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「越境」で生きる力を育む…地域みらい留学365の魅力とは

 北海道から沖縄まで都道府県の枠を越え、地域の高校に入学し、3年間充実した高校生活を送るプログラム「地域みらい留学」と、今通っている高校に在籍しながら、高2での1年間のみ地域の学校に留学する「地域みらい留学365」の注目が高まっている。全国にこの取組みを広げてきた、地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事の岩本悠氏に、その魅力や展望について話を聞いた。

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「越境」で生きる力を育む…地域みらい留学365の魅力とは
  • 「越境」で生きる力を育む…地域みらい留学365の魅力とは
  • 地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事 岩本悠氏
  • 「一緒にその地域を魅力化し、持続可能な社会のつくり手として共に成長していくことを目指している」と語る岩本氏
  • 「新しい世界に飛び込みたい」「もっと自分の可能性を開きたい」といった思いがある人、そして今はまだ何となく不完全燃焼を感じている人にも、「地域みらい留学365」を、自分の殻を破り、リミッターを外すきっかけにしてもらいたい
  • 「地域みらい留学365」で、埼玉県の県立高校から北海道の幌加内町にある幌加内高等学校に留学中の古川菜湖さん。「少人数教育に魅力を感じた」「現地特産の蕎麦粉を使った蕎麦打ちから、地域の人々との百人一首大会、雪かきに至るまで、勉強以外にも幅広く興味・関心をもてる人に向いていると思う」と自分の言葉で力強く語ってくれた

 留学は日本国内でも実現できる。「地域みらい留学」は、北海道から沖縄まで都道府県の枠を越え、地域の高校に入学し、3年間充実した高校生活を送るプログラムだ。日本各地にある留学先では、学校と地域が協働して魅力ある教育改革に挑戦し、全国からも入学生を募集している。地域ごとに特色があり、越境した生徒たちは、そこでしかできない体験を通じて、自分軸で生きる力を身に付けていく。

 そんな地域への「越境」を、今通っている高校に在籍しながら高2での1年間のみで体験できるプログラムとして、2020年度から内閣府の事業として始まったのが「地域みらい留学365」だ。今年度までに約80名参加し、この4月より4期生として、約25名が地域留学の開始を予定している。全国にこの取組みを広げてきた、地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事の岩本悠氏に、その魅力や展望について話を聞いた。

「地球みらい留学」「地球みらい留学365」とは?

--「地域みらい留学」は、探究をベースに課題発見力、思考力、行動力、主体性から自分なりの幸せを描き実現する力など、まさに「生きる力」を身に付ける教育として、注目が高まっています。北海道から沖縄まで100校以上の高校が参加しており、2024年度に新1年生として留学する高校生は約800人と右肩上がりに増えていますね。中学卒業後の3年間を地域で過ごす「地域みらい留学」のほか、高校2年生時に1年間を地域で過ごす「地域みらい留学365」というプログラムもありますが、まずはどんな特色があるか教えて下さい。

 「地域みらい留学」とは、2007年に島根県の隠岐諸島・海土町の隠岐島前高校で、島外からの高校生を受け入れる取り組みから生まれた、都道府県の枠を越えて地域の高校に入学するプログラムです。特色としてはおもに3つあげられます。

 1つ目は、五感を通じた本物の自然や文化に触れられること。ICTの活用によって世界中から質の高いコンテンツにアクセスできる時代だからこそ、ここは大きな強みだと思っています。

 都会から遠く離れた地方での暮らしには不自由さも伴いますが、そこにしかない自然環境伝統文化に触れると共に、地域の課題などを通じて、さまざまな人とのつながりが生まれる。自分のコンフォートゾーンを出て、バーチャルな世界では育めないような感性や、自分の生き方や考え方にじっくりと向き合うことで、自分らしく幸せに生きていくとはどういうことかを知り、自分軸で生きる力が磨かれていくのです。

