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管理職と教職員のチームワーク、働き方改革に動き出した鹿児島市立谷山中学校

 先生の働き方改革には学校全体の意識改革も必要だ。2021年に経産省より学校BPR(働き方改革)の実証校に指定された鹿児島市立谷山中学校では、管理職と教職員が一丸となって学校改革を進めている。

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鹿児島市立谷山中学校(左から)松永裕幸教頭、草野芳人校長、平國弘明教頭
  • 鹿児島市立谷山中学校(左から)松永裕幸教頭、草野芳人校長、平國弘明教頭
  • 鹿児島市立谷山中学校で中学1年生を担当する増田先生、里見先生
  • 1年生の職員室のモニターに表示された日程表
  • 2年生の職員室のモニターに表示された「See Smile」の画面
  • 3年生の職員室のモニターに表示された日程表
  • 業務改善アイデアシート
 先生の働き方改革には学校全体の意識改革も必要だ。管理職は「現場の先生から要望があがってこない」、現場の先生は「学校側が変えてくれない」等、場合によっては対立構造になりがちだ。

 2021年に経産省の学校BPR(働き方改革)事業の実証校に指定された鹿児島市立谷山中学校では、管理職と教職員が一丸となって学校改革を進めている。同校の草野芳人校長、平國弘明教頭、松永裕幸教頭、現場教員で中学1年生を担当する里見先生、増田先生、そして学校BPR(働き方改革)事業を受託している、サイボウズのなかむらアサミ氏、中村龍太氏に話を聞いた。

鹿児島市立谷山中学校(左から)松永裕幸教頭、草野芳人校長、平國弘明教頭
鹿児島市立谷山中学校(左から)松永裕幸教頭、草野芳人校長、平國弘明教頭

鹿児島市立谷山中学校で中学1年生を担当する増田先生、里見先生
鹿児島市立谷山中学校で中学1年生を担当する増田先生、里見先生

--学校BPRの実証校に指定されたときの感想を教えてください。

草野校長:1学期の後半に教育委員会から実証校として取り組んでみないか、という話がありました。私も常々、学校内の業務改善が進んでいないことを実感していましたし、教職員からの声も届いていたのでお引き受けしました。とはいえ、最初は教育委員会が学校側に求めていることも、サイボウズさんが私たちに求めていることもわからずに戸惑いました。今思うと、「実証校になったのだから、何かやってもらえるのだろう」と他力本願的なところがあったのかもしれません。

サイボウズ・なかむら:実際に我々が学校に足を運べたのは10月になってからでしたね。

草野校長:そうなんです。コロナもあって、なかなか直接話し合う機会が作れなかったのですが、やはり実際に現場を見てもらわないと実態をお伝えしづらいところはありましたね。

--まずはどこから変えていったのでしょうか。

サイボウズ・なかむら:10月、11月に私たちサイボウズが谷山中に伺って、まずは朝の欠席連絡を私たちが持っているシステムを使いデジタル化することを提案しました。

草野校長:何がいちばん業務の負担か? と問われたときに、真っ先に思いついたのが朝の欠席連絡受けでした。全校生徒約960人の欠席連絡を、朝の7時10分頃から8時過ぎぐらいまで教頭2人で電話で受けているのですが、とても大変で。でもこれは予算の問題もあり、デジタル化の実施には至らなかったのです。

 そこから、我々のほうでも何ができるかを探らないといけない、もっと真剣に学校全体の声を聞かなければならない、というように私自身の意識が変わっていきました。私は教育委員会にいたこともあるので、教育委員会の立場を考えながら学校の声を伝える仲介役のようなこともしてきたつもりでしたが、実現していこうと率先して動くには至らなかったなと。このままでは学校内の業務改善は進まない、そしていちばんの原因は自分にあるのかもしれない、と感じ始めたのです。

--谷山中の学校改革はまず、校長先生の意識改革から始まったのですね。サイボウズとの取組み以前に、何か導入していたものはあったのでしょうか。

草野校長:はい。各職員のパソコンに校務共有システム「See-Smile」を入れ、資料やスケジュールの共有を行っていました。しかしながら職員会議の際には、教務が「See-Smile」から必要な資料を揃え、70名近い職員分を印刷して配布。またスケジュールについても、毎月1か月分を担当職員が黒板に書き出していました。いずれもパソコンで確認できるので、この作業は労力の無駄でした。そこで思い切って、「職員会議の資料は今後紙での配布はしないので、各自パソコンを持って会議に参加してください」と伝えてみました。

