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【先生の事情とホンネ】学校教員、休憩時間のリアル

 教育現場で日々奮闘されている先生へ。リシードは、現役の小学校教諭である松下隼司氏による連載「先生の事情とホンネ」を毎月掲載している。第4回のテーマは「学校教員、休憩時間のリアル」。

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【先生の事情とホンネ】学校教員、休憩時間のリアル(画像はイメージ)
  • 【先生の事情とホンネ】学校教員、休憩時間のリアル(画像はイメージ)
  • あなたは、毎日休憩時間を取れていますか?
  • あなたは、45分間の休憩時間のうち、どのくらいの時間休憩できていますか?
  • 同じ職場で働く他の先生方は、毎日休憩時間が取れていますか?
  • あなたは、いつ休憩を取っていますか?
  • 職場の休憩時間が何時から何時まで設定されているか、保護者は知っていますか? また、知る必要はあると思いますか?
  • 職場の休憩時間が何時から何時まで設定されているか、学校の子供たちは知っていますか? また、知る必要はあると思いますか?
  • 全国の学校の先生が、毎日45分間の休憩時間を休める環境を整えるためには、何が必要だと思いますか?

 教育現場で日々奮闘されている先生へ。リシードは、現役の小学校教諭である松下隼司氏による連載「先生の事情とホンネ」を毎月掲載している。

 文部科学大臣優秀教職員表彰を受賞した経験をもち、教育書の執筆も手掛ける松下隼司教諭が、日々どのようなことを考えて子供たちと向き合っているのか。授業や教室運営の工夫を紹介するほか、未来を担う子供たちの教育に携わる「教員」という仕事の魅力も発信していく。

 第4回のテーマは「学校教員、休憩時間のリアル」。リシードで実施したアンケート結果をもとに、先生たちの休憩について語る。

学校教員、休憩時間のリアル

 教員志望者の減少による教員採用試験の倍率低下、1年以内に離職する新任教員の増加、病休教員の増加、代替教員の不足など、“教員不足”が大きな問題になっています。

 その教員不足の要因のひとつに“教員の労働環境“があげられています。部活や残業時間・時間外勤務の改善が進められています。

 一方、教員の“休憩時間“については、改善がまったくと言って良いほど進んでいないと感じます。労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合は45分間以上(8時間を超える場合は1時間以上)の休憩を与えることが定められています。

 私の場合は、休憩時間が15時15分~16時に設定されています。この時間帯は、

 1)6時間目の授業
 2)家庭訪問や学級懇談会や個人懇談会
 3)遠足などの校外学習の引率
 4)校内のさまざまな会議
 5)校内や校外の研修
 6)研究授業後の討議会
 7)放課後の遠足や社会見学の下見
 8)放課後の出張の移動時間
 9)運動会や卒業式など行事の準備
 10)就学時健康診断


と重なっています。もちろん、休憩時間と労働時間が重なっているからといって、代替の時間休が与えられるわけでも、求めることもありませんでした。というのも、校長先生と教頭先生は、教員よりももっともっと忙しいことを知っているからです。

 「休憩時間はない」「休憩時間をとれるのは、夏休みと冬休みだけ」が当たり前のように思って、働いてきました。

 「他の先生方は、どうなのかな」と思い、このたびリシードで、教員の休憩時間の実情についてのアンケートをとってもらい、多くの方から回答をいただきました。アンケート結果の中からわかったこと、感じたこと、改善点などを述べさせていただきます。

毎日、休憩時間を取れていますか?

 日々の「休憩時間が取れていない・あまり取れていない」が、94%という結果でした。

 正直、6%もの先生方が、「休憩時間を取れている・だいたい取れている」ことに驚きました。教員でない方は「たったの6%だけ⁉」と思われるかもしれませんが。ひょっとして、残業時間がさらに延びることを引き換えに、休憩時間をとっているのかも…と思いました。それほど、私の教員生活の中で自分を含めて同僚教員で、休憩時間をとれている人を見たことがなかったからです。

 公務員が毎日働く中で、休憩時間をとれていないことは酷い労働環境だと率直に思います。私は慣れきってしまいましたが…。

45分間の休憩時間のうち、どのくらいの時間、休憩できていますか?

