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EdTech教材で「つくりながら学べる」環境を提供

 前文部科学省教科調査官で京都精華大学教授・鹿野利春氏と、中高生のプログラミング教育のトップランナーとしてさまざまな学びを提供している、ライフイズテックの執行役員・丸本徳之氏の対談から、高校における「情報I」の内容と、今後の展望を探る。

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京都精華大学教授・鹿野利春氏(右)とライフイズテックの執行役員・丸本徳之氏(左)
  • 京都精華大学教授・鹿野利春氏(右)とライフイズテックの執行役員・丸本徳之氏(左)
  • 京都精華大学教授・鹿野利春氏
  • 「情報I 」新設の背景
  • ライフイズテックの執行役員・丸本徳之氏
  • 授業のようす
  • 生徒の作品例
  • ライフイズテック レッスンでの学習を通じ、自尊感情や自己効力感が向上するという
  • ライフイズテック レッスンの学習定着のための設計
 2022年度からいよいよ高校でも新学習指導要領が実施される。新しい学習指導要領では一貫して情報活用能力の向上が大きなテーマとされ、高校においては「情報I」が必履修科目となる。さらに、2024年度(2025年1月実施予定)からは大学入学共通テストで「情報I」が実施されることとなり、高校における「情報」の学びが一層専門性を増し、また、実践的な内容になっていくことが予想される。こうした大きな変化のもと、全国の高校教育現場では急ピッチの準備が進められている。

 新学習指導要領では、どのような狙いから高校における「情報I」必履修化に至ったのだろうか。さらに、大学入学共通テストにおける「情報I」実施により、高校の教育現場はどう変わっていくのだろうか。前文部科学省教科調査官で新学習指導要領および「情報I」「情報II」の教員研修用教材のまとめに携わった京都精華大学教授・鹿野利春氏と、中高生のプログラミング教育のトップランナーとしてさまざまな学びを提供し、学校教材提供も実施しているライフイズテックの執行役員・丸本徳之氏の対談から、高校における「情報I」の内容と、今後の展望を探る。また、ライフイズテックが提供する「情報I」向けのEdTech教材「ライフイズテックレッスン」についても紹介する。

国民全員が身に付けるべき素養として
設置された「情報I」



--まずは改めて「情報I」が設置された背景についてお聞かせください。

鹿野氏:高校は、通信制も含めると今や進学率が98.8%を超え、ほぼ全国民が学ぶ教育機関になっています。情報科自体は2003年度から実施され、情報A・B・Cの3科目、社会と情報、情報の科学の2科目と変容していき、今回の学習指導要領の改訂があったわけですが、改訂にあたり文部科学省では、小中高の情報に関する資質・能力をどのように身に付けるべきか議論しました。段階的に情報活用の力を付けていき、選択制ではなく国民的素養として全員が学ぼうということで、「情報科学」をベースとした1科目を必履修化し、「情報I」を設置したわけです。同様に、これまでなかった「情報II」も設置して、より関心が高い生徒たちに対応できるようにしました。

前文部科学省教科調査官で現在、京都精華大学教授の鹿野利春氏

--「情報I」に含まれる内容とはどういったものでしょうか。

鹿野氏:全体を貫く目的は「問題の発見・解決」です。私としては、国民全員がものを作れるようになってほしいと思っているのです。それには問題の発見・解決ができることが前提で、さらにそのためには問題を捉えて、デザインして、結果を伝えることも必要になる。それらは情報デザインにつながるんですね。

 また、電車が嫌だからと乗らない人はいないように、コンピュータは使って当たり前の世の中になっています。コンピュータを使いこなすにはその仕組みを知らなければならないし、その力を引き出すためにはプログラミングもできる必要がある。さらに、ネットワークを安全に使えるように、最低限の無線・有線LANなどの知識もいります。そのため、小規模のネットワークを設計できる程度にはネットワークの内容を入れてあります。

 そして、「データの活用」は今後、社会に出たときに必ず必要になる力です。たとえば飲食店。どの曜日のどの時間に人が多く来るということを知らずにいたら、店員の配置調整も必要に応じた仕入れもできないでしょう。年・月・週・日・時間ごとのデータを見て、予測していく必要がある。そういった正しい数値の読み方や解釈といったデータの活用は、今後はどの人にも必要な力であり、国民的素養として全員が学習する必要があります。その「皆にとって必要なもの」をできるだけコンパクトにまとめたものが「情報I」なのです。

「情報I 」新設の背景


--現在、各自治体や学校における「情報I」に対する準備状況はいかがでしょうか。

鹿野氏:今は各都道府県で教育センターを中心に研修が進められています。ただ、進んでいる県もあれば遅れている県もある。たとえば、研修資料を作る段階から教育委員会に協力してもらっている神奈川県をはじめ、専任の教員の割合が多い大都市、特に東京都や大阪府は研修が進んでいます。

