河合塾グループは2027年4月、「ドルトンX学園高等学校」を開校する。2019年4月に開校したドルトン東京学園中等部・高等部の実績と知見を生かし、次なる挑戦はミネルバ大学をモデルにした“校舎を持たない高校”だ。現在、この前例のない挑戦を共にリードし、未来の教育を創り上げる教員・校長を募集している。
教室を飛び出し、国内外の地域拠点に滞在しながら実現する新しい学びの形とは。教員はこの学びの実現にどのような役割を果たしていくのか。
ドルトンX学園高等学校・開校準備室室長(KJホールディングス執行役員)の古屋輝周氏に聞いた。
河合塾が新たな高校で挑む、教育のさらなる進化
--なぜ河合塾が今、新たに高校を始めるのでしょうか。その背景からお聞かせいただけますか。

河合塾は、1933年に自宅で「河合英学塾」を開いた創立者・河合逸治の「汝自らを求めよ」という言葉を塾訓として掲げています。自分自身を見つめ、自らの使命に生きる。これが河合塾の目指し続けてきた教育の本質です。
AIの急速な発展やグローバル化が進む今、子供たちに求められるのは教科の知識だけではありません。課題を見つける力、正解のない問いに向きあう力、仲間と協働する力、対話力、批判的な思考力、行動力、自己効力感といった非認知能力が、これまで以上に求められています。
2019年4月に開校したドルトン東京学園はちょうど2期生が巣立ったばかりですが、主体的に学び、探究・挑戦し続ける姿勢を育むという河合塾のルーツとも言える教育が、こうした非認知能力を着実に伸ばせていることがわかってきました。

このような手応えを感じる中で湧きあがってきたのが、生徒たちが教室の外に飛び出し、五感を生かす究極の探究学習への挑戦です。全日制のドルトン東京学園に並ぶもうひとつの選択肢として、広域通信制という制度を利用し、場所や時間に縛られない自由な学びをやってみよう、と。これが来年度から始まる「ドルトンX学園高等学校」(以下、ドルトンX)です。
--場所や時間に縛られない環境がなぜ必要なのですか。
私たちがドルトン東京学園で確信したのは、探究学習が生徒の成長にもたらすインパクトの大きさでした。しかし、全日制高校は基本的に校舎の中で学ぶことが前提です。短期のフィールドワークや研修旅行では、生徒が当事者意識をもてないまま終わってしまうケースも少なくありません。
一方で、通信制という自由度の高い制度の下であれば、もっと柔軟に学校の外に出て、自分がとことん探究したいことに時間をかけて没頭できるようになります。本格的にコミットし、人や社会を動かすことができるかもしれない。当事者として現実の厳しさをも目の当たりにし、失敗や困難に直面したり、頑張っている人々の情熱に触れたりする実体験の舞台としてはベストな環境だと考えたからです。
--校名にある「X」には、どのような意味が込められているのでしょうか。
校名のXは、数学における変数を意味しています。変数は場所であり、生徒自身のやりたいことでもあります。高校3年間の学びのフィールドを生徒自らが自由に探し、自分の興味や関心を起点にして、無限に成長していってほしいという期待を込めています。
もちろん、3年間でやりたいことが見つからなかったとしても、それもひとつの答えです。あるいは、高校時代に熱中したXをゼロリセットして、まったく新しい道を選ぶという進路もあるでしょう。
また、Xは自らが変数となる、つまり「自分自身が何者にもなれる」ということです。ドルトンXでの3年間を通じて、ひとりひとりの行動が、社会、世界、未来を少しでも変えられることを知ってほしいという私たちの希望でもあるのです。
探究と学力は両輪で伸ばす…ドルトン東京学園で得た確かな手応えを継承

--ドルトン東京学園の姉妹校として設立されるということですが、ドルトン東京学園が実践してきた教育の中で、どのような要素を生かしていきたいとお考えですか。
生かしていきたいと考えているのは次の3つの要素です。
まず1つ目は、非認知能力の成長です。
冒頭で触れたように、これはドルトン東京学園での学びで得られる大きな成果であり、我々も2期目の卒業生を見届けたことで確かな手応えを感じています。
2つ目は、心理的安全性のある環境です。
ドルトン東京学園の成果を支えるのはその環境です。そこには、生徒たちが失敗を厭わず実践を繰り返せる、つまり安心して「トライ&エラー」ができる心理的安全性が保たれた環境があるということです。
そして3つ目は、学びに向かう力の育成です。
非認知スキルの重要性について語ると、「探究ばかりしていては、学力がおろそかになるのではないか」と不安を抱かれることがあります。ところが、実際に我々の分析から得られた結論はその真逆で、「探究を突き詰める生徒ほど、学力も高いレベルで伸びる」という相関関係でした。
探究を本格的に進めていくと、社会の複雑さ、解決の難しさに直面し、自分には何ができるかを真剣に考えるようになります。すると、自分の進路も偏差値からではなく、「なりたい自分」「ありたい未来」を目標にし、そのために必要な学習にも自律的に取組めるようになるのです。
--一方で、ドルトンXならではの新しい取組みについて教えてください。
ドルトンXの最大の特徴は、教室の外に出て、国内外の地域拠点に越境して滞在することです。これは、4年間で世界7都市に移り住みながら学ぶ、米国ミネルバ大学の教育モデルを参考にしており、高品質なオンライン学習と地域拠点での探究学習を組みあわせています。
「移り住みながら学ぶ」というのはイメージが抱きにくいかもしれませんが、ドルトンXでは次のような3年間を過ごすことになります。
高1…東京と岩手にある寮でそれぞれ半年ずつ、共同生活を通じて生活力を養いながら、オンライン学習で探究の基礎となる学力もしっかりと鍛えます。
高2…生徒ひとりひとりが自らの探究を実践するため国内外の拠点へと飛び出し、オンライン学習を続けながら、地域のフィールドワークを中心とした生活を送ります。
高3…再び東京と岩手の寮に戻り、探究の成果をまとめて発表するとともに、卒業後の進路に向けた準備を進めます。

