立命館小学校の2019年度の卒業生は、男子60名、女子50名の計110名。なお女子2名が留学中のため、式に参加した卒業生は108名となった。3月3日から休校となったために、卒業式の練習はまったく行うことができず、卒業生は当日朝10分だけのリハーサルを実施して、本番に臨んだという。

Teamsライブイベントを利用し卒業式をライブ中継
今回のライブ配信では、保護者から「遠方に住んでいる祖父母も見られるので嬉しい」という声もあったとのことで、当日の視聴者数は約220アカウントとなった。卒業生1名あたり約2アカウントで視聴された計算になる。なお、1台の端末を複数名で視聴したケースもあると考えられるため、視聴者数はさらに多い可能性がある。
ライブ配信には「Microsoft Teams」の「Teamsライブイベント」機能が使用された。配信者の立命館小学校が、ライブイベントに参加するためのURLを発行。アカウントをもっていなくても、ログイン不要で遠隔地からPCやスマートフォンなどを通じて、ワンクリックでイベントに参加できる。また保護者へは、今回のライブ配信の参加に必要なURLが、保護者専用メールによって通知されたという。
感染症予防に数多くの配慮があった卒業式
卒業式は、朝の9時30分から始まり、卒業証書授与、後藤文男学校長の式辞、教職員による卒業生への贈る言葉などが、およそ1時間に渡って行われ、入場から退場までのすべてのようすがライブ配信された。
保健衛生上の観点から、列席者は全員がマスクを着用、席を一定の距離に離して並べて、R組、I組、T組、S組の4クラスの卒業生が着席した。また、立命館小学校・中学校・高等学校の堀江未来代表校長、立命館小学校の後藤文男学校長、長谷川昭副校長が壇上へ。教職員は、児童後方の観覧席に座った。


通常、立命館小学校の卒業式では、3曲ほどの児童による合唱があるという。今回は、感染症予防の観点から合唱は行わず、学園歌のみが放送によって流された。
続いて、立命館小学校・中学校・高等学校の堀江未来代表校長から、卒業生ひとりひとりに卒業証書が授与された。

後藤文男学校長による式辞の冒頭、今回の卒業式に至った経緯が説明された。現在、日本だけでなく世界中が新型コロナウイルスと戦っている。子どもたちをウイルスから守るために休校し、卒業式では感染リスクを減らすために卒業生と教職員だけの参加にした。後藤学校長は「皆さんが元気に前に向かって歩んでいくために、心をこめた卒業式にしたいと思います」と温かい言葉を投げかけた。
立命館小学校では、目指す児童像として以下の「五つの誓い」を掲げている。
一、わたしたちは、かけがえのないひとりひとりの生命を大切にします。
一、わたしたちは、言葉を大切にし、心を磨いていきます。
一、わたしたちは、知りたいという気持ちを大切にし、あらゆることから学び続けます。
一、わたしたちは、たくましく生きていくために必要な根っこをきたえます。
一、わたしたちは、身に付けた力を、進んで他の人に分かち伝えていきます。

式辞の中では、この「五つの誓い」を基本として、卒業生がこれから生きていく指針となる言葉の数々が伝えられた。
最後は、教職員による卒業生への贈る言葉。入学からこれまでのさまざまな行事や出来事、卒業生たちのようすなどを中心に、数々の思い出が綴られた。
各クラスの担任の先生からは、立命館小学校で大切にしている「培根達支」「五つの誓い」「生命を輝かせること」などの言葉から自分たちが大きく成長してきたこと、夢に向かって学び、人のために頑張り、良き伝統を残して、お互いの良いところを見つけて仲間とともに成長することや、支えてくれた保護者へ感謝することの大切さも投げかけられた。

