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可視化そして分析…コニカミノルタが教育業界で生み出す新たな価値

 複合機などの学校導入実績から、日本全国の学校とのネットワークを築いているコニカミノルタが教育事業に注力している。その背景や同社のビジョンについて同社上席執行役員情報機器開発本部長の廣田好彦氏にお話を伺った。

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幅広い顧客の「見たい」「視たい」というニーズに応えてきたコニカミノルタ、教育業界での価値創生とは
  • 幅広い顧客の「見たい」「視たい」というニーズに応えてきたコニカミノルタ、教育業界での価値創生とは
  • インタビューに応じてくれたコニカミノルタ上席執行役員の廣田好彦氏
  • 教育ICT活用において先進的な取組みを行っている大阪府箕面市
  • 検証をもとにブラッシュアップし、2021年夏にリリース予定の「tomoLinks」
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 複合機などの学校導入実績から、日本全国の学校とのネットワークを築いているコニカミノルタ。強みをもつ材料・光学・画像などの技術を生かし、幅広い顧客の「見たい」「視たい」というニーズに応えてきた同社が、2021年夏、こうした先端技術を活用し、学びの効率化・見える化を実現する学習支援サービスを開始する。それに先立って2019年から取り組んでいる文部科学省の実証事業の内容と、同社のビジョンについて同社上席執行役員情報機器開発本部長の廣田好彦氏に聞いた。

教育現場の課題解決をデジタル化で支援



--カメラや複合機の老舗企業であるコニカミノルタが、教育事業に進出した背景を教えてください。

 我々がメインで手掛けているオフィス系の複合機は、昨今ペーパーレスが進行し、コロナ禍でリモートワークが増えたことも相まって、その傾向がさらに加速しています。コロナ以前から我々ができる新たな社会貢献を模索している中で、さまざまな業種・業態においてデジタル化を支援することで課題を解決していくことができそうだと考えていました。教育現場もその対象になると思い、注目していた分野です。

 弊社は元々コニカとミノルタという2つの会社で、当初のカメラとフィルムの製造業から、複合機主体でドキュメントを扱う仕事へと事業を拡大してきました。いちばん得意とするのは、これまでの知見を踏まえた画像処理やAI分析の技術です。これらを組み合わせて目に見えないものを可視化させる画像IoTを強みとしています。そうした弊社の中核能力を教育の分野でも発揮できるだろうと考えました。

 そういった素地があり、2019年度から大阪府箕面市での文部科学省の「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業(学校における先端技術の活用に関する実証事業・先端技術の効果的な活用に関する実証)」の事業者に選定していただき、取組みをスタートしました。

 以前から教育事業には取り組んでおり、複合機販売を通じてパソコン関連の販売代理店としても機能しているグループ販売会社・コニカミノルタジャパンが先行して、各地で学校のICT導入サポートなどを行っておりました。ただ、弊社の技術を生かしたデジタル化の支援については、教育分野へのアクションのきっかけが難しく、さまざまな情報を調べた結果、今回の文部科学省の実証事業に行き着きました。実証に参加させていただくことにより、教育現場の課題に我々がどのようにして具体的に貢献できるかを明確にできるのではないかと考えたからです。

インタビューに応じてくれたコニカミノルタ上席執行役員の廣田好彦氏インタビューに応じるコニカミノルタ上席執行役員の廣田好彦氏

複合機など既存事業と教育事業のシナジーも



--実証事業の取組みを、大阪府箕面市で行うことになった経緯を教えてください。

 もともと箕面市は、早くから成績処理システムや学力テストのデータベース化を行っていたり、GIGAスクール構想前に市の独自財源で小学4~6年生に1人1台デバイスを整備していたりと、ICTの教育活用に先進的な自治体でした。全国に数百万いる既存事業の顧客の中から、販売会社のネットワークを活用して、今回の施策に適合しそうな自治体を探し、さまざまな要素を検討したうえでお願いしました。

 加えて、弊社には自治体DX推進部という地方自治体の業務分析を行っている部署があります。地方行政は公立学校の運営をはじめとして教育に関する業務の比重が高いこともあり、ありがたいことに、自治体DX推進部のつながりで「実証事業に協力したい」という自治体からのお申し出も増えてきています。最近は、そういった弊社の自治体関連事業や、販売会社の既存ルート、箕面市の実証事業を知った顧客などからも引き合わせがあり、既存事業と教育事業のシナジーが生まれています。

授業の行動解析が振り返りに効果



--文部科学省の実証事業の取組みについてお聞かせください。

 教育におけるデジタル化の必要性を感じていたものの、実際にどういう場面でそれを生かすのかという具体的なサービスは、現場に聞いてみないとわからないだろうと考えていました。

