学校や教員に寄せられる保護者の相談や要望に、どのように向き合えば良いのか。2020年にリシードで始まった鈴木邦明氏の「クレーム対応Q&A」「相談対応Q&A」が、2026年10月2日の連載をもって300回の節目を迎えた。
連載300回を記念し、帝京平成大学人文社会学部教育学科准教授の鈴木氏に、これまで、そしてこれからの学校と保護者の関係について話を聞いた。
連載300回記念インタビューの内容は全3回にわたってお伝えする。第1回となる今回は、連載開始の背景と印象に残る記事を振り返りながら、保護者が学校に期待する役割と、学校・家庭・地域の認識の違いを考える。
300回の節目を迎えて、連載に込めた思いを振り返る
--連載を始めた背景を教えてください。
連載を始めたのは2020年の秋です。当時は新型コロナウイルスの感染拡大により、学校はこれまで経験したことのない対応を迫られていました。教職員だけでなく、保護者や子供、地域の人たちも不安を抱えていました。学校が手探りで新しい対応を進めても、それが保護者のニーズと合わず、うまくいかないこともあり、私のところにも現場の先生方から「どう対応したら良いのだろう」という嘆きと相談が多く届きました。
学校という組織は、これまで積み上げてきた取組みをさらに良くしていくことは得意ですが、経験のない状況への対応や急激な変化への適応に苦労する側面があります。コロナ禍は、まさにそれまでのやり方が通用しないことの連続でした。そうした中で連載のお声がけをいただき、対応に悩む学校現場の一助になれればという思いで連載を始めました。

--休校の判断だけでなく、学校を再開するときにも課題や難しさがありましたね。
休校になった当初はちょうど卒業・入学のシーズンで、卒業式や入学式をどう実施するのかといった課題がありました。その後、学校を再開する段階でも、それまでに経験したことのない判断を次々と求められました。
本来であれば、新年度は子供たちと直接顔を合わせ、関係を築きながら学級づくりを進めていきます。ところが、当時はそうした時間を十分に確保できないままスタートせざるを得ませんでした。衛生面でも、従来のインフルエンザ対策とは異なる対応が必要でした。学校が試行錯誤を重ねる一方で、保護者にもさまざまな不安や疑問があり、その声が学校に寄せられていました。
1つの正解で解決できる状況ではないことは皆が承知のうえでしたが、それでも「私がもっている情報が、学校が判断や対応を考える際のヒントになれば」という思いでした。
--300回の連載を振り返って、いま感じていることを教えてください。
教員や教育関係者、保護者など、多くの方に記事を読んでいただき、質問や疑問を寄せていただけることは、本当にありがたいことだと感じています。こうして300回も続けられたことに、あらためて感謝しています。
通学路指導から見える、学校と保護者の認識の違い
--これまでの連載の中で特に印象に残っている記事はありますか。
連載初期に書いた「通学路指導に教員が立番すべき?」という記事(2020年10月2日公開)が印象に残っています。年度初めや新学期の時期を中心に繰り返し読まれており、同じような課題がさまざまな地域で起きているのだろうと感じています。学校と保護者の役割認識の違いがよく表れているテーマの1つですね。
通学マナーの問題や通学路の危険個所については、学校に苦情や相談が寄せられます。もちろん、学校には交通安全について子供たちに指導したり、保護者や地域、関係機関と連携したりする役割があります。一方で、文部科学省は、登下校時の通学路における日常的な見守り活動などを「学校以外が担うべき業務」に分類しています。
保護者や地域には「子供のことだから学校に対応してほしい」と考える方もいます。しかし、学校と家庭・地域の役割分担が曖昧なままでは、学校への期待と実際に担うべき役割との間に行き違いが生まれてしまいます。それぞれの役割を明確にし、学校、家庭、地域で共有しておくことが大切です。あの記事を通じて、その必要性をあらためて感じました。
教員の立番には管理職の判断や働き方の問題も関わっています。業務内容や勤務時間の問題も含めて、学校内で整理していく必要があるでしょう。
--学校にクレームが集中してしまうのはなぜでしょうか。
ほかに相談できる窓口がわからないということが大きな理由だと思います。通学中のことに限らず、地域で子供に関する困りごとが起きたとき、相談先が明確でなければ、子供が被っているヘルメットや帽子などをたよりに、学校に連絡することになります。
自治体に窓口が設けられていても、その存在が十分に知られていない場合もあります。大切なのは、窓口を設けることだけでなく、その存在を周知することです。どこに相談すれば良いのかが明確になれば、学校以外の正しい窓口に相談が寄せられるようになるはずです。
役割分担は「決める」だけでなく「伝える」ことが重要
--学校・家庭・地域の役割分担はどのように共有すべきでしょうか。
