大阪府大阪市の事例について
最初は、大阪市教育委員会事務局 山本圭作氏による事業概要の説明。大阪市は全市で492校(園)、教職員数約1万7,000人、児童生徒数約18万2,000人。今回の実証校は5校で、約1,000名の児童生徒の情報をもとにデータ可視化システムが構築された。
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本事業で掲げられたテーマは以下の3点。
1.学力・体力の向上
2.安心・安全な学校
3.学校運営の充実
これらのテーマの実現を目指して、すでに導入済みの校務系システムの活用と、学習系システムの新規導入からデータ可視化システムを構築し、新たな価値を提供していく。
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データ可視化システムでは、出欠情報、活動記録、保健室利用記録等の校務系データと、デジタルドリルシステム「やるKey」、デジタルテストシステム「リアテンダント」、児童生徒の心の状態をキャッチする「心の天気」の学習系データを連携。それらの情報を集約し可視化したものが「ダッシュボード」となっている。

ダッシュボードは「学級ボード」「児童生徒ボード」「個別の教育支援計画/個別の指導計画」で構成されている。
「学級ボード」は、学級での配慮事項等のアラートを日ごとで表示。教員の気付きを促す。
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「クラスのようす」は学級の基本情報、子どもたちのようすや共有事項を表示。「タイムライン」では、直近の出欠や「心の天気」、保健室利用状況の確認が可能。「アラート機能」では、連続3日以上、過去30日間の割合が5%以下などの閾値を設定すると、「心の天気」で雨や雷の状態が続いている、欠席が続いているなどのアラートが表示される。「生活のようす」では、学級の傾向を迅速に把握でき、安心・安全な学校運営を支援。「学習のようす」は、学力の定着をエビデンスから確認、学力向上の支援に活用できる。
「児童生徒ボード」では、子どもひとりひとりの校務系および学習系情報を集約・可視化する。「家庭のようす」は、家族構成や連絡先、個別の配慮すべき事項などが確認できる。「生活のようす」は、教職員間での共有情報や子どものようす、出欠や「心の天気」の状況、「学習のようす」では各教科の成績、習熟度などが確認できる。
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「個別の教育支援計画/個別の指導計画」では、きめ細かな個に応じた指導を支援。支援が必要な子どもの情報を共有し、適切な支援につなげていく。書類はデジタル化され、効率的な作成および帳票の出力も可能だ。
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事例1:データを集約することによる「チーム学校」の実現
事例1は、大阪市立滝川小学校による「データを集約することによる「チーム学校」の実現」。滝川小学校は、大阪市北区にある明治5年創立の学校で児童数は272名。発表は原宏次校長が行った。滝川小学校では、校務系データと学習系データの有効活用により「学校力を向上させるチーム学校」の実現に向けて取り組んだという。
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学校の教育目標「ひとりひとりが大切にされる学校」の実現を目指して、より明確な子ども像を捉える必要があると考えた。子どものもつさまざまな情報を明確にし、見える化・共有化を図り、エビデンスを伴う学校経営に取り組んだ。
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システム導入により教員の子どもに関わる時間、授業準備、評価活動にあてる時間が増えた。
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「心の天気」は、児童が登校しタブレットを用いて「はれ」「くもり」「あめ」「かみなり」の4段階の気持ちを表現するもの。クラス全員でやることで、素直に表現する子どもたちの姿が見られた。今では子どもたちと教員の毎朝のコミュニケーションツールとなっている。

また、日常所見記録「いいとこみつけ」の活用によって、意図的に多くの評価機会が設けられ、指導と評価の一体化が進んだ。多くのデータ入力とタグの分類で、必要なデータの抽出が容易に。エビデンスを伴う明確な子ども像がリアルタイムに可視化・共有化されることで、個に応じた支援へつながっていく。

デジタルドリルを授業の終末場面で活用し、より個に応じた支援の充実につながった。
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放課後に「いいとこみつけタイム」を実施。1日の教育活動を振り返って「いいとこみつけ」に入力。指導と評価の一体化の促進、全教職員による明確な子ども像の共有に役立てている。
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管理職のデータ活用例
午前9時の段階で、全クラスの学級ボードを確認する。欠席や遅刻が増えている児童の詳しい情報を得るために児童生徒ボードに遷移。
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学級ボードでは、タイムラインには時系列の出欠状況、保健室利用状況、「心の天気」、「いいとこみつけ」が並んでいる。欠席や遅刻のアラート情報は赤字で表示。気になる児童名をクリックし児童ボードへ遷移。その児童のさまざまな情報が一覧表示される。

「心の天気」を見ると「くもり」「あめ」「かみなり」と続き、その日に遅刻。保健室の利用では全身倦怠で休んでいたこともわかる。このときに養護教諭のメッセージがあれば確認可能。この児童に関していろいろなシグナルが出ている。
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続けて「いいとこみつけ」の共有トピック。ここにも午前中は腹痛を訴える傾向があるとの記入がある。さまざまなエビデンスをもとに担任や関係教員と対話し、この児童についての見取りをより深めて、対応が必要な場合は直ちに改善に向けて取りかかる。
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成果の紹介
システムに任せるものは任せることが大切で、それが教員の負担感を軽減し、教員が人対人で関わる時間が増える。また、今まで担任のみがもっていた子どもの情報をオープンにし、ひとりの子どもを多くの教職員が見るように。そのため教職員相互のコミュニケーションが深まり、子どもの多面的な見方へとつながっている。個に応じた指導の可能性を広げて、教育の質、学校力が向上してきているという。
事例2:アラート機能を活用した「学校改革」の実現
続いて実証事例2「アラート機能を活用した『学校改革』の実現について」を大阪市立大和川中学校 福島清文校長が発表。
大和川中学は、大阪市南部の住宅街に位置し、生徒総数は328名、教員は30名で採用から10年未満の教員が78%を占める。福島校長が赴任した5年前はいわゆる荒れた学校だった。そこで、福島校長は安全に安心して通える学校を目標に改革に取り組んだ。そして改革の有効なツールとしてこの実証事業に取り組んだという。
着任後すぐに手掛けたのは、授業技術の確立と生徒のやる気を引き出すこと。次に学習環境の整備とICTを活用した授業の改善だった。生活指導に追われ、学力向上の取組みが進まなかった教員は、ICTを活用して授業力を高め、学校経営も充実したという。

