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「学びの過程」を可視化する…福井大×内田洋行が包括連携協定

 福井大学と内田洋行は2026年8月、教育DXや教育アセスメントの推進を目的とした包括連携協定を締結した。附属義務教育学校を実証の場に、学習空間・教育データ・評価を一体で設計し、探究を支える環境づくりをめざす。未来型理科室での7年生の理科公開授業では、デジタル顕微鏡の映像を8分割で共有し、個の観察を学級全体の議論へと広げた。

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「学びの過程」を可視化する…福井大×内田洋行が包括連携協定
  • 「学びの過程」を可視化する…福井大×内田洋行が包括連携協定
  • 福井大学 学長 内木宏延氏
  • 内田洋行 代表取締役社長 大久保昇氏
  • 撮影画像はサーバーを経由して壁面スクリーンに8分割で表示
  • スクリーンで前回授業の振り返りを提示
  • デジタル顕微鏡を用いてタブレットで観察するようす
  • デジタル映像にアナログで書き込むリアルな学び
  • 「学びの過程」を可視化する…福井大×内田洋行が包括連携協定

 福井大学と内田洋行は2026年8月26日、教育DX・教育アセスメント・人材育成の推進を目的とした包括連携協定を締結した。締結式は福井大学教育学部附属義務教育学校(福井県福井市)のプロジェクトルーム「畷(なわて)」で実施。続いて理科室として使用されるプロジェクトルーム「暁(あかつき)」で7年生(中学1年)を対象とした理科の公開授業が実施された。

 締結式では協定の内容報告にとどまらず、未来型理科室での公開授業を通じて、両者がめざす「学習空間・教育プログラム・教育アセスメントの一体設計」に焦点が当てられた。

附属校を実証の場に、連携の4本柱

 福井大学は2022年3月に文部科学省が指定した全国4校の「教員養成フラッグシップ大学」の中で、唯一の総合大学である。工学部・医学部等と連携し、教育学部附属義務教育学校や総合教職開発本部を実証の場として活用してきた。

 今回の協定は、両者が共同で整備してきたプロジェクトルームやSTEAM教室、合同職員室などを実証基盤とし、内田洋行が手がける教育アセスメントやCBTと組みあわせるものだ。連携内容は次の4点とされる。

  • 先端教育プログラムの開発・実践・評価
    附属義務教育学校をフィールドにSTEAM教育や情報教育、また次期学習指導要領に優れた協働探究型の教育プログラムや教材、システムの開発実証を行う。

  • 教育データの利活用および教育評価手法の高度化
    資質能力を多面的に捉える評価指標の開発やCBT、AIを活用した新たなアセスメント手法の研究を進め、指導改善や学習支援に生かす。

  • 次世代の教育学習環境の構築およびその活用方法の実証
    ICTやAI等を活用した次世代の教育学習環境の構築を行い、効果的な指導方法の実証と地域への普及展開を推進する。

  • 共同研究成果の検証・発信
    共同研究成果について学術的、実践的な効果を検証し、教員養成や教育現場への還元をはじめ国内外へ広く情報を発信する。

 福井大学 学長の内木宏延氏は「少子化が進展する社会においても持続可能な学びのあり方を追求し、次世代を担う子供たちの未来を拓く、新しい価値と社会を共創するパートナーとして歩みを共にしていきたい」と述べた。

福井大学 学長 内木宏延氏

より良い授業につなげるための教育データ活用

 続いてあいさつに立った内田洋行 代表取締役社長の大久保昇氏は、同社が文部科学省のCBTプラットフォーム「MEXCBT(メクビット)」の構築・運用を担い、2026年春には小中学生約200万人規模の全国学力・学習状況調査を受託していることを述べた。そのうえで、今回の協定で得られるデータについて「学校や子供たちの順位付けをするためではない」と強調する。

 大久保氏が重視するのは、点数ではなく学びの過程だ。「ひとりひとりが何に気付き、どのように考え、仲間との対話を通じてどのように成長したのか」。それを丁寧に見つめる道具としてデータを使い、次の学びやより良い授業につなげることをめざすという。そのための手段として、CBTやAI、授業中に蓄積される学習データを活用し、新たな教育アセスメントのあり方を研究していく構えだ。

内田洋行 代表取締役社長 大久保昇氏

 全国学力・学習状況調査によると、福井県は2007年以来ほぼ一貫して上位にあり、2025年度も小学6年・中学3年の全教科で全国平均を上回っている。授業で得られる学習データを手がかりに、「なぜ福井の子供が伸びるのか」という背景を可視化し、他地域でも共有できる形で示すことも、共同研究が見据えるテーマのひとつだ。

 こうした方向性は、国の政策とも通じる。文部科学省の論点整理は「主体的・対話的で深い学び」の実装を次期学習指導要領の第一の方向性に掲げ、情報活用能力を各教科の探究的な学びを支える基盤と位置付けた。小学校の総合的な探究の時間への「情報の領域」の付加や、中学校での「情報・技術科」の創設も具体策として示されている。

 内田洋行 教育総合研究所 主任研究員の足利昌俊氏は、次期学習指導要領で中学校の「情報・技術科」や、小学校の総合的な探究の時間の中の「情報の領域」の中で、情報教育が具体的に位置付けられることを見据え、「新たな情報教育対応の空間も計画中だ。生成AIの登場で知識ベースの教育は変容を迫られる。チームを組んでプロジェクトを進め、価値創造を行う協働探究の力を育む場が必要だ」と語る。内田洋行として、学習空間・教育データ・アセスメントを組みあわせ、探究を支える環境そのものを設計していく考えだ。

