OB/OG訪問ネットワークサービス「ビズリーチ・キャンパス」 を運営しているビズリーチは2025年5月27日、新サービス「ビズリーチ・キャンパス for 博士 」の記者発表会を開催した。本サービスを通じて博士課程への進学意欲を高め、企業と博士学生のより良いマッチングを実現することで、博士人材不足の解消に貢献するという。
記者発表会では、ビズリーチ執行役員でビズリーチ・キャンパスの事業責任者である藤田拓秀氏が博士人材を取り巻く現状と新サービスの開始背景について発表。さらに、経済産業省産業技術環境局大学連携推進室長の川上悟史氏、積極的な博士人材の採用や活躍促進の取組みを行う富士通人材採用センター長の大平将一氏、高度な専門性をもつ博士人材の育成に力を入れる北海道大学大学院工学院長教授の泉典洋氏も登壇し、博士人材不足への課題感や本サービスへの期待について発表した。
日本の博士号取得者数は主要先進国の約3分の1にとどまっており、過去20年間で欧米が博士号取得者数を倍増させる一方で、日本は横ばいの状況が続いている。また、日本企業の研究者に占める博士号取得者の割合は米国の半分以下であり、産業界における博士人材の活躍も十分とは言えないという※2。
※1:博士人材ファクトブック P1「博士人口と労働生産性、GDPの相関」より
※2:令和5年度技術開発調査等推進事業(博士人材の産業界への入職経路の多様化に関する調査)調査報告書 P20「産業分類別 研究者に占める博士号保持者の割合」より
会見で川上氏は、日本では博士人材が企業に進出しづらい現状について、企業と大学それぞれの「構造的なギャップ」に言及した。企業側では、経営層が博士人材の価値を認識しているにもかかわらず、「人事部門の壁が存在し、採用に結びついていない」と分析。一方、大学側でもキャリア支援の体制が十分とは言えず、「博士の場合は約4割が研究室経由での就職であり、キャリアセンターの利用はわずか4%にとどまっているという実態が明らかになった」(川上氏)。
こうした中、経済産業省は文部科学省と連携し、博士人材の民間企業における活躍促進に向けて、「博士人材の民間企業における活躍促進に向けたガイドブック」や「企業で活躍する博士人材ロールモデル事例集」を策定し公表していると紹介した。そのうえで、「民間企業に進みたいと考える学生が、躊躇なく博士課程に進める社会にしたい」と述べ、今後も大学・企業・行政の三者が連携して取り組みを進めていく方針を示した。

続いて、企業側の観点として富士通の大平氏が登壇。富士通では博士人材の活躍を促すため、1.有償の長期インターンシップの実施、2.大学との共同研究による人材育成、3.社員の博士課程進学支援制度、4.卓越社会人博士制度、5.大学と企業が共同で実施するキャリア教育、の5つの重点施策を行っているとした。
大平氏は「学生・企業双方の接点を増やしていきたい」と話し、北海道大学と計画を進めている産学連携に関しても、研究や採用ではなく人材育成を主目的としていることを説明。「同様の産学連携の取組みが上手く軌道に乗り、日本の博士人材が増えることを願っている」と今後の期待を寄せた。

北海道大学大学院工学院は、「ビズリーチ・キャンパス」と博士人材に特化したキャリア支援に関する連携を開始。泉氏は、「現在の日本は労働生産性の低さやイノベーション創出の困難さにより経済発展が停滞している」と指摘したうえで、海外では博士人材が企業で活躍し幹部に登用されたり、自ら起業してユニコーン企業の創業者になったりする例も少なくないため、高度な課題解決能力や社会のあらゆる場面で活躍できる博士人材の育成が、かつてないほど重要なフェーズであることを説明した。
また、在学中に研究に専念できるような経済支援制度についても触れつつ、「ちょっと先を歩く先輩たちが、どのように博士号を生かし、社会でどんな役割を果たしているのか。そのリアルな姿を見ることが、進学への確かな動機になる」と語り、「ビズリーチ・キャンパス for 博士 」は、単なる進路情報提供にとどまらず、学生が博士という選択肢を「より現実的で魅力的なものとして捉え直す大きな一歩となる」とした。
最後に泉氏は、博士課程にある学生に向け「大学、企業、行政、そして国際機関やベンチャー企業など、博士号はどんな場面でも価値を発揮できる『知のパスポート』だ。その可能性を自ら切り開く姿勢こそが、日本の未来をつくっていく」とエールを送った。

藤田氏は、学生が社会人と接点をもつきっかけになるOB/OG訪問の促進を目的に「ビズリーチ・キャンパス」を立ち上げた背景から振り返り、新たに博士人材に特化した「ビズリーチ・キャンパス for 博士 」のサービスを開始するに至った背景として、「『博士に進むと選択肢が狭まるのでは』という不安を口にする学生が少なくない。実際に我々が行ったインタビューやアンケートでも、そのような声が多数上がっている」と述べた。
このような不安の根本には、「リアリティのある情報」の欠如があるという。藤田氏はこの現状を変えるため、「社会で活躍する博士人材のキャリアを可視化し、学生がロールモデルに出会える場を提供したい」と語る。リリース前にもかかわらず、博士人材の採用に積極的な企業15社がすでに導入を表明しているといい、学生への告知も、北海道大学大学院をはじめとした協力校と連携しながら順次展開するという。
藤田氏は「先輩から学び、後輩を支える。この循環をつくることができれば、日本の博士人材のキャリア形成における選択肢は、より開かれたものになるはず。次は自身が学生を支援するというようなサイクルをつくっていきたい」と今後のビジョンを語った。


博士課程学生のキャリア支援に特化した「ビズリーチ・キャンパス for 博士」は、博士人材の多様な進路の可視化と、リアルな情報提供を通じて進路選択を後押しする新たな試みだ。OB/OG・企業・大学が連携し、博士人材が活躍し続けるキャリア循環の実現が期待される。