 これも、驚きの回答結果でした。45分間の休憩時間のうち、MAX45分間の休憩を取れているとれている人が3%もいたことです! もしかしたら、夏休みや冬休み期間を入れて回答されたのかなと思いました。私は23年間で一緒に働いた同僚の中で、45分間の休憩を取れいる人を見たことが1度もないです…。

 回答としていちばん多かったのが、休憩を「まったく取れていない」61%で、2番目に多かったのが「5分間」でした。

 私の場合、15時15分から休憩時間スタートですが、15時30分まで授業があります。帰りの挨拶をして、教室に残っている子供たちと少しおしゃべりをして、教室の片づけなどをして職員室に行ったら、もう休憩時間終了の16時前です。ホットカフェオレを作って、飲みながら仕事をしています。実際の休憩時間は、ホットカフェオレを作っている30秒ほどです…。

 下は、「同じ職場で働く同僚の先生は、毎日休憩時間が取れていますか」というアンケート回答です。96%の先生方が、「取れていない・あまり取れていない」という結果でした。

あなたは、いつ休憩を取っていますか?

 全国の先生方は、どんな時間帯に設定されているのか知りたくて、「いつ休憩を取っていますか?」という質問を入れました(私の場合は、15時15分~16時です)。結果は以下でした。

 「給食」や「昼休み」に休憩時間が設定されている学校があることを知り、気持ちが重たくなりました。給食時間や昼休みは、絶対に休憩できないからです。特に給食時間は、気が張っています。短い時間で給食の準備や食事、片づけがあり、教員自身の給食は早食いしないと間に合いません。食物アレルギー対応にもとても神経を使います。

 昼休みは、子供と遊んだり、喧嘩などのトラブル対応をしたり、テストや宿題を見たり、やることは山盛りあります。

 私のように15時15分からに設定されているほうがまだマシだなと思いました…。

職場の休憩時間が何時から何時まで設定されているか、保護者/学校の子供たちは知っていますか? また、知る必要はあると思いますか?

 本気で学校教員が休憩時間を取れるようにしようと思うのであれば、まず学校に関わる保護者や子供が、教員の休憩時間がいつ設定されているのかを知る必要があると思います。

 知ってもらえば、保護者や子供たちも教員が休憩を取れるように、理解・協力してくれると思います。逆に知らなければ、「教員の負担軽減のため」といった曖昧な説明になり、授業や行事・研修が減っていくことに理解・協力してもらえないかと思います。

 休憩時間を取ることは法律で定められているのに、休憩時間なしで働き続ける労働環境に全国の教員たちは何十年も耐え続けて、慣れきってしまってきたのです…。休憩時間を取れないような労働環境は、違法なのにです。

全国の学校の先生が、毎日45分間の休憩時間を休める環境を整えるためには、何が必要だと思いますか?

 休憩時間を取れるようにするために必要なこととして、アンケートの回答1位は「教員の数を増やす」、2位は「校務の効率化」、3位は「1クラスあたりの子供の人数を20人までにする」でした。

 正直、1位~3位の実現は難しいと思います。理由は、お金がとてもかかるからです。そして、日本は学校教育にかける予算が先進諸国の中でも低いという現状があるからです。校務の効率化についても、お金がかかります。そもそも効率化してもしきれないほど業務量が多いです。

 だから、教員が休憩時間を取れるようになるのは、何年後になるかというアンケート結果の回答が絶望的になるのです。

 教員が休憩時間を45分間取れるようになることは「絶望」に思えます。ただ、「絶望」の中にある「望」に懸ける画期的・根本的な改善策があります。

 それは、まず45分間の休憩時間ありきで、日々の授業や行事や校外学習を組み立てるのです。

 たとえば、15時15分から休憩時間がスタートするのであれば、逆算して15時には子どもを下校させるのです。これはお金をかけなくてもできることです。そのために、45分間の授業時間を35~40分間にしたり、6時間授業を5時間授業にしたりします。これもお金はかかりません。

 遠足も15時までに学校に戻って来られるように、遠足先やスケジュールを組みます。校外の研修での出張も、休憩時間に移動時間が重ならないように、オンライン研修にします。もし、休憩時間の労働時間が重なった場合は、振替の時間休を必ず取れるようにします。これもお金はかかりません。

 このようなアイデアを「教員の甘やかしだ」と思われるかもしれません。休憩時間なしで20年以上働き続けて、休憩時間なしが当たり前に慣れてしまった私は「贅沢な労働環境だ」と思ってしまいます。でも、私の感覚こそが教員の労働環境が改善されない原因のひとつになっているのだとも思います。労働時間が6時間を超える場合は、45分間以上の休憩を取れるようにすることが、労働基準法で定めれているからです。

《松下隼司》

松下隼司

大阪市公立小学校教諭。令和4年度文部科学大臣優秀教職員表彰受賞。教科書編集委員。絵本「せんせいって」「ぼく、わたしのトリセツ」、教育書「教師のしくじり大全」「むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営」などを執筆。小劇場を中心に10年間、演劇活動を行う。Voicyパーソナリティー。

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