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ゲームやネット利用の是非二元論を超える、GIGAスクール時代のリテラシー

 かつて悪口、嫌がらせという目に見える形で行われてきた「いじめ」。今やオンラインゲームでもいじめが起きることがある。GIGAスクール時代の今、子供たちに伝えるべきネットリテラシーについて、J:COM情報リテラシーアドバイザーの粟津千草氏とともに考える。

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子供の3大ネットトラブルは「コミュニケーション、依存、お金」
  • 子供の3大ネットトラブルは「コミュニケーション、依存、お金」
  • 対面でもオンラインでも、相手を傷つける言葉は「犯罪」
  • 利用前に親子で対象年齢等の情報を確認しておくことが大切
  • オンラインセミナー「小・中学生のネットトラブル事件簿~現場は学校?SNS?オンラインゲーム?~」に登壇いただいたJ:COM粟津千草氏

 かつて悪口、嫌がらせという「いじめ」は対面でのコミュニケーションで目に見える形が多かった。子供たちがスマホを手にするようになると、いじめはその現場をSNSへと移していった。そして今や、子供たちの大多数が手にしているゲーム機での「オンラインゲーム」が、コミュニケーションの主流となり、いじめの現場にもなっているという。

 昨今の子供たちを取り巻く現状を整理し、学校関係者および保護者に向けたアドバイスを提示すべく、リセマムとジェイコム少額短期保険は2022年1月7日、学校関係者と小学生・中学生親子を対象としてオンライン特別講座「小・中学生のネットトラブル事件簿~現場は学校?SNS?オンラインゲーム?~」を開催した。

 ケーブルテレビや高速インターネット接続、モバイル、少額短期保険などをグループとして提供しているJ:COMでは、CSR活動の一環として、子供たちのネットリテラシー向上を図るため、関西エリア中心に小・中学校を対象とした特別出張授業「ZAQあんしんネット教室 by J:COM」を展開している。

 登壇したのは、同教室でネットリテラシーやモラルの大切さについて教えているJ:COMの粟津千草氏。オンラインゲームを切り口に、昨今の小・中学生のいじめ事情や、子供をネットトラブルから守るためにどんなことが必要か、また、ネットトラブルに直面した際の対応について解説した。本記事ではイベントの内容をもとに、学校現場において子供達に伝えるべきポイント等をまとめた。

3大ネットトラブル「依存」「お金」「コミュニケーション」

 小・中学生に多く見られるネットトラブルについて、粟津氏は3点を指摘する。まず「依存」。これはインターネットが登場して以降、常に問われてきたものだ。長時間利用してしまうことで日常生活に支障が出る、宿題やお手伝いといったやるべきことを蔑ろにしたり、忘れたりする、インターネットをチェックしていないと落ち着かないといった状態を指す。

 そして「お金」。特に現在はオンラインゲームの世界にのめり込み、そこでの快適さを優先するがために、課金をしてしまう。粟津氏も「オンラインゲームで、いつの間にか子供が課金していた等のトラブルもよく聞く」と保護者から受けた相談について紹介した。

 そしてもっとも多くの学校関係者を悩ませているのが「コミュニケーション」だろう。とりわけ小学校では、GIGAスクール構想とも相まって、インターネット上でのコミュニケーションを練習している真っ最中だ。「多感な時期だからこそ、文字でやり取りをする中で誤解が生じたり、喧嘩になったりということが起きやすいという点でも注意が必要」と粟津氏は話す。

「使用前」の確認がポイント…安全に活用する力

 話題は「1人1台の端末を使って新しい学びを実現する『GIGAスクール時代』の今、子供たちが身に付けるべき『ネットリテラシー』」について。まず「リテラシー」そのものについて、粟津氏は「活用する力」と定義した。つまり「ネットリテラシー」とは、「スマホやタブレット、パソコンに振り回されるのではなく自分自身が意思を持って使いこなす力」のこと。

