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【教師への扉】初任者は何に悩むのか…教師になる前の準備と学校に求められる支援

 「教師への扉」は、中学校・高等学校での教員経験を経て、現在は大学で教員養成に携わる渡辺朗生氏による寄稿。今回のテーマは、「初任者は何に悩むのか…教師になる前の準備と学校に求められる支援」。

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 教育に関わるすべての人の視点や問いを広く取りあげ、これからの学びをともに考えていく。リシードでは、寄稿連載を通じて、教育実践や研究に根ざした知見を紹介する。

 「教師への扉」は、中学校・高等学校での教員経験を経て、現在は大学で教員養成に携わる渡辺朗生(ときなり)先生による寄稿。現場と研究を往還する視点から、実践に根ざした示唆と理論的な裏付けをあわせて提示していく。

 今回のテーマは、「初任者は何に悩むのか…教師になる前の準備と学校に求められる支援」。


 教員養成に携わっていると、教員を目指す人の多くは、採用試験や授業づくりには比較的早い段階から関心をもっている一方で、「教師になったあとの1日」や「授業以外の仕事」については、具体的にイメージできていないことが多々あると感じます。これは、大学の教職課程で学ぶ学生に限ったことではありません。講師として勤務しながら正規採用を目指す先生や、社会人経験を経て教職を志す人など、教師への入口が多様化する中で、教師になる前に、学校現場の仕事をどこまで具体的に把握しているかには大きな差があります。

 学校現場を経験する機会があったとしても、実習生やボランティアなどの立場で学校に関わることと、正規の教員として学級や教科を担当することには違いがあると考えています。4月から1人の教師として働き始めると、授業だけではなく、学級経営、生徒指導、保護者対応、校務分掌、事務処理など、さまざまな仕事について判断しながら進めることが求められます。

 では、初任者は実際にどのようなことに戸惑っているのでしょうか。

 教職員支援機構(NITS)では、教職未経験者が教育現場に入職する際の不安を軽減するため、「教職スタート講座」を公開しています。その内容をみてみると、たとえば教材研究や授業づくり、学級開き、学級経営、通知表、保護者対応、いじめ、不登校、特別支援教育、ICT活用、さらには挨拶や言葉遣い、報告・連絡・相談、学校組織…など、非常に幅広い内容が扱われています。このことからも、初任者が直面する課題は、「授業ができるかどうか」だけではないことがわかります。

 初任者にとって難しいのは、授業準備をしながら児童生徒への対応を行い、必要に応じて保護者に連絡し、校務を進めるなど、複数の仕事について優先順位を判断しながら同時に進めなければならないことにあります。

養成段階の学びを「つなげて使う」

 こうした初任期を考えると、教師になる前に重要なのは、それまでに学んできた内容を個別の知識として終わらせないことです。

 教員養成の過程では、教育心理、生徒指導、教育相談、特別支援教育、教育方法、教科指導など、教師として必要となるさまざまな内容を学びます。しかし、実際の学校では、「これは生徒指導の問題」「これは教育心理の問題」とわかれて現れるわけではありません。

 たとえば、授業中に落ち着かない児童生徒がいた場合には、授業方法に加え子供の発達、人間関係、生活状況などを含めて包括的に考える必要があります。また、自分だけで判断するのではなく、必要に応じて同僚や管理職、養護教諭などと情報を共有することも求められます。

 そのため、教師になる前の学びでは、「この知識は学校のどのような場面で使うのか」「自分なら何を確認し、どのように判断するのか」「どこから先は他者に相談する必要があるのか」まで考えることが重要です。知識をもっていることに加えて、その知識を具体的な教育場面に結び付ける経験が、初任期の準備になります。

学校に関わる経験では「教師の仕事全体」を見る

 教師になる前には、可能な範囲で学校現場に関わる経験をもつことも重要です。

 大学等での教育実習に限らず、学校ボランティア、学習支援、部活動支援、講師経験など、学校に関わる機会はさまざまです。こうした経験では、授業や児童生徒との関わりだけでなく、教師が学校の中でどのように仕事を進めているかにも目を向ける必要があります。

