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【ES2020】GIGAスクール構想の先にある教育とは…春日井市の実践事例

 教育イノベーション協議会主催のEdTechグローバルカンファレンスイベント「Edvation x Summit 2020 Online」が2020年11月3日から5日の3日間、オンラインで開催された。初日に行われたプログラム「GIGAスクール構想の先にある教育とは?」のもようをお届けする。

事例 ICT活用
プログラム「GIGAスクール構想の先にある教育とは?」
  • プログラム「GIGAスクール構想の先にある教育とは?」
  • 学習場面のDX~成果物の共同編集~
  • 学習場面のDX~国語科、提案文作成~
  • 学習場面のDX~国語科、提案文作成~
  • 教師がすべきことは
  • 春日井市での教育の情報化のあゆみ
  • これまでの段階的な取組みのおかげ
  • GIGAスクール構想 2020年度の状況
 教育イノベーション協議会主催のEdTechグローバルカンファレンスイベント「Edvation x Summit 2020 Online」が2020年11月3日から5日の3日間、オンラインで開催された。初日の11月3日に行われたプログラム「GIGAスクール構想の先にある教育とは?」のもようをお届けする。

 プログラム「GIGAスクール構想の先にある教育とは?」は、文部科学省のGIGAスクール構想によって導入されるICT環境をいかに活用していくのか、愛知県春日井市立藤山台小学校と同市立高森台中学校の事例を紹介し、東京学芸大学教育学部の高橋純准教授による意見を交えながら考察していく。

G Suite for Educationを活用した実践報告


久川慶貴氏(春日井市立藤山台小学校 教諭)

 春日井市立藤山台小学校では、2020年6月上旬に1人1台情報端末環境が整備され、7月下旬にアカウントを配付、8月下旬にChromebookを配付した。ICT環境の整備により生活をより良い方向に変化させる「デジタルトランスフォーメーション」(DX)が教室のどのような場面で起こっていったのかを紹介する。

土台となる体験



 1人1台環境が整備される以前の2019年度には、土台となる体験として、ホワイトボードを使って共同的に学ぶことを行ってきた。1人1台環境が整備されてからは、Googleのアプリケーションを使って「しりとり」をするなど遊び道具として利用し始めた。手で書いていた振返りは、徐々にキーボード入力に移行していき、調べたいことはすぐにパソコンで調べるといったように、子どもたちはICT環境に慣れていった。

生活場面でのDX



 まずは学校生活の部分からデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていこうと、Google Classroomを開設して、先生は連絡事項や予定を掲載し、児童は各自の家庭学習の計画をカレンダーに書くといった活用をしている。Googleカレンダーは共有ができるため、クラスメイトのカレンダーを見ると時間の使い方の参考になる。学級活動では、2学期の当番活動を考える際、1学期の当番活動はどうだったかというアンケートを児童が作成し、アンケート結果をもとに、児童が話し合いの計画や2学期の計画をまとめたものを先生にメールで送ってくれた。どのように話合いを進めるか、子どもたちはドキュメントのコメント欄を使ってやり取りをした。このように児童が主体となって進めることで、自信をもって自分たちの決めた考え方で学級会を運営することができた

学習場面でのDX



 次に学習場面でのDXを進めていこうと、授業にもGoogle Classroomを取り入れた。教科の学習のClassroomを使い、日付・課題・授業の流れ・振返りを書く場所を示しておくことで、児童はその日の授業がどのように進むのかわかるようになった。自宅でも確認可能なため、保護者もチェックすることができる。授業にClassroomを導入するようになり、児童が質問してくるようになった。また、児童同士で振返りを共有したり、成果物の共同編集を行ったりすることで、しっかり議論ができるようになったという。

 国語の提案文を作るという単元では、Googleのホワイトボードアプリ「Jamboard(ジャムボード)」を使い、3人のグループで提案文を作成するという活動を行った。グループのうちの1人がうまく書けると、残りの2人もそれを参考に書くので、作文の質が高まっていった。普段は書くのに困ってしまうような児童も、このように進めると自信をもって書けるようになった。デジタルだと児童同士でコメントを入れることや、文章の修正がしやすく、手書きでは時間がかかるようなことも容易にできた。このように成果物を作って評価をし、再構成をする活動が頻繁に行われている。

