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「答えのない問い」を考える教材が提供開始、先行して実施した模擬授業のようすをレポート

 日本マクドナルドが、全国の教育現場において道徳等の授業で使用できる「みんなで!どう解く?」のオリジナル教材を開発。筑波大学附属小学校道徳専科の加藤宣行先生に模擬授業をしていただいた。

教材・サービス 授業
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全国の小学校で使用できる「みんなで!どう解く?」オリジナル教材を開発
  • 全国の小学校で使用できる「みんなで!どう解く?」オリジナル教材を開発
  • 「答えのない道徳の問題 みんなで!どう解く?」を使った授業のようす
  • 絵に描かれている4人の子供たちの仲良しレベルはどのくらいかを話しあった(加藤先生が用意した場面絵を使用)
  • 授業のようす
  • テーマカードをヒントに「問い」を考える
  • 問いづくりヒントカードで発言を深掘りしながら「問い」を作っていく
  • 1つの問いをみんなで考え、対話で考えを深めていく(加藤先生が用意した場面絵を使用)
  • 話しあいを通してわかったことを振り返る(加藤先生が用意した場面絵を使用)
 社会の変化が非常に速く、先が見えにくくなっている現代。2020年度に導入された新学習指導要領では、こうした時代変化に応じて子供たちの「生きる力」の育みが大きく掲げられている。そうした社会の変化に合わせてファミリーをサポートし続けている日本マクドナルドは、2021年1月に、ポプラ社の絵本「答えのない道徳の問題 どう解く?」と協力し、子供たちの生きる力を育むためのサポートをするプロジェクト「みんなで!どう解く?」をスタート。子供たちと一緒に「答えのない道徳の問題」を考えるオンラインワークショップや夏休みの自由研究キットの提供など、さまざまな取組みを行ってきた。さらにこのプロジェクトの一環として全国の教育現場において道徳等の授業で使用できる「みんなで!どう解く?」のオリジナル教材を開発、特設サイトで無償提供している。

全国の小学校で使用できる「みんなで!どう解く?」オリジナル教材を開発
全国の小学校で使用できる「みんなで!どう解く?」オリジナル教材を開発


 この教材は、「答えのない問いを作ってみる」「答えのない問いを考えてみる」の2つのワークを通して考えを深め、新学習指導要領で強調されている「主体的・対話的で深い学び」を行えるように作られたもの。おもに小学校中学年~高学年を対象とし、先生がスムーズに授業を進められるように、教材は授業用スライド(※1)をはじめ、テーマカード(※2)や問いづくりヒントカード、ワークシート(※3)等がセットになっている。もちろん、学級ごとの進行状況等に応じて、教材や授業の内容を自由にアレンジすることも可能だ。

 そこで今回は、筑波大学附属小学校道徳専科の加藤宣行先生にオンラインで「みんなで!どう解く?」オリジナル教材を使った模擬授業を行っていただき、全国の小学校の先生6名が生徒として受講、感想を聞いた。

※1 授業用スライド
「答えのない問い」について興味をもつきっかけになる工夫や、当授業で児童に理解してもらいたいポイントをおさえたスライド。
※2 テーマカード
「答えのない問い」を考えるためのテーマを、「家族」「笑顔」「友だち」「食べもの」から先生方が1つ選んで使用する。問いを考えるきっかけとなる要素が書かれている。
※3 ワークシート/ 問いづくりヒントカード / ワークの進め方
ワークの進め方を児童が確認できる説明書や、「問い」を考えるヒントになるカードなど、スムーズにワークを進めるための3点セット。


世の中には答えのない問いがたくさんある



 加藤先生は、「この取組みには基本的に大賛成。子供たちが言われるままに育つのではなく、自分で問いをもって、それを解決していこうという歩みをサポートするというところで、私がやっている道徳の授業につながる」と同教材を高く評価したうえで、加藤先生が用意した場面絵等の資料を織り交ぜながら、オンライン上で模擬授業を開始した。

