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【年末年始・先生の事情とホンネ】ICT教育の鍵は安定したネット環境、現場の工夫と期待

 GIGAスクール構想をきっかけに、学校現場のICT活用は、急速な進化を遂げている。リシードが実施した「インターネット回線に関するアンケート」の結果を、現役小学校教諭の松下隼司先生に見てもらい、感想を聞いた。

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  • GIGAスクール構想開始当時(2019~2020年ごろ)と比べて、学校内のインターネット環境は変わりましたか?
  • 普通教室のインターネット環境の満足度を教えてください。
  • 体育館(講堂)でインターネットは使えますか?
  • 校庭でインターネットは使えますか?
  • 端末にログインしてインターネットを使えるようになるまでにかかる時間はだいたいどれくらいですか?
  • 児童生徒用の端末で、YouTubeは視聴できますか?
  • 授業中、インターネットが遅いと感じることがありますか?

 GIGAスクール構想をきっかけに、学校現場のICT活用は、急速な進化を遂げている。端末の整備は早い段階で進んだものの、インターネット環境の整備は十分とは言えず、課題が残ってる学校も少なくない。インターネット環境は学びの質を左右する重要なインフラと言えるが、現場では「どのくらいの速度があれば十分なのか」「自校の回線速度は本当に足りているのか」といった疑問を抱える先生も少なくないだろう。

 リシードは2025年12月1日~17日の期間、「学校のインターネット環境に関するアンケート」を実施した。有効回答数は20件。数字だけでは見えない現場のリアルを知るために、リシード連載『先生の事情とホンネ』の著者であり、現役小学校教諭の松下隼司先生に、アンケート結果について、現場目線で感じることについて記事を執筆いただいた。

授業を阻む通信遅延、現場でできることは?

 2025年12月に実施された、現役教員20名によるアンケート結果を拝見しました。現場の「あるある」が詰まったこの結果に、自治体への感謝と、授業を成立させるための現実的な目線を交えて分析させていただきます。

1.自治体のみなさん、劇的な環境改善をありがとうございます

 まずは何より、ここ数年での急速なインフラ整備に心から感謝します。アンケートでは、20人中14人の先生が以前より「良くなった(非常に良くなった・やや良くなった)」と回答しています。これだけ短期間で学校にネット環境を整備してくださった自治体の担当者のみなさんの努力は、私たち現場の教員もしっかりと感じています。

2.児童用端末の「YouTubeブロック」は賛成

 今回の結果で注目したいのが、YouTubeの視聴環境です。児童生徒用の端末では、20人中16人の先生が「視聴が制限(一部制限含む)されている」と回答しています。現役教員の目線として、この「ブロック」には賛成です。子供は見たがるのですが…。

 私の自治体でも子供の端末はYouTubeは視聴できない設定になっていてありがたいです。YouTubeを子供の端末では見られないように制限することに賛成する理由は、次の2つです。

 理由1:自由に見られると、どうしても遊びで使う子が出てきてしまいます。
 理由2:授業の課題とは関係のない動画を次々と検索してしまい、学びの集中が削がれてしまうからです。

 「でも授業で動画を見せたいときはどうするの?」という心配も無用ですよね。教員のパソコンを使って、大型モニターに映せば良いだけですから。クラス全体で同じ映像を共有して考えるほうが、指導のねらいもブレません。子供たちの「学びの規律」を守るためのこの設定はありがたいと思います。

3.授業の「黄金の時間」を奪う、通信の遅延問題

 環境が良くなった一方で、授業中のインターネット回線の「安定感」にはまだ課題があります。今回のアンケートでも20人中15人の先生が先生が授業中に「インターネットが遅い(よくある・時々ある)」と感じています。ログインしてからインターネットが使えるようになるまでに「10秒以上かかる」という回答も20人中11人と半数以上を占めています。

 アンケートの自由記述でも「動画をプロジェクターに映そうとするとフリーズする」という切実な声がありました。子供たちの「やりたい!」という意欲を逃さないために、この「待ち時間」がゼロになるような、さらなる回線整備を期待してしまいます。

