
保護者との円滑なコミュニケーションのために
外国人児童の保護者にやさしい日本語で丁寧に説明しながら「大丈夫ですか?」と聞くと「だいじょうぶ、だいじょうぶ」、「わかりましたか?」と聞くと「わかる、わかる」と、返事が返ってくることがよくあります。たとえ本当はわかっていなくても、ついそう答えてしまうのは、日本人が海外旅行へ行った際に、わかっていないのに「OK、OK」と言ってしまうことと同じなのです。日本が外国から人々を受け入れている以上、日本人つまりマジョリティ側がマイノリティの相手を尊重して、親身になって寄り添うことが多文化共生の原則だと考えています。
たとえば、入学式や卒業式、運動会のような学校行事の前に、「何時に来ますか?」のように質問して内容を確認したり、式典中、学校長やPTA会長が保護者にメッセージを伝える際に、保護者がわかるように通訳を入れたりする等の思いやりをもった対応をすることが大切です。たとえば、私が勤務したA小学校では、入学式や卒業式等の際には、保護者席に日本語と母語で「ベトナム語通訳が必要な方」のように掲示して、同じ言語で通訳が必要な方ごとに座ってもらう工夫をしていました。
「先生にすべて任せます!」という保護者には
外国人児童の保護者には、日々働くのに精一杯で、日本語を学ぶ時間の余裕もなく、滞在が長くなっても日本語が理解できない方が多いようです。また、学校のシステムがわからないために、学校に足を運びにくく、「先生にすべてを任せます」という方も多く見られます。
近年、来日する方が多いベトナムや中国等、多くの国の学校では、先生に対しての特別な思いから「先生の日」が設けられており、保護者や子供たちが感謝の気持ちを表しているそうです。つまり、学校や先生は特別なもので、日本のように頻繁に学校に行ったりするようなことはないため、学校や先生に「すべてお任せ!」というようになってしまうようです。
学校としては、せめて小学校の6年間は、子供たちのよりよい成長のために、子供たちの教育に積極的に関わってほしいというメッセージを丁寧に説明したいところです。時には、外国人児童の保護者の勤める事業所とも連携して、保護者の方が子供たちの教育に向き合うことができるように工夫も必要でしょう。
子供の忘れ物が多い場合は…!?
日本語が苦手な外国人児童の保護者にとっては、子供の連絡帳を見て、子供が書いた文字から必要な情報を取り出し、翌日の準備をいっしょに行う等ということは、時間的にも言語的にも難しいと考えられます。そのため、考えられる年間の持ち物を書き出して母語に翻訳して保護者に渡したり、学年・学校だよりに絵や写真を添えて渡したり、電話で伝えたりする等の工夫をする必要があります。宿題を「しゅ」、持ち物を「も」のように短縮して書くことも伝わらない原因になるので、注意が必要です。
また、手紙を渡して簡単に説明しただけでは、必要なことが伝わらなかったり勘違いされたりすることがあります。私たちの感覚では伝わると思ったことでも、日本での生活経験が短いことから、言葉から物を想起することが苦手だったり、日本語能力が低かったりする等して伝わらないことが多々あるのです。このような場合の対応としては、先述したような支援の他にも、近所に住んでいる通訳ができる保護者に、時間がある時に助けてもらえるような支援体制を整備すること等も考えられます。
手紙を配付する際に大切なこと
外国人児童の保護者は、滞日期間が長くなっても、漢字や日本語独特の表現がわからない方が多いようです。そのため、ユニバーサルデザインの視点から、配付するすべての手紙に、ひらがなのルビを付けている学校も多いようです。また、通訳者が常駐していたり翻訳するシステムがあったりする学校や自治体では、できるだけ母語に翻訳して配付し、確実に理解してもらおうとする努力も行われているようです。
パートタイム等で働いているため、急な連絡に対して休みを取って学校に行くことが困難である外国人保護者のために、授業参観や懇談会、個人面談、家庭訪問等のような行事には、仕事のシフトが決まる少なくとも1か月前には手紙を配付する必要があると考えています。
また、日本は今のところ印鑑文化ですが、諸外国ではサインの文化が根付いています。プリントの下を切り取って提出する承諾書のようなものや音読カード、水泳カードのようなものに外国人児童の保護者の確認を求める際には、ぜひ「サイン/印」として、サインでも認められるようにしてほしいと思います。
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<協力:小学館>
発行:小学館 著/菊池聡
外国人児童のいる教室で起こりがちなトラブルやエピソードを4コママンガで紹介しながら、外国人児童指導におけるさまざまな悩みに具体的に答え、すべての子供がともに学び成長していける教室をどのようにつくればよいかを易しく解説していく。
日本語がわからない子供とのコミュニケーションの取り方や日本語指導、学習指導、外国人児童のいる学級のつくり方等、具体的な指導アイデアも満載で、多文化共生時代の学級担任の強い味方となる1冊だ。