教育に関わるすべての人の視点や問いを広く取りあげ、これからの学びをともに考えていく。リシードでは、寄稿連載というかたちで新たな企画を展開する。
「教師への扉」は、中学校・高等学校での教員経験を経て、現在は大学で教員養成に携わる渡辺朗生(ときなり)先生による寄稿。現場と研究を往還する視点から、実践に根ざした示唆と理論的な裏付けをあわせて提示していく。
今回のテーマは、「変わる教員採用試験、志願者減少と早期化の時代にどう備えるか」。
中学校・高等学校で教諭として勤務したあと、現在は大学で教員養成に携わっている渡辺朗生と申します。
今回は、学校現場と教員養成の双方に関わる立場から、近年の教員採用試験の動向や変化について紹介したいと思います。
志願者減少と倍率低下
近年、公立学校教員採用試験を取り巻く状況は大きく変化しています。その中でも特に注目されるのが、受験者数の減少と採用倍率の低下です。かつて教員採用試験は狭き門といわれ、多くの自治体で高い競争倍率を示していました。しかし近年は、全国的に志願者数が減少し、採用倍率も低下傾向にあります。
文部科学省が公表している「令和7年度(令和6年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況」によれば、採用選考試験における全国平均の採用倍率は3.2倍となり、過去最低水準を更新しました。特に、小学校教員については2.2倍まで低下しており、一部の自治体では採用予定者数と受験者数の差が小さくなっています。
筆者は大学で教員養成に携わっていますが、近年、教職を志望しながらも進路選択に迷う学生が増えていることを感じています。学生たちは子供と関わる仕事や教育そのものには魅力を感じている一方で、学校現場の多忙さや責任の重さに不安を抱えています。また、民間企業や公務員など多様な進路選択肢がある中で、将来の働き方やキャリア形成を慎重に考える学生も少なくありません。こうした状況からは、教職への意欲の低下というよりも、将来への不安が進路選択に影響していることがうかがえます。

その背景には、少子化による若年人口の減少に加え、教職に対する社会的イメージの変化があります。近年は長時間労働や部活動指導、保護者対応など、学校現場の業務負担の大きさが広く知られるようになりました。一方で、民間企業では初任給の引上げや働き方改革が進められており、学生にとって進路の選択肢が広がっています。こうした社会状況も、教職志望者の減少に影響していると考えられます。
このような状況の中で、教員採用試験は従来の「選抜のための試験」から、「人材を確保するための試験」へと性格を変えつつあります。近年進められている採用試験改革や試験日程の前倒しも、こうした志願者減少や倍率低下への対応として実施されているものです。教員採用試験を取り巻く環境は今後も変化していくと考えられるため、受験を考える方は最新の動向を把握しながら、自身のキャリア形成について考えていくことが重要です。
試験前倒し政策
こうした状況を背景として、近年、文部科学省は公立学校教員採用試験の日程前倒しを推進しています。従来、多くの自治体では7月頃に第一次試験を実施していましたが、民間企業の採用活動が早期化する中で、教員志望の学生が進路選択を行う前に他業種へ流れてしまうことが課題として指摘されてきました。
文部科学省は2021年に「『令和の日本型学校教育』を担う教師の人材確保・質向上プラン」を公表し、教師を取り巻く環境整備とともに、採用選考の改善を重要な施策として位置付けました。その中では、自治体ごとに異なる試験日程による受験機会の制約を見直し、受験しやすい環境を整備することが求められています。また、大学生が民間企業と教員採用試験の双方を比較しながら進路選択できるよう、採用選考の在り方を見直す必要性も示されています。
こうした方針を受けて、一部の自治体では第1次試験を5月に実施する動きが広がっています。さらに、大学3年生の段階で受験できる特別選考や、前倒しで実施した試験結果を翌年度の採用選考に活用する制度なども導入され始めています。
一方で、試験の前倒しには課題もあります。たとえば、教職課程を履修する学生にとって、大学3年次から4年次にかけては教育実習や教職実践演習、卒業研究など重要な学習活動が集中する時期です。試験時期が早まることで、十分な学びや実践経験を積む前に採用試験への準備を求められる可能性があります。また、自治体によって実施時期や選考方法の違いが大きいままであれば、受験者の負担軽減という本来の目的が十分に達成されないおそれもあります。
自治体の具体例
