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【EDIX2022】「学びを楽しむロールモデル」を提供するQuizKnockの挑戦…伊沢拓司氏&須貝駿貴氏

 第13回学校・教育総合展(EDIX)東京1日目、QuizKnockの伊沢拓司氏と須貝駿貴氏による講演「YouTubeで広がる学びの世界~QuizKnockが提案する新しい学び~」がGoogle for Education ブースにて開催された。両氏の教育への思いを聞いた。

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QuizKnockの伊沢拓司氏と須貝駿貴氏
  • QuizKnockの伊沢拓司氏と須貝駿貴氏
  • 「YouTubeで広がる学びの世界~QuizKnockが提案する新しい学び~」
  • 伊沢拓司氏
  • 須貝駿貴氏
  • QuizKnockの伊沢拓司氏と須貝駿俊氏
 教育分野としては日本最大の展示会「EDIX(エディックス)東京」が2022年5月11日、東京ビッグサイト 西展示棟で開幕した。

 会場に入ってすぐの場所に構えられたGoogle for Educationブースでは、製品やコンテンツのプレゼンテーションの他、3日間にわたりさまざまな教育関係者、有識者による講演も行われ、多くの人が足を止め熱心に聞き入っていた。

 初日に訪れた同ブースで注目を集めていたのはテレビやYouTubeでお馴染みのQuizKnockの伊沢拓司氏と須貝駿貴氏による講演「YouTubeで広がる学びの世界~QuizKnockが提案する新しい学び~」だ。


QuizKnockが若い世代から保護者世代にまで支持される理由



 伊沢氏は「高校生クイズ」2連覇、「東大王」優勝等の戦歴を誇るクイズ王で、東京大学経済学部卒。須貝氏は2018年日本物理学会「学生優秀発表賞」受賞。国立科学博物館認定サイエンスコミュニケーターで、東京大学大学院総合文化研究科後期博士課程修了。伊沢氏と須貝氏の他に、ふくらP氏(東京工業大学中退)、山本祥彰氏(早稲田大学先進理工学部卒)、こうちゃん(東京大学法学部卒)、河村拓哉氏(東京大学理学部卒)といった高学歴で個性的なメンバーたちが「楽しい!からはじまる学び」をコンセプトに、難しいことをわかりやすく伝える動画を配信しているYouTubeチャンネル「QuizKnock」は、チャンネル登録者数184万人(2022年5月現在)にものぼる。

 テレビ出演やYouTube動画配信以外にも、全国30以上の学校や自治体を訪問して、クイズ・教育をテーマにしたリクリエーションや講演(コロナ以降はオンラインに移行)を行ったり、オリジナルWebメディアやSNSで情報発信したり、自由研究や勉強に関する書籍の出版する等、「知のアスリート」として幅広く活動している。こうしたメディアミックス戦略の効果もあり、子供たちの親世代にも支持されているのはQuizKnockならではの強みだろう。

 13歳から34歳の若い世代を中心に人気を集めている「QuizKnock」で配信されている動画のほとんどは、ひたすら楽しそうに問題を解いていたり、身近なものでできる実験を見せたり、メンバーたちが机に座って勉強したりといったシンプルな内容だ。他の人気YouTuberのような派手さはないが、学びがもっとおもしろくなるように考え抜かれた動画の構成・企画力は、各動画の視聴数がそのクオリティの高さを物語っている。

 2017年の「QuizKnock」スタート以降、精力的に動画企画・制作・配信に邁進している中でコロナ禍となり、相次ぐ学校の休校が発表されたころ、生活の中の学びのリズムが崩れてしまった子供たちの手助けができないかと考え開始したのが「QuizKnockと学ぼう」プロジェクトだ。今回の講演では、学びを楽しむロールモデルの提供と、一緒だから頑張れる、挑戦できる学びのコミュニティの創出に挑戦しているYouTubeチャンネル「QuizKnockと学ぼう」の取組みについて説明し、来場者にポジティブなメッセージを届けていた。

 今回初めて教育業界の大型イベントに参加した伊沢氏と須貝氏に、教育に対する思いと2021年8月より新チャンネルとして独立した「QuizKnockと学ぼう」の活用法を聞いた。

ロールモデルをたくさんつくりたい



--今回のEDIXが初めての参加になりますが、どのような背景、お気持ちで参加されたのでしょうか。

伊沢氏:QuizKnockはエンターテインメントと教育を結ぶサービスで、「楽しいからはじまる学び」をテーマに、ただ学ぶだけでなくエンターテインメントを使った学びを提供していて、ただYouTuberとして活躍しているのではなく「教育」という目的があって活動をしています。そのことをより多くの教育業界の方々にも知っていただけると思い、今回EDIXに参加しました。私たちのもつ理念や目的をベースに、いろいろな方に新しいことを考えていただけるきっかけとなったり、いろいろなコラボに発展すると良いなと考えています。

