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プログラミングで課題解決、清新中学のレゴ「SPIKEプライム」活用授業

 GIGAスクール構想も進む中、今後プログラミング教育はどのように実践されていくのか。神奈川県相模原市立清新中学校で行われたレゴ エデュケーションの「SPIKEプライム」を使った初の公開授業を取材した。

事例 プログラミング
相模原市立清新中学校のプログラミング授業で使われているレゴ「SPIKEプライム」
  • 相模原市立清新中学校のプログラミング授業で使われているレゴ「SPIKEプライム」
  • 相模原市立清新中学校「技術」担当の須藤雄紀教諭
  • 「SPIKEプライム」で組み立てられた「収穫作業自動化ロボット」
  • 公開授業が開催された清新中学校のPC教室
  • 農業が自動化されているようすを動画で視聴
  • 実際にミニトマトを収穫するロボットの映像を見ながら、どんな動きになるのかを観察
  • 「ミニトマトの収穫作業の自動化」がテーマ。机の中央にある箱をミニトマトとして実習は進む
  • グループごとにプログラミングを修正しながらロボットの動きを検証していく
 中学校では2021年度から新学習指導要領が全面的に実施される予定で、技術・家庭科の「技術」分野では、従来よりもプログラミング教育の充実が求められている。このため各中学校では、指導方法や題材、教材などの検討が進められているという。GIGAスクール構想も進む中、今後プログラミング教育はどのように実践されていくのか。2020年2月13日に神奈川県相模原市立清新中学校で行われたレゴ エデュケーションの「SPIKEプライム」を使った初の公開授業を取材した。

SPIKEプライムを使って農業自動化システムを学ぶ



 清新中学校の「技術」におけるプログラミング学習では、社会や産業で利用されている計測・制御システムにはどのようなものがあるのか、またその仕組みはどうなっているのかに「関心」をもつこと、そして、身の回りにある課題の発見から、それを解決するためにプログラムの初歩的な「制作」ができるようになることが目標とされている。

 今回の公開授業は、2年生の「技術」における「計測・制御のプログラミングによる問題の解決」の範囲にあるもの。カリキュラムは全8時間で構成され、公開当日の授業は、その5時間目にあたる内容となっている。担当するのは同校で「技術」を担当する須藤雄紀教諭だ。

相模原市立清新中学校「技術」担当の須藤雄紀教諭
相模原市立清新中学校「技術」担当の須藤雄紀教諭

1時間目:プログラムで自動化された技術を探そう



 ここで、公開授業までの学習内容をおさらいしよう。最初の時間のテーマは「プログラムで自動化された技術を探そう」。まずプログラムによって自動化された実社会にある技術、たとえば、自動ドアや自動車工場などを調べて「何を自動化したら身の回りの課題が解決できるか」を生徒たちが自分自身で考えることから始めた。そこで「ミニトマトの収穫作業を自動化する」ことが、共通の課題になった。

2時間目:LEGO SPIKEを使ってみよう!



 次の時間では「LEGO SPIKEを使ってみよう!」をテーマに、「SPIKEプライム」を使った“ミニトマトの収穫作業自動化ロボット”を制作。センサーやモーターなどの使い方や自動化への手順を学んだうえで、レゴブロックを使って実際のロボットを組み立てた。

「SPIKEプライム」で組み立てられた「収穫作業自動化ロボット」
「SPIKEプライム」で組み立てられた「収穫作業自動化ロボット」

SPIKEプライムとは



 なお「SPIKEプライム」は、小学校の高学年から中学生、高校生向けのSTEAM学習(Science=科学、Technology=技術、Engineering=ものづくり、Art=芸術、Mathematics=数学)のためのパッケージだ。レゴ エデュケーションから2020年1月より販売が開始されている。カラフルな“レゴブロック”、システムの心臓部である “プログラム制御ハブ”、モーターや各種センサー、Scratchをベースとしたプログラミングソフトウェアで構成され、作り手の設計や発想によって、ロボットや装置を楽しく作って実際に動かすことができる。

3-4時間目:収穫作業を自動化しよう! 1.作物に近づき、果実の色を識別しよう!