データ可視化システム
保健室利用や出席、欠席、日常所見などの校務系データと「心の天気」や単元定期テスト結果の学習系データを連携。表示されるデータをもとに、生活指導や学習指導における課題の早期発見や対応、教員指導に活用した。
中でも、新着情報やサマリ情報、閾値を学校ごとに設定できる「アラート機能」は、教員が気付きを得て、生徒への声掛けから、個に応じた指導につなげられた。管理職も日々の状況がわかり、教員への指導・助言を適切に実施することが可能になったという。
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具体的な事例
ベテラン教員の日常所見、養護教諭の保健室利用状況、「心の天気」などの情報から、担任が気付きを得て生徒への声掛けや指導をしたところ、家庭でのトラブルが発覚し、適切な対応ができたという。指導後の「心の天気」では、その後の状況も確認・分析でき、事後の対応検討や教員の支援にもつなげられる。

また、学習データのアラートから、得意な教科の成績が落ち込んでいる生徒に気づき、日常所見や「心の天気」などを確認後、個別に声掛けして苦手分野を把握から指導につなげた。次のテストでは生徒から「できたよ」という声があり、学習意欲も改善方向に進んだ。教員は、単元テストの設問や観点別の正答率を瞬時に把握できるため、ピンポイントで改善点をつかめる。また教員間での情報共有や研修が進み、お互いの授業について学び合う姿勢もみられ、授業の改善や再テストを的確に実施できた。
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福島校長は、出勤すると学級ごとのすべての着信情報とアラート情報の確認が習慣となったという。管理職の経験や知見をもとに、気づきの観点が不足していないかを確認、教員に声掛け・指導。データにもとづく声掛けは、教員の納得性も高まり成長につながっている。また教員自ら補習授業の提案があるなど、教員の参画が積極的になった。
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成果の紹介
さまざまなデータによる気付きが得られ、管理職からの支援により指導力も向上、生徒へのきめ細かな個の指導につながることで、生徒自身の成長も感じられた。福島校長は、システムを活用することで学校経営の基盤が構築され、教師と生徒が共に学び育つ、学校改革に結び付いたと振り返った。
実証校での「データを活用する教員の一日」
実証校では日常的にデータを活用した教育活動が定着。データ活用をする教員の一日は山本圭作氏より動画で紹介された。実践事例を交え、朝、授業、放課後の各時間帯が説明された。
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朝の時間帯
出勤後パソコンを起動し学級ボードを開く。新着情報やアラートが表示されている子どもの情報から、声掛けが必要な子どもがいないかを確認。しばらくすると保護者から欠席連絡が入りはじめる。「児童生徒ボード」で児童生徒の状況がわかるため、きめ細やかな保護者対応ができる。教室に移動して出欠・健康観察を入力。体調不良を訴える児童生徒の情報などを養護教諭と即時共有。「心の天気」の入力状況を見ながら子どもたちへ声掛けすれば、子どもの気持ちのわずかな変化にも気付ける。
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授業の時間帯
デジタルドリル「やるKey」で児童は習熟度に合わせて学ぶ。授業前に学級ボードを確認し、クラス全体の「心の天気」の状態や単元テストの結果、習熟度などをみて授業に臨む。単元の仕上げには「やるKey」を活用。ドリルの進行状況や習熟度を表すヒートマップを見せながら、個に応じた指導を実施。「リアテンダント」を用いて自作教材のテストを実施。テスト終了後、解答用紙をスキャンし、串刺し採点で大幅に採点業務を短縮。得点も即時に自動集計され、観点別や設問ごとの解答状況がすぐに把握できる。
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放課後の時間帯
単元テストの結果、誤答情報などから個々の生徒の弱みを分析。個々のつまずきなど、習熟に応じた指導ができる。委員会・クラブ活動などを通して接する担任以外の先生も、子どものようす、活動についてその場で登録可能。学級ボード、児童生徒ボードで、学級や各児童・生徒の状況を確認しながら、ベテラン教員が若手教員にアドバイスし、エビデンスをもとに的確な指導につなげる。
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新たな気付きから学校が変わる
今回の実証事業は「調査報告兼次世代学校支援事業ガイドブック」にまとめられ、大阪市の全校へ配布、管理職対象の事業報告会や教員対象の実技研修会が実施される予定で、2020年9月には、419校の小中学校16万5,500人の児童生徒ボードが提供されるという。
大阪市の取組みは、教員の主観に加えて客観的なエビデンスから、子どもを主体にした教育活動がさらに深まっていく可能性があると思われる。また、発表された校長先生お二方の声からは、学校運営や改革にも多くの有益な面があることが感じられた。大阪市の今後の動向に注目したい。