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【図工でつながる社会】我らの「津軽」になりきり練り切り…知育菓子でつくる、地域の形と色の再発見

 「図工でつながる社会」は、図画工作を専門とする小学校教諭 八嶋孝幸氏による寄稿。今回のテーマは、「我らの『津軽』になりきり練り切り…知育菓子でつくる、地域の形と色の再発見」。

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我らの「津軽」になりきり練り切り…知育菓子でつくる、地域の形と色の再発見
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 教育に関わるすべての人の視点や問いを広く取りあげ、これからの学びをともに考えていく。リシードでは、寄稿連載を通じて、教育実践や研究に根ざした知見を紹介する。

 「図工でつながる社会」は、図画工作を専門とする小学校教諭 八嶋孝幸氏による寄稿。教育者、研究者、アーティストという3つの視点から、造形教育の可能性を探究している。身近な社会に存在する形や色、デザインに込められた意味や価値に目を向け、子供たちが社会とつながりながら学ぶ造形教育の実践を紹介する。

 今回のテーマは、「我らの『津軽』になりきり練り切り…知育菓子でつくる、地域の形と色の再発見」。


 青森県にある国立大学法人の附属小学校で勤めている八嶋孝幸です。教職20年目で、図画工作を専門としています。教育を通して、子供たちが地域や社会と豊かに関わりながら、自ら未来を切り拓く力を身に付けられることを目指しています。

我らの「津軽」になりきり練り切り…知育菓子でつくる、地域の形と色の再発見

 図画工作科の目標の1つには、「生活や社会の中の形や色などと豊かに関わる資質・能力」を育てるということがあります。では、その生活の中で身近な行為である「食べる」ことを、造形の学びとどう結び付けられるでしょうか。

 本題材「我らの『津軽』になりきり練り切り」は、知育菓子を材料に和菓子の練り切りを模し、自分たちの地域の形や色を見つめ直す授業です。つくって、鑑賞して、そして食べる。この体験が子供たちの見方や感じ方をどう動かしたのでしょうか。

なぜ「和菓子」を、そして「食べられる材料」を選んだのか

 和菓子を題材にした図画工作・美術の実践は、これまでにもありました。しかし私が知る限り、自らつくったものを実際に食べて実感するところまで踏み込んだ実践は、あまり見かけません。

 練り切りは、四季折々の草花や風景を表現するのが特徴の和菓子です。形や色合いだけでなく、菓銘(かめい)に込められた季節感まで含めて「目で味わう」ものであり、古くから相手をもてなす特別な場面で用いられてきました。造形的な工夫が人の心を動かすという事実を、文化として長い年月積み重ねてきたひとつの証しだといえます。

 ただし、鑑賞するだけでは「目で味わう」の意味は半分しか伝わりません。目で味わったあとに口で味わって、はじめて形や色の効果が実感に変わります。食文化に関連した学びにする以上、「食べる」という行為は手放したくありませんでした。

 そこで教材として選んだのが、知育菓子の「ねりキャンワールド」です。安全に食べられるうえ、色を混ぜながら自在に形をつくることができます。また、アレルギー物質の表示が明確で、食を扱う授業でも安心して活用できる点が、教材選定の決め手となりました。

 対象は高学年、実施時間は約90分です。準備物は直径9cmの紙皿、抗菌シート、ワークシート、そして練り切りの参考データ(国立国会図書館デジタルコレクション『御蒸菓子図』、現代の練り切りの写真など)を用意しました。

導入:「色がやさしい」「形が整っている」子供たちの気付きから

 導入では、まず季節ごとの練り切りを電子黒板に映し、鑑賞しながら話しあう場を設けました。参考データはクラウド上でも共有し、授業後も好きな時間に見返せるようにしています。子供たちからは、次のような気付きが出されました。

・身近な自然を表現している
・季節感がある
・色がやさしい
・形が整っている

 いずれも、教師が用語として教えたものではなく、子供が自分の感覚を言葉にしたものです。この気付きを土台にして、練り切りが「目で味わう」和菓子であること、菓銘に季節感が込められていること、もてなしの場で用いられてきたことに触れました。子供の言葉が先にあり、文化の説明があとから重なる。この順序が、その後の製作意欲を大きく左右したように思います。

 そのうえで、学習のテーマを提案しました。「自分たちの生活や社会の中にある身近な『津軽』の自然などを、練り切りで表現しましょう」。提案を受けた子供たちは、自分の生活経験を手がかりに「あれなら表せそうだ」とアイデアを膨らませたり、「誰につくってあげようか」と友達と話しあったりし始めました。身近な地域「津軽」を表すという課題が、いきなり自分事として動き出した瞬間でした。

展開1)「ただの桜」ではなく「弘前城の桜」へ

 展開1(30分)は、どのような練り切りをつくるかを考え、アイデアスケッチをする時間です。ワークシートには「何を表したいですか+菓銘」の欄とスケッチ欄を設け、構想と言葉を同時に考えられるようにしました。菓銘まで含めて考えることで、季節感や情景を言語化する必然性が生まれます。

 ここで教師が意識したのは、対象の解像度を上げる助言です。「桜」で止まってしまうと、形も色も一般的なイメージのままになってしまいます。そうではなく「弘前城の桜」のように、身近で具体的なものをイメージするよう促しました。実際に子供たちがあげたテーマには、「弘前の花火」「津軽のふじりんごと王林」「岩木山と夕日」「岩木山の雪景色」「ねぷたまつり」などがありました。