 2つ目は、少人数教育であること。「地域みらい留学」の参加校は地方の小規模校が多く、1学級が少人数です。その分、学校の先生だけではなく、地域の住民とも交流するなどさまざまな大人と交流する機会があったり、現地での生活や学習をサポートしてくれるコーディネーターが常駐していたりと、地域全体で子供たちを見守り、応援してくれる手厚い環境にあります。

 そして3つ目は、ローコストで実現できること。実家を出て留学となると、経済的な負担が課題になりますが、「地域みらい留学」は公立校が対象で、寮などの宿泊施設や食費を含めてもローコストで生活できる環境が整っています。

地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事 岩本悠氏

--3年間を過ごす「地域みらい留学」に対して、1年間の「地域みらい留学365」の魅力はどこにあるのでしょうか。

 一般的には中学3年生が進路を決める際、通学圏内の高校から偏差値を軸に選択することが多いと思いますが、「地域みらい留学」は自分が過ごしたい地域、学びたい高校を選んで進学する仕組みです。

 しかしいざ、高校進学のタイミングで、3年間もの長期間「越境」するという選択肢を選ぶには「ハードルが高い」という声がありました。また、中高一貫校に通う生徒さんにとっては転校となってしまうため、「地域に留学してみたい気持ちはあっても、今の学校は辞めたくない」という声もあがっていました。そこで、より気軽に参加しやすいプログラムとして生まれたのが、高2の1年間だけ留学する「地域みらい留学365」です。こちらは2020年から、内閣府の「高校生の地域留学の推進のための高校魅力化支援事業」としてスタートしました。

 高校生たちが「地域みらい留学365」に参加したおもな理由としては、「3年間の留学は決断できなかったけれど、1年間なら参加できると思った」といった心理的なハードルの低さに加えて、「海外留学に興味があったが円安で費用がかさむ。『地域みらい留学365』なら国内なので費用が安かった」というコスト面でのハードルの低さも大きいようです。中には、高2で行ってみたら楽しくなり、そのまま編入するようなケースや、大学進学を考える上で、ほかの地域や海外留学にも興味をもつようになったケースなど、この先も主体的に学びの場を選ぼうとしている姿勢が見られ、1年間でも大きな成長を感じます。

当たり前を覆され、多様な価値観に触れる

--「地域みらい留学365」には、現在22校の留学先があるとうかがっています。留学先の学校はどのように選定されているのですか。

 受け入れ校は、学校と地域が連携して立候補し、内閣府の審査を受ける形で決まります。学校と地域をつなぐコーディネーターが常駐していること、留学生が充実した1年間を過ごせるような特色あるプログラムがあること、寮や宿泊施設などハード面も含めた受け入れ体制が整っていることなどが条件となります。

--「地域みらい留学 365」に参加する高校生、そして受け入れる地域・学校には、どのような機会やメリットがありますか。

 まず、留学した生徒たちは口を揃えて、「留学して本当に良かった」と言ってくれています。「地域の人に温かく迎えられ、色々な体験をさせてもらった」と、地域への感謝を言葉にする生徒が多いですね。今の都会では、なかなか親や先生以外の大人と話す機会をもてないものですが、越境先では地域の活動に参加する機会が増え、さまざまな年代の地元の人と交流しますので、多様な価値観をもつ人々とのコミュニケーションが経験できます。

 もちろん、受け入れ側の生徒や地域も、越境してきた生徒の行動に刺激を受けます。新しい視点に触れることで、自分たちにとっては当たり前になっているその地域の価値や魅力を再発見し、地元の生徒たちの探究的な学びに深みが出たり、多様性の中でお互いの強みを生かし合う協創が生まれたりもしています

 時々誤解されるのですが、「地域みらい留学」は、生徒の数が減った地方の高校を存続させるため、数合わせで全国から闇雲に生徒を集めているわけではありません。ずっとその地域で育ってきた子供たちと越境してきた子供たちが混ざり合うことで、新しい化学反応が生まれる。そして一緒にその地域を魅力化し、持続可能な社会のつくり手として共に成長していくことを目指しているのです。

