2026年6月12日、「NEW EDUCATION EXPO 2026 大阪」において、京都女子大学の竹安栄子学長が「人口減少社会に立ち向かう女子大学教育」と題して講演を行った。講演では、日本社会に根強く残るジェンダー格差の実態を、豊富なデータをもとに提示。そのうえで、教育がこの課題の解消にどのように貢献できるかについて、多角的に論じた。
法制度は整った、しかし格差は残っている
竹安学長はまず、1946年の女性参政権付与にはじまり、男女雇用機会均等法や男女共同参画社会基本法へと続く法整備の歩みを振り返った。そのうえで、「機会の均等は、必ずしも実質的な平等の実現にはつながっていない」と指摘した。
近年、国内企業における女性管理職の割合は、係長以上で16.3%にとどまっている。また、上場企業の女性役員比率は15.5%まで上昇しているものの、その多くは社外取締役としての登用に限られているのが実情だ。一方で、海外に目を向けると、AMDやアクセンチュア、シティバンクなど、日本では女性比率が低いとされる業界においても、女性CEOが企業を牽引している事例がみられる。これに対し、日本ではそうした姿が依然として見えにくい状況にある。

こうした格差の背景には、無償労働における男女差がある。日本では、家事や育児、介護に費やす時間は、女性が男性の約5.5倍にのぼる。諸外国でも女性の負担が大きい傾向はみられるものの、その差はおおむね2倍前後にとどまり、日本の偏りは際立っている。この結果、母子世帯の平均年収は272万円と、父子世帯の518万円を大きく下回る状況にある。こうした格差は、子供の貧困にも直結する構造を生み出している。
教育分野にも歴然とした差
格差は教育の場にも色濃く及んでいる。OECD加盟国を含む49か国の中で、女子の大学進学率が男子を下回るのは、日本とインドの2か国のみだ。国内を都道府県別にみても、男女差が10ポイント以上開いている地域もあり、女性の進学率が男性を上回るのは東京都と徳島県のみである。さらに、県内進学率は女子ほうが大幅に高い。「息子は県外へ、娘は地元に」という進路選択が、今なお広く存在していることの表れだと竹安学長は分析する。

理系分野でも同様の傾向がある。国際学力テストでは15歳時点の男女の能力差がないことが実証済みにもかかわらず、女子の進学率は著しく低い。「男子は理系に進むと言えばドアが自動的に開くが、女子には『なぜ理系なのか』と特別な理由を求められる」と竹安学長は述べ、学校教育や家庭の中にジェンダーステレオタイプが根深く潜んでいると指摘した。
「女の子は浪人しなくて良い」「看護が向いている」「自宅から通える範囲で」。こうした何気ない言葉は、マイクロアグレッションとして積み重なり、女子生徒自身が可能性を狭める価値観を内面化する要因となる。こうした構造は大学以降も変わらないで、学部段階では男女比率の差は約10ポイントにとどまるものの、修士・博士と進むにつれてその差は拡大し、教授に占める女性の割合は約18%にとどまる。「常に前に立って教えるのは男性という姿を、子供たちは見て育っている」と竹安学長は問題を提起した。
言語に根差す規範、地方からの女性流出
竹安学長は、男女間の格差の根深さについて「言語にまで根差している」と独自の視点で分析した。日本語にはいわゆる「男言葉」「女言葉」といった使い分けが存在し、これは世界的にも珍しい体系だという。幼少期から「女の子なのだから『僕』と言ってはダメ」といった形で、言葉の習得プロセスそのものに性別による規範が組み込まれている点を問題視した。さらに、女言葉は命令や指示の表現になじみにくいとされ、「日本語は、そもそも女性が管理職として支持を出す場面を前提にしていないのではないか」との見方を示した。

こうした規範は、地方の人口減少にも影を落としている。内閣府の調査によると、地元を離れた理由として、女性は「家事や育児は女性の仕事とされるのが嫌だった」とあげるケースが多いという。竹安学長は、こうした意識が若年女性の流出の一因になっていると指摘する。実際、竹安学長の教え子の中にも、地元に戻りたいと伝えた際、母親から「帰ってこなくて良い。ここで苦労するのは私だけで良い」と告げられたケースも複数あったという。
GDP57.8兆円減、格差の経済的代償
講演の核心は、ジェンダー格差が日本経済に与える影響の大きさにあった。2040年までに労働力人口は約1,000万人減少すると推計されている。これに対し、女性の労働力率を男性並みに引き上げることができれば、GDPの減少幅を約40兆円抑えることが可能になるという。
さらに竹安学長は、男女の給与格差に着目し、その影響を独自に試算。年間で78.5兆円の経済的損失が生じているとの見方を示した。その背景には、女性労働者の過半数が非正規雇用であるという実態がある。「政府は女性活躍を掲げながら、所得の壁を残している。アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなもの」と竹安学長は指摘し、政策の矛盾にも言及した。


京都女子大学の挑戦 データサイエンスからリカレント教育まで
こうした構造的課題に対し、京都女子大学は具体的な取組みで応えている。教員に占める女性の割合は42.5%に達し、教授職でも40%を確保。全学科で卒業論文を必修とするなど、少人数教育を徹底している。女子大学の教育的意義について、竹安学長は「マイクロアグレッションから自由な環境で、学生は無意識に身に付けた"女らしさ"の衣を脱ぎ、自分らしくいられる」と語った。
さらに、女子大学として初めて設立したデータサイエンス学部では、私立女子大学で唯一、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」応用基礎レベルプラスの認定を取得している。NVIDIAをはじめとする多くの企業からの連携の申し出も相次ぎ、来春卒業の第1期生は、すでにIT企業やコンサルティング企業から内々定を得ているという。また、開設から9年目を迎えたリカレント教育課程でも成果がみられる。企業から派遣された女性受講者の約98%が、「管理職に手をあげる」などの目標を達成しており、着実に実績を積み重ねている。

2025年7月には「女子大学宣言」を発表。「女子大学という環境だからこそ、性差にとらわれることなく、ひとりひとりが対等な関係の中で学びあい、自立した"人"として成長することを可能にします」と掲げ、社会の変革に挑戦する人材を育成し続ける決意を示した。講演全体を貫くメッセージは、ガンジーの言葉を借りた「Be the Change──女子大学が私を変える、女子大学で社会を変える」である。竹安学長は「法制度は整った。次は教育の中に潜むジェンダー規範を変える番だ」と述べ、講演を締めくくった。














