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日本人が抱える課題とは…「費用対効果の高い英語教育」を考える

  「キリロムグローバルフォーラム」第9回が2022年4月29日から7日間にわたり無料オンラインで配信された。今回の記事では、「費用対効果の高い英語教育2」と題されたセミナーをレポートする。

事例 グローバル敎育
セッションに登壇した正頭氏(左上)、水野氏(右上)、梶原氏(右下)、モデレーターの奥本氏(左下)
  • セッションに登壇した正頭氏(左上)、水野氏(右上)、梶原氏(右下)、モデレーターの奥本氏(左下)
 日本がグローバルで勝つためのさまざまな課題について、関心のある人々が共に学び、国境を越えて繋がり、グローバルで成功する日本人・日本企業を増やすことを目的としたカンファレンス「キリロムグローバルフォーラム(KGF)」。第9回目となる「KGF2022」が2022年4月29日から7日間にわたり開催された。

 英語に関してコンプレックスを抱えている日本人は珍しくない。少なくとも中高6年間もの間、学校で勉強してきたにも関わらず、「英語ができる」と自信をもって言える大人が日本にはなぜ少ないのか。世界のグローバル化に伴い、英語ができるようになったほうが良いのではという漠然とした想いを抱え、自身はもちろん、子供にも高い費用をかけて英語を学習させる人は多いにも関わらず、英語に対する苦手意識が依然として高いのはなぜなのか。

 スピーカーにGlobal Teacher Prize Top10に選ばれた立命館小学校 教諭の正頭英和氏、オンライン英会話で高いシェアを誇るQQ English 締役COOの梶原純氏、Primus Edge代表取締役であり、情報経営イノベーション専門職大学(iU)特任教授の水野稚氏の3名を迎え、「費用対効果の高い英語教育」という視点でセッションが行われた。モデレーターはイクリプス 代表取締役 奥本水穂氏が務めた。

セッションに登壇した正頭氏(左上)、水野氏(右上)、梶原氏(右下)、モデレーターの奥本氏(左下)
セッションに登壇した正頭氏(左上)、水野氏(右上)、梶原氏(右下)、モデレーターの奥本氏(左下)

「楽しい」が恥ずかしさを超える



 幼少期の習い事ランキングで「英語・英会話」の人気は高く、必ずTOP5に入るほどの人気ぶりだ。それほど、英語を使いこなすことが必要だととらえているにも関わらず、日本人の英語に対する苦手意識は依然として高い。その理由や、どのように学習すれば良いのか、何が英語習得の近道になるのか。つまり「費用対効果の高い英語学習法」とはどのような方法か。

 この問いについて考えるにあたり、正頭氏は「費用対効果が高い」とは、コストを下げるという意味ではなく、効果が高いことだという前提を示した。「授業の効果最大化を考えることが、結果的にはトータルで考えるとコストを下げることにつながり、これこそが費用対効果の高い英語学習と言える。英語を学ぶことで見える文化や世界といった部分まで価値として考えられるかどうかが重要だ」という正頭氏の意見に対し、梶原氏、水野氏も深く同意した。

 正頭氏は2019年にGlobal Teacher Prizeで世界の教員TOP10に選ばれたという実績をもつ。その教育の真髄は「楽しさ」だと言う。「英語学習に限らず、学習の成果を最大限にするためには、自ら主体的に考え、取り組むことが重要だ。その意味で、プロジェクト型学習(Project Based Learning:PBL)を重視しており、授業ではプログラミング教材として世界で人気No.1だと言われているマインクラフトで授業を展開している

 チームを作り、コミュニケーションは英語に限定したうえで、マインクラフトを使った課題(例:マインクラフトで金閣寺を作る等)を与えると、子供たちは前のめりで取り組む」とマインクラフトをツールとしたPBLに一定の効果があることを紹介した。英語学習、特に会話は、間違っていてもとにかくアウトプットの量が必要だ。アウトプットして初めて、間違いに気付くことができると正頭氏は言う。