須貝氏:学生さん、生徒さんたちはYouTubeを通じてQuizKnockを知っている方もいると思いますが、教育関係者の方、大人の方たちにもQuizKnockを知っていただいて、子供たちが汲み取れていないかもしれない私たちの理念や、コンテンツの企画意図、内容についても、もっと伝えることができたら思っています。

--今の日本の教育現場に足りないと感じていることはありますか。

伊沢氏:我々は自分たち主導で作品をつくっているので、まず教育の現場で日々生徒と接して頑張っているたくさんの教育関係者の方々に対して最大限のリスペクトをもって活動しなければと思っています。須貝さんと一緒に全国の学校をまわって思ったのは「ロールモデル」をたくさんつくりたいということでした。日本の教育はしっかりとしたルートが敷かれていると思いますが、このルートを外れたときのサポートが、忙しい教育の現場ではどうしても手薄になってしまう。QuizKnockはタレント活動もYouTube配信もやっているので、YouTubeを通じて身近な存在でいられて、違ったサポートができます。ですので、何か足りないというよりも、身近にいないようなロールモデルが世の中にもっともっとあると良いと思います。

伊沢拓司氏
須貝氏:研究者とか東大生とか、普通の生活の中ではあまり会ったことがないのが普通ですよね。街に本屋さんがないような地方の学校を訪問したとき、ほとんどの子供たちにとって僕自身が「初めて会った博士」になったんです。博士や研究者を見たことがある、会ったことがあるという経験だけで将来の選択肢になるかもしれない、頑張れるきっかけになるかもしれない。東京に住んでいると博物館に行けば博士に会えるかもしれませんが、地方は難しい。けれどもインターネット、YouTubeを通じて「本物の博士、本物の東大生を見たことある」という経験をつくってあげることができるんです。いつでも会えるすごくたくさん勉強した人の存在、ロールモデルは大事だと思います。

手軽に手に入る学びのコミュニティを創出



須貝氏:もうひとつ、もっと勉強するコミュニティが欲しいと思っています。学生時代を思い返すと友達と食堂とかに集まってそれぞれ違う課題に取り組んでいる時間がとても良いものだったんです。コロナ禍で学校で一緒に学ぶ機会が途切れてしまったときに、その思いから「QuizKnockと学ぼう」プロジェクトを始めました。今では独立したチャンネルになり、定期的に「勉強LIVE」という時間を作って視聴者の皆さんと一緒に勉強しているのですが、この時間は一緒に勉強頑張るという、ある種の強制力が働きます。自分にルールを課して進んでいこうとするコミュニティに手軽に入ることができる。僕が中高生のころは勉強し過ぎているとややダサかったり、ちょっとイジメの対象になってしまったりしたこともあったと思いますが、今は違うと思います。参加しやすい一緒に頑張るコミュニティが「QuizKnockと学ぼう」から生まれて広がっていくと良いなと思っています。

須貝駿貴氏
伊沢氏:こうあるべきだ! というコミュニティやロールモデルを掲げるつもりはなくて、QuizKnockのメンバーもそれぞれ違った教育観があるんですよね。いろいろな動画を観て、多様な教育観を知って、自分に合ったものを見つけていってほしいですね。

--「QuizKnockと学ぼう」を通じてどんな社会を実現したいと思いますか。

伊沢氏:QuizKnockのメインチャンネルは「楽しいからはじめよう」という理念で、楽しい方に寄っているんですが、「QuizKnockと学ぼう」では、メインチャンネルでやる気を得た人がもっと頑張れる場を提供していきたいと思っています。

須貝氏:「QuizKnockと学ぼう」では「遊ぶように学ぶ世界」を実現したいんです。「遊ぶように」がポイントで、「遊ぶように」って集中していることなんですよね。やりたくなくてもやってしまう、熱中してしまう、のめり込んでいる状態。たとえば甲子園を目指す高校球児は筋トレは嫌でも、必要だからやらずにはいられないですよね。やりたくないけれどやってしまうというある種の矛盾した気持ちなんですが、そういう、やりたくないけれどもやらずにいられない、さらなる上を目指して、避けては通れないことを避けずに通れる、熱中しているのめり込んでいる状態を学びに対してもつことができれば、より良い社会になっていくと思うんです。最初は学びをエンタメから楽しんで、だんだんと学びが自分事になっていくと、楽しくなると思うんです。さらに楽しいを通り過ぎて泣きながらでも、苦しくても学び続けるようになったら、究極の遊びに浸かっている状態だと思います。

