豊橋技術科学大学は、2020年度にIT活用教育センターを新設し、その後イーラーニング社に依頼してMoodle LMSを新規に構築した。日本で唯一のMoodle公式認定プレミアムパートナーであるイーラーニング社は、全国の教育機関への教育プラットフォーム供給において豊富な実績をもつ。
豊橋技術科学大学はどのような目的でMoodle LMSを構築し、それによって現場はどう変わったのか。教員や学生の反応はどのようなものであったのか。豊橋技術科学大学IT活用教育センター・准教授の原田耕治氏、イーラーニング社の営業部の桑原崇文氏に話を聞いた。
オンライン授業拡大に伴いITセンター設立、Moodle刷新へ
--豊橋技術科学大学におけるMoodle LMS導入の経緯と、活用についてお聞かせください。
原田氏:2020年4月、豊橋技術科学大学ではITを活用した教育を実践・普及させる目的でIT活用教育センター(CITE:Center for IT-based Education)を立ち上げました。当時は大学教員側にスキルが乏しい部分があったため、コロナ禍でもオンラインでしっかりと授業を行えるように、本格的な教育のデジタル化を推進する拠点として発足しました。
当時、学内にはすでに本学Moodleがあり、情報メディア基盤センターが管理・運用していましたが、CITE発足により、Moodleの管理・運用がCITEに移管されました。CITEの教職員は教育システムの運用に関する十分な経験がなく、試行錯誤しながら運用していたものの、Moodleのバージョンアップなど管理のための作業が大きな負担になっていました。
そこで、2022年にイーラーニング社に新しいMoodle環境の構築を依頼 。 Moodle本体の設計・構築は イーラーニング社とCITEで行い、運用後のSaaSでの管理や保守は同社にお願いすることとなりました。新しく構築したMoodleは昨年度にテスト運用を行い、今年度から全学で稼働しています。現在はおもに学内の講義、学外へのオンデマンド講義の提供、社会人向けのリスキリング教育、人事評価などの業務で使用しています。

--教育管理システムMoodle LMSにはどのような特徴があるのでしょうか。
桑原氏:Moodle LMSの特徴としてはまず、世界標準LMSであることがあげられます。Moodle HQの統計によると、Moodle LMSは2023年現在でサイト数17万以上、ユーザー数4億以上、242の国・地域で利用されている、まさに世界最大規模の教育プラットフォームといえます。ヨーロッパや日本の大学ではシェアNo.1を誇り、世界中のグローバル企業や、政府機関その他の組織にも広く導入されています。また、オープンソースソフトウェア(OSS)としてソースコードが公開されているので、常に進化を続け、脆弱性にも迅速な対応が可能です。
さらに、当社がSaaS提供するMoodle LMSはクラウド型ですので、組織内でサーバーやネットワークの設計・構築・維持管理をする必要がありません。サーバーの維持管理等の煩雑な業務から先生方を解放すると同時に、デバイスやシステム等に係るコストや運用コストの削減も実現できます。
その他、柔軟性・拡張性が高く、個々のニーズに合わせて柔軟にカスタマイズすることができることや、シンプルなインターフェイスや簡単な操作性などもMoodle LMSが世界中の多くの大学・組織で導入されている理由のひとつとなっています。
--Moodle新構築にあたり、イーラーニング社を選んだ決め手はどこにあったのでしょうか。
原田氏:最大の決め手は、多くの大学や組織等に実際にMoodleを導入・運用している実績です。加えて、Moodleに関するスキルを十分に備えている企業であり、本学が希望する形のサービスを提供していただけるのではないかという思いもありました。Moodle公式認定プレミアムパートナーであること、MEQ(Moodle Educator Qualification:Moodle 教育者認定プログラム)の資格も備えていることもポイントでした。
SaaS管理委託で作業コスト減
--以前もMoodleを活用されていたとのことでしたが、以前と比較してどういったところが改善しましたか。
原田氏:おもな改善点としては、外部機関のユーザーをMoodleへ登録するための手続きが簡略化したこと、Moodleの管理作業が非常に楽になったこと、イーラーニング社が提供しているELVideoプラグインを導入したことで、オンデマンド講義で提供している動画の視聴状況を確認できるようになったこと、LearnerScriptプラグインの導入で学習分析ができるようになったことなどがあります。
まず手続きの簡略化ですが、本学では、eHELP(eラーニング総合活用高等教育連携事業)を通して、本学の講義を高等専門学校などの外部機関にMoodleで提供しています。その際、以前は、学外の学生には、いったん専用のユーザー管理システムに登録してもらい、その登録情報と本学のアカウントを紐づけることで本学Moodleの使用が可能となっていました。
今回構築したMoodleでは、学術認証フェデレーションと本学LMSを連携させています。ログインできる機関をeHELP参加機関に限定することで、eHELP参加機関の学生であればMoodleへのユーザー登録をユーザー自身で行えるようになりました。学外学生専用のユーザー管理システムが不要になったことで学外ユーザー管理の煩雑さが解消され、eHELPの運用が非常に楽になりました。
また、イーラーニング社にSaaS管理を委託しているので、Moodleのバージョンアップなどのサーバー周りの作業がなくなったことも、負担軽減につながっています。
桑原氏:弊社では、システム運用後は2年毎にでるLTS(long-term support release)へのバージョンアップ作業を行っており、安定稼働を維持するための運用監視も行っています。また、随時セキュリティパッチの更新も実施しています。こうした点が豊橋技術科学大学の負担軽減につながっているのは、大変光栄に思います。