 そこで、箕面市の実証事業では、オンライン学習の効果的な活用方法の開発教員の働き方改革支援と指導内容の向上子供たちの成績予想を活用した指導の個別最適化を目標に掲げ、3つの取組みを実施しました。1つ目の取組みはオンライン学習の検証、2つ目は授業中の児童生徒・先生の行動解析、3つ目は箕面市がもっているデータを活用した成績分析です。企画構想・導入段階にあたる初年度は、このうち2つ目の行動解析をメインに行いました。具体的には、教室にカメラとセンサーを設置して、授業のようすをモニタリングし、画像・音声データを収集したうえで、先生と児童生徒の動きをAIで分析して、学習・教育活動を可視化しました。弊社は画像分析を得意としているので、介護施設におけるお年寄りの転倒検知などといった人の行動解析にも実績があります。なので、授業の分析においても今までの知見をアレンジして実現できるということが裏付けられました。

 解析内容については、初年度は授業のどこで盛り上がったか、反応が良かったかという分析を多く行いました。先生方にどういった項目でどのような指標で分析を行うと活用しやすいかを聞きながら進めました。その中でも、先生方からたくさんのフィードバックをいただいたのが音声解析す。授業中の先生と児童生徒の発話比率を見える化できたことにより、具体的に振り返ることができ、授業スタイルの改善に効果的と評価いただきました。小学校の先生は昨今アクティブ・ラーニングを進めており、子どもたちが活発に発言をする授業を目指しています。自分自身では「やっているつもり」でも、実際の音声データによる客観的な分析から、自分が思っていたよりも子供たちの発話が少ないという現実を知ることができたと話す先生もいらっしゃいました。

 また、技術的な面では、行動解析にクラウドを用いたものの、教室の画像・音声データをしっかり解析しようとするとデータ容量が大きくなってしまうため、通信量が膨大になってしまい、解析に時間がかかる点が課題となりました。

教育ICT活用において先進的な取組みを行っている大阪府箕面市

セキュリティの安心安全に配慮



 他にも課題はさまざま見えました。校務事務の効率化の面で、出欠の確認をカメラの顔認識で実現するという案もありましたが、セキュリティの問題で難しいことが判明しました。

 またセキュリティに関連して言うと、まず教室にカメラを設置して使うことをお願いすると、先生方の反応は「授業分析をぜひお願いしたい」という好意的なものか、「カメラをつけて監視するのはちょっと」と嫌悪感を示すかの2通りに分かれます。我々は監視をしたいわけではなく、あくまでも先生方の指導技術を可視化し、ご自身の指導を振り返り、授業改善ができるように貢献したいのだということを説明し、あらためてご一緒させていただけるようお願いしました。このあたりの丁寧な説明は保護者にもさせていただいて、利用に際してセキュリティ・プライバシー面の問題がないことをご理解いただきました。

ST分析の自動化などわかりやすいデータ提供



--続いて、2020年度の内容についても教えてください。

 導入・実証段階にあたる2年目の2020年度は、技術的にはクラウドを使わずに、端末でデータ解析をする弊社の「エッジコンピューティングシステム」を取り入れました。これによって解析が何十倍も速くなりましたし、クラウドにデータを送信しないため、セキュリティの面でも優れています。

 分析の面では、先生方になじみ深い「ST分析」という手法を使ってデータを取れるようにしました。ST分析とは、授業中の児童生徒(Student)と教師(Teacher)の行動をグラフ表示して分析する手法です。

幅広い顧客の「見たい」「視たい」というニーズに応えてきたコニカミノルタ、教育業界での価値創生とは手間のかかる「ST分析」を映像や音声解析によって自動化

 ST分析自体は昔からあるものの、従来は先生の他に授業を見ながら手作業でデータをとる人員が必要でしたが、それを映像や音声解析によって自動化できるよう試みました。完全に自動化できれば、特定の授業の定期分析や、新しい授業にトライするとか、クラスの状況を確認しようといったことができるようになると思います。

 2019年度はどちらかと言うと技術ベースで分析していましたが、2020年度は先生方が理解しやすい形でデータを分析する方向で進めてきました。公開授業や研究授業にデータを取り入れることで、指導を受ける側の先生も納得感をもって取り組めるようになります。そうした点で、今大きな社会課題のひとつになっている教員養成を支援できればと思っています。

 また、初年度に放課後学習を検証したオンライン学習については、2020年度はコロナ禍での休校措置にともない、デジタルドリルを自宅で活用する方針に切り替えました。箕面市は休校期間に遠隔授業を実施していて、一方的な授業よりももっと対話的で効果の高い遠隔学習ができないかと検討を重ねていました。その一環で、2020年度は一斉授業とデジタルドリル、動画教材を組み合わせて効果的な遠隔学習を行うことをテーマに、その取組みの中に、弊社の学習支援システムも一部組み込んでいただきました