--先生たちの反応はいかがでしたか。

草野校長:資料に関しては、パソコンを開くのがめんどう、紙のほうが良い、という声もありましたが、まずは「必ず見る癖」をつける必要があると考えました。

 サイボウズさんにこのことを相談をしたところ、モニターを置いたらどうかという提案をいただきました。そこで職員室にモニターを配置し、そこにスケジュールや連絡事項を映し出すことにしました。

平國教頭:教育委員会から学校には毎月たくさんのお知らせが届くのですが、それは「See-Smile」を通じて各教職員にも共有できます。職員会議の資料以外は一部紙も併用しているので、いずれはこれもデータ化して無駄を省きたいと思っています。教職員は朝学校に来たら、まずはこのモニターで予定を確認し、詳細は改めて自分のパソコンで確認する、という流れができてきたのでありがたいです。今後も継続していきたいと思っています。

--里見先生と増田先生は、このモニターが職員室に置かれてから何か変わったなと感じたことはありましたか。

里見先生:私がスケジュールを黒板に書く係だったのですが、現在はパソコンに入力すれば良くなったので、手書きで黒板に書くよりだいぶ楽になりました。入力も前日の帰りにやったり、当日の朝やったりと空き時間にできます。本校は学年ごとに職員室があるのですが、1年生の職員室にあるモニターには今日と明日の2日分の日程表を映し出していますが、2年生は「See-Smile」の内容、3年生は入試業務の大切な内容、というように各学年で工夫しながら使っています。

1年生の職員室のモニターに表示された日程表
1年生の職員室のモニターに表示された日程表

2年生の職員室のモニターに表示された「See Smile」の画面
2年生の職員室のモニターに表示された「See Smile」の画面

3年生の職員室のモニターに表示された予定表
3年生の職員室のモニターに表示された日程表

増田先生:里見先生が重要な予定には色をつけたり、文字を大きくしたりして工夫してくださっているので、とてもわかりやすいです。

里見先生: 1年生の教職員だけでも18人いるので意思の疎通は大切です。全員に「今日はこの締め切りですよ」「これをやってくださいね」と言うことはできないので、このモニターはフルに利用させてもらっています。やはり黒板より伝えやすいですね。

増田先生:モニターを見て、隣の先生に「先生、これやりました?」と声をかけることも増えましたね。

--プリント配布をなくした職員会議についてはいかがですか。

増田先生:前回の職員会議はコロナ対策もあって各学年リモートでやっていたのですが、まったく問題ありませんでした。資料はクラウド上にあるので、それを各自で出して会議に参加できる。紙の消費と印刷者の労力の両方が削減できたことがいちばん良かった点です。

里見先生:4月の職員会議の資料なんて恐ろしい量でしたから、ペーパーレスが当たり前になっていくと良いと思います。メモが好きな先生など、紙のほうが良いとおっしゃる先生はいますけどね。

増田先生:学校では学習指導要領にのっとって各教科の先生が「教育課程」というカリキュラムを作成します。現状は印刷所にお願いして冊子を作り各自保管しているのですが、教育委員会に提出するものだけ製本して、あとはクラウド上で管理しても良いのではないかと思っています。作らなければならないものだから作る、と「ねばならない」の発想でやっていたものも改めて見直す必要があると感じています。

里見先生:一言で「業務改善する」と言ってもイコール「ラクをする」という発想ではいけないと思うのです。子供たちに不利益になるような「ラク」をしてはいけない。あくまで無駄な作業を省いて、子供と話したり、寄り添う時間を増やそう、という方向でないと。子供との人間関係づくりはもっとも大事で、時間をかけなければならないものです。

増田先生:校長先生、教頭先生は、業務改善に対して前向きに取り組んでくださっているのでありがたいです。やはりリーダーの強い推進力は大切だと思います。そして校長先生や教頭先生と話をする機会も増えています。結果として自分の意見が採用される、されないはあるにせよ、いろいろ話をしていくのは大事かと思います。我々現場の教職員も、業務改善は管理職がやってくれるもの、というマインドでいたら絶対にうまくいかないと思います。自分たちの学校ぐらい自分たちでなんとかしようよ、という気持ちにならないと。

