日本財団の「性と妊娠にまつわる有識者会議」は約1年間、さまざまな立場の人と議論し、義務教育段階における包括的性教育が必要であることを痛感。日本の義務教育で、包括的性教育を進めるための10の提言を盛り込んだ提言書をまとめた。
具体的には、中学校学習指導要領(保健体育)等で「妊娠の経過(性交)は取り扱わない」とする「はどめ規定」により、子供たちが性や妊娠出産に関する正しい知識を学ぶ機会が不足していることを問題視し、「学習指導要領における『はどめ規定』『はどめ措置』の撤廃・見直し」を提言。「教育内容の改善」と「包括的性教育が実践できる環境づくり」という2つの側面から、「子供にとって理解しやすい教科書へ、学習教材の充実・共有に向けた普及活動や新たなモデル校支援」「教職員向けの専門的・継続的な学びの機会の拡充に向け、国外事例や民間実践の活用と、公的なプログラム開発」等の10項目の提言を示している。
厚生労働省の調査によると、2019年4月1日から2020年3月31日までに発生した児童虐待死亡事例72例のうち、11例が0歳0か月で、この11例のうち、生みの母親にとって予期せぬ妊娠であったケースが約63%と高い割合を占める。提言書では、10代で予期せぬ妊娠を経験した当事者の声も反映。性に関する知識不足の実態、知識不足が引き起こす問題、日本の子供を取り巻く環境の深刻さから、今後の性教育のあり方を示している。
日本財団「性と妊娠にまつわる有識者会議」座長の佐藤拓代氏は、「今回、さまざまな立場の委員が性と妊娠にまつわる有識者会議に集まり、さらに子供たちの声を直接聞く機会をもつことができました。今回とりまとめた本提言により、わが国のいかなる子供たちにも、包括的性な教育が提供されることを願ってやみません」とコメントしている。
なお、包括的性教育(CSE:Comprehensive Sexuality Education)とは、セクシュアリティの認知的、感情的、身体的、社会的側面について、カリキュラムをベースにした教育と学習のプロセス。「人権をベースにした教育」「互いを尊重し、よりよい人間関係を築くことを目指す教育」「健康とウェルビーイング、尊厳を実現し、子供や若者たちにエンパワーメントしうる知識、スキル、態度、価値観を身に付けさせる教育」という観点を重視している。