セミナーには、2016年より中学校、2019年より高校へのChromebook導入を開始し、2021年に中高1人1台運用が完成した浪速学院 浪速高等学校・浪速中学校(大阪府大阪市)の下園晴紀先生がゲストスピーカーとして登場。小中高教職員や教育関係者らに向けて、学内のICT教育推進部長としての5年間の実践や苦労について豊富な事例を交えて語った。
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中高全生徒がChromebookを所有
生徒数が中学校380人、高校2,100人という大規模校の浪速学院では、2015年の校舎建て替えに合わせて、全教室への電子黒板導入等、ICT環境を整備。中学校・高校の全生徒がChromebookを所有し、校内どこでもフリーWi-Fiが利用できる環境にある。
ソフト面では、個別学習用のアダプティブ・ラーニングシステムとして「Classi(クラッシー)」「すらら」「Online Speaking Training(オンライン・スピーキング・トレーニング)」、協働学習・連絡用のアクティブ・ラーニングシステムとして「Google Workspace for Education」を導入。下園先生は「それぞれの良いところを組み合わせて利用している」と説明するとともに、「ハードの整備はトップダウンがある程度必要。活用という部分では、現場の認識が大事になってくるというのが実感」と語った。
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ICT担当教員としての思いや体験談
現場のICT担当教員として5年間で抱えた葛藤については、「組織をいかに巻き込むか」「業務量へどう向き合うか」「授業に対するとらえ方を変える」の3点をあげた。「組織をいかに巻き込むか」は、「自分も一番苦労した」とし、周りの先生方に「一緒にやりましょう」と声をかけ、ICTに苦手意識をもっている先生には「無理しなくて大丈夫ですよ」と話し、仲間づくりや研修会を通した交流等の体験を伝えた。
「ICT担当者として、業務量へどう向き合うか」については、「今は産みの苦しみで、どうしても業務量が増える時期」と指摘。「やり方は見せるのが一番早い」との思いから、ICTの使い方説明マニュアルを動画で作り、YouTubeで校内の先生方に限定公開した経験についても、実際の動画とともに紹介した。
ICT活用で業務負担減
2020年12月2日~9日に校内で教員102人を対象に実施したアンケート結果も公開。3年以上ICTを活用している教員の42%は「業務負担が減った/少し減った」、ICTを活用していない教員の50%は「業務負担が増えた/少し増えた」と回答したとし、「継続的に利用し、慣れてくると絶対に業務量は減る」と力を込めた。
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GIGAの鍵を握るのは現場の先生
「授業に対するとらえ方を変える」では、国語教員としてICTを活用した自身の国語の授業実践を紹介。「発問をフォームで事前に掲示すればより多くの発言の機会ができる」「静と動のリズムがうまくとれる」とメリットに触れたうえで、「ティーチャーというよりもファシリテーター。学びを支援する立場に教員も変わっていくのではないか」と考え方の転換を提言した。また、ICT化の流れを「とにかく使ってみる」→「慣れるまで我慢」→「発想を変える」という3段階で解説。「GIGAは学校を進化させる?退化させる?」というテーマの答えについては、「現場の我々次第」と語った。
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下園先生による話題提供の後には、参加者からベテランの先生を巻き込むコツ、端末の持ち帰り、入試や定期試験へのデジタル採点導入、情報教育リテラシー等、さまざまな質問が寄せられ、下園先生が自らの経験談や思いを交えて回答した。
共催するティーチャーズ・イニシアティブからは、2020年度に日本財団の助成を受けて全国4つの自治体に無償提供した教員向けの「ICT授業デザイン研修」等の実践についての報告もあった。