伊沢氏:メインチャンネルの動画を見ているときは受動的な学びですが、「QuizKnockと学ぼう」ではそれが能動的に変わって、さらに自分で学ぶ習慣になっていったら、もうQuizKnockなんてなくても自分から学ぶようになるわけです。自分から学ぶというのは遊びに行くような感覚だと思うんです。やりたいやりたい! となっている状態から、どんどん学びに目覚めてほしいなと思います。ひとりひとりがやりたいことを見つけて「QuizKnockと学ぼう」から段々と出ていくというのはひとつの理想です。ただそのやり方は1つではないのでロールモデルがいっぱいある社会になっていくと良いなというところにつながっていきます。

須貝氏:教育って通り過ぎてくれて良いものですよね。学ぶ力が身に付いて、大人になって、所属している場所から出て行って、自分の力で学びながら歩んでいけるようになると良いと思います。

伊沢氏:「守破離」かもしれないですね。

須貝氏:ですね。もちろん「QuizKnockと学ぼう」から出ていかなくても、僕たちは新しいことを続けていくし、知らない事は無限にあるので、何か学びに目覚めるきっかけを見つけてもらえると良いなと思います。

伊沢氏:「QuizKnockと学ぼう」では「好きになっちゃう放課後」というシリーズの動画を配信しているのですが、これがまさに学びに対して肯定感をもった、遊ぶように学ぶ子たちが離れていく過程で学ぶための内容です。中高大学生がターゲットの内容ですが、現状に物足りなさを感じている小学生が背伸びをしてたどり着いてくれているんです。ライブ配信中に「中学受験、合格しました!」という報告を書きこんでくれた小学生もいました。難しくてわからなくても、数学オリンピックの問題を解いている須貝さんをみて「なるほど、かっこいい!」で良いと思うんです。知のアスリートが楽しんでいる姿を見せることで、つらいだけの勉強が「つらくてもやる」に変わるきっかけになるロールモデルとの出会いになりますよね。

「数学好きあるある言いたい!【好きになっちゃう放課後 後編】」




「QuizKnockと学ぼう」活用法



--先生にお勧めの「QuizKnockと学ぼう」活用法を教えてください。

伊沢氏:先生方は1度に多くの生徒を相手に授業をしなければいけないので、ひとりひとりに合ったきっかけづくりをするのが難しいと思います。先生の流儀と違うやり方を知るきっかけづくりに、多様な選択肢のひとつとしてQuizKnockを使ってもらえると良いと思います。見せっぱなしではなくて、先生が解説してくれると良いと思います。

須貝氏:僕たちは動画制作に準備の時間をたくさん取れるんですが、学校教員はとにかく時間がないんですよね。たとえば忙しくて理科の実験の道具を準備できないときに、実験動画を使っていただくと良いのではと思います。教壇で40人に見せるのは難しいですし、静止画と説明文章では伝わりにくいです。最近ショート(YouTubeの60秒以内の縦型のショート動画)に、手を触れずにコインを消すコップを使ったマジックの動画を公開したんですが、これは理科の先生が必ず知っている全反射の実験です。理科の単元に紐づいた実験動画はたくさんあるので。ぜひいろいろと探してみてほしいです。

コインを消すマジック!#Shorts



--保護者にお勧めの「QuizKnockと学ぼう」活用法を教えてください。

伊沢氏:「勉強LIVE」という土曜・日曜の朝のライブ配信の時間を、家庭学習に活用してもらえると良いと思います。常に目的・目標を決めて勉強しようと伝えているので、ぜひ保護者の方にはお子さんの話を聞いてあげてほしいですね。目標に届かなかったら、こう変えてみようか等、アドバイスしてあげてほしいと思います。

10分でわかる!勉強LIVEと振り返りLIVEの使い方【切り抜き】



須貝氏:これ見てやっておきなさいと、放っておくのではなく、「勉強LIVE」の時間は家中が図書館みたいに一緒に勉強している時間にすると良いと思います。保護者は家事でも仕事でも良いですし、もちろん計算ドリル等をやっても良いと思います。家族みんなで学びを楽しんでほしいですね。

--ありがとうございました。

 伊沢氏と須貝氏ら知のアスリートたちが、教育に情熱をもち、惜しみなくその知識を良質の動画コンテンツ化して配信している「QuizKnockと学ぼう」。先生、保護者、子供たちが「この動画面白い!」とシェアしあったことがきっかけとなって、ロールモデルに出会えたり、学びを一緒に楽しむコミュニティに発展するかもしれない。多種多様な学びに出会えるYouTubeの可能性にさらなる期待を感じたインタビューだった。
《田口さとみ》

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