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【EDIX2023】子供たちに「前のめり」になる体験を…エデュテイメントで目指す未来志向の教育

 2023年5月10日より3日間の会期で開催された日本最大の教育分野の展示会「EDIX(エディックス)東京」。初日の10日に行われたセミナー「子供のモチベーションを最大化するエデュテイメント」のようすをレポートする。

イベント 教員
立命館小学校教諭の正頭正和氏
  • 立命館小学校教諭の正頭正和氏
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 2023年5月10日より3日間の会期で開催された日本最大の教育分野の展示会「EDIX(エディックス)東京」。初日の5月10日に行われたセミナー「子供のモチベーションを最大化するエデュテイメント」のようすをレポートする。

ゲームを学びの入り口に

 セミナー登壇者は立命館小学校教諭の正頭正和氏。正頭氏は教育界のノーベル賞と言われる「Global Teacher Prize 2019(グローバル・ティーチャー賞)」のTOP10に選ばれており、セミナー冒頭はそのときの話題でアイスブレイク。場が温まったところで、なぜ正頭氏が「エデュテイメント」を広めようとしているかに話が移った。

立命館小学校教諭の正頭正和氏

 きっかけは、自身が教鞭をとっている立命館小学校で、マインクラフトを使用してコミュニケーションの授業を行っていたこと。当時、教育のイメージは薄く、エンターテインメントとして存在していたマインクラフトを授業で使用したところ、子供たちののめり込む姿に、「ゲーム」を教育現場に持ち込み、利用することは有用であるという思いに至ったという。

 ゲームはそもそも、ゲームをする人が楽しく夢中になれ、達成感を得られ、継続性をもたせられるように練られ、開発されている。また、近年ではアカデミックな研究も行われており、ゲームが交流を促すことや、幸福感を高める(オックスフォードの研究、任天堂の「あつまれ!どうぶつの森」を題材)ことが、研究結果からも明らかになっている。そのため、うまく取り入れれば学びの入り口になる

 現在、ゲームソフト「桃太郎電鉄(以下、桃鉄)教育版」のプロデュースも行っている正頭氏。その背景を次のように語った。

 「僕は日本の先生たちはすごいと思っている。ところが、世界に比べ日本の教育がどれだけ遅れているかと話題になることも多い。でも、グローバルティーチャーTOP10に選出されたとき、選出された海外の先生たちの授業も見たが、それと比較しても、日本の先生が行っている教育の内容は素晴らしいと思っている。ところがなぜか『日本の教育はダメだ』と言われることがある。それが残念で仕方がない。たとえば日本には、海外から輸入されたイエナプラン、ドルトンプラン、モンテッソーリなどの教育メソッドが有名になっていて、もちろんそうした教育も素晴らしいが、僕は日本の教育システムを輸出したい。その際、最初の入り口となるゲームとは何かを考えたとき、メイドインジャパンのゲームである桃鉄に白羽の矢を立てた」。

 その一方で、「とはいえゲームに夢中になることに対し、特に保護者はゲームのデメリットに目がいき、不安になる方も多いはず」と言及。そして「過度なゲームは原因ではなく兆候だと言われている。ゲームがあるから子供がそれにはまるのではなく、寂しいとか、不安だとか何かを抱えていることの表れだと捉えてほしい」。

子供の意欲は過去の体験に紐づけられている

 これまで常識と言われていたものが変わる時代において、これからの時代を生きる子供たちにはどのような世界が待ち受けているのだろうか。

 正頭氏は120年前と現在の東京の街の風景と、同じく120年前の教室(復元された教室のようす)と現在の教室のようすを投影。風景は大きく変わったのに、教室は120年前からほとんど変わっていない点をあげ、「教育は変わらないといけない」と指摘。

 「教育の節目が明らかにやって来ている。100年に1度、200年に1度のレベルの転換期にあるという人もいる。大人が『今の若者はなさけない』などと言う場面がよくあるが、同じように若者をくさす言葉は2,500年前の遺跡からも見つかっている。しかし、本当に若者が頼りなくなさけなかったのなら、世界はこんなに発展していない。『未来』を作ってきたのは間違いなく、当時の『若者』たち。そうした若者への教育の鉄則は『教わったように教えない』に尽きる」と語った。