さらに、ドルトンXでは、評価について再定義します。ドルトンX独自の評価法は、生徒自身が「自己評価」と「コーチング」を主軸に、ルーブリック(評価指標)を使ってコーチ役の教員からフィードバックを受けながら振り返ります。たとえば、ファシリテーションに関する評価であれば、「今回のグループワークでは、君が前提を整理したおかげで議論が加速したね」といったフィードバックを受けながら、生徒は自分の成長を客観的に可視化し、アセスメントするという方法です。
自分が何を学び、そのためにどこに行くか。学んだことでどう成長したか。さらなる課題は何か。ドルトンXで大事にしたいのは、あらゆる場面で主語は「生徒自身」であるということです。私たちは、この主体性こそが成長につながり、さらなる実践へと突き動かす原動力になっていくと考えています。
岩手から世界各地へ、実社会をフィールドに当事者意識を育む
--なぜ、本校の所在地は岩手県一関市なのでしょうか。
岩手県には、歴史や自然、食文化といった多くの魅力がある一方、東日本大震災からの復興に向けた産業創出や地熱発電などの自然エネルギーへの取組み、環境に配慮した次世代型の農業、急速な人口減少など、日本の未来を先取りするさまざまな課題が凝縮されています。そうした中で一関市は、「学びで可能性を広げるまち」を実現すべく、若者が学び、活躍することによる地域活性化を目指しています。 今、地域の人々が直面しているリアルな課題に、あらゆる角度から探究の切り口を見出し、現場に飛び込んでいく。この場所こそ、地域の人々と共に、生徒たちが当事者意識をもって取り組むのにもっともふさわしいフィールドだと考えたからです。
--具体的に生徒はどんな1日を過ごすことになるのか教えていただけますか。
1年生は全員寮生活です。生活リズムは全日制の高校と変わらず、午前8時30分には登校し、午後3時30分まで授業を受けます。授業を担当する教員は東京と岩手それぞれにいるので、東京の先生と岩手の生徒、あるいはその逆をオンラインで繋ぎ、ライブ授業を展開します。ネイティブ教員も積極的に採用し、オンラインで海外と直接繋いだ学びの場も設けていく予定です。授業の一部はオフィスアワー(自習時間)として開放され、生徒それぞれの探究プロジェクトに取り組みます。

2年生になると寮を出て、国内・海外拠点10か所以上の中から、最大4か所程度を約3か月単位で移動します。午前は基礎学力を身に付けるための教科の授業を受けつつ、午後は現地探究のフィールドワークに充てます。地域の人たちとの打ちあわせや作業、実地調査など、生徒が自分のプロジェクトに集中する時間です。時差の影響やプロジェクトの進行上、4限までの授業に参加できない場合は、授業の録画を後から視聴してもらうなど、通信制ならではの強みも生かしていきます。

