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三鷹中等教育学校 能城先生が語る「高校教育でWindowsを経験する価値」

 高等学校学習指導要領「情報」の改訂にも携わった三鷹中等教育学校 情報科主幹教諭の能城茂雄氏に、同校のICT環境の現状と高校教育のICT活用で重視すべきことを聞いた。

事例 ICT活用
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三鷹中等教育学校 能城茂雄先生
  • 三鷹中等教育学校 能城茂雄先生
  • 三鷹中等教育学校 能城茂雄先生
  • 三鷹中等教育学校のコンピュータ教室では中間モニターも設置している
  • プロジェクタを活用する能城先生
  • 実習では生徒に本格的な機材を貸し出す
  • 生徒に貸し出す三脚
  • Photoshopを操作する能城先生
 高校でのICT環境整備と教育実践が注目されている。三鷹中等教育学校は、中学1年生から高校3年生までの6年間を継続して学ぶ都立中高一貫校だ。東京都教育委員会による「ICTパイロット校」(平成28年度~令和元年度)「Society5.0に向けた学習方法研究校」(令和2年度~令和3年度)の指定を受け、ICTによる教育効果の実証実験に取り組んできた。今回、高等学校学習指導要領「情報」の改訂にも携わった三鷹中等教育学校 情報科主幹教諭の能城茂雄先生に、同校のICT環境の現状と高校教育のICT活用で重視すべきことを聞いた。

高校生の学びを実現するためのICT環境とは



--三鷹中等教育学校におけるICT環境を教えてください。

 東京都ではすべての都立学校に、生徒40名が一斉に情報や英語の授業を受けられる「CALL(Computer Assisted Language Learning)教室」とよばれるコンピュータ教室を設置しています。三鷹中等教育学校は都立の中高一貫校で、中学生である1年生から3年生は、GIGAスクール構想に準拠した端末、高校1年生(4年生)、高校2年生(5年生)、高校3年生(6年生)、そしてすべての教職員に1人1台端末として、マイクロソフトのLTE搭載Windowsデバイスを配備し、ICTの利活用に取り組んでいます。

三鷹中等教育学校 能城茂雄先生
三鷹中等教育学校 能城茂雄先生

--1人1台端末が整備された今の、コンピュータ教室の意味はなんでしょうか。

 現在、1人1台端末が整備されたことで、「コンピュータ教室は要らないのではないか」という議論を目にします。義務教育段階におけるICTの恩恵について、私はよく「時間と場所の制約が外れること」と話すことがあります。1人1台端末が整備され、学校のコンピュータ室の外でも端末の利用が可能になりましたが、これは「24時間勉強しろ」「学校に縛られろ」ということではなく、それぞれのライフスタイルにあわせて、生徒も教員も自分のペースで効率よく学習やさまざまな学校での活動と向きあうことができるという、確かなメリットです。

 一方で、学校のコンピュータ教室には1人1台端末とは違うメリットがあります。特に高校での学びでは、我々社会人と同様に、自分たちで何かを一から起こす活動が必要です。また今の高校生は、プログラミングやネットワークの授業をはじめ、ポスターや動画制作等、従来のアナログではなくデジタルの成果物を求められています。だからこそ、自分たちがやりたいことを実現できる使い勝手の良い文房具として、社会や大学で広く使用されているWindows PCやMicrosoft 365 Educationを採用しているわけです。

 そうした学びでは、プロジェクタに投影される教員の画面がなんとなく見えるという従来の設備ではなく、より具体的な指示やプログラムの例をきちんと示して、生徒がそれを手元で確認できる環境がとても重要です。こうしたことを踏まえて東京都教育委員会は、40人の生徒に対して40台のコンピュータ、そして2人に付き1台の教員の画面を表示するための中間モニターをコンピュータ教室に用意してくれています。コンピュータ教室には生徒用として、40枚+中間モニターとして20枚、合計60枚のモニターが並び、生徒のさまざまな状況に応じて活用できています。

三鷹中等教育学校のコンピュータ教室では中間モニターも設置している
三鷹中等教育学校のコンピュータ教室では中間モニターも設置している

 集団授業では、先生のほうを向いて教員が指差しする部分を見ることも子供たちの集中力に良い影響を与えますので、もちろん短焦点の明るい電子黒板やプロジェクタは必要です。しかし、全体と個に応じた指導の双方を行ううえでは、やはりコンピュータ教室の大きな画面と同時に、中間モニター等の明確に教員の意図を伝えるツールが必要ですね。

重要なのは「本物に接する、使っていく実体験」



--高校生のICT教育で重要なことはどのようなことだとお考えでしょうか。

 小中学校での「体験しよう」「触れてみよう」ではなく、社会で自分の武器になる、本物を使うことで得られる「実体験」が、高校教育においては特に重要だと考えています。

 従来、本校ではアメリカや中国をはじめとして、さまざまな国から高校生や中学生をお招きして、もてなすという国際交流を対面で実施していましたが、コロナ禍でオンラインでの実施にシフトしました。今までは教室にいて先生に習わなければできないとされていた探究的な学び等も、ICTを活用することで時間と場所の制約が外れ、学校にいてもいなくても学びを継続できます。

