今回の構想について鴻巣市は、GIGAスクール構想が打ち出される以前の2018年より着想していたと説明。新しい時代を生きる鴻巣の子どもたちのためには、学校のICT環境強化は必須であるとし2019年9月に「鴻巣市学校教育情報化推進計画」を策定している。
今回の取組みのポイントは以下の3点。
先端技術を活用したICT環境整備
都内の某私立大学と提携することで、日本全国の大学・研究機関などの学術情報基盤として国立情報学研究所(NII)が構築・運用している情報通信ネットワークの「SINET」に直結する、Microsoft Azureを活用した強固なセキュリティ基盤を実現。これは全国初の取組みであり、今までは市役所や学校においていたサーバー群を、堅牢なセキュリティのもとですべてクラウド環境へ移行させ、教育ICT基盤のフルクラウド化を実現する。
学習形態の変革
電子ドリル教材や教材コンテンツを充実させ、効率的かつ公正に個別最適化された学びを実現。このために、2020年度中に児童・生徒1人1台環境を整備(児童・生徒用8,509台、教職員用650台)する。端末は児童・生徒用が「Dell Latitude3190 Education 2-in-1」、教職員用が「Surface Pro 7」。ほか、各学校の普通教室には65型の電子黒板を常設し、プロジェクタや教材提示装置などの機器の配備も進めるという。
子どもと向き合う時間の創出
全教職員にセキュリティの高いテレワーク環境を整備し、ワークライフバランスの向上をはかる。具体的には、成績処理、文書管理、出勤簿や勤怠管理などの校務の完全電子化と、これまで職場へ出向かなければ処理・決済のできなかった内容を高いセキュリティを確保することでいつでもどこでも行えるようにして業務の効率化を図り、教職員の負担軽減へと繋げる。セキュリティを担保した通信環境の整備として、教職員には閉域網アクセスの可能なSIMを搭載したポケットWi-Fiを貸与。校務の効率化によって児童・生徒と向き合う時間のみならず、教職員が自身の子どもと向き合う時間も創出できると鴻巣市では期待。この教職員の働き方改革へとつながる取組みは県内初の試みだという。
これらにより教職員は、服務管理や児童生徒情報の管理のみならず、教材作成や授業準備、教育委員会からの照会や回答などの事務的な作業が効率化されるほか、会議・研修・各種研究会のオンライン化が促進することも想定されていることから、業務負担の軽減が進むと鴻巣市では見込んでいる。
鴻巣市市長の原口和久氏は、教育ICT環境の刷新後の教育の姿として、「鴻巣市では、校内外でICT機器を日常的に活用する環境を整備し、『子どもたちがICT機器を文房具のように自由に使える』姿を目指す」と話した。
鴻巣市教育委員会教育部部長の斎藤隆志氏は会見後に、「今回の会見で発表した内容は、今の学校教育の現場で最大限利用できることを考えたICT環境整備ということになります。現在、インターネットの接続環境にない市内の児童・生徒の家庭の割合は、全体の約4%であるということが市の実施した調査からわかっています。そのため現段階では、児童・生徒はオフライン環境下での自宅学習という利用シーンを想定しています。とはいえ、新型コロナ感染症はいつ収束するのか先が見えない現状にありますので、再び起こるかもしれない休校措置などの今後の対応のことも念頭に置きつつ、いずれは先生と児童・生徒の双方向型の授業の実施なども、教育委員会としては考えていかなければならないと思っています。ですので、今回の記者会見の発表の内容はまずは第1段階。児童・生徒の家庭の通信環境の整備については、文部科学省の助成などを考慮しながら解決してくべき次の課題として捉えています」と語った。
また、鴻巣市教育委員会教育長の武藤宣夫氏は「(児童・生徒の成績情報や個人情報を含む)教育ICT基盤のクラウドへの移行には、セキュリティの心配があるという声も確かにあります。しかしすべてを完全に整えてから実施するとなると時間ばかりが過ぎてしまいます。ですから、今できること・考えられる中での最大限の対策をしながら、徐々にブラッシュアップしたいと考えています。そうした中で教職員の皆さんの働き方改革につなげたい。また今後の社会を考えたとき、子どもたちは、まさに文房具のような感覚でICT機器を扱えるようでないとならないと考えています。今回はそのための初めの一歩。スクールサポーター制度も導入し、先生以外の大人にサポートしてもらいながら、子どもたちにはまず機器の操作に慣れてもらうことが大事だと考えています」と語ってくれた。
変わりゆく社会の中の今回の鴻巣市の取組みは、教職員の働き方改革にも踏み込む内容であることが最大の特徴といえる。今後どのように歩みを進めていくのか、注視していきたい。