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【EDIX2022】教育現場に変化をもたらした「未来の教室」成果とビジョン…経産省 浅野大介氏

 「第13回学校・教育総合展(EDIX2022)」初日の、特別講演「教室DXでつくる『未来の教室』」に登壇した経産省の浅野大介氏は、全国から集まった教育関係者に向けて、「未来の教室」プロジェクトの成果と、見えてきた課題について語った。

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経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課長 教育産業室長・スポーツ産業室長 浅野大介氏
  • 経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課長 教育産業室長・スポーツ産業室長 浅野大介氏
  • 「第13回学校・教育総合展(EDIX2022)」初日の、特別講演「教室DXでつくる『未来の教室』」
  • 経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課長 教育産業室長・スポーツ産業室長 浅野大介氏
 教育分野としては日本最大の展示会「EDIX(エディックス)東京」が2022年5月11日、東京ビッグサイト 西展示棟で開幕した。

 初日の特別講演「教室DXでつくる『未来の教室』」に登壇した経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課長 教育産業室長・スポーツ産業室長の浅野大介氏は、全国から集まった教育関係者に向けて、2018年の「未来の教室」実証事業開始から5年目となったプロジェクトの成果と、見えてきた課題について語った。

「第13回学校・教育総合展(EDIX2022)」初日の、特別講演「教室DXでつくる『未来の教室』」
「第13回学校・教育総合展(EDIX2022)」初日の、特別講演「教室DXでつくる『未来の教室』」

経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課長 教育産業室長・スポーツ産業室長 浅野大介氏
経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課長 教育産業室長・スポーツ産業室長 浅野大介氏

全国の教室に広がるEdTech



 はじめに浅野氏は、コロナ禍で一気に進んだGIGAスクール構想「1人1台端末」導入実現に至るまでの道のりを振り返り、「2018年に文科省は3クラスに1クラス分の情報端末を地方自治体から各小中学校に整備することを目標に掲げていて、これが国家戦略だった。パーソナルコンピューターは1人1台だからこそ意味があり、この数値目標は意味を成していなかった。たまに使う高価な道具ではなく、いつでもどこでもインターネットにつながり自在に使える文房具でなければならない。文科省と相談して『1人1台端末』の環境整備を国費をつぎ込んでやることを決めたのが2019年。2021年にデジタル庁が創設され、各省いっしょに教育もDX政策をやろうとなった」と経産省が文科省と協働で進め、加速させてきたGIGAスクール構想のこれまでの歴史を説明した。

 コロナ禍で1人1台端末の整備が前倒しとなり、2021年の春には全国の小中学校で1人1台端末の整備は完了したが、地方自治体や学校によって端末の活用にばらつきがあり、この数年で差が開いていくだろうと同氏は予測する。

 「誤解を恐れず言うと1度は差が開いてもかまわない。有意義に端末を使った学校や自治体があればその事例は北極星になるので、遅れている自治体や学校はそれを目指してほしい。フロンティアスピリットのあるトップランナーの学校や自治体を応援したいというスタンスで、経産省がEdTech導入補助金を始めた。今、全国36,000ある小中学校の約2割、6,500校がEdTech導入補助金を利用してEdTechを使って授業をするようになっている。まさに今3年目の実証校・自治体を募集中だが、3年間限定で立ち上げたのでこれが最後のチャンス。入口のフェーズは終わり、この後は『自走』のフェーズに入っていく」と語り、この2年で学びの場に広がったEdTechに手ごたえを感じながらも、次のステップに踏み出すことを促した。

教育DXの根源にある課題は日本の子供たちの「主体性」



 「教育のDXと言っても、DXは手段にすぎず、デジタルの基盤の上で人が有意義な学びを人と共に作っていく」という浅野氏は、GIGAスクール構想を含む日本の教育改革の「根源」となっている課題を、日本財団による「第20回18歳意識調査「テーマ:社会や国に対する意識調査」(2019年11月発表)」をもとに明らかにした。

 この調査結果によると、調査した9か国(日本、インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツ)の中で日本は「自分で国や社会を変えられると思う」という設問に「はい」と回答したのは18.3%で最下位。次点の韓国は39.6%、トップのインドは83.4%で、日本の子供たちの主体性が育っていない状況といえる。