 「年齢に関係なく、『英語ができない』という意識の元、アウトプットすることに抵抗がある人は多い。間違えてしまうことの恥ずかしさがあるからだろう。しかし、PBLの場合は目的があるので、『達成したい』『楽しい』『やりたい』という気持ちが、恥ずかしさを超える。恥ずかしさを超えることが、授業の効果を最大にするポイントと言えるだろう」と述べた。

「字幕なしで映画を見る」ため? 英語習得の本来の目的とは



 続いて日本最安値のオンライン英会話と、セブへの留学事業を展開しているQQ English代表の梶原氏は、英語が上達した先にある未来を具体的に思い描くことこそ、必要なのではないかと述べた。

 「実際にQQ Englishを受講している生徒さんに英語学習の目的を聞くと『洋画を字幕なしで観たい』等の声があがるが、おそらくそれは漠然とそうなれば良いと思っているだけだろう。『これからの時代、英語はできたほうが良い』というような漠然とした目的では、効果が低い授業となりがちなのではないか。

 英語を使うことにより、たとえば外資系企業に転職をする、海外でも仕事ができるようになる等、人生の選択肢を広げることができるという価値がある。それを目的にすることで、どの程度までできなければならないのかというゴールを具体的に理解し、何を学んだほうが良いのか把握することができる。

 また、大きく人生の選択肢を広げることができるレベルまで到達したいと考えたときに、オンライン英会話では物足りないはずだ。そのためにも、セブに行って、リアルなコミュニケーションを通じて英語の手触り感を獲得することが重要になってくる。欧米に語学留学に行けるだけの資金を持っている人は一握りだ。だからこそ、我々はオンライン英会話とセブへの留学という2つを並行して提供している」と、梶原氏は自身の事業をからめつつ、説明した。

優秀な翻訳ツールがある世界で、英語を学ぶ意味とは



 上記の話の展開を受けて、子供から大人、企業向けまで幅広い層に対し英語教育プログラムを提供しているPrimus Edge代表取締役の水野氏は、英語を単にツールとして扱うだけの英語学習は、今後必要がなくなってくるのではないか、という。

 「英語には、日本語にはない世界観や文化がある。自己主張の仕方の違いも、英語と日本語の文法を比較するだけでわかるくらいだ。世界には多く言語があるにも関わらず、現代は英語が主流のコミュニケーション言語となっているのには、歴史的な背景がある。国によってもその背景は異なるうえに、アメリカ英語、イギリス英語と言うように、表現や発音も異なる。World Englishesという概念のような部分まで理解するのか、単にサバイバル力を上げるためのツールとして英語を習得したいのか。そこまで考えたほうが、より自分に合った習得方法を選ぶことができ、ひいては学習効果の高い勉強ができることにつながるのではないか」と水野氏は指摘した。

 すでに「DeepL(ディープエル)」のようにGoogle翻訳を超えた高精度な翻訳ツールが普及している世界において、英語をツールとして使うだけであれば、英会話の習得は必要のない時代になっていると水野氏は言う。

 「グローバル化する世界において、英語がコミュニケーションの主流になっている背景を理解し、学ぶことで、未来をつくるリーダーとなりうる。そこまでしなければ、むしろ理解はできるけれど心には届かない、ぺらぺらに薄いコミュニケーションになってしまうのではないか。英語を学ぶことで、同時に人間性を培うことができる。この部分が、DeepLがすでにある世界においても英語を学習するメリットだと思う」と水野氏は述べた。

モチベーションが費用対効果に直結する



 ここで、今回のセッション議題である「費用対効果の高い英語学習法」について、正頭氏は「英語を習得すること自体を目的とした英語学習こそがもっともコスパが悪い」と述べた。人間が英語をマスターしようとすると、どのような方法で学習したとしても膨大な時間が必要だ。最低でも2,500時間かかるとも言われる中で、たとえばDeepLを使う場合の英語を学ぶ時間は0時間だとすると、その時点でDeepLに勝てない、と説明。しかし「英語を習得するためのもっともコスパが良い方法はDeepLだと言えるが、英語を学んだ先に見える未来を考えることこそ、費用対効果を上げる方法だ」としたうえで、35年間楽しんで英語学習塾に通い続けている方を例に、「楽しむことこそに価値がある。モチベーションの有無が費用対効果を上げるのではないか」という新しい視点を示した。

