鹿児島市教育委員会では教員の業務負担の軽減と児童生徒の学びを促進するため、Microsoft 365 Copilot(以下、Copilot)を導入し、教育現場での生成AIの積極的な活用を推進している。そこで、EDIX東京2026のマイクロソフトブースにて5月13日に開催された、鹿児島市教育委員会教育DX担当部長の木田博氏によるセミナー「教育における生成AI活用の『シン』展開」をレポートする。
生成AIの活用で3つの「シン」へ移行
木田氏は2024年、鹿児島市教育委員会に初めて設置された教育DX担当部長に就任した。校務DXや教育のデータ利活用など幅広く担当しているほか、文部科学省の学校DX戦略アドバイザーやICT活用教育アドバイザーをはじめ、国や自治体におけるさまざまな有識者会議の委員を務めている。
木田氏は、生成AIの位置付けが、単なる「代筆ツール」から学校組織のあり方を変える「プラットフォーム」へと移行していると指摘する。これまでは挨拶文の生成や文章校正といった補助的な利用が中心だったが、今後は学校全体で導入し、プラットフォームとして組織的に活用する段階に入っていくとした。

それを踏まえ木田氏は、生成AIの活用により3つの「シン」への移行が必要であると述べた。では3つの「シン」とは何だろうか。
1つ目は、本来あるべき教育の「真」の目的を達成するために生成AIを活用するということ。背景として、昨今は児童生徒の実態にあわない通知表の所見を作成するなど、本来の教育目的から逸脱したAIの使い方も見られるという。また、児童生徒がよく考えずにAIですぐに答えを見つけてしまう「認知的オフローディング」の問題も指摘されている。こうした課題を踏まえ、教育的価値を損なわない「真」の活用を行うべきだとした。
2つ目のシンは「新」。生成AIは“秒進分歩”の勢いで進化している。木田氏はこの点に注視し、新しい機能をうまく使いこなしていくことが求められると述べた。
そして3つ目は「深」である。AI活用は教員個人に任せるのではなく、学校全体で日常的かつ組織的に用いるよう、仕組みや考え方の両面から活用を「深化」させる必要があるとした。

これらを実現するうえで重要になるのが、「生成AI利用に関するガイドライン」の策定である。昨今は教育現場に限らず、組織が正式に承認していない生成AIを従業員が個人の判断で利用する「シャドーAI」がまん延しており、個人情報漏洩などのリスクが顕在化している。教育現場でも、教育委員会の方針により使用が制限されやむを得ずシャドーAIになっているケースや、逆に制限なく自由に利用されているケースなど、自治体ごとに状況はさまざまである。いずれの場合もリスクが高く、適切なルールの整備が必要となる。
「鹿児島市教育委員会では校務でのAI活用の促進とセキュリティ担保を進めるべく、2025年に『本市における生成AIの利活用について』と題したガイドラインの策定と、校務・教育活動における活用事例集を作成しました。また、教員ひとりひとりに専用アカウントを配布することで、AIを安全に使える環境を整備して使用を推奨しています」(木田氏)。
「教えるAI」から「伴走するAI」へ
次に木田氏は、今後のAIの使い方について、子供たちが質問した内容の答えを与える「教えるAI」から、子供に寄り添い「伴走するAI」に変わっていかなければならないと説く。
教員が子供に生成AIを使わせる際の懸念点として、もっとも多いのが「答えを一方的に与えてしまうこと」である。「教えるAI」のままでは回答を検索しているに過ぎず、子供たち自らが考えるという学びのプロセスを省略してしまう。中には検索の候補にすら目を通さずにAIによる要約の文言をそのままコピー&ペーストし、回答を作成しているケースもある。そこで「今後はAIを伴走者として活用し、子供たちの思考過程を可視化しながら、その言語化の支援に役立ていくべきだ」と続けた。

そのためには、「AIが個別最適なフィードバックを返すように整え、学びのプロセスそのものを支援する使い方をしていくことが重要になる」と木田氏。例として、鹿児島市教育委員会がCopilotのエージェント機能を活用して作成した伴走型エージェント(探究型)を紹介した。これは、子供たちがAIに質問をした際に答えをすぐに教えず、考えを深めるための問いかけやヒントを出し、問いを繰り返しながら考えを深めていくようにファシリテーションするエージェントだという。
一方でこのようなAIを子供たちが使うようになったとき、学校での評価基準はこれまでの「結果・成果物の評価」「正解を当てる」ものから、「価値創出プロセス評価」「説明・解説できる」ものへと転換していく必要がある。具体的には、個人の能力で正解が出せたかどうかではなく、他者と共創して答えをともに考え探していく能力や、そのプロセスを説明・解説できるかどうかに評価ポイントを置く必要がある。木田氏は、「子供達が生成AIを使ったかどうかはもはや問題ではない。使うことを前提として、どのように使っているか、適切に使えているかのプロセスを評価するよう変わるべきだ」と、課題を提起した。
教員の暗黙知を生かした授業計画の作成支援
続いて教員による生成AIの使い方については、授業を行う際のティーチング・アシスタントの活用法と、その際に留意すべきことを示した。
従来の授業づくりでは、学習指導要領や教育理論などを調べるために多くの時間を割いている。そこで、それらの文書をAIに読み込ませることで、理論等に沿った授業計画立案の支援をAIに提案してもらうことを推奨した。

