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GIGAスクール構想で変わる「通知表」今後のあり方とは

 この5年から10年ほどの間に日本中の学校での通知表の作成方法が変わってきました。教員が通知表に関して考えておくと良いこととして「通知表に関して配慮すること」「これからの通知表のあり方」という2つをテーマとしたいと思います。

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 この5年から10年ほどの間に日本中の学校での通知表の作成方法が変わってきました。これまでは「手書き」であったものが「印刷」したものを配布する形に変わっている学校が多いようです。そういった変化により教師(学校)が配慮する事柄にも変化が生じてきています。今回は教員が通知表に関して考えておくと良いこととして「通知表に関して配慮すること」「これからの通知表のあり方」という2つをテーマとしたいと思います。

通知表に関して配慮すること

 通知表に関して、パソコン等で文章を考えたり、数値を計算したりすることを経て、プリンターで印刷する形になったことにより、以前とは配慮することが変わってきています。配慮した方が良いことの代表的なものは次のようなものでしょう。
・変換のミス
・入力のずれ
・情報の漏洩

変換のミス

 PCを使って通知表を作るようになり、誤字が起こりやすくなっています。たとえば、PCで「ごじ」と打つと変換の候補として「誤字」「五時」「護持」等が出てきます。明らかに意味の違うものであれば、間違えることは少ないですが、似たよう意味の言葉の場合、間違えるリスクは高くなります。手で書いていた時には、わからない漢字があれば、辞書等で調べてから書いていました。曖昧なままでは書くことができないからです。それがPC等を用いるやり方に変わったことで曖昧なままでも漢字を選択することができるようになりました。その良さもあるのですが、通知表の記述に関しては、漢字の誤変換の可能性を考えてチェックをしていく必要があります。

入力のずれ

 先述の漢字の変換のミスと同様、パソコンで成績処理をする際に起こりやすいミスの1つが「入力のずれ」です。特に評定等の数値データを表計算シートから移す際等に1つだけずれてしまうことがあります。さまざまな事情で表計算ソフトのデータと成績処理ソフトのデータで人数に違いがある際は特に注意が必要です。私が大学の講義での成績処理していた際、途中で退学等によって名簿から抜ける学生がいたことがありました。あるデータでは、その学生の名前は削除されていたのですが、もう一つのデータではまだ削除されていない状況だった事で、ずれが生じてしまったことがあります。こういったミスへの配慮は必須でしょう。

 また、コメント等の文字の情報も手書きの時と違い、ずれて他の人に印刷されてしまうことがあります。印刷されたものは、形式がきちんとした感じになっているので、間違いがないものと認識してしまいがちです。手書きであれば、違う人の通知表に書き込んでしまうということは、ほとんどありませんでした。数値同様に文章についても注意が必要でしょう。

情報の漏洩

 以前から学校の成績関係の情報(データ)の漏洩が起こってしまうことはありました。成績関係の仕事をPC等を用いて行う以前は、テストや一覧表等の紙ものを電車の網棚に忘れてしまった等のものでした。お酒を飲んだ後にそういったトラブルが発生してしまったような記事をよく目にしたように記憶しています。

 その後、情報の漏洩でよく起こったものが「USBの紛失」です。成績情報や個人情報等が入っているUSBメモリスティックを失くしてしまうものです。USBは利便性を高めるためにサイズが小さくなっていきました。そういったこととも関連し、紛失ということにつながる事例がたくさんありました。

 「紙もの・USBの紛失」は、現在でもまったく無くなった訳ではありませんが、今はそういったものとは少し違ったミスへの配慮が必要となります。成績情報等はセキュリティのかかった状態でオンラインに保存をされていることが多くなりました。そういったことにより、先述のUSBの使用頻度が減ることつながっています。物理的なものの紛失は減ったのですが、逆に設定ミス等によって、部外者を含め、本来見られない立場の人が情報を見ることができてしまうようなトラブルが発生しています。

 デジタルに関するセキュリティは、設定等がボタン1つでできることが多いです。閲覧可能者を「教職員だけ」とするのか「誰でも可能」とするのか等に関するミスです。SNS等でもどのレベルまで閲覧ができるようにするのかが設定できるようになっています。そういった設定のミス等によって、本来見ることができない人が見ることができるようになってしまうミスがあります。実際にあったものでは、学校のホームページ上で子供の成績情報が閲覧できる状況になってしまったという事例がありました。

 対策としては、成績に関する情報を扱うネットワークを分けるという方法があります。そうすることで、そのネットワーク以外からはデータを扱うことができなくなるという仕組みです。そういったやり方には良し悪しがあります。セキュリティ的には良いことなのですが、作業する際には煩雑になる可能性があります。知り合いから聞いたところでは、ある自治体では、教頭の机の上にいくつものPCが置かれているのだそうです。それぞれが、学校のネットワーク、市のネットワーク、県のネットワークにつながっており、設定の関係で別々のPCを使わなければならないような状況なのだそうです。セキュリティ的には良いのですが、そういった状況では実際の仕事を進めるにあたっては非常に煩雑でしょう。

今後の通知表のあり方

 今後の通知表は現在の形から変わってくる可能性があると私は感じています。ポイントは「GIGA端末での学習履歴」です。現在の学校では、指導要録を作ること、またその書式については法的に規定されています。各学校で独自に決めることはできません。今回のテーマである通知表については、作ることについても書式についても法的には決められていません。通知表は出さなくても法的には問題なく、実際に通知表の無い学校もごくわずかですが存在します。ただほとんどの学校は、通知表を出しており、書式は指導要録に準じたものとなっています。

 現在の学校ではGIGAスクール構想によりタブレット/PCを用いた学習が進められています。そして、GIGA端末における学習履歴等が日々蓄えられています。現在でもそういった学習履歴を学習者本人(子供)や保護者が確認することができているものもあります。そういったものは、子供のその時の姿をかなり詳細に表しているものです。現在の小学校の通知表のように「◎」「○」「△」のような全体をまとめたようなものではありません。

 今後は、これまでの通知表の書式を踏襲しながらも日々のGIGA端末を用いた学びの履歴を何らかの形で紐付けていくような形になっていくのではと思われます。形式に関しても、紙のものを残しながらも、オンラインに同様のものがアップされており、子供も親もそれをいつでも見ることができるような形になるのではと思います。

 扱われるようになるデジタルデータは、習熟テストの結果等の数値的なものをはじめ、さまざまな教科において取り組んだ際に撮影された画像、ふりかえりの文章等が考えられます。これまでは紙であるという制約から多くの情報を載せることが難しかったのですが、デジタル化されることでそういった制約を無くしていくことも可能です。これらは先ほども書いたように学校裁量の部分です。学校の独自性が出てくるところなので、さまざまな形のデジタル通知表が出てくるのではと期待しています。

《鈴木邦明》

鈴木邦明

帝京平成大学 人文社会学部児童学科 准教授。1971年神奈川県平塚市生まれ。1995年東京学芸大学教育学部卒業。2017年放送大学大学院文化科学研究科修了。神奈川県横浜市と埼玉県深谷市の公立小学校に計22年間勤務。2018年からは帝京平成大学において教員養成に携わっている。「学校と家庭をつなぐ」をテーマに保護者向けにも積極的に情報を発信している。

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