教育に関わるすべての人の視点や問いを広く取りあげ、これからの学びをともに考えていく。リシードでは、寄稿連載を通じて、教育実践や研究に根ざした知見を紹介する。
「AI時代の教育」は、元高校英語科教諭である林直宏氏による寄稿。18年間の公立高校勤務を経て、現在は非常勤講師として教壇に立つ傍ら、生成AIの教育利用について積極的に発信している。英語教育の実践者としての視点から、授業づくりや校務における生成AI活用の可能性を探り、教育現場で活用するためのヒントを示す。
今回のテーマは、「教員の仕事はどう変わるか…生成AIが広げる英語教材づくりの可能性」。
前回の記事では、生成AIを教育現場でどう位置付けるべきかを考えました。生成AIは教育を自動化したり、教員の役割を奪ったりする道具ではありません。むしろ、教員が時間と専門性をどこに注ぐべきかを問い直す存在です。
今回は、生成AIによって教員の仕事がどう変わるかを、英語教材の作成から考えます。
変化は2つあります。1つは、例文や問題を含むプリントのたたき台を短時間で作り、AIと対話しながら修正できること。もう1つは、従来は専門的な技能や多くの時間を要したイラスト、音声、動画、学習用アプリまで、教員自身が現実的に作れるようになったことです。特に後者は、教材づくりの可能性そのものを広げます。
教材作成は教員の大切な仕事です。授業プリント、例文、リーディング問題、語彙リスト、音声・視覚教材などの準備が授業を支えます。一方、英語は4技能を扱い、導入から評価まで教材が多岐にわたるため、準備には時間がかかります。生成AIは、教材作成をすべて肩代わりする魔法の道具ではありません。
まずは、たたき台を編集する
文章教材でまず実感しやすいのは、「白紙から作る」時間を減らせることです。ただし、これは生成AIがもたらす変化の一部です。たとえば、現在完了の導入用例文では、場面や語彙レベルを考え、文法事項がわかりやすく見えるよう工夫します。しかし、毎回十分な時間をかけるのは簡単ではありません。そこで、ChatGPT、Gemini、Copilotなどの汎用AIに、利用環境に応じて次のように指示します。
【サンプルプロンプト】
高校1年生の授業でそのまま配布できる、現在完了の経験用法を導入する学習プリントを作成し、Microsoft Word形式(.docx)で出力してください。A4判1ページを想定し、タイトル、学習目標、現在完了の経験用法を使った例文10文、日本語訳を掲載してください。語彙は中学校既習語を中心にし、学校生活や部活動など、高校生に身近な場面を題材にしてください。例文には番号を付け、現在完了の部分を太字にするなど、文法事項が分かりやすいレイアウトにしてください。生徒が名前と日付を書ける欄も設けてください。
Word形式の出力に対応した環境では、用紙サイズ、記入欄、レイアウトまで指定すると、授業用プリントのたたき台として使いやすくなります。ただし、語彙や場面などは、生徒に合わせた修正が必要です。
たたき台があれば、教員は候補を選び、不要なものを削り、「語彙を易しく」「場面を学校生活に変えて」などと修正案を出させることもできます。教材作成の比重が、ゼロから作ることから、条件を示し、選び、直し、授業に組み込むことへ移るのです。

さらに、学習させたい熟語や文法事項をAIに与えれば、その内容に合った練習問題を作れます。たとえば、次のように指示します。
【サンプルプロンプト】
高校1年生の授業でそのまま配布できる、現在完了を定着させる学習プリントを作成し、Microsoft Word形式(.docx)で出力してください。A4判2ページ以内を想定し、タイトル、学習目標、氏名・日付の記入欄、各問題の指示を付けてください。問題は、空所補充、語順整序、和文英訳の3形式で各5問作成し、解答を書き込める十分なスペースを設けてください。語彙は中学校既習語を中心にし、各問題の正答が1つに定まるようにしてください。生徒用プリントの後に改ページし、教員用の解答と短い解説を掲載してください。
教科書で扱った熟語の一覧から問題を作らせることも、すでにある演習問題を入力し、難易度や学習上のポイントを変えずに別のパターンを作らせることもできます。授業後の確認、宿題、補習など、目的に応じた練習を準備しやすくなります。
ここまで見てきたのはおもに文章教材ですが、例文の場面を表すイラストなど、授業内容に合った視覚教材も作成できます。
AIはたたき台や修正案を出せますが、何を学ばせ、どの教材が適切かを判断するのは教員です。生徒の実態や授業のねらいを踏まえ、学びにつながる教材へ仕上げる必要があります。
リーディング問題も作りやすくなる
生成AIは、例文だけでなく、リーディング教材の作成にも使えます。定期考査では、授業で扱った英文の内容を保ちながら、表現を変えた別の英文を作ることができます。また、ほかの設問の答えとなる語彙や文法表現を本文で使わないよう条件を付ければ、問題同士がヒントになるのを防げます。授業で扱った本文と構成や語彙レベルをそろえ、内容だけを変えた英文を作ることもできます。内容一致問題や英問英答を付ければ、初見の英文でも、授業で身に付けた読み方を使えるかを問えます。テーマや難易度を変えれば、補習や発展課題にも展開できます。また、英文から重要語句を抜き出し、意味や品詞を整理した簡潔な語彙リストも作れます。