 そして前回の授業では「収穫作業を自動化しよう! 1.作物に近づき、果実の色を識別しよう!」として、いよいよ収穫作業自動化ロボットを動かすためのプログラムの作成を開始。「順次・分岐・反復」といったプログラミングの基礎を学習すると同時に、アクティビティ図の作成によって解決方法を整理した。

5時間目:公開授業の目標は「クラウドデータ」の活用



 今回の公開授業のテーマは、前回の内容を受けて「収穫作業を自動化しよう! 2.クラウドデータの天気予報で判断しよう!」。

 授業内の課題は2つ。まず前回の授業で作成した、作物に近づいて色を識別するプログラムの確認と改良を行うこと。次にクラウドデータを利用して天候に合わせて収穫作業を行うプログラムの作成だ。

 授業が行われるPC教室は、生徒1人1台のPC、指導者用PCがすべてネットワークで繋がる環境が整えられており、教材や資料は各モニター画面での共有が可能となっている。また、今回利用する「SPIKEプライム」はBluetoothで通信する必要があり、タッチパネルでの直感的なプログラミングを実現するために、別途タブレット端末が各グループに用意された。

 公開授業は、これまでの振り返りからはじまった。まず実際の農業用収穫ロボットの動画が映されて、農業に関する課題、たとえば収穫の大変さ、育てる際の苦労、人手不足などが、自動化技術によって解決できる可能性が示された。

農業が自動化されているようすを動画で視聴
農業が自動化されているようすを動画で視聴

 続いてミニトマトを収穫するロボットの映像へ。ロボットは、移動しながらミニトマトの房をみつけ、房の前で停止すると、熟したミニトマトを自動的に認識。そしてアームが伸びてミニトマトを傷つけずに収穫していく。

実際にミニトマトを収穫するロボットの映像を見ながら、どんな動きになるのかを観察
実際にミニトマトを収穫するロボットの映像を見ながら、どんな動きになるのかを観察

 また、須藤先生からは「来週の話をします。いま(映像で)見たのと同じようなアーム型のパーツをロボットにつけて、ミニトマトが収穫できるような仕組みを作ります。カゴもつけてミニトマトをキャッチします。みんなでぜひ良い形のアームに改良してください」とカリキュラム終盤に向けて、“ミニトマト収穫作業自動化ロボット”の完成形イメージが伝えられた。

 続く実習では、前回取り組んだプログラムの精度を高めることが課題だ。テーブルの真ん中にミニトマトの絵が描かれた箱が置かれ、机の一番はじからその箱に向かってロボットを走らせて近づける。停止したら今度はミニトマトの色を判別する。

「ミニトマトの収穫作業の自動化」がテーマ。机の中央にある箱をミニトマトとして実習は進む
「ミニトマトの収穫作業の自動化」がテーマ。机の中央にある箱をミニトマトとして実習は進む

 須藤先生「できれば何度やっても止まるようになれば良いですね。あとは色を読み取ったときに、読み取ったのかがわかるようにすることも大事なことです。音を出したり、表示したり、自分たちなりにきちんと設定されていることがわかるようにしてください」。

 先生のアドバイスとともに、生徒たちは思い思いにプログラムを修正してロボットを動かしていく。走行速度を調整し、色の判別時に音を鳴らしたりライトを光らせたり、何度もロボットを走らせてはトライ&エラーを繰り返した。

グループごとにプログラミングを修正しながらロボットの動きを検証していく
グループごとにプログラミングを修正しながらロボットの動きを検証していく

 しばらくすると須藤先生が声掛け。各自PCのある席に戻り、最初の課題の振り返りに移る。須藤先生からは、センサーの距離・スピードの調整によって、速すぎるとミニトマトに衝突するデメリットもあるが、その一方で、速いと作業が早く済むというメリットもあると、プログラムの調整における考え方が生徒に伝えられた。

 続いて、今回の最大の目的ともいえる「クラウドデータを利用して天候に合わせた収穫作業を実現する」という課題へ。インターネットで取得できるクラウドの天気予報をもとに、ロボットが収穫作業に適している天気かどうかを判断するプログラムを作成していく。

クラウドデータを用いて天候条件に合った作業を判断・処理するためにプログラムの追記や修正をしていく
クラウドデータを用いて天候条件に合った作業を判断・処理するためにプログラムの追記や修正をしていく

 須藤先生は、判断にいたる天候条件を生徒と一緒に整理した。外の走行を含めると雨天は収穫には適さない。晴れ・曇りのときは収穫。つまり、雨以外のときは収穫、雨のときは収穫しないという手順が考えられた。

 天候を判断する場所は現在地の「相模原」。なお、レゴ エデュケーションのスタッフによると、ノルウェーのYrという国営のクラウドデータから天気予報の情報を取得しているという。

 生徒たちは、プログラミングの前に、紙で配布されたワークシートで手順を整理する。天候の読取りや今の状況、分岐などをアクティビティ図に記入。たとえば、雨ならば傘マークを表示、雨でなければ、これまで自分たちの作ったプログラムの実行に移行する。

 須藤先生は「あとでもっと良い形があったら、この図は修正して構いません。(今までやってきた中で)もうだいぶこの図が変わった人もいると思います」と生徒独自の発想を促した。

