究的な学びが実現できる」と強調した。
円滑な授業をサポートする対応キット
一方、アーテックアートテクノ事業部営業課の秋岡啄氏は、同社が提供するHacking STEM対応キットを紹介した。同社は創業から60年以上日本全国の学校へ教材を提供し続けるメーカーであり、プログラミング教材「アーテックロボシリーズ」は、レンタルを除き小中学校に累計でおよそ4万台を納品している。同社は昨今の社会の変革やGIGAスクール構想を受けて、マイクロソフトのHacking STEMとコラボすることで日本の学校現場のSTEM教育の普及と課題解決への貢献を目指しているという。また、日本におけるSTEM教育導入の実践例として、対応キット開発の指導にあたった宮城教育大学の安藤明伸教授のもと、宮城教育大学附属中学校で実践授業を行い、それをもとに日本における授業指導案を作成・公開している。
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今回同社が提供するのは風力発電測定だ。これは紙製の風車、ブロックの軸、マイコンで構成され、これらをくみ上げた風力計測器を端末につないでExcelワークシートにデータを表示できる。実践授業では、風力発電のプロペラ開発企業の社員としてプロペラの製作と評価を行い、羽の形状をどうすると回転するか、効率が良いか考え、改善させ、数値で比較する2時間分の授業を行い、ストーリー性をもたせた。これにより、電流やエネルギー、数値データの扱い、計測、羽のデザインなどでSTEAM教育の実践ができるとし、実践授業における生徒からの評価では90%以上で高評価を得られた。自由記述では素材・発電量・データ・パソコン処理・発電についてなど、通常の理科の実験以上の考察の広がりがみられたという。秋岡氏はキットを活用することで導入ハードルを下げて、ぜひ授業に実践してほしいと語った。
Hacking STEMを実践した授業動画を公開
Hacking STEMは、生徒が自ら簡単な材料で実験道具を作り、実験を行い、リアルタイムのデータを取得・分析して、データを基にさらに改善につなげられる実践的なSTEM教材である。小学生から高校生まで、年代に合わせたレッスンが用意され、生徒は自らの端末で研究を行い、学びを深めていくことができる。学びは1つの教科に留まらず、幅広い自然現象や実社会の仕組みを体験しながら学習でき、将来の課題解決を考えるのにも役立つだろう。Hacking STEMを活用した授業の実践動画は今後もEmpowered JAPAN Edu Day2021サイトに追加される予定となっている。
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Empowered JAPAN Edu Day2021