2025年2月20日、エジプト大使館にエジプト日本学校(EJS)のスーパーバイザー派遣希望者と特別支援教育の専門家教員らが集まり、来日中のアブデル・ラティーフ教育・技術教育大臣(以下、ラティーフ大臣)との会談が行われた。そのようすをレポートする。
特活でエジプトの教育改革
エジプトでは、2016年に日本との間で「エジプト・日本教育パートナシップ」が結ばれ、その一環として初等教育で、日本の小学校で実施されている掃除、日直、学級会、運動会・遠足などの学校行事、保護者らの PTA 活動など日本式教育の「特別活動(特活)」を取り入れた公立小学校の設立が進められている。これらの小学校は、エジプト日本学校(Egypt Japan Schools、以下 EJS)とよばれ、現在エジプト全土に55校の EJS がある。
ラティーフ大臣は、EJSが大統領直轄事業であり、エジプトと日本両国が共同運営するシステムがあることや、各制度とマニュアルが完備されていること、現地の校長が教員の活動や子供たちへの対応を評価・支援する体制があること、福利厚生や契約内容が明確に定められ、予防接種などの細かい手続きなどのサポート体制が整っていることを説明した。
今回参加したのは、現役の中学校の校長や教育委員会勤務者、大学教授、一般教員などで、専門分野は特別支援教育、音楽教育、国際バカロレア教育と多彩な顔触。自己紹介では、おのおのがエジプトに対する思いやEJSで活躍することの意気込みを表明した。
シシ大統領はさまざまな改革を断行し、2016年に、2030年までに実現を目指す「Vision2030」を発表。国の教育システムを見直す改革(Education2.0)を始めた。
その際、シシ大統領は日本の教育に注目。大統領は日本人の勤勉さや規律を守る国民性を評価しており、日本の教育モデルを導入することで、自国の教育改革を進めたいと考え、改革の中心に日本式の「特別活動(特活)」を据えたという。
「特活」は、日本の小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校の課程で行われる教科外の活動の総称で、学校教育における望ましい集団活動や体験的な活動を通して、実際の社会で生きて働く社会性を身に付け、児童や生徒の人間関係の形成能力を育むことが目的とされる。
EJSでは「特活」の実践・推進をスムーズに行うため、管理職経験がある日本人のスーパーバイザーを受け入れており、現在11名のスーパーバイザーが渡航し、活躍している。スーパーバイザーは1人あたり2~3校担当し、教師の研修や指導、生徒の教育活動の評価、学校運営のアドバイスなどを行う。エジプトの教師たちは日本式教育の目的を理解したうえで、エジプト人に適した教育環境を子供たちに提供している。
スーパーバイザーに求められているのは、以下になる。
*実践を通して特活の理念を教員に伝え、定着させること
*Education2.0で示されている資質・能力を子供たちに身に付けさせるため、授業観察とフィードバックを通して、教員の指導力向上を図ること
*組織的な学校運営を定着させることによって改善を図り、管理職を支援すること
*以上を実現するために研修会等を企画・実施すること
EJSスーパーバイザー20名と特別支援教育の専門家3名を緊急募集
エジプトは日本よりはるか西に位置し、おもに乾燥した砂漠気候で、夏は非常に暑く、冬は比較的温かい。宗教はイスラム教とキリスト教で、言語はアラビア語だが、観光地では英語も通じる。物価は日本の約3分の1から半分程度で、日本人が生活するうえでは生活費を安く抑えられるそうだ。
2018年からエジプトに日本式教育が導入され、日本とエジプトの教員は互いに訪問し合って交流を深めてきた。彼らは、教育現場に新しい風を吹き込み、エジプトの子供たちは協調性や自主性、社会性を身に付け、行動や態度が変わったと高い評価を受けている。日本から派遣されたスーパーバイザーたちは、ラマダンをはじめ異なる文化や言語、教育システムに適応し、両国の違いを尊重しながら指導助言を行っている。
EJSは現在55校ある。将来的に100校まで開校し、EJSを拠点にすべての公立学校に「特活」を導入する予定だという。EJSは日本人教員にとっても、貴重な成長と学びの場となっているが、Education2.0の推進とは裏腹に、派遣する日本人教員が足りていないという現実がある。
EJSの成功を踏まえ、今回は新たに特別支援教育の専門教員3名の募集が加わった。エジプトでは新たに特別支援のための先進的な施設設備が設置され、ドイツなど他国からの専門チームとコラボレーションしながら、エジプトの特別支援教育を検討、実施するという重要な役割を担うことになる。
スーパーバイザーの応募条件は管理職経験が必須となっており、年齢については、スーパーバイザー・特別支援教育の専門教員とも、契約満了時に70歳未満であることが条件となる。また、派遣の任期は1年ごとの更新制で、勤務は月曜日から木曜日まで。エジプトの新学期は9月から始まるため、それに合わせて渡航する必要がある。現地では通訳と運転手がサポートしてくれるという。
◆募集要項
募集人数:スーパーバイザー20名、特別支援教育の指導教員3名
提出書類:履歴書(日本語可)、業務経歴書(日本語可)
応募締切:2025年7月1日
面接および研修:エジプト大使館(文化・教育・科学局)で実施。通訳がつく
応募方法:専用フォームから応募
問合せ先:EJSアドバイザー 荒木貴之(社会構想大学院大学教授)