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あの学校はなぜ速いのか? 校内Wi-Fi超速3校の事例と改善ポイント

 リシードとフルノシステムズは2023年9月29日、「GIGAを応援!超速Wi-Fiキャンペーン」の表彰式および、Top3校とフルノシステムズのセミナーを開催した。

事例 企業×学校
千葉県立市川工業高等学校の片岡伸一氏(左)と阪南大学高等学校の藤田大輔氏(右)
  • 千葉県立市川工業高等学校の片岡伸一氏(左)と阪南大学高等学校の藤田大輔氏(右)
  • 表彰式のようす。千葉県立市川工業高等学校の片岡伸一氏(上)と阪南大学高等学校の藤田大輔氏(下)
  • 受賞記念セミナー配信のようす。片岡伸一氏(左上)、藤田大輔氏(左下)、中山裕隆氏(右上)、片岡氏と司会の佐々木舞さん(右下)

 リシードとフルノシステムズは2023年9月29日、「GIGAを応援!超速Wi-Fiキャンペーン」の表彰式および受賞記念セミナーを開催。イベントのもようはオンラインでライブ配信された。

 当キャンペーンは、全国の学校関係者に学校のネットワークに関する理解や環境の把握、さらに課題意識を深めることを目的として、2023年5月10日から7月31日まで実施された。参加校がリシード提供の「学校インターネット回線速度計測」を使って、平日午前9時から午後5時までの間に校内Wi-Fi接続で回線速度を計測してエントリー。今回、その結果がランキング化され、教育ICTの基盤となる学校ネットワークの現状を明らかにする注目のイベントとなった。

Wi-Fi速度は学校間格差が大きい

 表彰式ではWi-Fi速度の上位3校が表彰されトロフィーが贈呈された。Wi-Fiの速さ(ダウンロード)でのランキングTop3と受賞の感想は下記のとおり。速度の表記は(ダウンロード、アップロード)となっている。

1位 千葉県立市川工業高等学校(422Mbps、455Mbps)

 「導入業者さま、そして設定等を簡単にしてくださったメーカーのみなさまのおかげでスピードが出せました。そうしたみなさまに御礼申し上げます」(片岡伸一氏)

2位 阪南大学高等学校(329Mbps、265Mbps)

 「何より本校の運営は保護者のみなさまのおかげです。その他関係する方々に厚く御礼を申し上げます」(藤田大輔氏)

3位 清風学園(299Mbps、422Mbps)

 「学園がこのような結果となりましたのは、取引先をはじめとした関係するみなさまのおかげだと思っています。ありがとうございます」(根岸太郎氏 ※オンライン参加)

表彰式のようす。千葉県立市川工業高等学校の片岡伸一氏(上)と阪南大学高等学校の藤田大輔氏(下)

 主催者であるリシードの田村編集長は「現場の先生方からは、端末利用時にインターネットや各システムにつながりにくいなど、学校のネットワーク品質に関してさまざまなご苦労をされているというお話も伺っております。リシードでは、先生方に、自校の回線速度を気軽に測っていただくことを目的に昨年の7月、『学校インターネット回線速度計測』サービスを開始しました。また、今年の5月より、フルノシステムズさまのご協力により『GIGAを応援!超速Wi-Fiキャンペーン』を実施することができました。期間中には、北は北海道から南は沖縄まで、たいへん多くの学校の先生方がご参加くださり、上位はたいへん高速を記録しています。その一方で10Mbps以下という学校もありました。今後も通信環境の把握のためにリシードの『学校インターネット回線速度計測』をご利用いただけましたら幸いです」とコメントした。

学校インターネット回線速度を計測する

「あの学校はなぜ速いのか?」受賞記念セミナー

 表彰式に続き、上位3校の担当者による受賞記念セミナーが行われた。

「公立なのに12Gbps!iPadを止めないお手製校内ネットワーク」
 千葉県立市川工業高校 電気科学科長、情報教育委員長 片岡伸一氏

 創立80周年を迎える千葉県立市川工業高校の片岡氏の講演では、予算が限られた中で、いかにICT環境を構築・整備したかが語られた。4学科約500名の規模でiPadをBYAD(指定された端末を生徒が購入)で整備。GIGAスクール前にすでに校内ネットワークの構築を想定し、生徒のスマホ活用解禁から教職員の興味を喚起、新しい工業教育を目指している。

 GIGAスクール構想ではスイッチングハブやアクセスポイント、10Gbpsの回線を整備、独自に整備した回線と合わせて理論値は12Gbpsになったという。

 片岡氏は「(教育ICTの推進には)技術・予算・政治力に長けた教員が必要だと思います。私は前任校でも自分で整備していましたが、積極的にやってくれる人材も得られて幸運でした。もちろん限界はありますが、やれることはたくさんあります。特に公立の学校のみなさんには、ネットワークに関連する情報サイトを参考にするなどアンテナを高くし、教育情報委員会を校内に置く、またEDIXなどに出向いて実際にメーカーの方と話をするといったことも大切だと思います」とアドバイスした。

「無線LAN環境整備を基盤としたICT活用への取組み~大規模校における事例~」
 阪南大学高等学校 ICT教育推進部長 藤田大輔氏

 続いて大規模校における無線LAN環境の構築とICT活用の実際を、阪南大学高等学校 ICT教育推進部長の藤田大輔氏が講演。当初は教員の教務用端末だけがWi-Fiがつながる状況だったが、生徒1人1台のiPadが揃う2022年に合わせて回線を増強した。「今回の受賞は、この回線の安定が要因です」と藤田氏は話した。