 昔ならば、ポスターを手で描いたり、動画をビデオカメラで撮影してスタジオのようなブースで編集したりといったことが当たり前でした。今、子供たちは思い立ったらすぐに手元のデバイスで画像や動画を加工し、Windowsだからこそ使える多様なソフトウェアを活用して、自分の思いや活動をさまざまな形で表現できます。高校ではこうした社会に直結した学びを展開することが重要で、我々は教室にも「本物の機材」をできるだけ整えるようにしています。

 本校ではカメラで映像を撮って編集する実習でも、大人が取材で利用しても十分なスペックの一眼レフカメラや4Kカメラ、プロが使う三脚をはじめとする撮影機材を生徒に貸し出ししています。PCのスペックについても、我々大人がビジネスで使うCPUやメモリーサイズは必要と考えており、OSやソフトウェアも同様です。Windowsの環境にいち早く触れ、実際に使っていくことで、社会に直結した学びができます。生徒は、プロなら当然理解している使い方を知らないので、その使い方を実地で教えるために本物をできるだけ揃えるようにしているわけです。

実習では生徒に本格的な機材を貸し出す
実習では生徒に本格的な機材を貸し出す

生徒に貸し出す三脚
生徒に貸し出す三脚

教員も「時間と場所の制約」から開放され、情報共有の基盤を獲得



--都立学校のICT環境から得られた先生方のメリットや実現したことを教えてください。

 東京都は、特別支援学校も含めたすべての都立学校に通う生徒と先生にICTを使うメリットが生まれるよう、さまざまなICT環境を用意してくれています。

 まず生徒がいる普通教室には、マイクロソフト ワイヤレスディスプレイアダプター(ミラキャスト対応)の付いた、短焦点プロジェクタがあります。先生方はノートPCをワイヤレスでプロジェクタにつなぎ、自分の画面を投影します。教員は教卓に縛られることがないので、たとえばタブレットPCを持ち歩き、生徒への指導をしながら端末を操作しながら授業をすることができます。また、すべての都立学校で、生徒が活動する場所には、生徒が自分のICT機器でWi-Fi接続できる「BYODネットワーク」も整備されました。こうしたICT環境により、これまでコンピュータ教室だけでしか実現できなかったことが改善され、あらゆる場所でICTを活用した教育活動を展開することで、さまざまな可能性が広がりました。

プロジェクタを活用する能城先生
プロジェクタを活用する能城先生

 本校では平成28年の実証実験から、校務に関しても生徒への伝達や職員間の情報共有にICTを活用しています。その成果を東京都教育委員会に報告しました。東京都教育委員会は、私たちからのフィードバックをもとに、東京都のすべての都立学校の教員と生徒にMicrosoft 365 Educationのライセンスを付与してくれました。これによりICTを活用した生徒支援や校務支援ができるようになり、本校では職員会議のペーパーレス化も実現しています。またMicrosoft Teams for EducationやMicrosoft OneDrive、Microsoft SharePointといったMicrosoft 365 Educationのテナントが都立学校すべてで共通なので、他の都立学校の先生たちとも教材や校務の資料を共有できます。これは大きなメリットですね。

 これまで学校では個人情報の取扱いが非常に多く、個人情報のない教材であっても学校と自宅でのやりとりや家での仕事はできませんでした。ところがICT環境が整備されて、先生たちが1人1台のデバイスやクラウドを使うことで、いつでもどこでも仕事ができるようになりました。ただし、これも勤務時間外に仕事をしなければいけないというわけではなく、家庭の事情等で遅くまで学校に残れなくても、自分のペースで自分の場所で仕事ができるという、まさに時間と場所の制約から解放されたということなんです。

 保護者からも、「何時まで、情報発信されるんですか」「遅い時間に学校から連絡はありますか」という質問をいただきますが、「社会一般の常識の範囲内で」行っており、遅い時間や夜中に連絡を取りあうようなことはありません。

WindowsとMicrosoft 365 Educationでオンラインとオフラインの融合を実践



--WindowsとMicrosoft 365 Educationを利用して実践していることを教えてください。

 コロナ禍が続き、今年からは学校全体でTeamsによるオンライン授業や指導を、すべての授業やホームルームで展開しています。またMicrosoft FormsやOneDriveをはじめとしたMicrosoft 365 Educationのさまざまなツールを利用しています。OneDriveは保存可能な容量も多く、ファイルの共有にも便利ですね。

 保護者会は、ゲストとして保護者が参加できるようURLを発行してTeamsで開催しています。コロナ禍で来校は難しいのですが、オンラインでもお話ができる機会は貴重ですね。生徒も、たとえば放課後に部活動のミーティングをしたい場合は、自宅や学校等の活動場所をTeamsでつないで行っています。