 「いくら勉強ができても、主体性が養われていない。これまでの日本教育の現時点での通信簿が調査結果に表れている。日本の子供たちは18歳に仕上がった時点で自分で社会や国を変えられると思っていない。自分で考えて調べて議論して、ものをつくり世に問うこと。そういう一連の繰り返しの訓練ができる学校に変わっていかなければならない。そのためにデジタル、EdTechが必要」と説き、教育DXを手段として目指す教育とは、文科省の新学習指導要領の「主体的で対話的な深い学び」であり、文科省も同じ危機感をもっていると述べた。

二項対立を終わらせる教育DX



 「主体的で対話的な深い学びができる学校を増やしてくこと、探究を核とした、個というものを本当に大切にしてくれる学習機会をこの国につくっていこうというのが私たちの狙いだが、そういった探究を大切にしてくれるユニークな学校は現在はほんの一握りしかないというのが現状。しかし、個を大切にしてくれる特例的な制度はあり、不登校・特例校という良い制度を文科省はつくっている。また広域通信制・単位制高校もあり、こういった学校からイノベーターが出ている。そして特別支援教室も日本の財産。そういった個に注目しそれぞれの事情にあわせた学びを提供する制度は特例としてあるが、いつまでも『特例』扱いのまま。その理由は『原則と特例の二項対立』にある」と指摘。

 「あまりにも日本の教育政策は二項対立が多い。文系か理系か、経験か教科か、デジタルかリアルか、通学か通信か、対面かオンラインか。それらはすべて重要で、組合せることが大切。組合せの可能性を無限に広げてくれる技術がデジタルテクノロジー。このことを今一度世の中に広げていこうという機運が今政府の中でもじわじわと盛り上がっている。受動的で一方的で浅い学びはやめて、主体的で対話的な深い学びへと変わっていく必要がある。教育のDXは『オンデマンド』『オンライン』『リアルタイム』『対面』の4象限を組合せ自在にする学習環境づくりのことではないか。現状は『対面』の教育がほとんど。コロナ禍を経て4象限の組合せが自在に変わっていった大人の環境を、子供たちへも渡そう」と語り、時間、居場所、教材、指導者の組合せの自由を最大化し、学習者を主体にしたトランスフォーメーション(生まれ変わり)の実現を目指して「未来の教室」がはじまったことを再確認した。

「未来の教室」4年目の成果



 「未来の教室」実証実験で学びの自律化、個別最適化を実現した事例が、この4年間日本各地で生まれた。講演では、学びの場に変化をもたらした事例がいくつか紹介された。

長野県坂城高校の挑戦



 地方のスタンダードな公立校にAI教材「すらら」(数学・英語・国語)を導入し持ち帰り可能な1人1台パソコンで、個別最適・自律調整型の学びを3年間にわたり実証。自己効力感を高めた生徒が増加し、教室外でも使用可能な端末を持ち帰り、自宅学習も習慣化するという変化が見られた。さらにモチベーション向上を目指し、探究と教科学習の効果的な接続を実証。すららプレイリスト機能で探究と教科を紐づけ、探究ノートで振り返りを促したところ自主的に学ぶ生徒が9割近くに増えた。探究と教科のつながりを感じ、教科を学ぶ意義がわかることで、主体的に学び始める。生徒のアンケートでは、「自分でやることをコミットしたから週末に課題に取り組む時間が増えた」というコメントがあり、実証実験の成果が見られた。浅野氏は「この成果から生徒の自己効力感に不安があっても大丈夫と言いたいが、公立学校における実証事業の成果の定着と普及には『継承』の課題がある」とし、変化を牽引した教員のマインドと経験を継承するための人事の仕組み設計の必要性についても言及した。
(連載記事「地方のスタンダードな公立校、長野県坂城高校の挑戦」(1)~(3)はこちら

