ICT市場調査コンサルティングのMM総研は2025年6月25日、公立高校の学習者用1人1台端末に関する調査を実施し、その結果をまとめた。47都道府県の教育委員会へ架電調査を行い、現在の高校生用1人1台端末の整備状況および次回更新の計画について尋ねた。
その結果、現時点で47都道府県のうち31の自治体が公費を活用しているが、今後も公費による端末更新のめどが立つ都道府県は8つにとどまることがわかった。このまま進めば今後は公費財源割合が減少し、端末費用は保護者負担が増加する可能性が高い。政府は高校無償化の議論を経て、就学支援金の所得制限撤廃などを進めているが、現時点で無償化の範囲に学習者用端末の費用は含まれておらず、端末費用がいわゆる「かくれ教育費」として公立高校生をもつ家庭の家計負担の増加につながりかねない。
端末整備に公費財源を活用する31都道府県のうち更新のめどが立つのは8にとどまる。現時点で利用する公立高校生の端末調達費用に公費を活用する都道府県は31と全体の66%を占めた。そのうち、20の都道府県が公費のみで調達した端末を活用し、11都道府県は公費と保護者負担を併用している状況だ。しかし、今後の端末更新時に公費財源のめどがたつ都道府県は31のうち8つにとどまる。なお、現在公費のみで整備している20自治体に絞ると、今後も公費のみでとする都道府県はさらに少なく5つとなった。
次に保護者負担により端末を整備する都道府県に運用方法について確認した。その結果、IT運用の観点ではBYOD(Bring Your Own Device)とBYAD(Bring Your Assigned Device)と呼ばれる2つの方式が混在していることがわかった。BYODはBYADと比べ端末の選定が利用者の自由となるため、端末購入費やユーザーの利便性の観点ではメリットがあるが、デメリットとして組織的なIT運用の難易度が高くなる点があげられる。安定的にIT運用するための「ITガバナンス(統制)」がとりにくいことや、セキュリティ対策でも統制がとりにくいといった点は企業の情報システム部門でも課題となる。しかし、今回の調査ではBYODが20都道府県、ITガバナンスを利かせるために採用されることが多いBYAD方式を利用する都道府県は7にとどまることがわかった。
保護者負担の分類を踏まえ、BYODなどのIT運用に課題がないかを分析したところ、端末の運用を集中管理するMDM(モバイル・デバイス・マネジメント)ツールの導入率に大きな差が見られた。公費のみ、公費+BYXD、BYXDの3分類としたとき、MDMの導入率はそれぞれ95%、75%、13%と顕著な差となった。公立高校で端末の保護者負担を進めるほどITガバナンスがとりにくくなり、円滑な授業でのIT活用に加え、2025年からオンラインが前提となった経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)や大学入学共通テストで利用が始まったCBT(Computer Based Testing)の利用に懸念が残る。
MM総研取締役研究部長の中村成希氏は「高校無償化の議論を踏まえ、政府は、高校生をもつ家庭の家計負担の削減や教育機会格差の是正を進めるものの、端末費用は公費負担から保護者負担に切り替える都道府県が多数を占め、せっかく高校が無償化になっても家計負担が増大することが懸念される。加えてサイバーセキュリティリスクが高まるなかで、高校も将来のデータ活用を見据えて統制の取れるIT環境を整備する視点も欠かせず、いずれの背景からも今が端末更新にかかる公費支援を検討する良い機会ではないか」と総括している。