 また、これまでは皆が頑張ればそれなりに成果をあげられた時代であり、その後、社会で求められる「力」は皆で協力しひとつの問題を解くといった方向に進み、そして2023年の今現在、『ChatGPT』をはじめとしたAIが台頭してきている。今後は、こうしたAIを利用できる人材が世の中に求められるであろう。

 それではこれからを生きる子供たちは、どういった力を身に付けるべきなのだろうか。

 「今、(AIを)うまく使用している人を見ると、AIを『人格』として扱っているように思う。皆で協力して問題を解く時代において、人と協力して物事を対処するようにAIとともにやっていけるようになれば、(処理速度の速さはAIのほうが高いのだから)もっと多くの課題を解決できるようになるはずだ」と正頭氏。

 AIとの付き合い方がうまくなればなるだけ、ひとりでできることは増える。

 正頭氏は、「多様な課題を解決するのは良いことだ」と述べたうえで、「ただし『何をやっても良いよ』と丸投げすると、迷ってしまう子が多い」と言う。

 「たとえば真っ白の紙を子供たちに渡して『何を書いても良い』と言われると、戸惑って何もできない子が多い。これまで行ったPBLでの経験上、自分がやってみたいことがわからない子供は8割程度存在する。そこで、『やりたいことがある』2割の子に、なぜそれをやりたいのかを聞いたことがある。するとその子たちは過去の経験を話し始めた。子供の現在の『やりたい』という気持ちは、すべて自身の体験に紐づき生まれている。何もないところから生み出されるのではなく、過去の体験から引っ張り出している」。

「子供の『やりたい』という気持ちは、すべて自身の体験に紐づき生まれている」と正頭氏

重要なのは「前のめり」になる体験

 これまでの学力の中心は、「暗記」と「計算」だったが、これからの世の中で求められる学力は「表現力である」と正頭氏は言う。

 「表現力の土台は思考力。しかし、考える力以上に表現力のある人はいない。思考力の土台は感受性。空を見て何で空は青いんだろう、と考えるような感受性は体験によってしか鍛えることができない。こう話すと保護者の方は、どこかに出かけて体験をさせなければと考えがちだが、日常生活の中でも体験できることは多い。特に家事。大人にとっては日常である掃除・洗濯・料理は、子供にとっては大きな体験だ。こうした『体験』という土台をしっかりと身に付けることが小学校時代には価値があると考えている」。

 また、「探究学習は何かとっかかりとなる部分が必要だ」とし、立命館小学校で実際に行われたという、卵を割れないように高所から落とすには、どうしたら良いかを考える授業のエピソードを披露。没頭し、解決策を考える「前のめり」になる経験が、これからの子供の学びには不可欠だとした。

 こうした前のめりになる体験を積めば積むほど、「子供の『やりたいこと』は増える。子供たちの欲求は、調べたい、作りたい、試したい気持ちから生まれる。PBL授業を作るとき、僕はメインの活動をこのいずれかから選んでいる。すると子供たちは前のめりになる。失敗を恐れずにやってみようと声がけしても、今の子供たちはこの言葉を抽象的なアドバイスだと受け止める。そこで『作ってごらん』『調べてごらん』『試してごらん』と示してあげると、子供たちの映像が急にクリアになって、自ら動き始めるようになる」。

 教育の中にICTというテクノロジーが入ってきたことによって、子供たちに重要な教育の柱が、知識から体験に変わり始めている。正頭氏は最後に、「ICTが入ってきたことにより、時間と距離の制約がなくなった。そのため、提供できる体験の数が増えた。土台となる体験をたくさん提供できれば、感じる力、考える力、表現力が伸びていくと思う。この『体験』という学びのきっかけの部分としては、エデュテイメントが非常に効果的だと思っている」と述べ、このセミナーを締めた。

《鶴田雅美》

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