教育業界ニュース

教育のデジタル化に抱く期待…文部科学省 西明夫氏・早川慶氏【オープンバッジ連載6】

 リスキリング、アップスキリングを強力に推し進めるためのテクノロジーとして、「オープンバッジ」を紹介する荒木貴之氏による連載。今回は、文部科学省総合教育政策局 西明夫氏と、同省高等教育局 早川慶氏に、両局の取組みとオープンバッジへの期待を伺った。

教材・サービス 授業
教育のデジタル化に抱く期待…文部科学省 西明夫氏・早川慶氏【オープンバッジ連載6】
  • 教育のデジタル化に抱く期待…文部科学省 西明夫氏・早川慶氏【オープンバッジ連載6】
  • 教育のデジタル化に抱く期待…文部科学省 西明夫氏・早川慶氏【オープンバッジ連載6】
  • 教育のデジタル化に抱く期待…文部科学省 西明夫氏・早川慶氏【オープンバッジ連載6】

 令和5年3月8日、中央教育審議会は、次期教育振興基本計画を文部科学大臣に答申した。公表された教育振興基本計画の中では、人生100年時代を見据え、基本施策「生涯学び、活躍できる環境整備」の柱として、「大学等と産業界の連携等によるリカレント教育の充実」や、「学習履歴の可視化の促進」等が示された。今回は、文部科学省総合教育政策局でリカレント教育・民間教育の振興に関わる西明夫氏と、同省高等教育局で大学教育に関わる早川慶氏に、両局の取組みとともに、オープンバッジへの期待を伺った。

各地で進められるオープンバッジ活用

荒木:静岡県藤枝市は、藤枝市民大学の参加者へオープンバッジを発行しています。今後の社会教育や生涯学習において、オープンバッジに期待されることをお聞かせいただけますか。

総合教育政策局 西氏:生涯学習や社会教育の分野で、自治体単位あるいは個別の事業者単位で、オープンバッジの発行がどんどん進んできていると承知しており、その意義や有用性は高く評価をしています。

 検定の合格証やマラソンの完走証等は、もらえることでモチベーションにつながったり、あるいはそういったものを他の人に見てもらって、評価を受けることが簡単にできるようになったりしますので、個人の学習や取組みへの効果は大きいと思っています。

 文部科学省としても、社会教育分野でのオープンバッジやデジタルバッジの取組みについては、今後、国としてどのような振興の仕方があるのか、今後の展開について検討を進めてまいりたいと考えています。

文部科学省 総合教育政策局 西明夫氏

荒木:大阪教育大学は、教員養成フラッグシップ大学としての取組みの中で、オープンオンライン教員研修の履修者にデジタルバッジを発行し、教育委員会に提出することで研修が認定されると発表しました。

 教員免許更新講習が発展的に解消され、教員研修を校長との対話により進めることが示されていますが、教員研修の履歴の管理等について将来構想があれば教えていただけますか。

総合教育政策局 西氏:文部科学省としては、令和5年度から、教員研修の受講履歴を記録するシステムと教員研修プラットフォームを一体的に構築して、令和6年度から、教職員支援機構においてその仕組みを運用するということを目指しています。

 このうち、教員研修の受講履歴の記録システムでは、教育公務員特例法で制度化された研修履歴の記録を行うということで、研修履歴を活用した対話に基づく受講奨励を推進していこうと考えています。

 教員研修プラットフォームは、質の高い動画コンテンツをワンストップで提供し、研修受講の申込みや承認を行うといった機能をもつことになりますので、これらの研修の受講やその記録等をデジタル技術を活用して行うということは、教員研修を効果的、効率的に進めるための環境整備のひとつであると考えています。

 教員研修の受講証明をデジタルで行う取組みは各地で進められつつあります。これらの取組みについては、非常に興味深く、有効であると思っておりますが、実際にやってみて、その効果や活用方法、あるいは認証の仕組み等については、なお検証が必要だと思っています。

 そのため、文部科学省としてはこのような各地の取組みを含めて、デジタル技術を活用した教員研修の高度化の支援について、令和4年度の補正予算において「教員研修の高度化モデル開発」というものを立て、約10億円の委託事業費を計上していますので、必要に応じてこれらの予算も活用いただきたいと思っています。

荒木:教員研修の履歴管理については、たとえば東京都教育委員会で受講した教員研修が、他の道府県でも認められる、あるいは私学に転職したときにも認められるような、データポータビリティがあれば良いですね。

総合教育政策局 西氏:情報の流通性は非常に高まってきており、ニーズもあると思いますので、一定程度、教育委員会が実施した研修であれば、相互に融通や共有をしていくというのは、方向性としてはおおいにあると思います。

オープンバッジが教育の可視化の一助に

荒木:オープンバッジの活用については、大学や高等専門学校で、MDASH(数理・データサイエンス・AI教育プログラム)の学修成果を可視化するものとして、履修学生へのオープンバッジの発行が行われています。このように、データサイエンス系の学部や学科で、オープンバッジによる学修成果の可視化が行われていることについては、どのようにお考えですか。

高等教育局 早川氏:学修成果の可視化については、たとえば学生視点では、テストだけではなく外部試験資格や卒論等のさまざまな指標を用いて、自分の学びを自ら説明できるようになるということと、大学視点では、明確になった情報を今後の授業改善に生かしていく、という2つの側面があります。オープンバッジの導入がすぐに学修成果の可視化につながる、というものではありませんが、活用をうまく行うことによって、可視化の手助けになるのではないかと思います。

 大学には、オープンバッジを発行する過程で、しっかりと学生の状況等を把握し、そういった情報をカリキュラムの改善につなげていただきたいと考えています。一方、学生がバッジ活用することは、今後の学習やキャリアプランを考えるうえで、非常に有益なのではないかと思います。