「答えのない道徳の問題 みんなで!どう解く?」を使った授業のようす
「答えのない道徳の問題 みんなで!どう解く?」を使った授業のようす


 授業は加藤先生による問い「1+1=?」の出題からスタート。皆が口を揃えて「2」と答えるのを受けて、先生は次の問い「A君の力“1”とB君の力“1”を合わせたら、その力は?」と投げかけた。すると、生徒役の先生方(以下、生徒)からは「2」「10」「マイナスになるかも」「数では表せない」「パシっといかない」等いろいろな答えが続出。先ほどの1+1=2ほど単純ではないようだ。

 加藤先生はこうした「パシっといかない」ことが世の中にはたくさんあるとし、そうした答えのない問題を考えていくのが大事だと説明。さらに加藤先生が用意した4人の子供が教室で過ごしている場面絵3枚を示し、「この子供たちの仲良しレベルはどのくらいか」と質問した。それぞれ4人が教室で話している場面、掃除中にサボって話している場面、力を合わせて掃除している場面の絵である。見比べながら話し合ったが、同じ4人なのに場面によって仲良しレベルは違って見え、どれが1番かは「心の中まで見えないので決められない」という。

絵に描かれている4人の子供たちの仲良しレベルはどのくらいかを話しあった(加藤先生が用意した場面絵を使用)
絵に描かれている4人の子供たちの仲良しレベルはどのくらいかを話しあった(加藤先生が用意した場面絵を使用)


 加藤先生はそういった「答えのない問い」を考えることでいろいろな考えが生まれてきて、それを整理しつつ、これが大事だと思うものがもし見つかったら今後の友達との付き合い方が変わると語り、今日は「『答えのない問い』を考えよう」と述べた。

生徒自ら自由な発想で問いを作っていく



 そして生徒役の先生を3人ずつ2グループに分けてそれぞれで問いづくりを行うよう促した。各グループの生徒たちは、「友情のかたち」「歳のはなれた友だち」「助け合い」等のテーマ例が書いてあるテーマカードを見つつ、問いづくりヒントカードを参考にしながら、自分が考えたい問いを次々に発言。それについてお互いの考えを述べ合う場面もあり、数多くの問いがあげられた。「問いができたらみんなで話し合いたくなった」との感想も。

 各グループで考えた問いは、「友達の作り方・スタートライン」「友達ってなんだろう」「普通の友達と親友の違い」「友達は多いほうがいいのか」「友情の形があるのか」等盛りだくさん。問いの一覧を見ながら「これはこの問いと似ている」「どれを話しても面白そう」等の意見が飛び交った。

テーマカードをヒントに「問い」を考える
テーマカードをヒントに「問い」を考える

問いづくりヒントカードで発言を深掘りしながら「問い」を作っていく
問いづくりヒントカードで発言を深掘りしながら「問い」を作っていく

授業のようす
授業のようす


 ひととおりの問いを見終わり加藤先生は、先ほどのグループで、今度はどの問いを考えたいか話し合いで1つに決めてほしいと投げかける。各グループでは、問いを1つずつ見比べながら「これ面白いね」「これだとたくさんの要素が入って良いかも」等意見を出し合いつつ、テーマを1つに絞っていった。Aグループは「友だちの質」、Bグループは「仲良しのラインはどこ?」に決まり、さらにクラス全体として双方に共通する「質」について考えようとまとまった。

1つの問いをみんなで考え、対話で考えを深める



 そして再度4人の子供が教室で過ごしている3枚の場面絵を比べて、それぞれの場面で友達の質は違うのかを考えていった。4人で協力して掃除している場面は、「みな掃除をして気持ち良い教室を作りたいという同じ目的をもっている」が、掃除中にサボって話している4人は「掃除からの逃げを目的としている」とし、共有しているものが違うという指摘も。「掃除をお互いに頑張る姿を見ていれば、言葉がけの際にも言葉の質が変わり、同じ目的で同じ作業をすることで、友達の質が変わる」との意見が出された。最終的に生徒たちは掃除を頑張る場面のような友達関係が良いと意見が一致。こうした関係を作れば、お互いに高め合えると語った。

 1つの問いをみんなで考え、対話で考えを深めていく(加藤先生が用意した場面絵を使用)
1つの問いをみんなで考え、対話で考えを深めていく(加藤先生が用意した場面絵を使用)