 たとえば、朝から放課後まで教師がどのように動いているのか、職員室ではどのように情報を共有しているのか、問題が起きた際に誰へ報告しているのか、保護者への連絡はどのように行っているのかなどです。授業を行う姿だけを見ていると、教師の仕事の一部しか理解できません。学校に関わる経験を、「教師の仕事全体を知る機会」として捉えることで、採用後の生活をより具体的にイメージできるようになります。

「何ができるか」だけでなく「何を学ぶ必要があるか」を知る

 教師になる前に、すべての仕事ができるようになっておく必要はありません。むしろ重要なのは、自分が何を学んできたのかとともに、何について経験が不足しているのかを把握しておくことです。

 たとえば、「授業づくりについては経験があるが、保護者対応はほとんど経験していない」「児童生徒と関わる機会は多かったが、校務や学校組織については十分に知らない」といったように、自分の経験を振り返ります。

 大学の教職課程で学ぶ人であれば、教職実践演習などを通してこれまでの学びを振り返ることができます。社会人経験者や講師経験者であれば、これまでの職務経験のうち何が学校で生かせるのか、逆に学校教育について新たに学ぶ必要があることは何かを整理することが重要です。教師への入口が多様になっているからこそ、全員に同じ準備を求めるのではなく、それぞれが自分の経験と課題を把握したうえで教職に入ることが大切です。

 一方で、初任者のつまずきを、教師になる前の準備だけで解決しようとすることには限界があります。初任者は教員免許状を取得し採用試験を経ていますが、学校での実務経験はまだ十分ではありません。そのため、受け入れる学校にも、初任者を育てるという視点が必要です。

初任者を完成した教師として迎えない

 初任者といっても、大学等を卒業してすぐに採用された人、講師経験を有する人、社会人経験を経て教職に入った人など、それまでの経験はさまざまです。学校側には、初任者を一律に捉えるのではなく、それぞれの強みと不足している経験を把握しながら支援することも求められます。

 初任者研修は、新規採用教員が実際に学級や教科を担当しながら、教科指導、生徒指導、学級経営などについて実践的に学ぶ仕組みです。つまり、制度そのものが、教師として必要な力は採用時点ですべて完成しているのではなく、実際の職務を通して身に付けていくことを前提としています。

 他方、学校では、たとえば年度当初に「まず何を優先すれば良いか」を具体的に伝えることが大切です。経験のある教師にとって当然になっている仕事ほど、初任者にはわかりにくいものです。「わからなければ聞いてください」と伝えるだけでなく、提出物の作成方法、保護者への連絡の仕方、問題が起きた際の報告先などを具体的に示すことで、初任者は動きやすくなります。

 また、初任者への助言が一度に多くなりすぎないことも重要です。授業、学級経営、事務処理などについて改善点をすべて伝えれば、何から取り組めばよいのかわからなくなることがあります。「今週はまずここを意識してみよう」と課題を絞ることも、若手育成における支援のひとつです。

「教師になる前」と「教師になった後」をつなぐ

 教師になるための準備は、採用試験に合格するためだけに行うものではありません。教員養成の過程で身に付ける知識や、教育実習、学校体験、講師経験、社会人経験などは、それぞれ異なる形で教師になったあとの仕事につながっています。

 一方で、教師になる前にどれほど準備しても、初めて経験することは必ずあります。だからこそ、教員を目指す人には、自分の課題を理解し、わからないことを学び続ける姿勢が求められます。そして学校側には、初任者に最初から完成を求めるのではなく、それまでの経験や強みを踏まえながら、実践を通して成長することを支える姿勢が求められます。

 「教師への扉」を開く準備は、教師になる前までで終わるものではありません。教員養成の段階での学びと、学校に入ってからの初任者育成がつながることで、教師としての継続的な成長が始まるのではないでしょうか。

《渡辺朗生》

渡辺朗生

 宇都宮大学共同教育学部助教。山口県中学校・高等学校教諭などを経て現職。博士(教育学)。研究分野は教科教育学、初等中等教育学、生活科学など。

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