教員のPC刷新をどう進めるべきかが問われる中、Copilot+ PCは教員の働き方にどのような変化をもたらすのか。日本マイクロソフトとエデュケーションパートナー各社が一堂に会し、「校務で使うPCはどうあるべきか」を再定義する座談会を開催した。テーマは「校務DX×AI」「調達・標準化」「ハード設計」「ビジョン」の4つだ。
GIGAスクール構想の進展により、校務におけるICT活用は定着しつつある。一方で、教員の業務負担は依然として重く、校務の高度化・複雑化も進んでいる。こうした中、AI活用を前提とした環境整備が求められる一方で、「どのようなPCを選ぶべきか」という調達の判断基準が、新たな課題として浮上している。
2番目のテーマ「調達・標準化」では、AI時代における校務用PCを選定・調達する基準や標準化について活発な議論が交わされた。
Copilot+ PC
AI処理をデバイス上で実行するための専用プロセッサNPU(Neural Processing Unit)と生成AI利用に必要な「言語モデル」(SLM)を搭載した、マイクロソフトが提唱するAI PC。高度なAI処理をローカルで完結できる点が特徴で、応答性とセキュリティを両立する。校務においては、単なる業務効率化にとどまらず、教材作成やデータ活用、指導の高度化を支える基盤となり、教員の創造的な時間を生み出す新たな可能性に期待される。
座談会参加者
ASUS JAPAN鈴木真二氏:システムビジネスグループ コマーシャル事業本部 営業部 シニアビジネスデベロップメントマネージャー
デル・テクノロジーズ河野良亮氏:公共営業統括本部 東日本営業本部 自治体・文教営業部 アカウントレプレゼンタティブ
デル・テクノロジーズ永野純氏:クライアントソリューションズ営業統括本部 製品スペシャリスト
日本HP松本英樹氏:エンタープライズ営業統括/パブリックセクターDX推進営業部 本部長
レノボ・ジャパン元嶋亮太氏:エバンジェリスト 製品企画本部 プロダクトマーケティング部 部長
NECパーソナルコンピュータ加藤賢一郎氏:コマーシャル営業本部 パートナー営業統括 本部長代理/キーアカウント営業グループ グループ長
日本マイクロソフト仲西和彦氏:コマーシャルデバイスソリューションセールス事業本部マーケティング戦略本部長
AI時代の校務用PC、何を基準に選ぶべきか
--AI活用を前提とした時代に、校務用PCの選定基準はどのように変わり、何を重視すべきでしょうか。
鈴木氏:軽量で持ち運びやすく、日常的に使いやすいことを重視すべきだと思います。Copilot+ PCはAIの有無に関わらず快適に使える設計になっており、軽量化も大きなメリットになっています。従来の校務用PCと比べると、その違いを実感できると思います。

松本氏:文部科学省の方針も、教育におけるAI活用へと明確にシフトしています。子供たちはAIに慣れるのが早く、先生方もCopilot+ PCによって日常的にAIを使い、その価値を体感することは大きな意味があります。
今は一斉指導型の授業だけでなく、生徒に寄り添う「伴走型」の授業が求められている時代です。そのためには、先生自身がAIを使いこなし、寄り添う時間を増やすことが不可欠です。一方で、すべての先生がAIを日常的に活用するようになると、ネットワークの逼迫といった新たな課題も想定されますので、従来のPCではAIの活用が十分にできない場面も発生します。こうした状況を踏まえると、ローカルAIが使えるCopilot+ PCは、有力な選択肢になるでしょう。
永野氏:現在の校務用PCの調達要件を見ると、NPUを搭載していない従来型のCPUが前提になっているケースが多く見られます。「従来と同程度のスペックで十分」という考えです。しかし、そのような環境ではAIのメリットを十分に生かすことはできません。
だからこそ、Copilot+ PCの優位性や導入による費用対効果、校務効率化による時間削減などの利点を正しく理解していただくことが重要だと考えています。数万円の差で、校務の効率化や時間削減といった大きなメリットが得られる可能性があります。
また、AIというと対話型の生成AIをイメージされがちですが、Copilot+ PCはそれだけでなく、さまざまな機能が日常業務を自然に支援します。気付かないうちに効率化されている、という価値も大きいと考えています。