 デジタル端末使用時の扱い方については学校内外において、子供たちに伝える場面が多く、ネットリテラシーとして浸透してきている。今回のイベントの新たな着眼点は「活用する前の段階で、安全に使うための情報を確かめておく必要がある」という点だ。たとえば、イベント中に粟津氏から示された、この「A・B・C・D・Z」というアルファベット。何を意味するかわかるだろうか。

 これは「CEROレーティングマーク」という、ゲームにおける推奨年齢を示すアルファベット。Aは全年齢、Bは12歳以上対象というように、ゲーム内容によって推奨される対象年齢を表している。「活用する前」の情報確認をお勧めする理由として、粟津氏は「インターネットの世界は情報拡散力が非常に高く、やってしまってからでは取り返しがつかないことが多いため」と話す。ゲームだけに止まらない。インターネットに繋がるあらゆるものを使う際には、アナログなもの以上に、対象年齢や利用規約を確認したり、安全に使うための設定を調べたり等、安全に使うための情報を事前に親子で一緒に確認するように子供たちに促すことが大切だ。

トラブルの解決、大人はあくまでも「ファシリテーター」

 続いて、メインの話題となる「オンラインゲームにおけるいじめ」について。イベント中のチャット欄に寄せられたコメントでは「ゲームにおけるいじめ」のイメージが付きにくい方や、オンラインゲームそのものに関する知識がない保護者も多数見受けられた。だからこそ、大人と子供の認識の乖離が起きやすく、解決にも時間がかかってしまうのだ。

 オンラインゲームは、昨今のコロナ禍、対面で遊ぶ機会を奪われた子供たちのコミュニケーションの場として機能している。家にいながら友達同士で一緒に遊べて、おしゃべりもでき、オンラインゲームを通じて人とつながっていることが実感できる。一方で、ゲームに対して批判的な大人が多いことを察している子供たちも多く、それに後ろめたさを感じ、隠れてオンラインゲームをする場合も往々にしてある。「オンラインゲームは危険だからダメ」と頭ごなしに禁止する家庭もまだ多い。

 実は「オンラインゲームを否定する」という行為は、トラブルが起きた際に重大な問題を引き起こすことになりかねない。隠れてゲームをしていた後ろめたさから、大人に打ち明けることができず、1人で悩んでしまったり、抱え込むことで問題がさらに大きくなってしまったりと解決のタイミングを見失ってしまうからだ。

 大人は自分がゲームをしたことがなくても、子供が楽しそうにやっているなら「このゲームはきっと楽しいものなんだ」ということを一旦受け止めてあげることで、会話がしやすくなる。日常の子供たちとのコミュニケーションの中でも、その子なりの「好き」を尊重し、そこから会話を始めることで、子供から素直な反応を引き出しやすい関係性が構築できるだろう。

 加えて「トラブルになった時はどう対応すれば良いか」という問いかけに対し、粟津氏は「子供がトラブルになったときに大人が解決しようとすると、だいたい失敗する。大人はつい口を出したくなってしまうが、そうすると子供が自分で解決する力が育たないどころか、『何かあれば親や大人が解決してくれる』と甘え、また同じトラブルが起こりやすくなる」と指摘。そのうえで大人に必要になるのが「ファシリテーションスキル」。トラブルが起きた際に指示するのではなく、子供や相手がどうしたいのか当事者同士の話を整理し、意見の交通整理をすることだ。大人自身が「わからない」ことと慌ててしまわず、落ち着きをもって子供に接し、解決しようとしないことが大切になる。

ゲームとリアルの境界を見定める

 ゲームは楽しい一方で、夢中になって依存するリスクもある。バトルで勝敗をつけたり、競争心を煽られたりすると、成果を追求しすぎてのめりこんだり、人に勝ちたい意識が強くなりすぎたりと、トラブルにつながりやすいことも気をつけるべきポイントだ。