 授業の最後に、話し合いを通してわかったことを振り返った。「同じ目的や思いをもっている仲間だから、友達と言えると思う」「みんなのことを思う良い目的をもって、長い時間を過ごせば友達の質が上がると思う」等、生徒は授業を通してさまざまな気付きが得られたようだ。加藤先生はすぐに考えがまとまらなくても良い、まとまらないことがわかったのも気付きであり、考え続けることが大事だとし、「ぜひいろんな問いをこれからも考えていってほしい」と授業を締めくくった。

話し合いを通してわかったことを振り返る(加藤先生が用意した場面絵を使用)
話し合いを通してわかったことを振り返る(加藤先生が用意した場面絵を使用)


答えのないものを考えるのは楽しい



 授業終了後、同授業を踏まえて、座談会が行われた。

座談会のようす
座談会のようす


先生のプロフィール



小1先生:小学1年生担当教諭・宮城県
小2先生:小学2年生担当教諭・神奈川県
小3先生:小学3年生担当教諭・沖縄県
小5先生:小学5年生担当教諭・北海道
小6先生:小学6年生担当教諭・大阪府
中学先生:中学生担当教諭(小学校でも勤務経験あり)・群馬県

--「みんなで!どう解く」教材を使った授業はいかがでしたか?

小2先生:とても楽しい時間だった。問いがあると、話したくなる。あるようでない答えを求め続けるのが道徳だと思いました。

小6先生:活発な話し合いが自然とできたので、思考が止まることなく次々考えることができた。考えも自然と深まっていったし、この時間がとても楽しかったです。

小5先生:答えのないものを追い求めるのは久しぶりで幸せな時間でした。

--この教材を実際に授業で活用することについてはいかがでしょう?

加藤先生:子供たちは考えたいという勘所をくすぐると、どんどん考える存在です。今までわかりきったことをただ言わせて終わりとしていた授業の壁を破ることがとても大事で、そのためにも、この教材は1つの提案になると思います。

小3先生:問いを生み出す力をつけるのは非常に大事なことだと思います。今回の資料をぜひ授業で使いたいです。

小6先生:今日のような授業をすると素直な考えを述べ合い、みんなで交流することができて、より深まる授業になりそうだと感じました。

中学先生:私は少しだけ難しそうだなと思いました。というのも、より面白くなったのは具体例が出てから。今回は加藤先生が場面絵を用意してくれたことで考えが深まっていったので、時間内に具体的に考えられるような仕掛けづくりが大事だな、と。

小1先生:あらかじめ具体的なテーマや教材がないと、低学年は問い自体を作るのが難しいな、と私も思いました。

中学先生:そうですね、実際に授業で使うとなると、教師のファシリテート力が求められますね。

 生徒役の先生方からさまざまな意見が出され、感触は上々。一方で、教師の授業進行に対する支援を要望する声も聞かれた。そうした先生方に向けて、同教材は授業をサポートするために、ファシリテーションのヒントとなるサポートツールも用意されている。子供向けに説明した「ワークの進め方」や、グループワーク中の机間巡視でさらに深い学びを実現する「ワーク補助シート(※4)」がセットになっており、円滑に授業を進められるように力を貸してくれるのが心強い。

ワークの内容を子供たちに紹介する「ワークの進め方」
ワークの内容を子供たちに紹介する「ワークの進め方」

授業を円滑に進める手助けとなる「ワーク補助シート」
授業を円滑に進める手助けとなる「ワーク補助シート」


※4 ワーク補助シート
グループワーク中の机間巡視でさらに深い学びを実践できるツール。生徒への声掛け例や言ってはいけないワードなどを記載している。


受け身姿勢の子供たちの考える力を育てたい



 座談会の最後に、道徳の授業の現状とこれからの授業のあり方について意見が交わされた。

--現在指導を行う中で感じている課題や、「生きる力」を育むためにどのような指導を目指しているか教えてください。

小1先生:道徳の授業自体が、きれいな教材で決まり切った答えを読んで終わりという内容で、面白いものになっていないと感じています。なんとかしないといけないと模索しているところです。

加藤先生:それは私も感じていることですね。これまでの道徳は「みんなでこうしましょう、そうすると良いことがありますよ」というような、わかりきったことの申し合わせのような授業だったので、変えていかないといけない。