学生の動画視聴状況を把握し学習を保証するELVideo
--ELVideoプラグインとはどういったものなのでしょうか。
桑原氏:ELVideoは弊社が開発した動画配信のプラグインです。Moodleの標準機能でも動画を掲載できますが、ELVideoをご利用いただいた場合、ビデオをCDN(コンテンツ配信ネットワーク:Amazon CloudFront)に格納し、Moodleに負荷をかけずに多人数で同時にビデオ再生することが可能になります。このほか、ELVideoでは以下の点を実現できます。
・初回視聴時の倍速再生禁止、早送り禁止、シークバーの使用禁止。初回視聴時に1倍速で最初から最後まで視聴することを担保
・時間制限のあるURLが自動生成されるので、悪意のある動画共有制限
・動画のダウンロード制限
・字幕の設定
・字幕の自動翻訳
これらの特徴から、学生の動画視聴を担保する必要のある教育現場でご好評をいただいています。
原田氏:教員側からは、オンデマンド授業を、学生がきちんと視聴しているのか確認したいという要望があります。ELVideoを利用すれば、視聴履歴の確認も可能です。学生がオンデマンドでもきちんと学べるシステムがほしかったので、必ず一度は動画を見ないといけない状況を設定できることも好都合でした。教員だけでなく、教務課からも「就職関連の動画をMoodleを通して見てもらっているが、視聴履歴がとれるのがありがたい」という声があがっています。
また、以前のMoodleでは動画配信に容量制限があり、動画のアップロードを制限せざるを得なかったのですが、ELVideoではMoodleに負荷をかけずに学生が動画を同時視聴できるので、この点も改善されました。

学習分析を行いドロップアウト率減に対応
--刷新したMoodleでは学習分析を行っているそうですね。
原田氏:はい。本学では、第四期中期目標の中で、「教育DX」の取組みのひとつとして学習分析を行うことになっています。IT活用教育センターでは、学習分析用のプラグインであるLearnerScriptをMoodleに導入し、一部の科目で学習分析の試行を開始しました。その目的は、科目の履修放棄者や不合格者を減らす、すなわちドロップアウト率を下げることです。
実はこれまでの蓄積から、Moodleの中で学生が行う活動、たとえばファイルを提出したり動画を視聴したりといった活動の完了が少ない者が、単位を落としたり、ドロップアウトしたりする傾向が高いことが見えてきました。そこで、活動完了の多い順に学生をランキングし、各自にランキング情報を提供することを開始しました。ランキング情報の提供は、LearnerScriptのコードを独自に拡張することで実現しています。
ランキング情報を提供するねらいは、ランキングを通して他の学生の学習活動を意識させ、下位にいる学生にコース内での活動を活発にしてもらうことにあります。オンデマンドの授業では学生同士のつながりが薄くなり、他の学生の状況が見えません。そこを可視化し、「今あなたはランキング何位ですよ」と毎週通知することで競争的な環境を与え、ランキングの下位の学生が、「みんな頑張っているから、自分ももっと勉強しないと」と思ってくれることに期待しているのです。
最終的には、各学生が「ランキング確認」と「学習行動の自律的改善」の間のループを回すことにより、ランキングを上昇させる「螺旋型学習改善」を実現することを目指しています。こうした取組みはまだ他大学ではあまり行われていないので、Moodleの新しい活用事例になるのではないかと考えています。

Moodleの横展開で他校との授業共有も可能に
--Moodle LMSの活用で実現したいことなど、展望を教えてください。
原田氏:今後は、Moodleでの学習分析の事例を増やし、その有効性を確認することで、学習分析を全学的に展開して行くことを考えています。今後は学内アンケートも行い、Moodleの評価や要望など意見を吸いあげたいと考えています。
また、本学では現在、別のLMSとMoodleを併用している形ですが、運用にかかる費用の面ではMoodleが優れているので、この点もありがたく感じています。何より、Moodle独自の機能などのアップデートなどをイーラーニング社にお任せできるので、非常に助かっています。
桑原氏:弊社としてはMoodle LMSの取組みを、大学様に向けて今後もどんどん広げていきます。
Moodleは使えるようになればなるほど、オープンソースでさまざまな情報を共有できるようになるものです。たとえばある大学で作成したITプログラミングコースを一般の研修向けに販売するとか、大学同士で授業を提供し合うなどの横展開も可能になります。これはオープンソースでいろいろなことができる、Moodleならではの特徴です。これもMoodleの強みだと思っていますので、今後はそういったあたりに力を入れていきたいと考えています。
豊橋技術科学大学ではAWSを活用したMoodle LMSの導入により、教育管理システムの運用効率化や教育のデジタル化、オンデマンド授業の視聴状況確認、学習状況分析によるドロップアウト防止対応など、さまざまな効果と新しい取組みがあらわれていることがみてとれた。システムの管理やアップデートもイーラーニング社に委任できる状況になったことから、まさに新システムの機能やメリットのみをうまく享受して、教育効果の向上に役立てているケースといえよう。こうしたプロがサポートするMoodle LMSの導入は今後も全国の教育機関に広がっていき、各地の教育デジタル化を下支えしていくことを期待したい。
【協賛企画】アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
イーラーニング社は、世界中で利用されているオープンソース学習管理システム「Moodle」の 日本で唯一の公式認定プレミアムパートナー として、高等教育機関における教育DXを支援している。同社が提供するMoodle環境は、すべてアマゾン ウェブ サービス(AWS)上で構築・運用されており、高い可用性・拡張性・セキュリティを備えた学習基盤を全国の大学・教育機関へ提供している。さらに、動画配信や大規模アクセスへの対応として Amazon CloudFront(CDN)を活用し、高速かつ安定したコンテンツ配信を実現。 ELVideoなどの拡張機能と組み合わせることで、学習行動の可視化やデータ利活用を推進し、教育現場のDXを強力に支えている。Moodleの柔軟性とAWSのスケーラビリティを組み合わせることで、持続的かつ信頼性の高い教育インフラの提供を継続している。