 注目したいのは、組みあわせる色の書きぶりです。「ふじりんごのような赤」「王林のようなうすいみどり」「雪が降ったばかりのかすかな白の感じ」「夕日に染まる岩木山の色」。赤や白といった一般的な色名ではなく、自分が実際に見たものを基準に色を語っています。地域を「知識として知っている」段階から、「形や色として捉えている」段階へと移行していることが、この記述からうかがえました。こうした構想はICTを用いて共有し、互いのテーマや色の考え方を見比べられるようにしました。練り切りの参考データも、クラウド上で自由に閲覧できるようにしています。鑑賞とアイデアスケッチを行き来しながら構想を練る姿が、多く見られました。

展開2)つくり、共有し、そして食べる

 展開2は製作です。知育菓子を配り、つくり方や用具の使い方、混色の方法を確認したうえで、「どうしたら自分の思う津軽の形や色の感じに近付けることができるかな」と投げかけました。子供たちはアイデアスケッチを見返しながら、自分のイメージに合う形と色を探っていました。思うような色が出ないときは友達に相談し、参考データを見直してはまた手を動かす。より良い作品にしようと試行錯誤する姿が、教室のあちこちで見られました。教師は、活動の中で生まれた造形的な良さや美しさをその場で見取り、価値付けて全体に共有するよう努めました。

 完成した作品は、直接見あうだけでなく、写真を撮ってクラウド上にアップロードして共有しました。実物の質感と、写真で並べたときに見えてくる傾向。その両方を行き来しながら、練り切りの造形的な良さや美しさへの理解を深めていました。

 そして、この題材の核心となる場面が訪れます。全体の作品が完成したあと、「『目で味わう』効果を確かめながら食べましょう」と提案しました。

 子供たちは、自分がつくったものを味わいながら、形や色の効果についても考えていました。余った材料をそのまま口に入れたときと、形と色を整えた作品を味わったときとでは、感じ方が違う。そのことを、体験を通して確かめているようすが見られました。食べ比べは、「目で味わう」を検証する簡易な実験として機能します。なお、「家にもち帰って、お家の人に見せてから食べたい」という児童も複数いました。作品を誰かに見せたいという気持ちは、そのまま「もてなし」の心情につながっているのだと思います。

まとめ:「おいしそう」は単なる主観ではない

 まとめでは、どんな造形的な工夫をしたかを視点に、学んだことを具体的に伝えあいました。「おいしかった」という素朴な感想も、当然出てきます。交流を重ねるうちに、人の心を動かすために造形的な工夫が効果的であること、和菓子がもてなしに使われてきたのはそうした工夫の積み重ねがあるからだということが、子供たちの気付きとしてあがってきました。

 「おいしそう」という感覚は、単なる主観ではなく、形や色の特徴・効果によってもたらされるものです。この確認ができたことで、「目で味わう」という言葉が実感を伴うものになりました。同時に、感じ方は人それぞれであり、多様な感じ方が認められることも押さえるようにしています。振り返りでは、「相手をもてなすときに、季節の和菓子を使いたい」「おもてなしの心を生かしたい」など、学んだことをこれからの生活に生かしたいという感想が多く出されました。また、「家族や友達など、もてなしたい相手をイメージした練り切りもつくってみたい」という声もありました。図画工作の学びが、教室の外の生活と地続きになったという手応えがあります。

実践のポイントと、他地域への応用

 この題材の「津軽」の部分は、それぞれの地域に置き換えて実施できます。地域の自然、行事、建造物、産物…何を選ぶかは子供に委ねて良いと思います。大切なのは、対象を具体化し、その形や色を造形的な視点で捉え直すよう働きかけることです。実践にあたっての留意点を、3点あげておきます。

衛生とアレルギーへの配慮:本実践では白衣・帽子・マスクを着用し、抗菌シートと個別の紙皿を用意して、手洗いを徹底しました。原材料表示は事前に確認し、必要に応じて保護者に周知しておくと良いでしょう。

ICTの位置付け:クラウド共有は「便利だから使う」のではありません。参考データにいつでも戻れること、友達の構想や作品を並べて見比べられることに意味があります。鑑賞の質を上げる手立てとして組み込みたいところです。

「食べる」を学習から切り離さない:食べる場面は活動のご褒美ではなく、形や色の効果を検証する鑑賞の時間です。「確かめながら食べましょう」という言葉かけひとつで、子供の意識は大きく変わります。

 食べられる材料を扱うことへの心理的なハードルは、あるかもしれません。しかし、生活に欠かせない「食」という要素を取り込むことは、生活や社会の中の形や色に豊かに関わる資質・能力を育てるうえで、有効な手立てになり得ます。目で味わい、口で味わう。その往復の中で、子供たちは自分の住む地域を、もう一度見つめ直していたように思います。

《八嶋孝幸》

八嶋孝幸

 弘前大学教育学部附属小学校主幹教諭。2025年度(令和7年度)文部科学大臣優秀教職員表彰受賞。教科書編集委員。教育者、研究者、アーティストの3足のわらじを履いて活動中。教育研究で第23回ちゅうでん教育大賞教育奨励賞、第41回東書教育賞入選等受賞。マイクロソフト認定教育イノベーターエキスパート、ミライシードDXエデュケーター等認定。アーティストとしても日本板画院新人賞、石井頼子賞等受賞多数。

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