エシカル・ハッカー養成講座



 サイバーセキュリティ人材「正義のハッカー(エシカル・ハッカー)」を養成する教育プログラムを構築・実証。ゲーム依存は問題があるという側面でしか語られないが、それだけ熱中している子供たちから何らかの資質能力を見出せるのではないかという視点で、才能を発掘するプロジェクト。企業のサイバーセキュリティを担うDIGITAL HEARTSが仮想サイトをつくり、高校生からエシカル・ハッカーを育てる環境をつくった。不登校経験のある生徒も含め、通信制高校の生徒が多く参加し、実際のエシカル・ハッカーによるオンラインでのキャリア講演から、学生時代に自分と近い苦労をしてきた人がエシカル・ハッカーの仕事で活躍していることを実感。キャリア講演視聴、講義・ワークショップ、ゲーム形式の演習、インターン実習によってスキル開発とマインド醸成を目指した。インターン実習まで進んだ生徒も輩出され、この4月にエシカル・ハッカーの卵として就職した高校生も生まれた。「このプロジェクトで気付いたのは福祉の大切さ。学びとシゴトと福祉のピラミッド作りが必要で、心理的安全性と多くの依存先と道具、個別最適な環境のある福祉が基盤となり、学びとシゴトの好往還を生み出す」と浅野氏は語った。

カタリバ(シェア型オンライン教育支援センター)



 福祉をオンラインで実現するべく不登校児童・生徒の誘い出しに重点を置いた実証事業「カタリバ(シェア型オンライン教育支援センター)」では、支援計画コーディネーターが保護者に伴走しながらひとりひとりにあった支援計画を策定。研修を受けたメンターが学習プログラムを開催し、時間割を策定し、スクールカウンセラーや臨床心理士等の専門家とも連携している。「シェア型オンラインの強みは人材の確保。メンターを募集したところ倍率は20倍、支援コーディネーターを10名募集したところ説明会には800名が参加した」と浅野氏はオンラインの利点をおおいに生かした取組みの広がりに今後の期待を寄せた。

「みんなのルールメイキング」プロジェクト



 学校という空間の心理的安全性を追求。高信頼性組織を学校組織が手に入れるのはどうすれば良いか、自分の属する環境を改善し続ける力を身に付けることを目的に、カタリバと協業でいちばん身近なルールである「校則」を論理的につくり直す実証実験を岩手県立大槌高等学校で行った。GIGAスクールの環境を生かして全国の学校と外部人材をつなぎ、ツーブロック禁止の理由「就職に不利」は本当かどうかをヒアリング。生徒が企業に就職に不利かを確認したところ気にしていないことが明らかになり、ツーブロック禁止の校則は廃止となった。浅野氏は「不合理な校則を疑うのは『探究』で、今までこうだと言っていたものをひっくり返すのが『探究』であり『研究』。13、14歳でも固定観念にとらわれてる『あるべき論』をいう生徒も多くいるのが日本の教育の成果。ネットを使うとコミュニケーションを活性化でき、高信頼性組織に近づくことができる。実はこの実証実験で大きく変わったのは職員室の中。厳しい校則が本当に必要なのかと思っていたが言えなかった、そもそも論を問えなかったという負の同調圧力が感じられていた職員室の雰囲気が改善された」と確かな手応えを語った。

サイボウズによる学校/教育委員会BPR



 実証校(三島市・鹿児島市)でチームワークメソッドや校務のICT化による学校BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)のモデル事例創出に挑戦。結果、情報共有のデジタル化・効率化等が実施でき、先生が生徒に向きあう時間が増加した。仕事のありようの見直し、先生のジョブシャドウイングを実施しながら地道に継続。パソコンにある予定や連絡事項を、見逃す先生がいるかもしれないという理由から黒板に転記する習慣を、大型モニターに映し出しデジタルで確認するよう改善した。
(三島市の事例取材記事はこちら
(鹿児島市の事例取材記事はこちら

 最後に浅野氏は「未来の教室の事例は自分の町でも起こることだと思って取り組んでいただきたい。同じ壁にぶつかっても、同じように乗り越えられる」と語り、講演を締めくくった。

 6月末には経産省の産業構造審議会から「未来の教室」のビジョン2.0が公表されるという。4年にわたる実証事業によって、日本中の教室の風景にさまざまな変化をもたらしてきた「未来の教室」。1人1台端末の環境整備から「自走」のフェーズへと移行するGIGAスクール構想と併走してきた「未来の教室」が示す次なる展望が、日本中の教室にさらに新しい風を巻き起こすに違いない。

 ※浅野大介氏の著書「教育DXで『未来の教室』をつくろう―GIGAスクール構想で「学校」は生まれ変われるか」(学陽書房)発売時のインタビュー「「1人1台」で子供の学習環境は本当に豊かになるのか?」はこちら
《田口さとみ》

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