 「オンラインゲームにおけるいじめ」について粟津氏は「『あの子は下手だから』とゲーム上で仲間外れにするだけでなく、学校でもその関係を引きずっていじめに発展するケースや、熱中するあまりゲーム中のチャットや会話でつい乱暴な発言をしてしまうことがある。言った本人はケロッと忘れていても、言われた子は深く傷ついて学校に行けなくなるケースもある」と事例を紹介。教室における仲間割れやいじめの発端がオンラインゲームにある場合も考えられる。原因究明に際しては、現場の先生方や、保護者のファシリテーションスキルが問われるところだろう。楽しさの裏に、夢中になりすぎると周囲が見えなくなって喧嘩のもとになったり、いじめや無視に繋がったりするというゲームのデメリットも理解したうえで「バランスと適度な距離感が大事」と話した。

対面でもオンラインでも、相手を傷つける言葉は「犯罪」

 ゲームを介して多くの人とつながることができるオンラインゲームでは、会ったことがない人とコミュニケーションをとるからこその危険性が潜んでいる。

 「知っておいてほしいのは、相手を深く傷つける言葉は犯罪になる可能性があること」と粟津氏は繰り返す。ゲーム中のやり取りだけでなく、SNSのメッセージや、コメント欄等、いかなる場面にも当てはまる。ネットで相手を傷つけたことにより、名誉棄損罪や侮辱罪、傷害罪等に問われた事例もある。

オンラインゲーム中のふとした発言がトラブルに!?
もしもに備える「ネットあんしん保険」

 「ネットでは匿名を使うから、誰が言ったか、誰が書いたかなんてわからない」と安易に考えるのは大間違い。イベントでは粟津氏から、インターネット上での発言者を特定する手順が紹介された。たとえば誰かにひどい悪口を書かれた場合、下記の要領で申請すれば特定できる可能性がある。

(1)SNSなどのサービスを運営する会社に発信者情報開示請求を書類で送る。
(2)サービス運営会社が内容を審査したうえで情報開示が妥当だと判断すれば、相手の「IPアドレス」(ネット上の住所にあたるもの)を提供してくれる。
(3)相手が利用しているプロバイダにそのIPアドレスを伝え、発信者情報の開示請求をする。
(4)プロバイダで審査を行い、悪口を書いたと思われる利用者(契約者)に連絡がいき、その人物が特定される。

 必ずしも相手の情報を教えてもらえるわけではないが、この仕組みで調べて相手が特定できた場合、弁護士を入れての裁判になる可能性もあるのは知っておいた方が良いだろう。

 粟津氏が、ネットでのコミュニケーションでぜひお勧めしたいと話すのは「言葉遣いに気を付けながら、相手が嬉しい言葉をたくさん贈ること」。バトルをメインとしたゲームでは、なおさら意図的に「ありがとう」「助かった」「一緒にプレイできて楽しかった」というようなポジティブな言葉を心がけてみてほしい。

なぜインターネット上のコミュニケーションが危険なのか

 イベント中のチャット欄には、「親が反対するので、ネット上の友だちと内緒で交流している」という声もあった。

 子供が多くの人と交流し、相手から学び、コミュニケーションを楽しむことを禁止する大人は稀だろう。本来であれば、そこに対面も非対面も違いはないはずだ。インターネット上でのコミュニケーションが危険とされる所以をここで整理しておきたい。

 オンラインでは、同じ趣味をもっていたり、共通の友人がいたり、同じことに関心があったり、何らかの共通点をきっかけにコミュニケーションが始まることが多い。とりわけゲーム上では、まず「このゲームが好き」という共通の話題があるところからコミュニケーションが始まるので、どうしても相手に対して親近感をもちやすく、気を許しがちだ。

