岡山大学特定教授の笹埜健斗氏は2026年6月15日、教育DXを「導入して終わる改革」にせず、現場で改善され他地域にも移植可能な実装知へと発展させるため、EdTech設計原理プラットフォーム「EDPR」β版の開発に着手したと発表した。成功事例だけでなく、文脈や限界、移植条件を含む「設計原理」として知見を蓄積・共有することを目指す。
EDPR(EdTech Design Principles Registry)は、EdTech製品や成功事例を単に紹介するデータベースではない。教育委員会や学校、大学、研究者、企業などが得た実装知を、「文脈」「設計原理」「根拠」「限界」「移植条件」とともに蓄積・共有することを目指す、公共性を重視したプラットフォームである。
教育DXでは、優れた授業案やツール、実践事例が生まれても、それだけでは十分ではない。実際の学校現場では、校内体制、教師研修、管理職の意思決定、教育委員会の方針など、複数の条件が複雑に絡み合う。そのため、知見は「何を使ったか」だけでなく、「どの文脈で、どの条件がそろったから機能したのか」「他校へ移すには何を変更すべきか」まで整理される必要がある。
この問題意識は、教育研究におけるDBR(Design-Based Research)からDBIR(Design-Based Implementation Research)への展開とも対応する。DBIRは、授業や教材の設計にとどまらず、実装上の課題や持続可能性、教育システムの変化までを重視するアプローチである。EDPRは、このDBIR的な知見生成を教育DXの実務に接続し、実装知を「導入事例の競争」から「設計原理の共有」へ転換することを目指している。
EDPRは、(1)1校の工夫を、再利用可能な設計原理へ変えること、(2)ベンダーや担当者に依存しない実装知を残すこと、(3)教育委員会・学校・研究者・企業・地域団体の共通言語をつくること、の3つを目的としている。
β版では、「AI活用・授業設計」「教師支援・校内研修」「校務DX・学校運営」「教育データ活用・学習者理解」「多様な学習ニーズ・包摂」「地域連携・外部協働」「調達・継続運用・ガバナンス」の7つの初期カテゴリを設定した。
EDPRに登録する「設計原理」は、製品名ではなく、他校でも参照可能な考え方として整理される。たとえば、「生成AIツールを導入したら英作文が改善した」という事例ではなく、「英作文支援では、AIの生成文をそのまま提出させるのではなく、学習者の表現意図、AIからのフィードバック、辞書・文法書による確認を往復させることで、表現の自己決定と修正過程を可視化する」といった原理として登録する。
現在、専用フォームを通じて、EDPR β版に向けた初期登録候補や設計原理案、成功・失敗事例、運用上の注意点、登録様式への意見などを広く受け付けている。同構想では、N-E.X.T.ハイスクール構想を重要な初期ユースケースの1つとして位置付けているが、高校改革に限らず、教育DX全般に共通する実装課題を対象とする。
今後の予定として、2026年夏にEDPR準備会を開催し、登録様式などを検討。2026年秋にβ版の初期登録原理を公開し、2026年度内には教育DX全般に関する設計原理を継続的に登録・更新することを目指すとしている。