実践においては、教員はAIが提示した計画をそのまま受け入れるのではなく、「教師としての暗黙知」を生かし、自分なりにカスタマイズしていくことが求められる。教材作成や評価・フィードバックにおいても同様に、暗黙知を生かすことが重要だ。木田氏は、「そうしたポイントを踏まえて鹿児島市教育委員会で作ったのが、Copilotによる指導支援エージェントや授業計画デザイナーだ」と紹介した。
前者は探究型の授業計画が作れるエージェントで、後者は教育理論などを生かして授業計画をデザインするAIとなっている。


特徴は、各教員が重要視している教育理論や授業理論をAIに学ばせておくと、その考え方に即した授業計画を作れること。使えば使うほどAIは学習して賢くなっていき、よく使う授業内容などを自動で組み込んで提案するようになるという。
木田氏はさらに校務特化型エージェントも紹介した。これは文部科学省や各自治体から出ている通知や規約・規定などをすべて学習させておき、それにあわせた文書などを作成できるもの。作成した文書はMicrosoft Wordなどに貼り直さずとも、Copilot上で編集・修正したうえでWordやPDFで書き出しできるようになっているという。

木田氏は、「これまでCopilotのエージェント機能の活用を紹介してきたが、エージェントを使わずとも、Copilot教育版には児童・生徒の指導に関わる特化型UIが実装されており、これをうまく使っていくことも最初の一歩として有効だ」と提案。特に教育ツールの「指導」の項目では、オンラインコミュニケーションツールであるMicrosoft Teamsとの連携もスムーズになっていると評価し、Teamsで出した宿題の評価などに活用できると推薦した。

可能性の拡張を目指す使い方を
木田氏は最後に「共同利用と技術の民主化への展開」として、生成AIが個人利用から共同利用へ移行しつつあり、誰もがその恩恵を受けられる「技術の民主化」が加速していると指摘した。かつては一部のデジタルスキルに長けた人材だけが使いこなせた生成AIも、現在では教員も児童生徒も分け隔てなく活用できる環境が整いつつある。さらにCopilotは共同利用や共同編集にも対応しており、児童生徒の協働学習への活用にとどまらず、教員間の業務の偏りやプロンプトスキルの格差の縮小にも寄与すると評価した。

また、教育現場におけるCopilot活用の小技として、Microsoft OneDriveやTeams、Microsoft SharePoint Online内のファイルを自然言語で検索できる機能を紹介。「〇〇について説明した資料を探して」「先週見たあのグラフ」といった自然言語でも、該当ファイルを自動でピックアップできるという。パソコン上でのWebサイト閲覧やメール・画像などの作業履歴もCopilotが記録し、自然言語による検索・再現が可能なだけでなく、画像上のテキストはOCR(光学的文字認識)でコピーしてすぐに活用できる。

さらにCopilotでは、WordやMicrosoft Excel、Microsoft PowerPointなどを音声や自然言語で操作できる。セミナーでは「タイトルをセンタリングして太字にして青文字に変えてください」という木田氏の音声指示に応じ、CopilotがWord上でリアルタイムに編集を行うデモが披露された。こうした直感的な操作性は、専門的で詳細なスキルを必要とせず、技術の民主化をさらに後押しするものだと木田氏は指摘した。

まとめとして、教育における生成AI活用の「シン」展開を推進するにあたり、先に示した3つの「シン」を着実に進めることを推奨した。AIの進化は今後も続くが、その本質は「可能性の拡張」にあると強調。AIを学習や指導の代替としてではなく、児童生徒と教員の可能性を広げるツールとして活用していこうと呼びかけ、講演を締めくくった。
安全かつ適切な使い方を取り入れ教育現場を革新へ
生成AIの便利さは誰もが知るところであるが、いかに情報漏洩や子供の学習意欲低下などのトラブルを引き起こすことなく、安全に、目的どおりの効果を引き出すことができるのかが思いつかずに、AI使用に迷っている教育現場も多いことだろう。とはいえ、もはや児童生徒も、教員も、AIの使用を避けては通れない。
だからこそ、今回の鹿児島市教育委員会のように、自治体単位でガイドラインを作り、アカウント管理を行い、便利な使い方の実例を示して活用を振興していくのは賢明なやり方と言えよう。安全かつスマートな活用方法を教育現場に導入して、日々の作業を効率化し、児童生徒の学びを促進していきたい。
WordもExcelも効率化
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