文部科学省は、学校の働き方改革に向けて「学校と教師の業務の3分類」という資料を公開しています。学校・家庭・地域など、それぞれの役割を整理した資料ですが、保護者にはあまり知られていません。学校ホームページや入学説明会、保護者会などを通じて繰り返し伝えていくことが大切です。
どこまでが学校の業務で、どこからが保護者や地域の役割なのか、明確に線引きできないこともあります。それでも、共有できることは丁寧に伝えていくことが大切です。繰り返し発信しながら認識を共有していくことが、お互いに良い関係を築く第一歩だと思います。
神奈川県のある自治体では、学校が避難所になった際の役割分担を学校だよりで周知しています。学校は避難場所を提供し、運営は地域住民、支援は行政が担うことを明確にしています。このように役割を共有することが、行き違いを防ぐことにもつながるでしょう。
学校はこれまで「子供のため」という言葉のもとで多くの役割を担ってきました。その役割を時代に合わせて整理し、明確にすることは、決して冷たい対応ではありません。保護者、教員、地域、行政が、それぞれの立場で関わりやすくするために必要なことだと考えています。
休校判断と子供の居場所を分けて考え、役割を整理する
--これまでに「学校を休校にしないでほしい」「夏休みに学校を開放してほしい」といった記事がよく読まれました。この状況をどのように捉えていますか。
「学校の“保育所的機能”をどう考えるか」ということが、両記事に通底するテーマです。学校が急に休みになったり、長期休みに入ったりすると、「子供を誰がみるのか」「仕事をどう調整すれば良いのか」と困る保護者がいます。学校は、学びの場であると同時に、子供が過ごす・子供を見守る場所としての役割も求められているという現状があります。
一方で、台風や大雨などで登下校が危険になる場合には、子供の安全を最優先に考えなければなりません。私が大切だと考えるのは、できるだけ早く判断し、保護者や教職員に伝えることです。これまでは当日朝6時の警報を基準に判断するケースが多くありましたが、その時間に休校が決まったとしても、保護者も教職員も対応に困ってしまいます。可能な限り、前日など早い段階で判断することで、家庭も学校も多少はゆとりをもって対応できることでしょう。
結果的に予想したほど雨が降らず、空振りに終わることもあるでしょう。それでも、授業と子供の命を比べれば、命の方が重い。下校時に大雨が重なり、身動きが取れなくなるような事態を避けるためにも、早い判断が必要だと考えています。

--学校ごとに判断が異なるケースや、授業への影響についてはどのように考えていますか。
近隣の学校で対応が異なると、保護者が戸惑うこともあります。とりわけ天候への対応であれば、教育委員会が地域内の学校の方針を取りまとめ、一定の地域で足並みをそろえて早めに判断する方が良いでしょう。感染症の流行のように、学校によって状況が異なる場合とは、切り分けて考えるのが良いと思います。
「朝の警報による判断を基本にしながらも、状況によっては前日の段階で判断する場合がある」といったルールをあらかじめ示しておくことも大切です。従来の仕組みを続けるだけでなく、現在使える手段を踏まえて考えていく必要があります。早めに方針が示されれば、保護者も仕事の調整などに向けた時間を確保しやすくなるでしょう。
授業への影響については、GIGA端末を活用することで恐れるほどの影響は出ないはずです。登校できない場合でも、オンラインで学びを進められる環境は整いつつあります。休校を早めに判断すれば、端末の持ち帰りやオンライン授業の準備もしやすくなります。家庭に通信環境がない場合は、必要な家庭に支援する仕組みを行政が整備することも必要でしょう。
これまで学校では、台風やインフルエンザなどによる休校を見込んで授業時数を多めに確保してきました。しかし、オンラインで学べる環境が整ってきた今は、そうした備え方も見直すことができるはずです。休校のたびに対応を考えるだけでなく、学びを継続する手段を含めて学校の仕組みを考えていく必要があると思います。
--朝の学校開放や長期休み中の居場所については、どう考えますか。
学校を子供たちの居場所として活用すること自体は、あって良いと思います。ただし、そのためには子供たちを見守る人や組織をきちんと確保しなければなりません。学校を開けるかどうかと、誰がどのように運営するかは、それぞれ分けて考える必要があります。
学校に子供の居場所としての役割が求められているとしても、場所の提供から見守りまでをすべて学校や教員が担うことには無理があります。教員の仕事に上乗せしたり、時間外労働に頼ったりすることを前提とせず、学校以外の組織が関わり、必要な予算も確保する、場所は学校でも運営は別の組織が担うなど、適した形を考えていくべきでしょう。
誰が何を担うのか。学校だけでなく、保護者や地域、行政、民間も含めて考える必要があります。保護者に必要な支援を踏まえて役割分担を整理し、その内容を共有していくことが、学校と保護者の行き違いを減らすことにつながると考えています。
鈴木邦明先生 連載300回記念インタビュー第2回の記事公開は、10月中旬を予定している。









