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宮崎県の高校生と地元企業をつなぐ地域密着型探究学習のプラットフォーム「ひなた探究」とは【株式会社Study Valley】

 教育サービス事業者と地元テレビ局が間に入ることによって、宮崎県内19校の高校生と地元企業24社(霧島酒造株式会社や株式会社スズキ自販宮崎など)をつなぎ、高校生の探究学習をサポートする「ひなた探究」というプロジェクトを紹介します。

事例 ICT活用
「Time Tact」の トップページイメージ
  • 「Time Tact」の トップページイメージ
  • 「Time Tact」上での探究活動イメージ
  • 「Time Tact」上での探究活動の記録イメージ
  • 都城西高校における課題解決の行動計画を立てる授業の様子

ICTツールで地元企業と高校の接点作りを支援

 新しい学習指導要領の下で重視されている「探究学習」。これは生徒が自ら問いを立て、正解が用意されていない課題について情報収集し、意見を出し合い、解決へ導く力を育むプロジェクト型学習で、高校では2022年度から「総合的な探究の時間」が科目となっています。各地では地域の課題に根差した探究学習を推進しようとしているものの、学校だけで地元に連携先を見つけて授業を組み立てるのは簡単ではなく、進め方に戸惑うことも珍しくありません。また、地元企業の立場からしても、自社について地域の子どもたちにもっと知ってもらいたい気持ちがあっても、地域の子どもとの接点を持つ機会がありませんでした。そこで今、それらの課題解決策の1つとして注目されるのが、学校と地元企業をつなぐ第三者の支援です。
 今回は、教育サービス事業者と地元テレビ局が間に入ることによって、宮崎県内19校の高校生と地元企業24社(霧島酒造株式会社や株式会社スズキ自販宮崎など)をつなぎ、高校生の探究学習をサポートする「ひなた探究」というプロジェクトを紹介します。

企業と学校をつなぎ共に学びを深める「ひなた探究」とは

 「ひなた探究」は、株式会社Study Valley(EdTechサービス企業)と株式会社テレビ宮崎が2022年度から開始したプロジェクトです。
 宮崎県は、神話の時代から「日向(ひなた)」と称されてきた場所です。その宮崎県を拠点に事業を行っている企業を教育コンテンツ化し、Study Valleyが提供する学習・業務支援プラットフォーム「Time Tact」に掲載します。高校生はそこで、企業の事業内容や企業が日々向き合っているさまざまな課題を知り、自分の探究テーマを選定し、課題解決に取り組みます。生徒側にとっては、身の回りの大人や企業が実際に抱えている課題について考えることで、身近な課題として主体性を持って探究することができます。一方、企業側にとっては、社名はもちろん、自社の取組を地元の子どもたちにPRできる機会となっています。

「Time Tact」の トップページイメージ 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

 「ひなた探究」を始めた目的について、Study Valley社長の田中悠樹氏は次のように述べます。
 「日本の学生は社会を知る機会も、自分が何に関心があるのか考える機会も少なく、何をやりたいのか初めて向き合うのが就職活動のタイミングとなっていますが、それでは遅いと感じていました。もう少し早く社会を知ることができれば、自分の目標が見つかり、勉強への向き合い方も変わるのではないか。そんな思いからツールとして開発したのが『Time Tact』です」
 先述のとおり、「Time Tact」は学校と地元企業をつなぐ役割を担っています。「Time Tact」上には、ひなた探究に参加する地元企業の課題や取組が探究テーマとしてコンテンツ化され、生徒たちはそれぞれ「やってみたい」「面白そう」と思うものを見つけて取り組むことができます。例えば、テレビ宮崎の「身近なところから流行を生み出せ!隣の人を熱狂させられるコンテンツ制作とは?」、宮崎電子機器の「果たして全てデジタル化にするのが正解なのか・・・?!」などのコンテンツを選ぶことができます。
 「探究学習は、地元企業が今直面しているような身近な課題だからこそ、生徒たちは夢中になれ、自然と学びが深まっていくのだと思います。ですからこのプラットフォーム上では、通り一遍の企業概要にとどまらず、その企業が社会のどんな課題に向き合っているのか、それに対して実際にどんな取組をしているのかといった、事業の本質に迫る深いところまで踏み込んでいます」(田中氏)
 「Time Tact」という名前には、「タイムリーにコンタクトできる」という意味が込められているそうです。
 「教科の学習とは違い、探究学習は各生徒の進捗を点数で測ることができません。教員が様子を見ながら介入・評価する必要があるものの、進捗は生徒によってバラバラなので、一人ひとりに伴走するのは困難です。そこでこのツールを使って、各生徒の進捗をタイムリーに管理できるようにしたのです」(田中氏)

「Time Tact」上での探究活動イメージ 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

テレビ宮崎がプラットフォームに参画した理由とは?