 対面でのコミュニケーションは、発言や行動、表情だけでなく、服装や仕草など複合的な要素から相手を判断することができる一方で、オンラインでのコミュニケーションは自分に見えている相手の側面が非常に少なく、判断材料に乏しい。その中で、相手を見極めていく必要がある。たとえ「自分と同じものが好き」であっても、その理由を抜きにして、相手を信用できるかどうかを見極めることが重要になる。

 子供がオンラインゲーム上で知り合った人に会いに行き、誘拐される事件も発生している。ゲーム中に相手がサポートしてくれたり、やりとりの中で優しい言葉や声で話しかけたりしてくれても、自分がもった印象はあくまでも相手の1つの側面でしかないことを肝に銘じなければならない。たとえ友達のアカウント名であったとしても「なりすまし」の可能性も十分あり得る。粟津氏も「ネット上の相手が本物なのかをまず疑い、信用しすぎない姿勢が必要。冷静になって『本当にそうなんだろうか』と少し疑ってみたり、違う角度からみてみようという意識をもつことが大事」と伝える。一方で「隠れてコソコソやるのではなく、楽しいと思える点を話したり、危険な目にあっていないという実績を保護者や大人にみせると安心するはず。子供から大人への地道なPR活動も大切」と、大人とのコミュニケーションに悩む子供たちにエールを贈った。

孤独感に付け込まれないためのルーティン

 最後に粟津氏は、2011年からネット講座の講師として学校に赴き、小・中学生に接している経験から「ネットトラブルは孤独や寂しさ、虚しさが大きくなると遭いやすいと感じている」と指摘した。子供を狙う危険人物は、そうした心の隙や寂しさに付け込んで優しい言葉をかける等して、巧妙に取り入ってくる。

 粟津氏は「孤独感や虚しさを払拭し、隙をなくすためにも、子供の自己肯定感を高めることが大切」と話す。自己肯定感を高めるために、もっとも有効なのは「今日も1日ありがとう。また明日」と伝え合うことだというが、思春期の子供たちにはなかなか難しいことだろう。そんな小・中学生に向けて「自分で自分自身に声をかけても効果がある。継続すると次第に自己肯定感が醸成されるので、ぜひ試してみてほしい。自分自身も周囲も尊重しあったうえで、楽しくネットを使ってもらいたい」とのメッセージで締めくくった。

大人も子供も、幸せになれるネットの使い方

 大人が抱く「ネットやオンラインゲームは危険」という古い価値観を軽く乗り越え、GIGAスクール時代の現実的なネットの活用法を伝えてくれた今回の特別講座。今大人に必要なのは子供をネットから遠ざけることではなく、ネットのリスクと安全な使い方を子供とともに考え、学び、みんなが幸せになれる使い方を一緒に話し合うことなのだろう。1人1台端末の実現により、自由に情報にアクセスできる世界が実現した今、大人と子供がネットに関する対話を続けていくことこそが、トラブル回避における最善策なのかもしれない。

万一の備えとしての「ネットあんしん保険」

もしものトラブルに備える「J:COMネットあんしん保険」

 日常生活に切っても切れない存在となったインターネット。デジタルネイティブの子供たちに、インターネットのメリット・デメリットを伝えると同時に、ジェイコム少額短期保険では「ネットあんしん保険」を提供している。ネットトラブルはいつ誰が遭遇してもおかしくない今、もしものときに備えるために、弁護士相談や損害賠償、法律相談等を補償の対象としている。月額保険料750円で家族全員に補償が付くのも魅力。こうしたサービスに関する認知を、学校現場でも広げていってほしい。

特別出張授業「ZAQあんしんネット教室 by J:COM」について
ケーブルテレビや高速インターネット接続、モバイル、少額短期保険などをグループとして提供しているJ:COMでは、CSR活動の一環として、子供たちのネットリテラシー向上を図るため、関西で対象の市町村向けに特別出張授業「ZAQあんしんネット教室 by J:COM」を展開している。オンライン授業対応可。出張授業開催のお問い合わせはこちらから。
《編集部》

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