 逆に専任の教員が少なかったり、県の規模自体が小さかったりするところは、対象者が少なく、研修回数を増やせないかもしれません。研修内容は、情報科を教えることを第一の目標に定め、誰でもわかりやすい、授業を意識した具体的なものにしていると聞いています。

丸本氏:「情報I」に向けた勉強を自身でやってみたものの難しくて不安だ、という先生方の声を受け、弊社では教員研修を提供しています。これまで、高校向けの教員研修として20を超える自治体、1,000名を超える先生方向けに実施しました。

 ライフイズテックの教員研修は、先生方にプロダクトを作ってもらう実習型です。頭のみで理解するのではなく、作って学ぶスタイルは先生も楽しみながら学ぶことができます。また、何より「教える」前に先生自身が「教わる」ことで生徒の気持ちが分かり、授業のイメージがはじめて湧いてきたと好評です。

 研修では、先生が実際に画像認識AIを使って「出欠管理サービス」を作った事例もありました。生徒が大勢集合したところの写真を撮影するとAIが人数を瞬時に算出し学校の出欠管理を助けるというもので身近な問題解決を実践しています。先生はプロダクトづくりを通じて、「問題の発見・解決」からものを作るプロセスを実際に体験し、その過程の中で情報デザインやプログラミング、データの活用を理解いただくことができるのです。

ライフイズテックの執行役員・丸本徳之氏

EdTech教材で「ものを作る」学習環境を提供



--先に専任が少ないというお話がありました。不安など、教育現場から上がってきている声についてお聞かせください。

丸本氏:教員研修で経験した、実習を取り入れた「情報I」の授業を生徒にも届けたいと先生方からお声をいただきます。ただ、そのような学習環境を先生方が個々に用意するのは大変です。また、「情報I」を活用して問題解決能力を身に付けるプログラミング学習環境はどうすればいいのかと不安の声もいただきます。ライフイズテック レッスンでは、「Python実習環境」「画像認識AIツール」「データ活用学習用のデータセット」などをあらかじめ用意し、EdTech教材を通じて授業でご活用いただけます。まさに「つくることで学べる」環境を提供しているのです。

鹿野氏:私が聞く中でいちばん多いと感じている先生方の不安は、プログラミングについてです。「Python」などの言語を初めて使うケースが多いので、勉強し直す必要があり、先生方も今、一所懸命に学ばれている状態です。それとデータの活用で数学と連携するのですが、他教科の先生は数学についての勉強も必要。兼任は教科問わずなので、不安な先生もいるようです。

 不安解消のサポートについては、文部科学省で実践事例集、教員研修用教材、指導と評価の手引きなど、要素的に必要なものはすべて出しています。先生方はそれらを基本に勉強していますし、教科書もあるのでどんな授業をするのかは大体つかめている。さらに、来春には教科書の指導書が出て、具体的な進め方も示されるでしょう。

 ただ教えられる生徒にも知識や能力に差がありますから、その差にどう対応するかですね。完全な中高一貫校を除くほとんどの高校では、生徒は複数の中学校から集まって来ます。しっかりプログラミングをやっている中学校もあればそれほどではない中学校もあるかもしれませんし、生徒の興味関心の度合いによってもサポートは異なってきます。たとえばデジタル関連の部活動で突出した能力をもつ生徒については、産業界や大学が支援する仕組みを経済産業省で有識者会議を立てて検討していて、今後そういった施策が組まれていく予定で、その能力をますます伸ばすような環境を整えていくことになっています。
*経済産業省「デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会」は鹿野氏が座長を務める。2021年10月5日に第1回検討会が行われ、2022年3月に提言を出す予定

 教室での学びは、そうした突出した子もそうでない子も同じ環境で教育を受けるわけです。そこで個別最適な学習が可能であれば、先生方もずいぶん楽になるし、生徒たちも伸びていくと思います。そういうところも考えて最適な教材を選んでいくことが必要とされていると思います。

授業のようす

丸本氏:「情報I」を活用して問題解決能力、真の情報「活用」能力を身に付けるためには、活用の機会や環境を整えていくことが大事です。弊社では「ライフイズテック レッスン」というEdTech教材を提供していますが、先行導入している高校では、情報だけでなく総合や探求の授業にも採用いただいており、デジタルを活用した問題解決の実践例も出てきています。

 ある高校の生徒は、コロナ禍で苦労している地元の商店街(飲食店)を盛り上げようと、テイクアウトを実施するお店を一覧にして紹介するサイトを作って、地域に貢献しています。福島県大熊町の学校では、震災復興の記録をアーカイブし、ウェブにまとめる活動にライフイズテック レッスンを活用してくださいました。教科学習の個別最適化と探究学習のSTEAM化の取組みを通して、子どもたちに「見たこと感じたことを先取りして形にできるデザイン力」(デザイン思考)を身に付けさせたいと教科横断型のアウトプットツールとして評価いただいております。