--その変化は、サイボウズが来てから変化したことなのでしょうか。

里見先生:もともと校長先生には業務改善しようという意識があって、それがサイボウズさんが入ったことによりパワーアップしたな、という印象です。

サイボウズ・中村:校長先生は「デジタルに関しては自信がなかった。わかっていない自分が全部判断するのは違うと思っていたが、教職員たちと話をするうえでその気持ちも変わっていった」とおっしゃっていました。

増田先生:とりあえずやってみよう、とおっしゃってくださることが増えたような気がします。同じ学校だけどマンモス校なので、我々がいる校舎と管理職がいる校舎が違うんです。つまり生活拠点が違う。時間を見つけて自分から管理職のいる校舎に行って、他の先生の橋渡し役になれればと思っています。

里見先生:コロナ禍で懇親会もありませんから、お隣の席で会話が弾む、という機会もなくなりました。それでも今、私たちが前向きに取り組めるのは、増田先生のようにポジティブに取り組んでくださる先生が何人かいて、よしやっていこう、という結束の中に他の人が引っ張られているからだと思っています。これが批判的な集団になってしまうと、なかなか改善には至らないのかな、と。

増田先生:私はこの学校に赴任して1年目だからこそいろいろ言えるのかもしれないです。4年、5年と同じ学校にいて毎日の業務が当たり前になると何も疑問を抱かなくなりがちです。伝統を守っていくことも大切ですが、壊していくことも大事。まずはごく小さなことでも良いから「この仕事って本当にいるの?」と疑問をもって減らしてみる。あまり真面目にやりすぎても辛くなるので、ちょっとふざけながら楽しんだり、途中途中で振り返ったりすることも大切なのかな、と思っています。授業でも最後の5分、10分で「今日学んだこと、意義があったこと」を振り返るじゃないですか。先生たちも振り返りをすることが大事ですよね。

業務改善アイデアシート
業務改善アイデアシート

--ありがとうございました。最後に校長先生、教頭先生の今後の目標をお聞かせください。

平國教頭:今回の取組みをする前は、業務改善のノウハウを与えてもらって、それをもとに進めていけば良いのかな、という発想だったのですが、それだと先生方のモチベーションが上がらない。業務改善という取組みの「ゲスト」に先生たちをするのではなく、主役になってもらう「キャスト」に変えていかないといけない、と強く感じています。受け身だったものを主体的にできるようなしかけを考えていく必要があると思っています。

松永教頭:私自身もどちらかというと実証校になることで何か恩恵が受けられるのではないか、という発想があったのは事実です。でもそうではなく、自分たちで変わっていかなければならないんだ、ということが明らかになって。今回、サイボウズさんと連携して感じたのは、学校現場で効果となるものは「子どもの変化」なので、企業と違って計測しにくい。それでも、生徒たちとの時間を増やしていこう、とひとつの目的に向かっていくことが大事です。それに向かって全教職員が動いていけば、業務全体がスリム化されると思っています。

草野校長:業務を効率化して実際に成果が見えてくれば職員全員が同じベクトルに向かっていけると思いますが、まだそこまでは成果が出ていないかな、というのが実情ですね。でも、今回の取組みで職員全体が言いたいことを言える雰囲気づくりはできてきたと思います。私自身も、今まで体に染み込んでいる習慣や考え方を今一度見直す機会になりました。子供たちの成長に繋げるために、何を変えて、どんな集団にしていくのか、これからも教職員と一緒に考えていきたいと思います。

 学校BPR(働き方改革)と一言で言っても、学校ごとに異なる課題の抽出、そして改革の優先順位付けに、共通認識のもとで改善していくことは容易な作業ではない。谷山中学校において、これを可能にしたのは、校長先生や教頭先生をはじめとする管理職のリーダーシップと、自分ごととして取り組んだ先生方の熱意ある行動ではないだろうか。

サイボウズによる校務改善

<事例>教育委員会が主導した三島市の校務改善
《江口祐子》

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