加藤氏:いくらメリットを訴えても、最終的に資金を出す側が動かなければ導入は進みません。AIや高性能PCが「贅沢品」と捉えられてしまうと、現場への普及は難しい。この認識を変えていく必要があると考えています。
近い将来、AIを使いこなせなければ仕事にならない時代が到来することは明らかです。そのような将来を見据え、AI教育の初期段階にいる子供たちに活用方法を教えないことは、大きな問題です。そして、教員自身がAIを理解していなければ、子供たちに適切な指導を行うことはできないと思います。
経済産業省などに対しては、現状の教育だけではAI時代への対応が不十分であることを示し、その改善に向けた資金支援の必要性を働きかけていくことも重要だと考えています。

仲西氏:日本の教育において、教育費を「費用」として捉える傾向がありますが、本来は「投資」として考えるべきではないかと感じています。未来を担う子供たちが将来必要な力を身に付けるためには、教育への投資が重要です。先生が知らないことや経験していないことを教えることはできません。皆で必要性を訴えていきたいですね。
NPU非搭載を選ぶリスクと、5年後の標準
--従来型のPCを選び続けることには、どのようなリスクがあるとお考えですか。
永野氏:AI PCはNPUを搭載している点が特徴で、マイクロソフトは先陣を切ってCopilot+ PC向けにさまざまな機能をリリースしています。加えて現在は、各種アプリの提供元もNPUを活用した機能の実装を進めており、すでにリリースしている企業もあります。
今後は、業務アプリやセキュリティソフトなどもNPUを前提に設計されるようになるでしょう。するとNPU非搭載PCでは、本来NPUが行う処理をCPUで代替することになり、動作の遅延やバッテリー消費の増大といった問題が生じる可能性もあります。
今後数年以内にCopilot+ PC準拠のスペックが標準化される見込みのため、今後の調達においては、従来型PCのリスクが焦点になるでしょう。現時点で校務用PCに従来型PCを採用した場合、1~3年後にはNPU前提のアプリに十分対応できなくなる可能性も考慮していただきたいと思います。
河野氏:調達の現場では、CPUの性能だけで選ばれるケースが多いですが、5年使うことを見据えて最新のプラットフォームを選ぶことが重要です。

元嶋氏:今後数年では、クラウドとローカルのどちらでAIやシステムを動かすのかという議論が本格的に出てくると思います。特に日本語処理をローカルで行うには、Copilot+ PCの基準を満たさないと厳しく、その時代はすぐそこまで来ています。そう考えると、二重投資にならないように、最初からしっかり使える基盤を整えておくことが重要です。Copilot+ PCは当初は高価格帯の製品に限られましたが、今ではスタンダードモデルに広がってきています。Wi-Fiがそうだったように、次の当たり前として普及していくと考えています。

--校務用PCの調達を「コスト」ではなく「投資」として捉えるべきという意見もありますが、この点についてどのようにお考えですか。
元嶋氏:従来型のPCを使い続けることで、動作の遅さによる待ち時間や作業の停滞が発生し、結果として機会損失や生産性の低下につながる点は見逃せません。一方で、高速で快適に動作するPCを導入するだけで、日々の業務効率は大きく改善します。こうした投資はコストパフォーマンスが高く、現場の負担軽減にも直結します。「快適なPC環境を整えることで、校務全体の質も向上する」というシンプルなメッセージをお伝えしたいですね。
教員PCを1台に、ゼロトラスト時代の最適解
--教務と校務のPC統合や、ゼロトラストの観点から見た最適な環境について、どのようにお考えですか。
松本氏:PCメーカーとしては言いにくい話ではありますが、教務用PCと校務用PCの2台持ちがまだ多いのが現状なので、これを1台に集約するのは利便性、コストの両面でメリットがありますね。またゼロトラストネットワークの整備では、教務用PCと校務用PCを1台に統合するために認証の管理やネットワークの整備が必要不可欠です。教室や職員室など学校内のネットワーク環境の強化は進んでいるので、校務DXへの予算投入や普及は、教員用PCをCopilot+ PCにするための追い風にはなると思います。