ただし、生成AIはもっともらしい文章の中で事実を誤ることがあります。数値、固有名詞、歴史的事実、科学的説明などは確認が必要です。設問も、正答が1つに定まるか、本文中に根拠があるかを教員が確かめなければなりません。
音声・動画・学習用アプリも現実的に作れるようになった
教材作成におけるより大きな変化は、音声や動画、学習用アプリまで、教員自身が現実的に作れるようになったことです。以前も作成は可能でしたが、プログラミングや動画編集などの専門技能、多くの時間や費用が必要でした。生成AIを備えたサービスが、そのハードルを大きく下げています。
音声読みあげサービスは数多く、Google AI StudioやMicrosoft Clipchampはその一例です。英文や会話文を音声化し、授業に合ったリスニング教材を短時間で用意できます。アバター動画では、HeyGenなどを使い、会話やスピーチのモデルを映像で示せます。ALTに録画を依頼したり、自分で撮影したりせず、英語音声を用いた動画教材を作成できます。高度な編集技能がなくても、目的にあった映像教材を作りやすくなりました。
さらに、Canva AIから利用できるCanva Codeでは、日本語で指示して学習用のWebアプリを作ることができます。実際に私は、英単語を覚えるために、表示された単語の意味を4択から選んで打ち落とす縦スクロール型のシューティングゲームを作成しました。
これまで、ゲーム型教材の作成にはプログラミングの知識が必要でした。今では、プログラミングができない教員でも、アイデアを日本語で伝え、動かしながら修正して学習用アプリを形にできます。Webアプリとして公開し、URLを共有すれば、生徒は各自の端末から簡単に利用できます。
NotebookLMによる資料活用の広がり
教材作成のもう1つの可能性が、NotebookLMのような資料活用型AIです。手元の資料をもとに、要約、質問応答、学習ガイドなどを作れます。教科書本文、関連資料、授業プリントを読み込ませれば、要点整理や確認問題のたたき台を作れます。復習資料、発展的な問い、ディスカッションテーマなどにも展開できます。インフォグラフィックや動画形式の概要など、視覚的な説明を加えれば、英文を読むことが苦手な生徒も、内容の見通しをもちやすくなる場合があります。

同じ学習内容を文章、画像、音声、動画、アプリへ展開しやすくなったことは、多様な生徒に対応するうえでも意味があります。教材の種類が増えれば、学習活動の設計にも新しい選択肢が生まれます。
便利さの先にある教員の専門性
生成AIの価値は、教材作成を速くすることだけではありません。時間や技術の制約で用意できなかった教材を現実的な選択肢に加え、授業設計の幅を広げられます。さらに、生まれた時間を、生徒のつまずきの観察や授業改善に充てられます。
ただし、AIが作った教材が目の前の生徒に適しているかを判断するのは教員です。学習目標、既習事項、生徒のつまずきや関心に照らしあわせ、使うか、修正するか、使わないかを見極める必要があります。その教材を授業のどのタイミングでどう使い、次の学習活動や評価へつなげるかを考えることも、教員の腕の見せ所です。同じ教材でも、使い方によって学びの深さは変わります。
生成AI時代の教員の仕事は、「作業者」から「設計者」へと比重が移ります。生成AIは専門性に取って代わるものではなく、それを生かす道具です。生徒を理解し、学習目標を定め、授業を設計する専門性があってこそ、生成AIは教員の力を増幅する道具になります。
まずは小さく使ってみる
生成AI活用というと、大きな改革のように感じるかもしれません。しかし、最初からすべての教材をAIで作る必要はなく、小さく使い始めれば良いのです。次の授業で使う例文を5文だけ作らせる。単語テストの別バージョンや内容確認問題を作る。短い会話文を音声化する。簡単なクイズアプリを試す。小さな試行から、AIの得意・不得意や、自分の授業で使える場面が見えてきます。使ってみると、語彙が難しい、設問が曖昧、活動として面白くない、音声が聞き取りにくいなど、そのまま使えない点にも気付きます。それは、教員が教材を見る目をもっているからこそです。
生成AIは、教員の仕事をなくすものではありません。AIが文章のたたき台や多様な素材を生み出し、教員が学びに変える。その関係を意識すれば、生成AIは準備を効率化し、これまで難しかった教材づくりを現実にする心強い補助者になります。
次回は、生徒に生成AIをどう使わせるかを考えます。既存の英語学習AIの可能性と限界、教員が設計したプロンプトやAIアプリの活用、生徒自身がAIを学習に使いこなす力について整理します。













