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「勉強の仕方がわからない」生徒に先生ができること

 中高生指導の東大生集団 カルペ・ディエム代表 西岡壱誠による「勉強の仕方がわからない」生徒へのアプローチ術。「ドラゴン桜2」監修の西岡壱誠氏が年間約300回の講演でもっとも受ける質問「どう勉強すれば良いか」に答える。

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『ドラゴン桜2』(講談社)より/©︎三田紀房
  • 『ドラゴン桜2』(講談社)より/©︎三田紀房
  • 『ドラゴン桜2』(講談社)より/©︎三田紀房
  • 『ドラゴン桜2』(講談社)より/©︎三田紀房
  • 『ドラゴン桜2』(講談社)より/©︎三田紀房
  • カルぺ・ディエム作成「現状分析シート」
  • カルぺ・ディエム作成「現状分析シート」記入例

 「勉強の仕方がわからない」「何を勉強すれば良いか、先生から指示を出してもらえないと実践できない」という生徒の数は多いように感じる。

 筆者(全国で教育支援事業を行っている 東大生集団 カルペ・ディエム代表 西岡壱誠)は年間で300回程度、小中高生の生徒の前で講演する機会があるが、必ずと言って良いほど、「どう勉強すれば良いか、勉強の仕方がわからない」という質問をされる。

 これだけネットに情報が溢れ、勉強法の本も溢れていて、情報収集が簡単になっている時代なのにもかかわらず、「勉強の仕方がわからない」という声が多いのは意外なことのように感じる人も多いかもしれない。

 しかし、情報が多い分、選択肢が多くて困ってしまうということもある。それに、たくさんの選択肢がある中で、「何が」自分にマッチしたやり方なのかわからない、という悩みもあるだろう。

 では、東大生は一体、どんな勉強の仕方を実践しているのか? どこで勉強の仕方を学んでいるのか? どんな勉強をすれば、東大に合格できるのか? 本記事では「勉強の仕方がわからない」生徒に対する指導者のアプローチ術を探る。

何から始めるべきか論は紛糾

 以前、僕は10人程度の東大生と同じことを議論したことがある。僕が「ドラゴン桜2」の編集を手伝っていたときの話なのだが、漫画家三田紀房先生にこう言われたのだ。

 「いよいよ東大専科にメンバーが集まった。9限目(9話目)からはいよいよ、受験勉強を始めたい。そこで、『東大受験をする際に、まずは何をするべきか』ということを考えて来てほしい」

 この言葉を受けて、僕は東大生メンバーを集め、早速会議を行った。結論から言うと、この会議は紛糾した。いろいろな東大生が、別々のことを言って、収集が付かなくなってしまったのだ。

 「英単語からやるべきだ」

 「まずは国語の語彙力ではないか」

 「それよりもまずは勉強の楽しさに触れるべきでは」

 どの東大生の意見も正当性があり、どれも正しく聞こえた。が、『これ』という1つを決めることができなかったのだ。そんな中で、誰もが会議に疲れ始めたそのとき、工学部の東大生がこんなことを言った。

 「失礼ですが、この種の議論に意味はあるのでしょうか。私は、データが不足している状態で、何が正しいかなど議論できないと思います。そもそもこの作中の2人はどういう状態なのか、どの科目がどれくらい苦手なのか、わからない状態では議論しようがありません。まずはデータを収集するところから始めるべきなのでは?」

 この意見は、非常の説得力のあるものだった。そもそもどの勉強法が良いのかというのは、その生徒の状況に応じて変わってきてしまうというのはまったくもってそのとおりだと皆が感じたのだ。

 結局、彼の意見が採用され、まずは大学のセンター試験(現:大学入学共通テスト)を全教科解かせるところからスタートしようという話になった。その展開はこんな流れだ。

©︎三田紀房
©︎三田紀房
©︎三田紀房
©︎三田紀房

 「自分にあった勉強法を知るためには、自分の現状分析を積極的に行うべきだ」と感じる。

 ところが実際には、「勉強法を教えてほしい」という生徒に「まず、君は一体何の科目のどこができないのか」と問うと、答えられない場合が多い。何がわからないかわかっていないのだから、成績を上げるのは難しくなるのは当たり前である。逆説的な言い方になってしまうが、「何がわからないかわからないから、うまくいかない」のである。まずはそこにフォーカスするべきなのだ。解けなかった問題が解けるようになればテストの点が上がり、受験であれば合格に近づく。あと100点の差があったとしても、毎日1点上げていけば、100日間で合格できる。