 このように学習のペースだけでなく、問題解決のテーマ選びも自分で選び個別最適にできる教材なので、進度がばらついても、それをきっかけに「教えようか」という声かけや対話が生まれたり、生徒同士で「そういう観点もあるんだ」といったコミュニケーションも発生しているんですね。そうした生徒の変化をみて、先生も感動されています。生徒一人ひとり個別最適な学習環境があることで、主体的で対話的で深い学びにつながっています。これはある意味EdTechだからこそできる学び方ともいえるでしょう。

生徒の作品例

子どもたちの未来のために先生方と並走
生徒にとって良い学習体験を



--最後に、今、まさに現場で奮闘されている先生方と、これから「情報I」を学んでいく生徒たちにメッセージをいただけますでしょうか。

鹿野氏:言われたことを言われたとおりにやる、人より早く作業を行うといった力はいくら訓練してもロボットやAIには勝てません。逆にそれらを使いこなしていくときに、どういうふうに使ったら良いのか、どう配置して、どう結び付けたらうまく動くのか、あるいはそういったものを動かすプログラムやハードをどう作っていくかが求められるでしょう。

 今後はそうしたクリエイティブな人にとっては住みやすいけれど、自分で何も生み出さない人にとってはつらい世の中になると思うのです。これからの子供たちにはものを作ることができる、作っていこうという意欲をもった人に育ってほしいと考えています。

 そして、「情報I」の内容はそれに一番適したものだと思っています。学びのあり方はすべての教科で変える必要があり、個別最適化もすべての教科でやっていかないといけない。テクノロジーについても、自分の授業に合っているものを取り入れ、どの部分をテクノロジーが担ってくれるのかがわかれば、先生方の気持ちは楽になるでしょう。さらに生徒たち同士が教え合うという設計ができて「自分は環境を作れば良い」ということになれば、もっと気持ちが楽になる。あまり気負わず、しかし必要なものは見据えて、しっかり準備していきましょうということですね。

丸本氏:学校現場では探究や教科横断的な学びなど、いろいろな取組みが行われています。「情報」の授業は、この世界は見方によって変わるんだ、この世界を自身の手で変えられるんだという学習ができる教科だと思います。

ライフイズテック レッスンでの学習を通じ、自尊感情や自己効力感が向上するという

 また、ライフイズテック レッスンでは教材を提供して終わるのではなく、使用後に出てきた課題や授業前のご相談など年間を通して寄り添っていけるサポートの部門があることも先生方に喜ばれています。毎月テーマ別の研修を主催し、他の県や他の学校の先生との交流の場となっています。「情報」の先生は各校に1名のことも多いですが横のつながりができたと好評です。

 どう楽しく教えていくかという中でライフイズテックレッスンがその選択肢になれば大変嬉しいですし、「情報I」でぜひ一緒に、世界一楽しい授業を生徒たちに届けていきたいと思っています。

--ありがとうございました。

変化する社会を生き抜く生徒たちに
使える技術、生きる力を



 ライフイズテックが提供しているEdTech教材「ライフイズテックレッスン」は、中学・高校の新学習指導要領に対応したブラウザ完結型プログラミング学習教材。2021年度導入実績は全国1,650校、32万人が利用とトップクラスの導入実績を誇る。「つくることで理解する」「目に見えない世界をビジュアル化して理解する」学習体験を大切に教材コンテンツを制作。高校情報科ではすでに「情報I」向けの「Python・AIコース」を提供中だが、2022年4月にはコンテンツを拡充し、「情報I」の全単元(1)~(4)に対応する。教材は実際にブログやAIレジなどを作って学ぶコンテンツ型と、クイズなどを交えて楽しく知識を定着させるスライド型の2種類があり、この2種類の学びを往還することで知識を深め、思考・判断・表現等の力をつけるとともに、学びに向かう力を育んでいく内容になっている。

ライフイズテック レッスンの学習定着のための設計

ライフイズテックが目指すこと

 大学入学共通テストにも対応し、多くが「情報I」を履修する高1から、実際に受験する高3まで3年間の継続サポートを行っている。学びの空白を作らないように、高2・高3の探究の授業で使える教材も提供する予定で、3年間の継続モデル支援 に加え、生徒ひとりひとりに合わせて、苦手な内容を確認・定着させるAIドリルも2022年4月にリリースされる予定。先生向け実習型研修も、実際のブログやAIレジなどを作ることで理解できる研修となっている。

 ライフイズテックレッスンのサポートで先生も生徒も楽しい個別最適な「情報I」の授業が実現し、実際に活用できる知識・技術、意欲や非認知能力も含め生徒たちが変化する社会を生き抜くための力が着実に育っていくことが期待される。

ライフイズテック レッスンの詳細はこちら
《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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