 授業は、児童同士がつながり、教師同士もクラウド上でつながることができるようになった。クラウドを活用し、学習目標(ゴール)や学習過程(流れ)、学習方法(どのように)、学習内容(何を)、評価(チェック)、フィードバックを共有することで学習全体が見通せるようになり、「児童の学びが加速していく印象を受けた」と久川氏は話す。

1人1台クラウド活用浸透中…スモールステップで地味に地道に


水谷年孝氏(愛知県春日井市立高森台中学校 校長)

 愛知県春日井市は、1999年に教育の情報化に着手し、校務からICT活用を進めてきた。一部の堪能な教師だけで進めるのではなく、全教職員が日常的にICTを活用することを心掛けている。2020年8月31日には、GoogleのChrome OSを搭載したパソコン「Chromebook」が高森台中学校に導入され、約2か月が経過する。ICT活用がここまで浸透できたのは、授業だけにこだわらず、あらゆる場面で活用し、スモールステップで着実に進めてきたことや、実践例などの情報共有といった、これまでの段階的な取組みのおかげだと水谷校長は振り返る。

 現在、特に力を入れようとしているのが、不登校生徒への対応としての活用で、まずは不登校生徒にChromebookを家庭へ持ち帰ってもらおうと考えている。

 各校の実践状況は、Google Chatを使って市内で共有している。その中から良いものを取り出して「活用ガイド」としてまとめ、Google Classroomで市内へ発信している。情報は少しずつ出すというのがポイントだという。

 Chromebookを先行導入している4校を対象に意識調査をしたところ、1人1台Chromebookの授業活用について、導入前に比べてこの2か月で「期待感」は向上し、不安感は少しずつ減ってきている。ICT活用は「ICTをあらゆる場面で日常的に使うところから始まるのではないか」と水谷校長は締めくくった。

GIGAスクール構想実現に向けて


高橋純氏(東京学芸大学 教育学部 准教授)

 ここ10年、学校のICT環境は変わってこなかった。文部科学省が調査した教育用コンピューター1台あたりの児童生徒数を見ると、平成20年(2008年)の7.0人から令和2年(2020年)の4.9台へと向上しているように見えるが、子どもの数が減ったからであり、実際にはコンピューターの実数が200万台程度でずっと推移してきている。東京都を例にあげると、自治体間でICT環境(=経験値)に差がある。この経験値があるかないかは深刻だ、と高橋氏は危惧している。

 文部科学省が調査した児童生徒の総数に対する教育用コンピューター整備率を都道府県別に見ると、最高の佐賀県でも55.2%と2人に1台という状況で、真の1人1台は、ほとんどの教師が未経験だという。

 春日井市が1人1台導入後のわずか2か月でここまで実践できているのは、質より量を確保し、たまにの良い活用よりも毎日少しずつ活用、一部の教師で活用するよりも全教職員で活用、子どもの活用よりも教職員が活用するといった地盤ができていたからだ、と高橋氏は説明する。

 GIGAスクール構想で環境が整備されても、スキルや慣れの不足、制度の未整備、マインド不足により、端末が納入されてから頑張ろうとしている学校は、フタを開けてみてびっくりすることが各地で起こるのではないかと懸念される。ICTがないところからICT活用をしていこうとする地域は、まず「情報のデジタル化」に着手し、その「情報」を共有していき、カレンダーの共有といった「活動」を共有することが重要だという。

 学校でのICT活用は、セキュリティの問題であれもダメこれもダメと言っていたら現場の先生はしらけていってしまうため、現場の先生の創意工夫を周りがどうサポートしていくのかが大事なポイントになる、と高橋氏は助言する。

 GIGAスクール構想による1人1台端末の整備が各地で進められている中、春日井市の実践事例に注目が集まる。
《工藤めぐみ》

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