幅広い顧客の「見たい」「視たい」というニーズに応えてきたコニカミノルタ、教育業界での価値創生とは学習履歴の可視化を行うことで、個別指導の幅を広げる

--充実・普及段階となる2021年度の事業について、どのように計画されていますか。

 基本的にはこれまでの延長線上で考えておりますが、国のGIGAスクール構想で整備された端末から得られるデータの活用を進めたいと考えています。文部科学省から「異なるサービス提供者や使用者でも相互にデータを交換・蓄積・分析でき、教育データを効果的に活用するため、データ内容の規格および技術的な規格を揃えるべき」という教育データの標準化の指針が出されています。それに対応できるよう、たとえば学習eポータル標準モデルなどの要素を取り入れて、GIGAスクール構想の活用に役立つように検討していきたいと思っています。

すべての子どもたちの可能性を最大限に引き出す支援を行う



--今後の教育分野のビジョンについてお聞かせください。

 今回の実証事業を通して、教育現場の課題解決のため3つの道筋が見えました。まず1つ目は、遠隔授業や家庭学習を行う際、先生がストレスなく活用でき、授業そのものに集中できるよう、遠隔授業や家庭学習により最適化された学習支援ツールが必要だということ。2つ目は、先生方による指導技術やそれによる児童生徒の反応を可視化し、ナレッジを共有することが大切ということ。3つ目は、教育計画を立てる際、現状は先生の肌感覚や経験則によるところが大きいが、子供たちひとりひとりへの個別最適化にあたっては具体的なデータによる分析技術が必須と考えられるということ。この3点が把握できたことは実証事業での大きな収穫ですし、コニカミノルタとしても教育業界における社会貢献の入口として、非常に可能性を感じました。

 それらの課題を解決するためのツールとして、今回開発実証を行った教育支援システム「tomoLinks」をブラッシュアップしています。まずは第1弾として、学校と家庭をスムーズにつなぐ協働学習支援サービスを2021年夏にリリースする予定です。

検証をもとにブラッシュアップし、2021年夏にリリース予定の「tomoLinks」

 「tomoLinks」は実証事業での検証をもとに、3つの機能を有するサービスとして開発しています。1つ目は、校内と自宅や病院などの遠隔地をスムーズに接続する学習支援システム、2つ目は、授業の画像・音声データの分析を活用した教員の養成支援、3つ目は、学力テストやデジタルドリルのデータをAI分析して、指導や個別学習に必要な情報を提供していく学習履歴の分析システムです。そのうち今夏リリースするのは1つ目の学習支援システムの機能にあたります。学校の中での協働学習や遠隔学習を1つのサービスでスムーズにつないでいく仕組みになっています。最終的には、これらの3つの機能から得られたさまざまなデータを集約し、教育データプラットフォーム化して、データをもとにした学びの個別最適化につなげたいと思っております。

 一方で、日本の社会課題として、社会人の学び直しや、働きながら学ぶリカレント教育の必要性が叫ばれ始めています。情報化社会になり、リモートワークも増えた今、新しいことを学び続けて挑戦し続けないといけない世の中になってきているように感じます。学習のニーズが多様化していることもあり、将来的なリカレント教育まで含めて展望すると、児童生徒ひとりひとりの学習データの蓄積と分析は非常に意義深いことだと思っています。私立・公立の別や学校規模にかかわらず、個別指導に近いことが実現できるように、ICTやデータ活用で支援できたらと思っております。

--ありがとうございました。

見える化技術が導く学びの個別最適化



 カメラやAI等を駆使した画像IoT技術、さまざまな「見える化」を得意とするコニカミノルタ。同社の「見える化」技術が教育分野に生かされ、実証事業を経てブラッシュアップされ、今般リリースされる教育支援システム「tomoLinks」に結実する予定だ。

幅広い顧客の「見たい」「視たい」というニーズに応えてきたコニカミノルタ、教育業界での価値創生とは2021年夏にリリースを予定している「tomoLinks」

 ひとつのシステムで協働学習や遠隔学習、授業の行動解析、学習履歴のAI分析などを行えるワンストップ型のサービスで、繰り返し活用することでデータを蓄積していく学習支援プラットフォームだ。個人の特性に合わせた個別最適化された学びを導くために、コニカミノルタの技術が全国の教育現場の課題を見える化し、改善につなげていくことが期待される。

「tomoLinks」についての詳細はこちら
※「tomoLinks」の名称は、商標登録出願中です(2021年4月21日現在)
《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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