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新型コロナウイルスと現代の働き方…Makeblock菊池裕史氏

 Makeblock Japanカントリーマネージャーの菊池裕史氏に、「新型コロナウイルスと現代の働き方」をテーマに寄稿いただいた。

教材・サービス 授業
 緊急事態宣言が解除され学校は再開されたが、学校現場では授業時間の確保に苦心し、夏休みを大幅に短縮するなど、私たちがこれまで経験したことのない状況となっている。また休校中には、大人たちも否応なしに働き方改革を求められるかたちとなった。

 こうした状況において、ICT活用スキルの重要性を身をもって感じた方も多いのではないだろうか。そこで本企画では、Makeblock Japanカントリーマネージャーの菊池裕史氏に、「新型コロナウイルスと現代の働き方」をテーマに寄稿いただいた。

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な流行を受け、社会は大きな変革のときを迎えています。ニューヨークやロンドンをはじめとする世界の主要都市では、強制力を伴う外出禁止や飲食店の閉店要請などが行われ、私たちが日常生活として捉えていた生活様式は、今私たちが過ごしている日常とは大きくかけ離れたものになりました。働くということに目を向けてみましても、他者との対面での接触が制限され、同僚との連続的なコミュニケーションがとれない今の状況は、21世紀における仕事のあり方を見直すきっかけになっているのではないでしょうか。

 日本では、1987年の労働基準法改定を受け、1988年よりフレックスタイム制が導入されました。それ以来、人々の働き方についての議論は継続的に行われており、近年では「働き方改革」というスローガンのもと、働く人それぞれの事情に応じた多様な働き方を支援できるよう、社会と企業のそれぞれが協力をしながら変革を続けています。

 新型コロナウイルスが流行している現在の日本では、働く人それぞれの事情がより明瞭に示されることとなり、たとえば、保育園が休園になり、子どもの世話をしながら在宅勤務を行う方や、学校が休校措置になり、子どもの学習を自宅で支援しながら仕事を行う方の姿を目の当たりにすることになりました。このように、それぞれの事情を内包した上で働くことを考えるときには、仕事をする場所や勤務時間が働くことの本質ではなくなります。言い換えると、成果や結果を示すことの重要性が以前にも増して高まっていると言えるのではないでしょうか。

不確実な社会と創造的な課題解決



 それでは、このような状況において求められる成果とは、私たちが今までに用いてきた「成果」という言葉と同じ意味をもつものになるのでしょうか。私は、不確実な環境で成果を出すという観点において、今までに使われてきた「成果」という言葉とは根本的に質を異にするものであると考えています。今までは、実施する活動や方法についてあらかじめ条件が与えられたうえで「成果」を出すことが求められていましたが、現在では、過去に前提とされていたものが前提ではなくなり、何が正解かわからないなかで成果を求められる状況になってきていると思います。

 このような不確実な状況において成果を出し続けるためには、自分自身が現在置かれている状況を正しく理解したうえで、課題を発見し、創造的に課題を解決しなくてはなりません。今までにも、課題発見や課題解決が重要であるという指摘はさまざまな文脈においてなされてきましたが、新型コロナウイルスによる半ば強制的な働き方の変革は、その重要性をさらに明らかなものにしたのではないかと思います。

 それでは、次の世代として位置付けられる子どもたちも、私たちと同じように課題発見や課題解決のスキルが求められるのでしょうか。私は、現在にも増してその重要性が認められていくのではないかと思います。それは、今回の新型コロナウイルスはあらかじめ定められたかたちで流行したものではありませんが、現代社会を変革する主要なドライバーである情報通信技術の進化は、今後より速度を増して進むことが想定されるからです。

 コンピューターの処理能力や通信速度といった基本的な処理能力は、今後も一定の速度をもって進化することが期待されていますが、現在注目されている深層学習や大規模データ処理のようなイノベーションは、このような処理能力の増加を引き金として生み出されたものです。情報技術の進歩が社会構造を次々と変革し、抜本的な社会の変革が断続的にもたらされることを考えても、今を生きる子どもたちは課題発見と課題解決のスキルを高めておく必要があるでしょう。