小3先生:何か材料を与えても、ただ待っている子が多い。「これはどうするの?次は何をやるの?」と逐一聞いてくるので、なんでも自分発信で、自分から考えていく子になってほしいと思って子供たちと接しています。

小6先生:子供たちを見ていると、与えられるのを待っているし、失敗を嫌がっているように見えます。人と同じ意見を言いたい部分があるのもわかりますが、考える授業を積み重ねて、自分で確かめて判断する力や、そこから考え続ける力を身に付けてほしいです。

小2先生:私は、子供たちに道徳的な見方・考え方ができるようになってほしいと思っています。目に見えるものだけでなく、見えないものを考える力が育つような道徳の授業をやりたいと思うし、今日の授業がそれを体現していたと思います。

小3先生:答えのない問いをずっと考え続けて、それでもたどり着かない、その途中過程がすごく楽しいというのを子供たちにも知ってほしいし、それが生きる力につながっていく。

小5先生:既知+既知=未知で、知っていることと知っていることを足すと、知らないことに出会えると思います。自分自身の考えを出して相手の考えを聞くことで、新しい考えが生まれることにつながりますよね。

 現在感じている課題として、従来の道徳の授業のやり方に疑問をもつ声があがり、加藤先生も従来の授業を変える必要性があることを指摘した。教育現場では従来の道徳の授業について疑問をもち、変えたいと思っている動きがあるようだ。また、受け身となっている子供たちの姿勢に課題があると感じ、自ら考えていく子供に育ってほしいと思っている先生が多かった。

道徳教育を基点に、考えて試していく逞しい子供へ



 子供たちの考える力を育てるためには、今回行った「みんなで!どう解く?」の授業はその解決策の1つとなりそうだ。今回の授業のように問いを出して、それを考え、意見を述べあう対話が新しい考えにつながり、生きる力を育むことに結び付いていくのである。

座談会のようす
座談会のようす


 最後に道徳授業と生きる力を育む学びについて加藤先生は、「道徳は科としての授業のみならず、教育活動全体にも広がっていて、さらに言うと人生全部が道徳につながる。そうした全人教育として、道徳の授業で考えたいものを突き詰めていけば、授業が終わっても考え続ける子供になる。道徳の授業を基点として、日常生活がすべてつながり、新たな見方ができるようになる。そういった享受能力が育つほど、同じものを見ても価値を感じる心や感動する心が育っていき、人生が豊かになり、誰かから言われて動くのではなく、自分で考えて試していく逞しい子供に育っていく。それこそが生きる力の源泉で、それができるきっかけが道徳教育にある。従来の道徳教育を変え、新しい道徳の授業をきっかけにして、人生を変えていく。子供も大人も一生考えていく、そこが生きる力になると思う」とまとめた。

「みんなで!どう解く?」で生きる力を育む新しい学びを実践



 日本マクドナルドが開発した今回の「みんなで!どう解く?」のオリジナル教材は、まさに「生きる力」を育む新しい学びを実践できるツールであろう。座談会においても、従来の道徳の授業のやり方を変え、自ら考えていく子供を育てたいと思っている先生が多かったように感じる。自分で問いを見つけ、考え、意見を表明し、さらに話し合うことで新しい考えが生まれていく。その場では結論は得られなくとも、考え続けることで「人の心」や「生きるうえで大事なこと」等、目に見えないものが見えるようになっていく。それは新学習指導要領が掲げる「主体的・対話的で深い学び」につながる学びの形であり、授業を通して「生きる力」が育まれていくことの証左ではないだろうか。本教材はこうした新しい学びを目指す授業の実践をサポートし、先生方の課題に寄り添い、子供の生きる力を育む学びを実現してくれるだろう。

日本マクドナルド「みんなで!どう解く?」特設サイト

 加藤宣行先生
筑波大学附属小学校道徳専科教諭、筑波大学講師。日本道徳基礎教育学会事務局長。光文書院道徳教科書監修。先生も生徒も達成感を得られる本物の道徳授業を目指すKTO道徳授業研究会代表。KTOには「子どもと・ともに・オリジナルをつくる」「心の・扉を・オープンにする」「壁を・扉にかえて・open(開く・拓く)」の思いがあるという。道徳教育に関する著書も多数。
《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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