 課題になっている「ログイン待ち」や「遅延」に対しては、現場で次の工夫ができます。

(1)「つながらないとき」のサブプラン
 ネットが遅いときは、即座に「ノートへの書き込み」や「対話」に切り替えます。通信待ちで私語や手遊びが増えないようにしています。

(2)体育館・校庭での活用
 
現在、校庭の50%で通信が困難です。屋外活動時は「オフライン撮影」を活用し、教室に戻ってからアップロードするようにしています。

(3)スピードテストの励行
 定期的に速度を計測し、「どの時間帯に、どの教室が遅いのか」のデータを蓄積します。自治体へ具体的な改善依頼を出すための根拠になります。


4.「学びの場」の広がりへの期待(体育館・校庭)

 今の課題は、教室以外のネット環境です。今回のアンケートでも、体育館では20人中7人が「使えない」、校庭では20人中10人が「使えない」と回答しています。

 「体育館でダンスの練習を撮影したい」「校庭で植物の観察記録をリアルタイムで送りたい」という先生たちの熱意があります。教室という「点」から、学校全体という「面」への整備が進むと、学びの幅がグッと広がります。

5.現場を悩ませる「フィルター」と「修理代」

 最後に、運用面での切実な声も出ています。20人中13人の先生が「授業で使いたいサイトが規制で見られないことがある」と回答しました。私も英語学習で「マッチッチ」という学習サイトを子どもたちに使わせたいのですが、ブロックされて使用できないです。無料の学習サイトで、広告もないので良いなと思うのですが…。

 授業中に「必要なサイトが見られない」というストレスを減らすため、事前チェックをするようにしています。授業前に、教員が児童用端末でアクセス可否を確認するのです。ただ、時間的に余裕がない場合が多くあります。

 また、素晴らしい教育用Webサイトがあれば、学年・学校で共有して早めに解除申請を出す体制があれば良いなと思います。

 今回のアンケートでは「キーボードが外れただけで修理代5万円」という驚きの回答もありました。修理代(キーボード5万円など)の高騰は深刻な課題です。

 「道具を大切にする心」の育成をするようにします。多額の税金を使って、自治体が用意してくれた「大切な公費」であることを子供たちに繰り返し伝えます。また、端末を壊さないような使い方や持ち運びを具体的に伝えるようにします。物理的な破損を防ぐための行動を教えます。

 自治体のみなさんも、現場の先生たちも、「子供に安心して、かつ存分に使わせたい」と願っています。これからも、不適切なサイトはしっかりブロックしつつ、教育的なサイトへのアクセスや、故障時のサポートがもっとスムーズになれば良いなと思います。

まとめ

 自治体のみなさま、今の土台を作ってくださったことに改めて感謝します。そして私たち教員は、YouTubeの制限など「守るべきところは守る」という姿勢で、子供たちの学びをコントロールしていきたいと思います。

 現場の声と自治体の支援ががっちり噛み合えば、日本のICT教育はもっと楽しく、もっと深くなるはずです。


 アンケート結果から、インターネット環境は着実に良くなっているものの、現場ではまだ課題が残っていることが見えてきた。松下先生の取り組んでいる工夫が、同じように試行錯誤している先生方のヒントになれば心強い。

 ICT教育を支えるのは、安定したインターネット環境である。リシードでは、学校専用の「学校インターネット回線速度計測」を実施している。「うちの学校は大丈夫?」と思ったら、ぜひ試してみていただきたい。

学校インターネット回線速度を計測する

「学校インターネット回線速度計測」サービス(スピードテスト)について

 イードが提供するトレンド情報メディア「RBB TODAY」が、インターネット回線の速度計測サービスとして2002年より20年以上にわたり提供している「RBB SPEED TEST(アールビービー スピードテスト)」を、学校向けに改良して提供しているもの。RBB SPEED TESTは、サーバ環境に左右されない通信速度計測システムとして定評があり、1日あたり3万~5万回の計測が行われている。

《松下隼司》

松下隼司

大阪市公立小学校教諭。令和4年度文部科学大臣優秀教職員表彰受賞。教科書編集委員。絵本「せんせいって」「ぼく、わたしのトリセツ」、教育書「教師のしくじり大全」「むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営」などを執筆。小劇場を中心に10年間、演劇活動を行う。Voicyパーソナリティー。

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