 続いてプログラミングへ。今回はタブレットでScratchベースのプログラミングを進めていく。

 須藤先生「画面の左下に“天気”というのが出ていますので、これを押してください。プログラムがスタートしたときに、相模原の現在の予報が出るように設定します。ただ何かのアクションが示されないと、相模原が本当に晴れなのか雨なのか曇りなのかがわからないので、たとえば、雨以外ならば、ロボットが進む。雨ならば傘マークの表示を繰り返すということを自分たちで試してください。ではスタート! 結構、難しいよ」。

 生徒たちは、さらにやる気を見せはじめてプログラミングに取り組んでいった。

 須藤先生「今のプログラムにどう組み込むのかが面白いですね。ゼロから作っているグループと、先ほどのプログラムに組み込んでいくグループがいます。どっちがうまくいくか」。

 数分も経たないうちにプログラムを組み上げるグループも出てきた。その後も、グループごとに、独自の発想で天候条件をプログラムに組み込んでいき、ロボットを動かす試みが続く。そして、およそすべてのグループがプログラムを試行したところで、この課題の振り返りに入った。

 須藤先生は「クラウドデータの天気予報を判断してロボットに動作させましたが、本当に晴れだから動いているのかな? というところは、来週確認していきましょう。すでに、その確認をしているグループもありますね」と、自分たちが組み上げたプログラムが求める条件にもとづいて正確に動くものかどうかを常に確認する大切さを付け加えた。

プログラムには安全性・正確性といった精度が求められる



 最後は授業全体の振返りへ。ワークシートに用意された設問に対して生徒ひとりひとりが記述する。最後の設問では「もしあなたが世の中で使われる自動制御のプログラムを考えるとしたら、どんなことを大切にしてプログラムを開発したらよいと思いますか、理由も含めて説明してください」と設計者の立場になって考えを表現することが求められた。

 この設問に対して、ひとりの生徒が全員の前で発表。

 生徒「プログラムを設計するとき、毎回正しく動作し、誤作動が起きないようなプログラムにしたいと思います。なぜなら今回プログラムを作ってみて、うまくいくときと、うまくいかないときがあり、毎回正確に動かないと実際に使うことができないと思いました。実際に利用できるようなプログラムでなければ、世の中に販売することなどできるとは思いません」

 須藤先生「実際に使うプログラムは安全に動作するものでなければなりません。また誤作動が生じたら、すぐにプログラムが修正できるものであるとよいと思います。実際に世の中で使われるものは、正確性や安全性などで精度が求められます。みなさんもこの授業を通して、そういう気付きがあるとよいと思います。また次回、がんばりましょう」。

 次回は、実際にアームを作ってロボットに取り付けて、架空のミニトマトを収穫する実習へ進む。最後の時間では、カリキュラム全体の振返りを行って定着を図っていく予定となっている。

公開授業が行われた相模原市立清新中学校
公開授業が行われた相模原市立清新中学校

プログラミング学習の本質は、自発的な問題の発見と解決



 公開授業の終了後に、須藤先生に話を聞いた。

 “農業の自動化”というテーマが選ばれた経緯を聞くと、生徒たちは実際にミニトマトの栽培を行っていて、そのときに管理するのが大変だ、面倒くさいと言うようになったという。「でもその“面倒くさい”は、とっても良い問題で、じゃあ面倒くさいものをどうしようかと、栽培する中でいろんなことを実際に試していました」と須藤先生は身の回りから課題を発見し、解決しようとする大切さを話してくれた。

 その後の技術の授業で計測・制御の技術を知る中、生徒自らが問題に感じているものを話し合って「ミニトマト収穫ロボットの制作」(6、7時間目)という共通の課題に取り組むことになった。

 「来週はアームを作ります。基本アームがあって、これを良いものに変えていく。また同時にプログラムを改良していきます。今の子どもたちは、どうしてもハード面の改善に熱中する傾向にありますが、プログラミングをやっていくと、ハードに対していかに適切なプログラムが必要なのか、またプログラムに対して適切なハードはどうなるのかと、子どもたちが両面から見られるとよいと思います」と、SPIKEプライムで組み立てたハードとプログラミングが今後の授業で進化することを楽しみしているようすが伺えた。

 今回は、タブレットを実験的に導入したことで、生徒が作成したプログラムを共有して意見を出し合う環境にまでは至らなかったが、天気予報のクラウドデータを、どのようにプログラムに組み込むかは、生徒によって発想の違いが出ていた。須藤先生は、GIGAスクール構想による環境整備から、さらに簡単にプログラムが共有できるようになって、協働学習が進むことを期待していた。

 生徒自身が社会や身の回りにある課題を発見し、その解決に向けてハードとシステム両面から実体験型の学習を進めていく清新中学校の取組みは、今後、GIGAスクール構想やプログラミング学習を展開しようとする他校にも参考となる良いケースのひとつではないだろうか。SPIKEプライムという親しみやすい教材と生徒主体の充実したカリキュラムのさらなる進化を期待したい。
《佐久間武》

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