東京大学大学院工学系研究科の松尾・岩澤研究室(松尾研)は、全国の高等学校などを対象に、開発中の「高校生向けAI教育プロジェクト」のカリキュラムを先行導入するトライアル校とパイロット校の募集を開始した。教材や演習環境を無償で提供し、学校教育におけるAI学習の普及を目指す。一次締切は2026年9月30日。
AIがあらゆる社会活動の基盤として普及する中、これからの社会を生きる高校生には、AIを「使える」だけでなく、その仕組みや限界を本質的に理解する力が求められている。自ら課題を設定し、AIを活用して解決まで導く資質・能力の育成も、重要な教育課題となっている。
文部科学省の中央教育審議会では、次期学習指導要領の検討において、高等学校「情報科」でAIに関する内容を大幅に拡充する方向で議論が進んでいる。AIの原理を科学的に理解することや、生成AIを適切に活用することなどが、今後の学習内容の中核として位置づけられる方向だ。
一方、教育現場では「AIの本質や仕組みをどう教えるか」「既存の科目にどう組み込むか」「指導できる教員やノウハウをどう確保するか」といった課題もある。
こうした状況を受け、松尾研は、これまで延べ15万人以上に提供してきたAI教育のノウハウを生かし、専門外の教員でも運営できる授業パッケージとして「高校生向けAI教育プロジェクト」のカリキュラムを開発している。早期に導入することで、次期学習指導要領への円滑な移行に向けた先行的な取組みにもつなげる。
松尾研は、2025年度(2026年1月~3月)に全国3校、計552人の高校生を対象に先行モデル授業を実施した。この実践事例は、文部科学省編集の「中等教育資料」2026年6月号や、月刊「産業と教育」2026年6月号にも掲載された。また、2026年8月には全国高等学校情報教育研究会全国大会でプロジェクトの取組みを発表し、全国の情報科教員から多くの反響を得たという。
開発中のカリキュラムは、導入と全4章、あわせて5つの「モジュール」で構成される。高校の学校設定科目などでの運用に適した2単位、計60コマ程度の体系的な内容を備える一方、各モジュールを単独で取り出し、「情報I」「情報II」「総合的な探究の時間」など既存の授業に柔軟に組み込める構成となっている。
対象は、数学I・Aおよび「情報I」を履修した高校1年生相当の学習段階で理解できることを前提に設計。数式を極力減らし、図解を中心とした構成とし、演習ではサンプルコードを用いるため、プログラムを書くこと自体を目的としていない。生徒の状況に応じて、各モジュールの内容や進め方を調整することもできる。
カリキュラムは、AIの仕組みと限界を理解したうえで、課題発見から仮説検証、評価・発表までのサイクルを体験する「AI時代の探究・社会実装」の授業として設計。演習ノートブック形式で、生徒自身がAIを動かしながら学ぶ実践的な内容としている。
また、カリキュラムガイドや単元計画・指導案・評価基準、ipynb形式の教材・演習プログラムなどを含む授業パッケージとして提供し、教員の負担軽減にもつなげる。さらに、OSやICT環境に依存しないブラウザベースの学習環境「PyHiroba」を開発・提供しており、現在はβ版を公開している。
教材は章ごとに順次開発を進めており、教材全体の展開は2027年4月を予定している。
今回の募集では、開発中のカリキュラムを2026年度中にモジュール(章)単位で先行実施する「トライアル校」と、2027年度以降に通年での導入を検討する「パイロット校」を募集する。いずれも実際の授業で生徒がカリキュラムに取り組むことを前提とし、松尾研が開発したカリキュラム・教材および実施にかかる支援を原則無償で提供する。実施内容や規模は、各学校の教育課程やICT環境などに応じて個別に相談できる。
教材はモジュールごとに順次開発しているため、実施するモジュールや時期によっては選択の幅が限られる場合がある。複数のモジュールを組み合わせて実施する場合や、モジュールの選択に幅を持たせたい場合は、2027年1月以降の実施が推奨されている。
対象は全国の高等学校、中等教育学校・中高一貫校のほか、教育委員会などの関係者。応募はWebサイトの専用フォームから受け付け、一次締切は2026年9月30日。応募後は松尾研の担当者から連絡があり、オンラインでの打ち合せ・ヒアリングを経て、実施可否や実施内容が個別に案内される。
2026年度のトライアル実施校は、準備が整い次第、11月以降に順次トライアルを開始する。募集校数に上限は設けていないが、松尾研から講師・TAを派遣する形での実施については、体制上、実施校数に限りがあるとしている。教育委員会などを通じた地域単位・複数校での相談も歓迎している。
松尾研では、トライアル校・パイロット校での実践を通じて、カリキュラム・教材、教員向けの養成プログラム、授業運営を支える仕組みを継続的に改善し、2028年度以降の全国展開を目指すとしている。すべての高校生が学校教育の枠組みの中でAIの本質を学び、自らの課題を解決する力を身に付けられる環境の実現に向け、教育委員会や学校現場と連携しながら取組みを進めていく方針だ。