STEAM教育とは何か



 それでは、課題発見と課題解決のスキルはどのように養うことができるのでしょうか。文部科学省や経済産業省は、そのようなスキルを養う学習活動のひとつとしてSTEAM教育を位置付けています。

 STEAM教育とは、米国で技術科の教員をしていたヤークマンという女性によって2006年に初めて使われた言葉であり、現在は科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、アート(Art)、数学(Mathematics)の5つの領域を統合的に扱う分野として知られています。世界中の教育機関では、実際的な課題解決をテーマとしたプロジェクトが数多く行われており、子どもたちは日々課題発見と課題解決を目的としたプロジェクト型の学習に取り組んでいます。

 このようなSTEAM教育の文脈で課題発見や課題解決を行う際に重要になるのが、コンピューターとインターネットの力を最大限活用することです。たとえば、「地球温暖化について調べ、温暖化を抑止する方法を考える」というプロジェクトについて考えてみましょう。温暖化について調べるリソースとして書籍だけが与えられているのであれば、過去数十年の主要都市の平均気温の推移を本から引用するような活動がおもな調査方法になるかと思いますが、コンピューターとインターネットを活用することができれば調査の方法が劇的に変わります。

 たとえば、世界の各都市が公開している日毎の気温が記載されたオープンデータをダウンロードし、都市別に気温上昇の度合いをグラフで示すことができますし、それぞれの年の中でセ氏30度を超えた日数がどの程度あったかということも簡単なプログラミングで示すことができます。コンピューターを使うことによって解決できる課題の幅を広げることの意義はプログラミング教育の文脈でも語られていますが、STEAM教育においてもコンピューターとインターネットの活用は重要なポイントになります。

Makeblockの取組み



 このようなSTEAM教育を行うためのツールを開発し、学校をはじめとする教育機関に提供している企業が、私が所属しているMakeblockです。Makeblock は2013年に中国の深センで設立され、STEAM教育の分野に特化して事業を展開しています。プログラミング教育を行うための教材開発に留まらず、データを取得するための各種センサーや、3Dプリンターやレーザーカッターといったプロトタイピングのためのツールもあわせて提供しています。

 私たちMakeblockは、すでに140を超える国や地域において事業を展開しておりますが、現在、日本での事業展開を急速に拡大しています。それは、STEAM教育を推進するための土壌が日本の教育機関には備わっていると確信しているためです。課題発見や課題解決を学習の目的としてプロジェクトを行うためには、学びをサポートする教員が適切な技術をもち、学ぶ子どもたち自身が一定水準のリテラシーをもつことが重要です。この観点において、日本の教育機関は高水準のSTEAM教育を実施するための準備ができていると考えられます。

 一方で、STEAM教育を実施するための課題も山積されています。特に、学習環境におけるICT環境の充実、教員の知識と技術の向上、学習指導要領と対応させたカリキュラムへの統合が主な課題になると考えています。ICT環境の充実についてはGIGAスクール構想をはじめとするさまざまな政策に期待したいと思いますが、残る2つの課題につきましては私たちも徐々に取組みを始めています。

 前者につきましてはSTEAM on Boardというプロジェクトを開始し、オンライン・オフラインでの教員研修や実践校への機材提供などを行っています。後者につきましては、東京大学大学院 情報学環 山内研究室が行うSTEAM教育に関わる研究を支援することで貢献していきたいと思います。子どもたちが現代を生き抜くためのスキルを培うことができますよう、今後も新たな事業を進めて参りたいと思いますので、ぜひご注目頂ければと思います。

菊池 裕史(きくち ひろし)
Makeblock Japan カントリーマネージャー。GoogleにてGoogle for Education 日本統括責任者として勤務した後、ソニー・グローバル エデュケーションにて、ロボット・プログラミング教材 KOOV の事業責任者として勤務。NPO法人 Collable理事および札幌新陽高等高校CIOを兼任。
《菊池裕史》

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