会見にはさいたま市教育委員会教育長の細田眞由美氏と、ビズリーチ代表取締役社長の多田洋祐氏の2名が登壇。さいたま市立の168校の小中学校などにおけるGIGAスクール構想の早期実現を目指し、推進の中核となる人材を副業・兼業にて請け負う教育DX人材をビズリーチが仲介する形で募集するとした。
会見ではまず細田氏が登壇。2019年12月4日に報道されたOECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)の結果と、12月19日に発表された文部科学省および総務省による「GIGAスクール構想」について取り上げ、現在の日本の子どもたちのICT活用状況と学びの現状について問題提起。さいたま市が2019年度よりICTを活用した学びの改革に着手し、アクティブラーニングの推進へと進めていたものが、こうした国の舵切りによって後押しされたと述べた。
しかしながらその後の新型コロナ感染防止策として全国の学校が臨時休校となり、子どもたちの学びが止まることとなり事態は一時膠着。そのような中でも教員・学校・教育委員会が一体となり、プリント配布・課題提出・子どもの心のケアの一環としての家庭訪問などのアナログ的な対処から、徐々にオンラインによる対応を開始した。
5月には、168校約6,000人の教職員が作成したデジタルコンテンツ「スタディ・エッセンス」を用いたオンライン学習など、市独自の方法で子どもたちの学びを支えてきたという。とはいえ、デジタルコンテンツを使った学びに子どもたち自身が慣れていないこともあり、従来の授業をオンラインで配信するにとどまったことは、オンライン授業で見えてきた課題であるとした。
このほか、休校で見えてきた教育現場ICT化促進の課題は、家庭のIT環境は差が大きいということ。市立の小中学校などに通う児童生徒は約10万3,000人いるが、その保護者を対象に調査を行ったところ、スマートフォンを含めた情報端末(デジタルデバイス)を子ども自身が所有していたのは全体の35%。保護者が保有しているスマ―トフォンを活用しても95%といい、5%にあたる約3,500家庭はデジタルデバイスのない状況だったという。
さいたま市ではこうした状況を打破すべく、市立の学校に通う子どもたちが1人1台端末を所持できるよう、タブレット端末約10万台を2020年度中に導入することを決定。当初2023年度までに計画的に準備を進める予定だったものを前倒しし、今年度の補正予算として計上済みだという。
なお、2020年5月25日にさいたま市の保護者向けに一斉メールにて、細田氏の名前で家庭のインターネット環境整備のお願いも流しているが、そこにも書かれていたとおり、家庭学習時の利用はWi-Fi環境下で用いることを想定しており、端末はWi-Fi対応端末を導入予定で業者も採択済みである。経済的事情などでWi-Fi導入が困難な家庭への支援策としては、国が打ち出しているLTE通信環境(モバイルルータ)の整備支援策をあげ、それを用いた支援をするとの回答を得た。
細田氏はこうした状況も踏まえつつ、「GIGAスクール構想によって、単に学校の中に情報端末が大量に導入されるだけではない。教育のデジタルトランスフォーメーションを進めていかなければならず、そのためにはITのスペシャリストに協力をお願いしなければ課題は解決できない」とした。とはいえDX人材は、社会全体で需要が多く、採用が難しい現状にある。年収が高い人材をヘッドハンティングするのは予算的にも難しいため、兼業・副業モデルで採用できる可能性のあるビズリーチと協業し、公募の実施に踏み切ったという。
今回は以下の4名のスペシャリストの採用を検討している。
GIGAスクール・アドバイザー(プロジェクト・マネージャー)
さいたま市のGIGAスクール構想の実現に向けた全体像設計やIT戦略を策定し、施策実行に関する支援やプロジェクト管理、課題や進捗の可視化についての助言をする人材。教育ICTインフラアドバイザー
端末・クラウド・サーバー・ネットワーク運用などに関する知識を生かした業務。学校内外の通信環境や端末の通信環境に関するアドバイスを行う。
セキュリティ・アドバイザー
情報セキュリティポリシー策定支援、学校内システムセキュリティ構築支援、機密情報、個人情報の管理規定の策定支援と運用支援などを行う人材。
デジタル&オンライン教育コンテンツアドバイザー
オンライン分野において質の高い学習コンテンツや魅力ある学習コンテンツづくりに関する知識を生かした業務で、新しい学習・授業の在り方を模索し作り上げていくパートナー的な人材。デジタル教科書などへの対応も行う。
これら4名の人材は採用後、教育委員会とともに「GIGAスクール構想プロジェクトチーム」を結成し、教育現場の管理職、情報化推進教員への意図的・計画的な研修を実施し、「GIGAスクールさいたまモデル」を推進する予定だという。そして各学校の教育DXを推進していくため、エバンジェリストの育成も目指す。
そしてGIGAスクール構想とSTEAM教育にサッカーのまちさいたま市らしくSports(スポーツ)を加えた「STEAMS教育」を推進し、子どもたちの、実社会にある課題と向き合い、新しい価値を生み出すことができる思考力を育成したいとした。
一方ビズリーチの多田氏は、ビズリーチ会員に行った「副業・兼業における意識」調査で、約8割が「副業・兼業を行いたい」と回答したという調査結果をあげた。また、64%が「教育現場での副業・兼業に興味がある」と回答しているという。そして、「今の子どもたちは将来のプロ人材。だからこそ現在のプロ人材に育ててもらいたい」と、教育委員会とITスペシャリストとのタッグに期待を寄せた。
また、ビズリーチが仲介となり、副業・兼業で教育に貢献したいプロ人材と、さいたま市をはじめとするICT教育改革に取り組む自治体・教育委員会をマッチングする、「教育DX×副業・兼業モデル」を約10か所の自治体・教育委員会へ無償提供する考えであると発表した。
今後のスケジュールとしては、7月8日に公募ページをビズリーチ上に開設、その後8月末までに選考を行い、9月上旬に採用決定、随時就業開始の予定だという。