 ただ、オンラインでできるからといって、すべてをオンラインにするとは考えていません。そして対面に戻ったときにもICTを使わなくなるのではなく、コロナ禍のオンライン対応で得た知見をオフラインにどう生かすかが重要です。三鷹中等教育学校では学校長を中心に、オンラインの良いところ、そしてオフラインの大事なところを融合させていこうとしています。授業中ずっとICTで何かをするのではなく、先生方の培ってきた経験、技、授業スタイルにICTというスパイスを入れる。それを学校長の方針としてずっと唱えてきました。そのため「私はやらない」という先生もおらず、学校全体としてICTをすべての授業で活用できています。

Photoshopを操作する能城先生
Photoshopを操作する能城先生

 よく、授業を録画してオンデマンドで見せることについての議論があり、生徒の環境が整わないので録画をいつでも見られるほうが良いという主張と、ライブのオンライン授業のほうが良いという主張があります。しかし動画を収録するほうが、明らかにコストが高く、うまくいかないと撮り直しも必要となるため、授業準備にかなりの時間がかかります。

 ライブのオンライン授業では、カメラをオンにして生徒たちの顔を見ながら、「みんなわかったかな」と振っていくと、対面ほどではありませんが、生徒の状況がわかります。生徒の状況がわかれば、「もう少し説明しよう」とか、「時間がないから補足の資料をクラウドにアップしておこう」となります。これまではプリントを配るだけでしたが、今は補足の映像やコンテンツ等を提供することで、指導の幅が広がります。その意味ではクラウドベースでデバイスに依存せずに利用できるMicrosoft 365 Educationの利用価値が上がっています。

広く社会で利用されるインフラとしてのWindowsの価値



--Windowsが選ばれる理由はどういったところにあるとお考えでしょうか。

 やはり社会で使われている一般的なデバイスやOSを経験することが大事だと思います。Windowsは大多数の企業や大学で利用されているため、Windowsの経験には価値があります。

 本校では、義務教育の段階でプレゼンテーションやレポート作成等に日常の道具としてWindowsデバイスを中心とするICTを利用しています。高校の「情報」の授業では、プログラミングや動画編集、データの活用等、高校生らしい内容の課題に生徒が取り組みます。本校におけるWindowsの経験が実際に役立っているようで、在学中はコンピュータが苦手で「情報」は得意ではなかったという生徒が、大学や社会に出たときに他校出身者に教える側に回るというケースがよくあるようです。コロナ禍でICT機器が必須の道具になり、「高校時代に、当たり前のようにWindowsを使う環境に置かれていて良かった」という声は多く聞きます。

 高校の「情報I」では、一般的なPCの使い方は教科書にほとんど盛り込まれていません。いわゆるOSの使い方やファイルの概念、Officeソフトの使い方等は義務教育でしっかり学んでから高校での学びに進むため、当たり前のようにICTを使ってきた生徒はそれらを習った覚えがないんですね。

 本校の場合、コロナ禍の前の話になりますが、入学後の5月はじめの宿泊行事で、デジカメやノートパソコンを使って、海辺や無人島での植物調べや海辺での地引網体験をデジタルで記録に取り、その日の夕食後に各班で何をやったかを全員の前で発表しています。このときデータの記録や取り込み方、メディアの移し方、Officeソフトの使い方等は我々からは何も教えていません。生徒が優秀だからというわけではなく、小学校でコンピュータを学習指導要領に沿って活用してきた生徒はICTを活用した成果物の制作もできるし、そうではない生徒は、できる生徒からの刺激を受けて、すぐにできるようになっています。

また、三鷹中等教育学校では、私の出勤後はコンピュータ教室を常に自由解放して、授業等で利用のない時間や、休み時間、放課後等、本校関係者であれば自由に使えるようにしています。生徒の創造性を伸ばすためには、自由に使うことができる環境が必要です。

未来を体感できる体験を期待



--高校生が将来、社会で活躍できる力を身に付けるためにマイクロソフトに期待することはありますか。

 今後、プログラミングやデータ活用、さまざまなメディアで活躍する子供たちが出てくると思いますが、全員がスーパークリエイターになるわけではありません。そのため、生徒たちが獲得した技術や学んだことを示す資格や制度のようなプログラムがあれば良いと思います。

 またマイクロソフトでは、「マイクロソフトの描く未来」という未来を予測したコンセプトムービーを数年に一度発表していて、私はこれを1年間の授業の最後に見せています。生徒は社会がこうなると知って、未来について楽しく希望がもてる内容に触れることができると考えているので、マイクロソフトが描く未来像にも期待しています。

--ありがとうございました。

 「生徒の可能性や具現化したいことに学校はさまざまなものを提供して経験させていく。ここは社会ではなく学校なので、間違えてもできるようにすれば良いんです」と能城先生が話すとおり、本物との邂逅が高校教育におけるICT活用の価値をさらに高めることを感じた。WindowsやMicrosoft 365 Educationを基盤にして、今後も子供たちが飛躍する未来を期待したい。

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《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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