アナログとデジタルを重ねる、未来型理科室の工夫

 締結式後には、プロジェクトルーム「暁」で公開授業が実施された。約100人を収容できるこの教室は、実験器具・ガス・水道設備が壁側に集約され、中央部は可動式の机と椅子で構成されており、理科室として使用されている。壁面全体がスクリーンとして使えるのも特徴だ。

 附属義務教育学校には「暁」のほか、100人以上が集まれる「畷」、9つのラウンドテーブルを備える「楪(ゆずりは)」、配信・映像編集などの機材を備える「彩(いろどり)」の計4つのプロジェクトルームがある。このほか9年一貫教育を担う合同職員室もあるのだが、これらはすべて内田洋行との共同で整備されたものだ。

 この日の、「暁」での公開授業では、観察時は班ごとに机を配置し、共有時は前方に集まりホワイトボードを囲んで学ぶ姿を見ることができた。配置変えは数十秒で行うことができる。空間設計を行った内田洋行の教育ICT事業部 中西隆司部長は、「活発な意見交換が求められる協働探究においては、固定された机や椅子などの環境では学びを深めにくいため、自由に動けることが望ましい」と、フレキシブルな設計の意図を語った。

 観察から議論へと学びの形が移るたびに、机やスクリーンに投影している映像の配置を柔軟に変えられる「暁」のような教室は、ハード面から探究的な学びを支える。「壁一面のホワイトボードに8画面の顕微鏡映像を同時に投影し、リアルタイムで各班の実験の様子を共有することができる。さらに、投影した映像の上からホワイトボードマーカーで直接書き込みながら議論することができる。デジタル映像とアナログの書き込みを自在に組み合わせながら学びを深められる、全国でも珍しい教室の形態だ」(足利氏)。

撮影画像はサーバーを経由して壁面スクリーンに8分割で表示

顕微鏡の映像を壁面で共有

 授業は「料理と科学」という長期探究単元の一部が実施された。給食の食材を入り口に、動物と植物の分類・共通点・相違点を探究する内容だという。前回の授業では、生徒からは「動物は動くが植物は動かない」「どちらも生きているとはどういうことか」といった問いが出ており、この日は、その問いをもとに立てた仮説を顕微鏡観察で検証した。

 冒頭で教員が、「植物が動かない仕組みや、光合成が行われる場所の手がかりを、ミクロの世界から見つけてほしい」と呼びかけ、「みんなの顕微鏡の画面をスクリーンに共有するので、他の班が観察しているものも見ながら観察してほしい」と促した。生徒自身に問いを追わせ、ICTを介して班をまたいだ観察へつなぐという進め方である。

スクリーンで前回授業の振り返りを提示

 生徒はタマネギの鱗片やツユクサの葉、バナナの皮などの植物系と、豚レバーや塩サバ、若鶏の肉などの動物系の食材を、ピーラーやピンセットで薄く剥ぎ取ってプレパラートにセットし、切片を観察した。各班のデジタル顕微鏡はUSB接続でタブレット端末とつながり、顕微鏡の映像や撮影画像は壁面スクリーンに8分割で映し出された。

デジタル顕微鏡を用いてタブレットで観察するようす

 約20分の観察後、教員は生徒をスクリーン前に集め、ホワイトボードとしても使える壁面に特徴を書き込ませた。1人がツユクサについて「気孔みたいな穴があって、唇に似ている」と発表すると、別の生徒が「植物は光合成のために二酸化炭素を取り込む必要があるから気孔がある。動物は光合成しないから気孔がないのかもしれない」と応じるなど、活発なやり取りが繰り広げられた。接眼レンズをのぞく個別の観察が、画面共有を通じて学級全体の議論へと広がっていった。

 最後に教員が「動物も植物も、ミクロで見ると小さな部屋のようなものがたくさん集まってできている。それを細胞という」と伝えた。生徒は身近な食材の観察を通して、生き物が細胞からできていることを学んだ。その過程は、Teamsの振り返りや観察画像として蓄積されていく。

デジタル映像にアナログで書き込むリアルな学び

子供たちの問いから始まる探究を、全国の現場へ

 福井大学 教育学部長の橋本康弘氏は協働探究について「子供たちがまず問いを作り、その問いを追求するために実験や仮説を繰り返す。時間を細切れにした授業ではなく、長いタームで単元を作り、冒頭から問いを立てて追求していく」と説明する。「こうした授業を組み立てるうえでは、子供たちが自ら考え、試行錯誤しながら学びを深めていく力を信じ、その主体性を尊重する姿勢が重要だ」(橋本氏)。

 こうした環境で培った手法を、公立校へどう広げるかも今回の連携の視野に入る。国立大学の附属校は教員養成・研修の実証拠点と位置付けられているものだが、内田洋行では、 整備が進んでいない学校から来た教員が附属校で学び、自校の教員へ実践を伝えていくことを想定している。そのため、デジタル顕微鏡へのドライバー不要のUSBカメラの内臓や、インストール不要で3OSに対応したソフトウエアの提供、可動式什器による空間転換も、導入を見据えてコストを抑えたものだという。

 両者がめざすのは、学習空間・教育データ・アセスメントを組みあわせて子供たちが協働探究できる環境をつくり、その中で「なぜ学びが深まるのか」「どのような対話や行動が成長につながったのか」を、データによって可視化していくことだ。福井県が長年にわたり育んできた学力の背景には、数字だけでは捉えきれない授業文化と、子供たちの可能性を信じる教育の積み重ねがある。その強さの理由を経験や勘だけにとどめず、データに裏付けられた形で解き明かすことができれば、福井の教育は全国の学校が学び、再現し、さらに発展させられる新たな教育モデルになる。

 探究を重視する次期学習指導要領を見据えた福井発の取組みが、これからの教育の現場にどう生かされるか、今後の進展が注目される。

内田洋行 未来の教室 FUTURE CLASS ROOM
《足立 陸》

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