この教職員から卒業生への贈る言葉は、もともと前半の6年間の思い出を卒業生が受け持ち、後半の卒業生へのメッセージは5年生が発信する予定だったという。今回、在校生が卒業式に参加できなくなり、休校によって卒業式の練習ができなかったため、すべてのパートを教職員が順番に呼びかける形に変更。なお、卒業生が受け持つ予定だった前半部分は、2月から各クラスの学級委員が集まって話し合った内容をもとに、「Microsoft Teams」の機能を使って共同編集し、2月末には原稿を完成させていた。
贈る言葉が終わると、観覧席の教職員をはじめとして、会場全体が温かい拍手に包まれた。そして、卒業生が退場するとライブ配信も程なく終了となった。
後日、立命館小学校の後藤文男学校長から下記のコメントが寄せられている。
「臨時休校にともなって、卒業式を卒業生と教職員だけで実施すると判断したことで、保護者の皆さまに残念な思いをさせてしまいましたが、本校として何ができるかを検討する中で、ライブ配信の支援プログラムを知り、日本マイクロソフトに相談しました。本日これまで見たことがないような卒業式のライブ配信を実現でき、本校にとっても画期的な取り組みになったと感じています。」
卒業生の表情を保護者へ…配信者の想い
立命館小学校では、日頃から先進的なICT教育を推進しており、マイクロソフトがグローバルで認定している教育ICT先進校「Microsoft Showcase Schools」にも選出されている。また、Office 365のライセンスを保有していることから、今回はこのライセンスの中で「Teamsライブイベント」を実現した。
「Teamsライブイベント」は、Office 365 A3またはA5ライセンスを保有していれば誰でも利用できるが、日本マイクロソフトでは、今回の休校期間中に遠隔授業を行えるよう、教育機関に向けてOffice 365 A5を6か月間、無償で提供している。このため、現在はライセンスを保有していない教育機関も「Teamsライブイベント」の利用が可能だ。
今回のライブ配信の実現は3月6日、日本マイクロソフトが立命館小学校に、#学びを止めない未来の教室の「Microsoft Teamsでライブイベント」を紹介したところに遡る。3月9日に立命館小学校から相談があり、日本マイクロソフト社内のTeamsにおけるプロジェクト用スレッドに、社内関係者を適宜招待して対応方法やサポート内容等のすり合わせが開始された。3月10日には、立命館小学校と日本マイクロソフトの関係者によるTeamsでの会議が実施。このときに、カメラを活用して会場や設備の状況を事前に確認したという。3月12日までに、双方の関係者がメールやTeamsで連携しながら配信の準備を進め、3月13日の設営準備を経て、3月14日の卒業式本番に臨んだ。ライブ配信の決定から本番までわずか6日間、実質4日間での準備だったという。
日本マイクロソフトが主にサポートしたのは、Surfaceなどの動画配信用の機材と配信に関わるスタッフ、配信ノウハウの部分で、バーチャル会議サービスなどを提供するコミュニ クラウド ジャパンの協力も得た。会場では、日本マイクロソフトの社員が会場後方から全体を撮影するカメラ、ステージ上で卒業生たちが卒業証書を受け取るようすなどを撮影するカメラの2台を配置。会場脇にはライブ配信用の端末としてSurface Book 2とSurface Pro 7が利用された。

日本マイクロソフトによると、メールやTeamsを活用して密に連携をとって進め、Teamsの基本機能である「Teamsライブイベント」をそのまま使用したこともあって、非常にスムーズに進行したという。
卒業式前日の午後に、日本マイクロソフトの関係者が会場に入り、カメラ等の機材の設置場所を最終決定。卒業証書を受け取る児童の表情が、ライブ配信を見ている保護者らに届くことを考え、できるだけ壇上の表情を長く放映できるよう調整したという。

通常、卒業式の会場後方にある保護者席からは、卒業証書の授与は背中側しか見えないが、今回のライブ配信では、授与のシーンを児童の表情とともに見ることができた。会場での参加が叶わなかった方々にも、卒業生ひとりひとりの晴れの舞台のようすが届いたのではないだろうか。
ICT活用への契機として前向きに
2月27日の小学校、中学校、高校に対する一斉休校の要請と実施は、教育現場と家庭をはじめとして、社会への影響の大きさを実感するものとなった。特にICTを活用した家庭学習や式典の対応では、教育現場のこれまでのICTへの取組み状況によって違いも出てきていると思われる。
日本マイクロソフトによると、今回の卒業式のライブ配信は、立命館小学校が児童1人1台の端末環境をいち早く整備するなど、日頃からICTを教育に活用し、その有用性について保護者も含めて理解が得られているからこそ、短期間で実現できた部分も大きかったのではないかという。4月は、各地で入学式などの行事も数多く予定されていることから、今後も「Teamsライブイベント」の利用価値も高まると考えられる。現在、日本マイクロソフトには教育機関からの相談が多くあり、引き続き支援する予定。これを契機に、教育現場におけるICTの活用がさらに進展することを期待したい。