 データサイエンス系学部から行われているということですが、今後は広い分野でこういった取組みが行われていくことを期待しています。

文部科学省 高等教育局 早川慶氏

荒木:東北大学は、マイクロクレデンシャル(※)を取り入れ、知識やスキルをデジタルで証明するために、オープンバッジを導入しました。

 一方、学位レベルのマクロクレデンシャルという観点では、わが国はまだまだ諸外国に比べてデジタル化が進んでいない状況ですが、今後、マクロクレデンシャルのデジタル化の推進につきまして、お考えをお聞かせいただけますか。

※マイクロクレデンシャル:高度な専門教育における、遠隔・オンライン教育を積極的に活用した、個別の単位に分けた学修のこと

高等教育局 早川氏:大学改革支援・学位授与機構がとったアンケートによると、マクロの単位での電子化は、多くの大学が必要と認識しているようです。国際標準への適合という観点だけではなく、コスト削減や卒業生サービス、偽造防止といった観点からも推進するという方向かと考えています。

 総理大臣が主宰する教育未来創造会議でも、その促進が提言されており、文科省でも、たとえば私立大学等改革総合支援事業では、バッジの導入や学位の電子化の状況に関する設問を設ける等、導入を促進しているところです。

 また、大学が発行して終わりではなく、受け入れ側である企業にも使ってもらう必要があり、そういった働きかけを行っていく必要があるかと思っています。そのためには、マクロなクレデンシャルの中にどのような情報が入っているのかということが重要かと思います。

 単に利便性の向上で終わっているのであれば、おそらく企業側もそれほど興味をもたないと思いますので、各大学がしっかりと可視化をして、情報を明確にしていく必要があります。当然ながら、企業は学歴だけで学生を見ているとは思いませんが、より個人の能力に着目した採用に移り変わっていくことが必要かと思っています。

オープンバッジ普及の課題と期待

荒木:オープンバッジが普及していくうえで、懸念されていることはありますか。

総合教育政策局 西氏:さまざまな主体が自由にバッジを発行できることは、大変良いことだと思いますが、それが余りにも多くなり過ぎると、バッジの価値がコモディティ化(一般化)するのではないか、というところでしょうか。行政として取り組もうとしたときに、バッジは良いものだという認識で広まってほしいので、今後の発展の方法や価値の高度化という点に注目をしています。

荒木:諸外国の例でみると、国レベルでオープンバッジの質保証を行う事例もあれば、民間団体が質保証を行っている事例がありますね。

総合教育政策局 西氏:すでに一定程度の広がりがあって、特に社会教育ではお互いに学びあうとか、お互いの気づきを大切にするという動きがある中で、そこをすべて行政で一括管理するというのは、少し違う気がします。

 大学が発行するバッジを例にあげれば、バッジそのものというより、その大学の教育の質保証を国が行っているわけです。バッジを発行する権限やバッジ自体について、行政がクオリティコントロールしていくというよりは、発行されたバッジひとつひとつが証明している教育の内容自体が、信頼できるか、価値があるものかどうかということについて、必要に応じて行政が関与していくということはあると思います。

荒木:最後にオープンバッジへの期待をお聞かせいただけますか。

総合教育政策局 西氏:オープンバッジでしかできないことや、非常に事務が簡便化されること等、個人にとってもメリットが大きいという部分は確かに感じています。学校教育の中でも外でも、活用できる部分は非常に大きいものがあると思います。文科省として関われるところ、関わるべきところについて引き続き研究を進め、具体的なアクションにつなげていけるようにしていきたいと思っています。

高等教育局 早川氏:オープンバッジに限らず、デジタル化は信頼性、通用性、利便性という観点から進める方向にあると思いますし、政府の提言も踏まえ、着実に実行していきたいと思っています。

取材後記

 デジタル庁、総務省、文部科学省、経済産業省は、令和4年1月7日に公表した「教育データ利活用ロードマップ」の中で、高等教育・生涯学習のデータ標準の1つとしてオープンバッジを示した。国際機関「フローニンゲン宣言ネットワーク」は、学修歴の電子化により、世界中の誰もが、いつでも、どこでも、誰とでも、真正な教育データ(学修歴)を参照し、共有できることを目指している。

 オープンバッジの普及が加速し、プラットフォーム化する過程においては、バッジひとつひとつの質保証が重要となる。世界の潮流を踏まえつつ、オープンバッジを用いた学修歴や研修歴のデジタル証明について、今後も好事例を共有していきたい。

西明夫

文部科学省 総合教育政策局 政策課企画官、教育企画調整官、リカレント教育・民間教育振興室長。2004年に文部科学省に入省。独立行政法人日本学生支援機構や兵庫県教育委員会で課長、大学振興課大学改革推進室長などを経て、2022年8月より現職。

早川慶

文部科学省 高等教育局 大学教育・入試課 課長補佐。1997年に名古屋大学に入職後、2004年より文部科学省へ。医学教育課係長、大学振興課係長、九州大学研究企画課長などを経て、2021年4月より現職。

荒木貴之


株式会社ネットラーニングホールディングス、学びのDX総合研究所所⻑、情報経営イノベーション専⾨職⼤学特任教授、社会構想⼤学院⼤学客員教授、⽇本アクティブ・ラーニング学会副会⻑、AI時代の教育学会理事、⽂部科学省ICT活⽤教育アドバイザー、デジタル庁デジタル推進委員、社会教育士。博⼠(情報科学・東北⼤学)。


《荒木貴之》

この記事はいかがでしたか?

  • いいね
  • 大好き
  • 驚いた
  • つまらない
  • かなしい

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top