 一方、テレビ宮崎が担うのは、地元企業に参加を広く呼びかけるとともに、地域全体へ探究学習に対する気運を盛り上げるという役割です。
 テレビ宮崎新規事業開発部・谷之木志章氏は、地元テレビ局として地域課題を解決する新規事業を開発しようとしていた中で、次のような課題を感じていたと言います。
 「宮崎は出生率こそ高いものの、若者が大学進学時に流出して帰ってこない。若い世代が将来も宮崎で暮らそうと思うには、早い段階で宮崎の企業がどんなことをしているのか、そこで働いている人たちについて知ってもらうことが欠かせないな、と考えました。それに、人口が多い大都市と比べると、さまざまな教育機会へのアクセスに格差があることも否めません。だからこそ、地域が一体となって子どもを育てていく環境を作っていく必要がある。そこで、この「ひなた探究」をやれば、これらの問題を解決できるのではないかと思ったのです」
 テレビ宮崎では、今、これまでの教育が変わりつつあること、そして、新たに始まった探究学習とはどんなことをするのか、それにはどんな効果が期待できるのかといったことを地域の人々に知ってもらうために、CMやニュース番組、イベントなどを通して広く発信しています。
 「探究学習に地元企業が参加することで、仮に進学で県外に出ることがあっても、『また宮崎で暮らしたい』『将来は宮崎に関わりたい』と思う若者を地域一体となって育てることができる。こうした人材育成は学校だけに任せるのではなく、地域全体の問題として、皆が教育に携わっていくのだという雰囲気をつくっていく必要があると思うのです」(谷之木氏)

「ひなた探究」に参画する学校のメリット

 「ひなた探究」は、学校にとっても大きなメリットがあります。新しい学習指導要領では、地域課題の解決に向けた探究的な学びが推奨されていますが、実際には課題選定から教材作成、そして連携先の選定から生徒ひとりのフォローアップに至るまで、準備にも運用にも教員には大きな負担がかかります。その点「Time Tact」は、生徒も教員もプラットフォームにアクセスするだけで探究学習が効率的に進められ、教員の負担を大きく軽減することができるのです。
 「ひなた探究」に参加した県立小林高等学校の塚田一久教諭は、教員側の変化として、「生徒の課題に対してStudy Valleyや企業の担当者から生徒一人ずつ丁寧にフィードバックをもらえるため、教職員の負担が減る。各生徒の「結果」だけでなく、「過程」もTime Tactに蓄積されているので、背景含め把握できるため丁寧なフィードバックがもらえることが魅力的」というメリットを挙げながらも、「だからといって任せっぱなしにせず、教員自らもそのフィードバックを見ることで、探究学習に対する意識が少しずつ高まっている」と言います。

「Time Tact」上での探究活動の記録イメージ 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

 また、生徒たちには、「地元企業の課題を『自分ごと』として捉え、問題解決に取り組むようになった」「元々はおとなしく、引っ込み思案なタイプでも、フィードバックのコメントを読み、自分の探究をさらに深めようと、周りの大人を巻き込んで動く生徒が増えてきた」といった変化が見られるそうです。
 県立都城西高等学校(以下、都城西高校)の岩切和美指導教諭も、「目先の課題解決ではなく、中長期的視点で問題解決をしようとする力が育まれている」「自分たちで気づき、行動に移すなど、主体的に物事を捉えることができるようになってきている」と語り、いずれも「ひなた探究」を通じて生徒には主体性や行動力などが身につき、大きく成長している様子がうかがえます。
 「「ひなた探究」をやっていると、教員も生徒も『こんな業界があるとは知らなかった』という発見が多いです。皆と同じ課題を与えられるのではなく、多くの課題の選択肢の中から、自分が興味関心を持つ課題を選べることは、この探究学習の大きな強みです。また、地元だからこそ、企業の方が『高校生のためなら』と気軽に来校してくださるなど、企業と生徒間の協働が実現しやすいことで、親や教員以外の大人とのコミュニケーションも生まれ、視野も広がります。そこを起点に『こういう仕事をしたいから英語を頑張ろう』というような教科の学びにつながる効果も期待できるのではないでしょうか」(田中氏)

都城西高校における課題解決の行動計画を立てる授業の様子 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

地元企業にもたらされる意外な恩恵とは

 恩恵を受けているのは、学校や高校生だけではありません。「ひなた探究」に参画する地元企業にも確かな恩恵があります。
 ひとつは、これまで接点がなかった地元の高校生と関わる機会が生まれたこと。社名や事業内容にとどまらず、社会で果たしている役割やどんな大人が働いているかなど、自社について深く高校生に知ってもらうことができます。
 そしてもうひとつは、従業員のエンゲージメントが向上すること。学校で使われている教材に自社の取組が取り上げられることや、テレビ宮崎のCMで「ひなた探究」が紹介され、協力企業として社名が世に出ることなどが、働く人々の喜びや自尊心向上につながり、「もっと役に立ちたい」「自社の事業を通じて社会に貢献していきたい」といった思いを掻き立てるきっかけになっているのです。
 谷之木氏は、「いちばんの課題は、探究学習が世の中でまだ十分認知されていないこと」と考えており、「地元企業にとって人材育成や獲得のためには、UターンやIターンなどを狙ったキャリア系のイベントを実施すべきというイメージが強くあります。地元企業には教育と連携して探究学習を盛り上げていくことがいずれ、地元宮崎のための人材育成につながっていくことを理解してもらい、一緒に探究学習を盛り上げていきたい」と語ります。
 「地元テレビ局としての発信力を活かし、協力してくれる企業を今後も増やしていきたいですね」(谷之木氏)

探究学習の周知を進めてさらに他地域へ広く展開も

 「ひなた探究」は2022年度にスタートしたばかりですが、宮崎県による実証の結果、参加した生徒・企業からは「満足度10段階中8.55」という高い評価を獲得しました。この取組が、宮崎県をはじめとして、各地のテレビ局が協力し、広がっています。例えば「とびうめ探究」(福岡)、「ハイサイ探究(沖縄)」「こじゃんと探究(高知)」など、他の地域での展開も進められ、注目度は今後一層高まっていくことでしょう。

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※この記事は、令和5年度「学びと社会の連携促進事業「未来の教室」(学びの場)創出事業」で作成した、「未来の教室」通信を全文転載しているものです。
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《未来の教室(経済産業省)》

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