「何がわからないかわかっていない」を分解する方法

 アメリカの発明家チャールズ・ケタリングは「問題をきちんと述べられれば、半分は解決したようなものだ」と述べたとされている。まさにそのとおりで、何ができていないのかを思考し、言語化できれば、勉強の効果は必ず現れるというわけである。

 また、「何がわかっていないのか」という現状分析の解像度が低い場合も、うまくいかない場合が多い。「英語全般がきつい」「国語の文章が読めなくて」と、現状分析が漠然としてしまっているうちは、問題の解決はなかなか難しい。そのままでは、ネットで検索しても、なかなか自分にマッチした方法に出会えないだろう。

 重要なのは、分野を分解して現状分析をすることだ。ここに、我々が良く学校現場で使っているシートがある。

 これを我々は「現状分析シート」とよんでいる。まずは1つの科目を選択し、その科目の分野を考える。英語であれば英単語・英文法・英作文…と分解しても良いし、東大生だと入試の大問別で分析をしていた。「1Aの要約問題が苦手で、2の作文は得意だな」と考えていく。そしてその分解した分野を分析していく。

 できていない分野に関しては「どういったポイントでうまくいっていないのか」ともっと分解をしていき、できている分野に関しても「ここのポイントはできているが、ここでは点を落としがちだ」と分解を繰り返していく。

 「現状分析シート」は、実は1つの科目をどんどん分解していくためのシートなのである。「分解」というのは、東大生に限らず、多くの頭が良い人に共通する要素だと僕は思っている。頭の良い人は、物事を分解して思考するのが上手だ。

 どんどん分解を行って細かくしていくことで、問題の本質を見抜こうとする(ちなみに余談だが、この現状分析シートは弊社の東大模試で1位になった経験のある東大生が作成したものだ)。

 このような分解思考は、受験勉強に限らず、社会に出てからどんな分野であってもおおいに生かせるスキルだ。

「分解できず書けない」生徒が書けるようになる質問例

 さて、実際にこのシートを生徒に書いてもらうと、なかなか分解できず、書くことができないという生徒もいる。そういうときには、分解を手伝ってあげるような質問をするとうまく書けるようになることが多い。

質問例1:「英単語が苦手」から先に分解していけない場合

先生:「英単語の中で、どんな英単語を覚えることができないんだい?」

生徒:「英単語が苦手って書いていたけど、実際は、中学英単語はもう覚えているけれど、長めの単語が覚えられないんだ」

先生:「一旦覚えられても、すぐに忘れちゃうの? それとも、そもそも覚えられないと悩んでいるの?」

生徒:「意味は答えられるんだけど、いつもスペルミスしちゃうんだよな」

と、自分で分解できるようになっていく。

 すると、「じゃあ、スペルの勉強をしよう」「こういう英単語忘れがちだから、きちんと対策しなきゃ」といつもの勉強の質も高くなっていく。現状分析をうまくできるようになることで、成績の向上が見込めるのである。

質問例2:「数学ができなくてどこから手をつけて良いかわからない」と投げ出している場合

 できていない分野をどうできるようにするのかというポイントを考えてもらう。これは自分ひとりで考えても答えが出ない場合があるので、ネットで調べたり、先生がバックアップするのも良いだろう。

 また、模試の成績表データを活用することもお勧めだ。模試は合否を占うためのものではなく、苦手な科目でも特にどこが弱いかを具体的に把握するための貴重なデータだ。平均点からどの程度離れているか、基礎はできているか、正答率が高い問題が解けたかどうかなど、自分の今を知り、必要な対策を考えることができる(参考記事:【大学受験2024】「模試の成績表には伸びるロジックがある」保護者も必見、模試成績表徹底解剖)。


 効果的な勉強をするためには、まずは己を知る必要がある。自己分析には時間がかかり、そして自分でそれができるようになるまでは根気も必要になってくる。この手法は生徒に対して粘り強く実践を促す必要があるだろう。だが、勉強以外の面でも、社会に出てからも生かせる方法だ。ぜひ実践してみていただきたい。

《西岡壱誠(カルペ・ディエム)》

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