「一緒にその地域を魅力化し、持続可能な社会のつくり手として共に成長していくことを目指している」と語る岩本氏

--生徒を送り出す側の学校には、どういった準備が必要ですか。

 在籍される生徒さんが「地域みらい留学 365」への参加を希望した場合、送り出す側の学校には、1年不在にする間の単位認定などでご協力いただく必要があります。現行の制度下では、単位認定の形で今の高校に在籍したまま留学することは可能ですし、教育課程が留学先とマッチしない場合には、通信課程で補うといった手段もあります。

 「地域みらい留学365」は、コロナ禍でスタートしてからこの3月で4年になりますが、生徒を送り出してくださった学校は80校ほどに広がってきました。留学から戻ってきた生徒の成長に多くの生徒たちが感化され、学校にも良い刺激になっていると、積極的に推進してくださる学校が増えてきています。

 確かに、学校独自の教育課程に沿ったカリキュラムが組まれていると、運用面から見れば、1年間不在にする生徒への対応には先生方に負荷をかけてしまうかもしれません。ですが、おそらくどの学校も先生方も、教育の最上位の目標として、「生徒ひとりひとりの可能性を広げ、その挑戦を応援する」という思いをおもちだと思うのです。挑戦をしようとしている生徒さんがいたら、ぜひ、「地域みらい留学365」をその足がかりのひとつとしてご理解いただき、快く送り出していただけたらと願っています。

現状の違和感から新しい環境で「自分を変えたい」

--実際に参加した高校生たちはどのような動機だったのか。またどういった成長を遂げたのでしょうか。

 現状に何らかの違和感を抱き、「今とは違う何かを見つけたい」「自分を変えたい」「新しい環境で挑戦してみたい」という動機で参加を決める生徒が多いですね。環境という点では、コモディティ化された都市部にはない、その地域特有の空気感や人とのつながり、そして少人数授業に魅力を感じるケースも少なくありません。また、保護者の方が、「わが子には偏差値軸ではない進路を選ばせたい」と、お子さんに勧めるケースもあります。

 たったの1年でも、留学した生徒の変化や成長は著しいものがあります。新しい環境に飛び込むことでカルチャーショックも受けますが、多様な人たちとの触れ合いを通じたコミュニケーション力や、自分の強みを生かしながらお互いの足りない部分を支え合っていくような協働力が身に付きます。

 また、地方の小さなコミュニティだからこそ、高齢化や後継者不足、地元産業の衰退などの現場を目の当たりにすることで、自分に何ができるかを自分ごととして捉える当事者意識も芽生えます。これは、社会に目を向け、より良い社会や未来をつくる意欲の源泉になっていきます。

 さらに、親もいない、何をやっても自分次第というところで生き抜く体験で、人生を自分の足で歩いていく基盤、自分軸で生きる主体性が育ちます。「自分が本当にやりたいことが見つかった」という子も多いですね。生徒を送り出した学校の先生が、留学から戻った生徒と再会した際、こんなに自分の思いを自分の言葉で語れる子だったのかと、その成長に驚かれることも珍しくありません。

--どのような高校生に「地域みらい留学365」に参加してほしいとお考えですか。

 学校での教科の学びは、知識を積み上げていくという「連続性」に基づいた成長ですが、留学による越境は、物の見方や考え方、人間力や生きるモチベーションがガラッと変わる、「非連続」の飛躍的な成長を経験することができます。教室の中だけが勉強ではありません。「地域みらい留学365」に参加すると、その土地の自然や文化、価値観などに触れることで、これまでは当たり前だと思ってきた価値観が揺さぶられたり、自分の考えや意見をあらためて問われたりしながら、自分の世界が確実に広がっていくのです。

 ですから、「新しい世界に飛び込みたい」「もっと自分の可能性を開きたい」といった思いがある人、そして今はまだ何となく不完全燃焼を感じている人にも、「地域みらい留学365」を、自分の殻を破り、リミッターを外すきっかけにしてもらえたらと思います。