仲西氏:ゼロトラストに関して言うと、これまでの運用ではパスワードとIDに依存していますが、近年はその危険性が証明されつつあります。2025年10月ごろから多くの企業でパスワード・ID認証が突破される事例が増えていて、今後も破られる可能性は高まっています。だからこそ、これから導入を検討する自治体にはRFP(提案依頼書)作成時にパスワードにかわる、より強固な認証方式を端末要件に含めてほしいと思います。Windows Helloなどの生体認証と従来の暗号化を組みあわせた認証方式は、Copilot+ PCではデフォルトで搭載されています。これらの強固な認証方式の導入も踏まえて、Copilot+ PCを検討してほしいですね。
元嶋氏:今回の議論はPCそのものに焦点が当たっていますが、全体のコストの中でPCにかかる費用は一部に過ぎません。実際には、セキュリティや運用体制など、さまざまな要素を含めて考える必要があります。現状は、職員室内に閉じた運用で何とか成り立っている部分も多く、ガバナンスの強化が求められています。ただし、管理を厳しくするほど現場の負担が増えるという課題もあります。そこで重要となるのが、運用の負担を抑えつつ、パッチの自動適用などを含め、手間を増やさずに管理の質を底上げる効率的な仕組みの構築です。Copilot+ PCは、こうした環境のもとで計画的なアップデートが可能であり、コストとガバナンス、そしてユーザー体験を一体で捉えることが重要だと考えています。
仲西氏:重要なポイントですね。管理が不十分な場合、運用でカバーしようとしますが、どうしても不便さにつながります。だからこそ、テクノロジーの力でセキュリティを担保しながら、できるだけシンプルに運用できる環境をつくることが大切です。その点では、Microsoft Security Copilotは、セキュリティの調査・分析・対応を生成AIで支援し、担当者の負担を軽減しながら、迅速かつ一貫した対処を実現することを目指しています。
自治体が今後PCの仕様を検討する際に、Copilot+ PCを検討すべき理由と、検討しなかった場合の潜在的なデメリットについて議論が展開されました。PCは短くても3年、リース利用の場合などは5年程度利用される長期投資であるため、調達時には将来の環境を見据える必要があります。数年後にはAIの活用がさらに一般化し、多くの業務がAIを前提とした処理へと移行していく可能性が高いでしょう。その中で、学校だけが従来の環境にとどまることは、大きなリスクになり得ます。
学校現場ではセキュリティへの関心が非常に高い。しかしながら、従来と同じデバイスと運用を続ける限り、既存の脆弱性を解消することはできません。Copilot+ PCのような新しいテクノロジーを導入し、Windows Helloなどの認証技術を組みあわせることで、ゼロトラストに基づいたセキュリティ強化と認証の簡素化を両立できます。教員の負担やストレスを軽減しながら、安全性を高めることが可能になります。従来と同じ端末を選び続けるのではなく、将来を見据え最新技術の導入を検討するべきだというメッセージを送りたいと思います。

Copilot+ PCは、次世代の校務DXを支える基盤として、クラウドを前提としたゼロトラスト環境をローカルAIや端末の認証技術によって補強できる点に特徴がある。校務の効率化にとどまらず、教員が機微な情報を扱うリスクの低減にもつながるだろう。座談会での議論からも明らかなように、校務用PCは少なくとも5年先を見据えた調達が求められる。各自治体や教育委員会における教育ICT環境の整備は、セキュリティと利便性を両立しながら、教職員や児童生徒が安心してAIを活用できる持続的な基盤づくりへと進んでいくことが期待される。