3年生は再び東京または岩手の寮で、それまで取り組んだ探究を振り返りながら、卒業後の進路に備えます。
3年間を通じて、教員のほかに、探究を深めるうえで相談相手となる探究コーディネーター、寮生活を支えるボーディング・コーディネーター、メンタルカウンセラー、さらには寮の先輩にあたるハウスメンターが生徒ひとりひとりを支えます。進路については河合塾グループと連携し、入試情報の提供や入試対策、キャリア支援など、進路専門職員がバックアップする手厚い体制を整えています。
--時間割を見ると、探究に振り切るというより、教科の勉強にもしっかり取り組んだうえで探究を深めていくカリキュラムなのですね。
はい。実はこれもドルトン東京学園での経験から、探究を深めるうえでは基礎学力が非常に重要であることがわかったからです。「教室を飛び出す通信制高校」というとかなり自由奔放なイメージをもたれるかもしれませんが、ドルトンXでは生徒たちの卒業後の成長も見据え、基礎学力の担保と自由な探究をしっかりと両立させていきたいと思っています。
教員も挑戦者…既存の枠組みを壊す圧倒的な裁量
--教員にとって「ドルトンX」でしかできない経験とは何でしょうか。
おもに3つあると思っています。
1つ目は、授業における裁量が大きいということです。
現状は、たとえ素晴らしいアイデアがあっても、他教科と連携した教科横断型の授業を行うのは容易ではありません。その点、ドルトンXでは、むしろ複数の先生同士がコラボレーションしながらアイデアをどんどん発案し、生徒も巻き込みながら新しい学びのスタイルを作っていただきたいと思っています。こうした自由でイノベーティブな環境に身を置くということは、ドルトンXならではの経験だと言えるでしょう。こういった新たな取組みを推進する教員を評価するグローバル企業のような人事評価の仕組みも導入していく予定です。
2つ目は、活躍のフィールドが広いということです。
ドルトンXの舞台は日本、そして世界の各地にあります。先生方には国内外に出向く生徒に帯同し、現地の人々と一緒にプロジェクトに参画していただくような場面も出てきます。先生方にとっても初めての場所で、生徒が存分に活動できる場をセットアップする。まさしく世界各地を転戦するアスリートのコーチのような役割も楽しんでもらえるのではないかと思います。
そして3つ目は、より良い教育とは何かを探究し続けている仲間がいることです。
教育現場に閉塞感を感じ、このままではいけないと孤高に奮闘してきたような志ある教員が、全国から、そして世界中からすでに集まってきています。そんな仲間とワンチームで働けるのも、ドルトンXで働く醍醐味だと自負しています。
--ともすれば毎年同じ内容を繰り返すルーティンワークに陥りがちな中で、自己研鑽を惜しまず、自らの成長を志す先生方にとっては、非常にやりがいのある環境になりそうですね。
そう願っています。ドルトンXが掲げるコンセプトは、「自らの足で探究し、破天荒に出会い、フロンティアを共創する」です。ひとことで言えば、生徒自らが“コンフォートゾーン”を打ち破るということ。これは言うまでもなく、先生方にも同じ経験をしていただかなくてはいけません。生徒に「破天荒な挑戦を」と背中を押す以上、先生方自身も挑戦者として、生徒と一緒に悩み、ときには失敗もしながら、日本の教育をアップデートしていただきたいです。校長も、このような破天荒な挑戦者である教員をまとめながら、自らも変革進化していくリーダーシップのある方にぜひ来ていただきたいと考えています。
“Fail Forward”(失敗から学べ)のマインドで、教育を再起動する
--お話を聞いている中で、“Fail fast, fail forward.”(失敗から学べ)という言葉が思い浮かびました。失敗を受容し、挑戦し続けることの重要性を説く、シリコンバレーでもよく用いられる標語です。古屋様はまさにそのシリコンバレーを代表するテック企業の管理職として活躍されていたとのことですが、グローバルで活躍する人たちにはどういった共通点がありますか。
現状に安住せず、常に挑戦し続けているところですね。私はGAFAMと呼ばれる企業で働いてきましたが、そこには挑戦しない人は昇進させないという明確なルールがありました。ミスなく及第点を取るような仕事は評価されず、固定概念を打ち破ろうとする仕事が評価され、失敗には非常に寛容でした。失敗の分析を次の挑戦の糧にする。つまり、何百回失敗しても、数回の大きな勝利がそれを打ち消すという発想なのです。
日本人は世界で見ても極めて優秀だと思いますが、指示どおりにしか動けない、失敗を恐れてリスクを取らないといった保守的なマインドは、グローバルビジネスの最先端では組織を停滞させる元凶と見なされます。
だからこそ、生徒たちがどれだけ打席に立てるか。ドルトンXはとことんそこにこだわりたいです。目まぐるしく変わる世界を生き抜くうえで、まさに“Fail fast, fail forward.”(失敗から学べ)の言葉どおり、どんどん挑戦して、失敗すら楽しいと思える文化をつくっていきたいですね。
--最後に、ドルトンXに興味がある、働いてみたいと思っている先生方へ、メッセージをお願いします。

子供たちが学ぶことを楽しいと思えるか、そして、自分の将来にワクワクできるかどうかは、出会う大人、出会う先生の力にかかっていると思っています。教育には、子供たちの未来を変えるポテンシャルが間違いなくあります。挑戦も失敗ももっと自由に、本気で子供たちと向きあいたいと思っている先生方へ、ぜひ一緒に、ドルトンXで日本の教育を再起動しましょう。そんな仲間との出会いを楽しみにしています。
--ありがとうございました。
(聞き手:リセマム編集長 加藤紀子)
「将来、ドルトンXで活躍した先生方が再び地元に戻り、そこからまた日本の教育がアップデートされていく。そんなアルムナイ(卒業生)ネットワークができたら最高ですね」と夢を語ってくれた古屋氏。ドルトンXは、保守的になりがちな学校という組織の中で、稀有とも言えるイノベーティブな環境であることは間違いない。全国の先生方、あるいは教員志望の方々へ、人生を「このままでは終われない」と感じているなら、今こそコンフォートゾーンを打ち破るときかもしれない。
2027年4月開校「ドルトンX学園高等学校」の詳細はこちら