「新しい世界に飛び込みたい」「もっと自分の可能性を開きたい」といった思いがある人、そして今はまだ何となく不完全燃焼を感じている人にも、「地域みらい留学365」を、自分の殻を破り、リミッターを外すきっかけにしてもらいたい

高校生が日本中を自由に行き交う「越境する学び」を当たり前に

--保護者の中には、お子さんが親元から長期間離れるということで、不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。保護者の方にはどんなことを伝えたいですか。

 お子さんが興味を示していたら、ぜひ背中を押していただきたいと思います。「地域みらい留学365」は、先ほどもメリットとして触れたように、海外留学に比べると経済的負担が少なく、治安も良いので、「いきなり海外に行く自信はない」という子にとっての最初の一歩としてもお勧めです。

 保護者の皆様としては、大学進学を含む将来の進路が気になるかもしれませんが、生徒たちはたくましく、自分の興味・関心をもとに、主体的に自分の道を切り開いています。大学進学を一般選抜受験だけで目指すならコスパもタイパも良くないかもしれませんが、最近は総合型選抜の割合が高まり、ユニークな経験や探究的な学びを評価する枠組みが広がってきています。1年間の越境は、その経験が糧となり、「何を学びたいのか」「どう生きたいのか」と自分自身に向き合うことで、自分にフィットする進路を選択できるようになるのではないでしょうか。

--「地域みらい留学365」の今後の展望をお聞かせください。

 学びの場を協創するパートナーとなってくださる学校を、全国に増やしていきたいと考えています。今年度は、「地域みらい留学365」での学びに共感する数校の私立高校において、生徒向け学内説明会を開催させていただきました。そうした学校から、来年度の留学生が誕生する予定にもなっています。越境的な学びの価値に共感してくださる学校、この取り組みに興味関心を抱いてくださる先生方がいらっしゃれば、報告会へのご参加のほか、私たちに直接ご相談いただけたらと思います。

「国内」留学も当たり前の選択肢に ~地域みらい留学365 3期報告会~
3月12日(火)15:30~17:00@オンライン開催


 2023年4月。21名の生徒が、地域みらい留学365生として、16地域の高校に1年間留学しました。本イベントでは、地域みらい留学365運営事務局である地域・教育魅力化プラットフォーム、留学生の山中百合花さん、在籍校である東京ドルトン学園、留学先である三重県立昴学園高校の4者のお話をお届けします。生徒が留学を希望してから、留学を終えるまでの話を紐解きながら、越境そのものの価値と、生徒が留学を実現する上でのリアルな学校の声をお伝えいたします。
地域みらい留学365 3期報告会 お申込みはこちら


--ありがとうございました。


 留学=海外という固定概念があったが、新しい環境、新しい出会い、新しい自分に出会えるという意味では、地域留学も魅力的だ。世界も広いが日本も広い。10代で越境を経験し、「自分の環境は自分で選べる」と体得した子はたくましい。そんな確信を得られたインタビューだった。

「地域みらい留学365」で、埼玉県の県立高校から北海道の幌加内町にある幌加内高等学校に留学中の古川菜湖さん。「少人数教育に魅力を感じた」「現地特産の蕎麦粉を使った蕎麦打ちから、地域の人々との百人一首大会、雪かきに至るまで、勉強以外にも幅広く興味・関心をもてる人に向いていると思う」と自分の言葉で力強く語ってくれた
高校1年生向け、国内単年留学
高2留学「地域みらい留学365」

中学生向け、高校1~3年生まで3年間の国内留学
高校進学「地域みらい留学」
《なまず美紀》

なまず美紀

兵庫県芦屋市出身。関西経済連合会・国際部に5年間勤務。その後、東京、ワシントンD.C.、北京、ニューヨークを転居しながら、インタビュア&ライターとして活動。経営者を中心に600名以上をインタビューし、企業サイトや各種メディアでメッセージを伝えてきた。キャッチコピーは「人は言葉に恋♡をする」。

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