こうした取組みは全国一律に進められているわけではなく、各自治体が地域の実情に応じて独自の方法を展開しています。たとえば、北九州市では全国に先駆けて大学3年生を対象とした前倒し選考を実施しています。大学3年次に第1次試験相当の選考を受験し、合格した場合には翌年度の採用試験で一部の試験が免除される仕組みです。このような制度によって、学生は早い段階から教員採用試験に挑戦しやすくなっています。
また、東京都や大阪府などの大規模自治体では、試験実施時期を早めるとともに、受験機会を増やす取組みが行われています。具体的には、従来は年1回の試験が一般的でしたが、近年は複数回の採用選考を実施する自治体も増加しています。
さらに、一部の自治体では選考内容そのものの見直しも進められています。たとえば、社会人経験者や講師経験者を対象とした特別選考の拡充、教職大学院修了者への試験一部免除、民間企業等での勤務経験を評価する制度などが導入されています。また、筆記試験の負担を軽減し、面接や模擬授業、場面指導など人物評価を重視する選考へ移行する動きもみられます。こうした改革の背景には、多様な経験や専門性をもつ人材を学校現場に迎え入れたいという考えがあります。
学生・大学への影響
教員採用試験の前倒しや選考方法の多様化は、教員を目指す学生や教員養成を担う大学にも大きな影響を及ぼしています。前述のとおり、教職を志望する学生にとっては、早い段階で教員採用への見通しを得られることや、大学4年次の負担を軽減できることなどの利点があります。一方で、教職への志望が十分に固まっていない段階で進路決定を迫られる可能性もあります。大学生のキャリア形成は、講義での学びだけでなく、教育実習や学校現場での体験を通して深まる部分が大きいものです。実際に子供たちと関わったり、教師の仕事を間近で見たりすることで、「やはり教員になりたい」と考える学生もいれば、自分の適性について改めて考え直す学生もいます。そのため、採用試験の早期化がすべての学生にとって望ましいとは限りません。
さらに、大学側においてもこうした変化への対応が求められています。教員養成を行う大学では、採用試験対策講座や面接指導の実施時期を見直したり、低学年から教職への意識を高めるキャリア支援を充実させたりするなどの取組みが進められています。また、教育委員会と連携し、学校体験活動やインターンシップを充実させることで、学生が早い段階から教職への理解を深められるよう工夫している大学も増えています。
受験者は今後どのように備えるべきか

以上のように、教員採用試験の早期化や選考方法の多様化が進む中で、受験者にはこれまで以上に計画的な準備が求められています。近年は受験倍率の低下が注目されることも多いですが、倍率だけを見て安心することはできません。むしろ、人物評価を重視する選考が増加している現在、受験者ひとりひとりが教員としての資質や意欲を具体的に示すことが重要になっていると考えられます。
まず必要なのは、受験を決意した段階から計画的に準備を進めることです。前述のとおり、近年では試験日程の前倒しや選考方法の多様化が進んでいるため、「試験直前になってから対策を始めれば良い」という考え方は通用しにくくなっています。教職教養や一般教養の学習を計画的に進めるほか、志望する自治体の試験内容や出題傾向、求める教師像について早い段階から把握しておくことが重要です。
また、面接試験への対応もこれまで以上に重要となっています。実際に大学で学生の面接指導を行っていると、「なぜ教員になりたいのか」「どのような教師を目指したいのか」といった基本的な問いに対して、自分の言葉で具体的に説明できない学生も少なくありません。教育実習や学校ボランティア、講師経験、社会人経験などを単なる経歴として終わらせるのではなく、そこから何を学び、どのような教師像を描くようになったのかを整理しておくことが求められます。
さらに、学校現場への理解を深めることも欠かせません。近年の面接では、いじめ、不登校、特別支援教育、ICT活用、保護者対応など、今日的な教育課題について意見を求められる場面が増えています。そのため、たとえば文部科学省の資料や教育委員会が公表している施策などに日頃から目を通し、学校教育の現状や課題について自分なりの考えをもっておくことが大切です。
教員採用試験をめぐる制度は今後も変化していくことが予想されます。しかし、制度がどのように変わっても、子供の成長を支えたいという思いや教育に対する確かな理解が求められることに変わりはありません。自分の経験を振り返りながら教育観を深め、それを自分の言葉で伝える力を磨くことが、これからの教員採用試験を乗り越えるための大切な準備となるでしょう。