 これに対し、水野氏も「極論を言えば、モチベーションがなければ、楽しいかどうかに関係なく辞めてしまう。途中でやめてしまうことほど費用対効果が低いことはないと考えると、モチベーションを維持し続けることはきわめて重要な視点だ。なぜ英語を学びたいのか、友人を作りたいのか、アカデミックな場で通用するような構文を使いこなしたいのか。英語習得のゴールにもグラデーションがあるので、目的を明確にすることがきわめて重要だ」と述べた。

 そのためにも、水野氏の運営するPrimus Edgeでは、日本にある各国の大使館とのディスカッションの時間を作っているという。日本の学生代表として国の代表と話す際に、英語だけでなく何を知っておくべきなのか。将来日本の代表として英語で世界の人々と話すうえで、どのような会話をしたいのか。それらを考える授業を重視している。こういった機会こそが、目的をはっきりさせ、誇りを感じさせ、使命感も相まって英語学習における好循環を生み出す、とした。

学校教育における英語学習の課題とは



 これまでのセッションの中で、英語をただのツールとせずに、目的・目標を明確にすること、さらにその過程では好きなことから学ぶことが重要だとの指摘があった。しかし、このような本質的な授業を受けることができる人は限られている。そこで、公教育で実施される授業の現状と課題について、議論を移した。多くの人が少なくとも中高の6年間、場合によっては小学校から英語教育を学校で施されているはずだ。しかし、なぜ英語への苦手意識が高い人がここまで多いのだろうか。

 モデレーターの奥本氏からの疑問に、水野氏は「年数ではなく、英語の勉強時間で考えると、おそらく1,000時間程度であり、まだまだ足りていないからだ」と指摘する。「言語習得には少なくとも2,500時間必要と言われる中で、半分にも満たない学習時間では習得は難しいだろう。さらに、たとえば日本語は主語無しでも通じるのに対し、英語はまず主語から始まる、というような文法等の要素の壁が大きい」としたうえで「なぜ英語だけ『できない』の代名詞としてやり玉にあがるのか。水泳をやっても泳ぐことができなかったり、国語をやっても作文や感想文に苦労したりするのと同じで、英語にも向き不向きがある。全員がやればできるようになるという話ではない」と疑問を呈した。

英語教員の多くが「英語を話すことができない」と答える不思議



 このテーマについて、正頭氏は「日本における『英語ができる』の基準は、ハードルが高すぎる」と指摘する。「高校や大学を卒業したレベルがあれば、日本の教育を受けて受験を通っている時点でそれなりにできるはずだ。学校で英語を教えている日本人の先生に『英語を話せるか』と聞くと、多くが『話せない』と答える。しかし、そんなわけがない。日本人の謙虚な姿勢は時に美学だが、学習面では『間違ってはいけない』『間違うということは、できないということだ』という思考のせいで悪循環に陥っているように感じる。これらは、教育現場を数多く見ていく中で気付いた、根の深い問題だ」と正頭氏は続けた。

 なぜ、日本人は自らの英語の基準を高く設定するのか。その理由のひとつとして、水野氏は「英語を勉強の科目として扱っているからだ」と指摘し、「正頭氏のマインクラフトを使った授業で、子供たちの『楽しい』『やりたい』が羞恥心の壁を超えたという話があった。英語を勉強ととらえることで『楽しい』ではなく、より高い点、より正しい文法にとらわれしまい、英語の資格取得やテストの点数を基準に考え、高いハードルになっているのではないか。モチベーションを刺激するためにも、やりたい、知りたいという対象を通じて、英語と仲良くなることが重要なのではないか」と述べた。

 これらの内容を踏まえ、最後に梶原氏は視聴者に向けて「費用対効果の高い英語学習法は、自分の好きなことや本来なりたい姿を思い描くことが重要だと思う。自己肯定感を高くすることも重要なのではないか。『私も意外とできているんじゃないか』と自分を信じ、英語を使う機会を楽しむことがポイントになってくるだろう」と結んだ。


《田中真穂》

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