 アクセスポイントにはフルノシステムズの製品を選定。理由として、半導体不足でも供給が安定していたこと、コストパフォーマンスに優れていたことをあげた。現在、無線LANには生徒1,500名のiPad以外に教職員のWindows端末などを含めて、およそ1,700台がすべてつながっている。

 ICT教育推進部の4名がICT支援やインフラ整備、ヘルプデスクの役割を務め、授業中にも対応。藤田氏は「この8年間はICT環境の変化が大きく、最新の動向をキャッチアップする必要がありました。とりあえず使ってみようから、今後は効率的にどう使うのか。カリキュラムマネジメントとともに、より良い使い方へ進みたいと思います」と抱負を述べた。

「学校のDX化について」
 清風学園 情報システム部 ICT室責任者 根岸太郎氏

 次に学校のDX化をテーマに清風学園 情報システム部 ICT室責任者の根岸太郎氏がオンラインで講演した。清風学園は大阪市にある中高一貫校で生徒は3,000名、教員300名を抱える大規模校だ。スポーツも盛んで、特に男子体操ではオリンピックのメダリストを数多く輩出している。

 当初、教職員室のみに無線LANが配備され、回線も共有型の光ファイバーだったという。これを、クラウドを見越して専有型を加え、地域の他のユーザーの影響を受けにくいものにした。GIGAスクール構想では無線LANの整備を進め、85か所にアクセスポイントを業者の協力も得ながら設置したという。書くことに利点があるiPadや授業支援の各種ソフトウエアを導入し、エンドポイントセキュリティによって安全性も担保している。

 根岸氏は「学校ICTの構築や整備では設備投資のバランスが大事だと考えています。専有線でリスクヘッジするなど、何かひとつがうまくいかない場合でも、違う手段が講じられる環境を念頭に整備すること。その結果、いつでもどこでも簡単にアクセスできて、安定した通信があることで、ICTの利活用が進むと思います」と語った。

受賞記念セミナー配信のようす。片岡伸一氏(左上)、藤田大輔氏(左下)、中山裕隆氏(右上)、片岡氏と司会の佐々木舞さん(右下)

Next GIGAに向けたネットワーク構築改善のポイント

 最後にフルノシステムズ 営業技術部 西日本営業技術課 技術主任の中山裕隆氏が「Next GIGAに向けたネットワーク構築改善のポイントとは」と題して総評と講演を行った。中山氏はまず「学校環境の違いにより大きく差が出たと思います」と述べた。今回のキャンペーンに参加した学校は小中高とあったが、小中で半分を占め、速度では100Mbps前後が多かったという。また全校で一斉にWi-Fiをつなぐのは厳しく、授業のタイミングを調整している学校も多いとのことで、動画視聴や英語のリスニングが増えてくる今後に向けては、ひとつの目安になったのではないかと語った。

 次に速度に差が出た理由が解説された。まず有線LANに関してはハブの問題があるとした。調べていくと建物との接続部分が古いままだと判明するケースもあるという。ケーブルではCAT6Aの調達が間に合わないケースもあって全体的に差が出ているが、物が調達できても設置上の問題もある。特にメタルのケーブルは電気抵抗の大きさで速度が変わるため、ケーブルを曲げると速度が落ちる。そのためLAN工事の違いで速度に差が出る可能性もあるという。無線LANではルーターが新設か既存のものかアクセスポイントの設定に問題がないのかなどを確認する必要がある。また、電波干渉も含めた設置環境における適切な設定が必要になる場合もあるとした。

 特に古い校舎の場合は、コンクリートが厚く、鉄筋なども電波の障壁になる。アクセス回線では、何本でカバーするか、接続が集約型か学校ごとなのかなどでも違いが出る。端末側の設定では、コンテンツフィルターをクラウドで設定していて、その契約していたクラウドサーバが回線に合っていなく、端末のスペックを生かせないケースもあったという。

 「これまで画面を表示するだけで十分だったのが、使用頻度が増え、動画を作る・発信するといった積極的な活用が増加して高度化しています。そうした観点からデータ量に合った回線やアクセスポイントを選定することがより重要です。だからこそ、まず“アセスメント(評価)”をしましょう」と中山氏は呼びかけた。アセスメントを実施することで課題を発見する。スループット(単位時間あたりに処理できる量)やロス(正常にすべてのデータが届かない)、遅延(データの伝送に遅れが発生する)などを数字として可視化し、そこから回線や機器、設置環境などのどこに問題があるのかを知ることができる。

 中山氏は、アセスメントした事例を紹介。パケットロスがあるため無線LAN環境に問題を特定。電波調査後に、設置場所や機器を改善して安定した稼働が実現できたという。こうしたアセスメントには、文部科学省からも必ず一度は実施するよう推奨されており補助金もある。また問題の切り分けには専門性が必要なため、対応できる事業者を見つけることが大切だという。「ICT機器は端末もアプリケーションも日進月歩です。それらに見合った環境づくりをしないと使えるものになりません。また今は“無線空間使用率”、つまり無線LANが使用しているチャネルに複数の機器が使われ、電波もさまざまな理由で干渉されるケースが増えています。こうした事象を踏まえて無線LAN環境を考えることが重要です」とアドバイスをして講演を結んだ。

 今回、公立高校や大規模校が速度上位を獲得していることに、とても勇気づけられた。そしてさらに日本全国の教育機関が、リシード「学校インターネット回線速度計測」の利用を通じて、アセスメントのきっかけを得られると良いと感じた。ICT環境の構築や運用は、さまざまな人を巻き込みながら進むことが大切。学校のご担当者はなるべくひとりで抱え込まずに、専門家によるセミナーや相談の機会も求めてほしい。

《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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